荒廃世界の旅人   作:よっしー希少種

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最終話です。調子に乗っていつもより長くなってます


旅の終わり

「……」

 

 シェルターの深部。そこの大扉の横の壁にある穴に、ジェネはコアを一つづつはめ込んでいた。

 

「これで……」

 

 最後の一つをはめ込むと、扉の方からガコン、と大きな音が鳴った。そして、ゆっくりと横に開いていく。

 

「おぉ……」

 

 扉が開ききると、五つのコアは壁から押し出されてきた。コアを回収し、扉の先に行ってみると、見えたのは下へ続く螺旋階段だ。

 

「行ってみる?」

「うん……」

 

 ジェネの表情には不安の色が見える。

 

「大丈夫……僕が一緒だよ」

 

 レドはジェネの手を優しく握った。

 

「……ありがとう。行こうか」

「うん」

 

 ジェネはレドに手を引かれながら、ゆっくりと螺旋階段を下った。その間、会話は無かった。ただ、二人が階段を下りる音だけが響いていた。

 一番下にたどり着くのに時間はかからなかった。階段を下りた先には、横開きの扉が一つだけあった。

 

「……開けるよ」

「うん……」

 

 レドはジェネの手を握ったまま、ゆっくりと扉を開けた。

 

「……おぉ……?」

 

 扉の先には、巨大な機械があった。かなり大きく、複雑そうな機械だ。しかし、動いている様子は無い。

 

「……これ、何なんだろう」

「…………生命復興装置」

 

 ジェネがボソッと呟いた。

 

「え?」

「生命体を入れて起動する事で、それを分解、解析して新しい生命の源を作って放つ……」

「……知ってたの?」

「うん……部屋にこれの設計図があった。そこにそう書いてあったんだ……」

 

 二人は生命復興装置に近付いた。正面にガラスの窓がついた扉があり、中には人一人分入れそうなスペースがある。

 

「ここに……生き物を入れるんだね」

「うん……そしてこれは、多分コアを入れないと動かない。生命の進化をやり直す……それには莫大な時間とエネルギーが必要だからね」

「…………ねぇ、これやるの?」

「やならきゃ……ダメなんだ」

 

 ジェネは震えた声で言った。

 

「っ……ジェネ、大丈夫だよ。これは……僕が入るよ。だから……」

「無理だよ。レドじゃ……ダメなんだ」

「え……」

「お父さんの日記に……あったんだ。テストとして僕のデータを入れたって。だから……僕が入らないといけない……」

「そんな……」

「……きっと、これが、僕がコールドスリープされた理由なんだと思うんだ……」

 

 ジェネは俯きながら話を続けた。

 

「僕の生体データが入ったままだから、僕をコールドスリープして、未来を託したんだよ……。僕らがこの部屋と、各都市のコアの存在に気付いて、これを起動する事にも賭けたんだ」

「……じゃあ、なんで僕も……?」

「……お父さん、優しいからさ。僕の友達のレドも、生かしたかったんだと思う。じゃなきゃ、コールドスリープしてたのは、僕とお父さんだったろうし」

「……」

「レド……僕はこれから……バイタルの安定に努めるよ。そして……新しい生命の基盤になる……。レドは……これからも普通に……生きて……」

「そんなの……」

 

 レドはジェネを強く抱き締めた。

 

「絶対に……嫌だ」

「レド……」

「生命の復興とか、そんなのどうでもいい。僕はジェネとずっと一緒に居たい……!」

「……」

「それに……ジェネが居ない毎日が……普通の日になる訳ないでしょ。僕に普通に生きて欲しいなら……ジェネも一緒に生きてよ!」

「ぁ……レドぉ……」

 

 ジェネはレドの肩に顔を埋めて泣き出した。レドは頭を優しく撫でたり背中を軽く叩いたりして落ち着かせていた。

 

「こんな使命重すぎるよ。逃げ出したって誰も怒らないからさ……一緒に帰ろ? それでまた、普通の毎日を送ろうよ」

「うん……。ごめんね、変な事言って」

「良いんだよ。さ、行こっか」

「うん……!」

 

 ジェネは涙を拭うと、レドの手を取って歩き始めた。本当に使命を放棄していいのか、ジェネの心には迷いが残っていた。だが、今は自分に寄り添ってくれた親友の方がよっぽど大事だ。レドとこれからを過ごす中で、この迷いを、使命を忘れ、一生を二人で過ごせるのが幸せなのではないか……そう期待しながら、部屋を後にした。

 

 

 あれからしばらく経ったが、二人は変わらず普通の日々を送っていた。復興装置への扉は開いたままだが、あの日以降、二人があの部屋に近付くことは無かった。ご飯を食べ、シェルターの近くを二人で探索し、眠る。毎日同じ事の繰り返しだったが、二人にとってはこの毎日が一番の幸せだった。

 

「……」

「レド、眠いの?」

「ぁ……ねてないよ?」

「うん、眠いんだね」

 

 食後、レドはテーブルに頬杖をつきながらウトウトしていた。

 

「眠いなら寝ないと」

「まだおふろはいってない……」

「起きてからでいいから。お風呂で寝られるのが一番困るし」

 

 ジェネはレドを背負うと、レドの部屋まで歩いた。途中、背後から寝息が聞こえてきた。

 

「よ……と。運んでる間に寝ちゃったか……」

 

 ジェネはレドをベッドに寝かせると、その上から優しく毛布をかけた。

 

「……おやすみ、レド」

 

 ジェネは小さく呟くと、部屋を後にした。こうして、二人の一日は終わりを迎える。明日も明後日もきっと、二人の日常は続いていく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……」

 

 レドは目を覚ますと、大きく伸びをした。なんだかかなり長い時間熟睡したような、そんな気分だった。

 

(すっごくよく眠れた気がする。なんかスッキリしてる……)

 

 ふと、自分の服が普段着な事に気付く。

 

(そう言えば……ご飯食べた後に眠たくなって、そのままジェネにおぶってもらって運ばれたのかな? ………………あ、お風呂入らなきゃか)

 

 レドは着替えを持って部屋を出た。なんだかものすごく静かな感じがする。

 

(ジェネは部屋かな? だとしたら邪魔しない方がいいよね)

 

 レドはまっすぐ風呂場に向かった。浴槽にお湯を張り、体を洗ってゆっくり湯に浸かった。

 

「ふぃ……サッパリした」

 

 着替えをして、地上の居住スペースに向かう。外を見ると、日は既に高い位置にある事がわかった。

 

「え、もうお昼くらいじゃん……。ジェネ、なんで起こさなかったんだろ……」

 

 文句を言いに行こうと、レドはジェネの部屋に向かった。ドアの前に立ち、軽くノックする。

 

「ジェネ、居る?」

 

 しかし、部屋から返事は無い。

 

「ジェーネー。居ないの?」

 

 ドアを開けて中を見ると、そこにジェネの姿は無かった。

 

「あれぇ……?」

 

 視線を巡らせていると、机の上にあるある物が目に付いた。近付いて見てみると、分解された機械刀なことが分かった。

 

(分解されてる……最近使ってなかったけど、なんで急に……)

 

 辺りを見渡して手がかりを探したが、それらしい物は無かった。

 

「……ん?」

 

 ふと、一枚の紙が目に止まった。見てみると、何かの設計図であることが分かった。

 

(何のやつだろ……)

 

 何枚かにまとめてある設計図の一枚目を眺める。書いてある言語は理解できるのに、内容は全く理解出来ない。それくらい複雑な内容だった。しかし、一つだけわかった事がある。それは、設計図の端に書いてあった、装置の名前。

 

「生命復興装置…………」

 

 忘れかけていた記憶が一気に呼び覚まされる。あの装置の事、そしてあの場でジェネが語った事全てが。

 それからはもう、考えるより先に足が動いていた。二度と行く事は無いと思っていたシェルターの最深部へ、迷わず入る。

 

(いや……そんな事はない。だって……だってあの日、一緒に居るって……!)

 

 転びそうになりながらも、階段を下り、生命復興装置がある部屋に入る。

 

「ジェネ!!」

 

 部屋に鳴り響く機械の音。正面の窓の向こうにはジェネの姿があった。

 

「あ……な、なんで……」

 

 レドは装置に駆け寄ると、窓を強く叩いた。

 

「なんで! なんでなの! ジェネ!!」

 

 音に気付いたのか、ジェネは振り向いてレドの方を見た。

 

「……レド」

 

 金属の扉越しにジェネの声が聞こえてきた。レドは動きを止め、ジェネの目を見た。

 

「ご……ごめんね……」

 

 その目には涙が溢れていた。

 

「なんで……ジェネ……一緒に居る約束だったじゃん……」

「ごめんね……。でも、こうしないと……僕が生き延びた意味が無くなっちゃうから……」

「そんなの……そんなの……!」

「……ちゃんと役目を、果たさないと……」

「ジェネ……ぁ……あぁぁぁ!!」

 

 レドは現実を受け入れきれず、ただ声を上げて泣いた。ジェネが何か言っているのは聞こえたが、内容までは耳に入ってこなかった。そんな状態のレドにも伝えたい事があったのか、ジェネは内側から扉を叩き、音でレドを呼んだ。

 

「レド……僕は幸せだったよ。レドと過ごせて……毎日が幸せだった。この幸せは……捨てたくなかった……本当だよ」

「ぁ……」

「……僕は居なくなるけど、今までの旅の記録は……残してる。それを聴いて、僕の事、忘れないでいて欲しい」

 

 機械の音が大きくなる。そろそろ本格的に起動するようだ。

 

「でも……もし、孤独に耐えられない時は……その時は…………」

 

 ジェネの最期の言葉を聞く前に、レドの身体は強い浮遊感に襲われた。次に目にした光景は、自分の部屋だった。

 

「………………」

 

 レドはそのまましばらく動かなかった。あまりの喪失感に、レドの心は粉々に砕けてしまった。

 

 

 あの日以降、シェルターから話し声が消えた。二人の少年が無邪気に話すあの声は、もう聞こえない。そして今日、シェルターから一切の生活音が消えた。

 

『あ、そこってこの都市で一番おっきいショッピングモールじゃない?』

『へぇ……面白そうじゃん』

『ね、行ってみてよ! お菓子とかあるかな?』

 

 ジェネが作った探索記録。二人の通信でのやり取りをカセットに残したものだ。一つの都市につき二つ、計十個のカセットに分けられたそれを聴きながら、レドはフラフラと歩いていた。やがて、声に混ざって波の音が聞こえてきた。

 

「海は……生命が生まれた場所……」

 

 レドはそう呟くと、イヤホンを外し、歩を進めた。

 

「なら……ここが一番……ジェネに近い場所だ……」

 

 歩みを進め、足が空を切ってもそのまま重力に身を任せた。やがてレドの身体は冷たい液体に包まれた。もがく事もせず、黙って自然に身を委ねる。やがて、少年の意識は、青に溶けて消えていった。




という訳で、レドとジェネ、二人の少年のお話はこれでお終いになります。最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

オマケで、最終話のジェネサイドのお話を後日更新します。その更新をもって、本当の完結になります。もう一話だけ御付き合いください。
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