「ん……」
レドが目を覚まして一番最初に見えたのは見慣れた天井だった。ここが自室だと理解するのに時間はかからなかった。
「あれ……?」
昨日の事を思い出してみる。甘い匂いにつられ、その先で見た白い花を口にしてからの記憶が全く無い。
「あ、起きてる」
扉を開けてジェネが入ってきた。
「ジェネ……」
「お、ちゃんとわかるね。良かった良かった。頭にも異常は無しか」
「……? ジェネ、昨日何があったの?」
「今から話すよ」
ジェネはベッドの横にある椅子に座って話し始めた。
「昨日レドは、天国草っていう植物を食べたんだ」
「天国草?」
「簡単に言えば、安楽死にも使われた有毒の花だね。大人を15分で死なせる猛毒を有するけど、苦痛は一切伴わない。ただ感覚が無くなっていって眠るように死ぬ。だから天国草」
「……僕……それ、食べたの……!?」
「仕方ないよ。切り傷から花粉が入って判断力が鈍ってたからね。あの花粉は直接血液に混ざって脳に届くと、判断力を鈍らせる効果があるから」
「そっか……」
「今度は長袖着ていくのが良いかもね。ただ、それだと熱中症のリスクが増すから、水分は多めに持たせるね」
「わかった。ありがとう」
「レドが大丈夫ならすぐ準備するけど、どうする?」
「大丈夫だよ。行こう」
「わかった」
レドは長袖に着替え、その間にジェネは飲み水を多めに用意しておいた。準備を済ませ、倉庫の転送装置に向かう。
「じゃ、気を付けてね」
「うん。今度こそコア回収してくるよ」
扉を閉め、転送装置を起動する。レドは昨日ビーコンを置いた場所に転送された。
「ん……?」
『おや、何かあった?』
「雨だ……」
外から雨の音が聞こえてくる。
『これなら花粉は飛ばないね。良かった、そのリスクは無くなったわけだ』
「だね。よし、ドーム目指して歩くよ」
レドはビーコンを回収し、マントに付いているフードを被ると廃墟を出てドーム目指して歩いた。
*
目の前に広がる緑色の塊。ようやく目的地のドームにたどり着いた。
「ふぅ、ようやく雨を凌げるよ……」
ドームの周りを歩き、入り口を探す。すると、草に覆われた扉を見つけた。草を切り、扉を開けて中に入る。
「おぉ……」
中は薄暗くて広い空間になっている。ドーム全体が植物に覆われていて陽が差してこないからか、中の植物は枯れていたり、小さな雑草が生えている程度だった。どうやらいくつかの区画に区切られているようで、大きな壁も見える。
「さて……コアはどこかな……」
レドはドームの中を歩いた。今居る区画は動物を放牧していたエリアなのか、草原以外何も無い。
『人工芝を使ってないね……全部本物の植物だ』
「その方が動物へのストレスも少ないのかな?」
ドアをくぐり、別の区画に向かう。次に見えたのは厩舎の中のような光景だ。動物達が入っていたであろう区切りが沢山ある。
「随分と綺麗に残ってるね」
『確かに。ここ……もしかしてかなり頑丈な作りなのかもね』
それからふれあいスペースや、倉庫などをみて回ったがらコアは見つからない。
「ここじゃないのかな」
『いや、絶対ここだよ。間違いないって』
「……根拠は?」
『ここが一番頑丈な建物だから』
「……確かに頑丈だけど」
『もっとくまなく探してみて。もしかしたら見つけてない部屋があるかもしれないし』
「ん……わかった」
再びドームの中をくまなく探す。
「お……」
『何かあった?』
「エントランスの壁に隠し扉だ」
受け付けカウンターの奥の壁が僅かに横に動くのがわかった。レドは壁を横にスライドさせると、長い一本道が繋がっていた。奥には微かに黄色く光る何かが見えた。
『よく見つけたね。流石だよ』
「壁まで探るくらいにはくまなく探したからね……」
レドは通路を歩いた。何が出るんじゃ無いかと警戒しながら進んだが、何も出てこなかった。
『なるほど。真ん中の柱みたいなやつの中にコアがあったのか……』
コアがある部屋にも、防衛設備は何も無い。
「ジェネ、転送良い?」
『警戒しすぎでしょ……。いつでも大丈夫』
「わかった」
レドはガラスを割ると、中にある十字型のコアを手に取った。直後、部屋は暗闇に包まれたが、これはエネルギーの供給が途絶えた故の停電だ。
「……何も出ない」
『期待してたの?』
「まさか。安心したよ」
『楽に手に入るならそれに越したことはないからね。じゃ、転送するよ』
レドはジェネの手により倉庫に転送された。簡単に手に入ってほっとしたのと、何故か物足りなさを感じながら帰還した。
何も無い。そんなとこもある