レドの説得もあり、ジェネは生命復興装置に入らないまま、平凡な日々を過ごしていた。ジェネですら、生命復興装置のことなど忘れかけてしまうくらいには、今の生活は楽しく、幸せだった。
そんなある日の事……。
「ジェネ」
「ん……?」
声をかけられ、振り返ってみると、そこに立っていたのは、ジェネがよく知る顔の大人だ。
「お……お父さん……?」
「ジェネ、なぜ装置に入らない」
「え……」
父の言葉に耳を疑った。
「お前が入れば、みんな報われるんだ。装置を作った仲間も、お前をコールドスリープさせた俺も」
「な……」
「ジェネ……」
震えるジェネの肩を、父は両手で掴んだ。
「復興装置に……入れ」
*
「はっ……!」
見慣れた天井が見える。どうやら、自室のベッドの上にいるようだ。
「夢……」
思わず、安堵のため息が出た。呼吸を整えながら、額の汗を拭う。
(……怖い夢だったな。お父さん、あんな事言う人じゃないから夢なのは気付けたはずなのに)
二度寝して忘れよう、そう思いベッドに横になるが、全く寝付けない。それどころか、悪いことばかり考えてしまう。
(……夢って確かその人の願望とかを映すんだよね。今回の夢は……まだ捨てきれてない迷い……のせい? だったらやっぱり……)
そうは考えたものの、装置に入るという選択はすぐには出来なかった。何せ、今の生活が、レドと過ごすこの日常を手放したくなかったからだ。
(………………)
その日、ジェネは一睡も出来なかった。
*
レドの前では平静を装っていたが、一人になると思い詰める日が続いた。レドの見ていないところで泣いたり、吐いた日もあった。迷う中で次第にジェネの精神は傷付いていく。生命の再構築を託されたと
(…………レド、ごめん)
そして遂に、装置に入る選択をとった。しかし、そうなるとレドは必ず引き留める。今度言い合いになれば、お互いの関係は簡単に崩れる、そんな気がしていた。それを恐れたジェネは、レドに抵抗されないような手段を考えた。
*
数日後、ジェネはレドの食事に睡眠薬を混ぜ込んだ。マドロミスズランのエキスから作られた物で、普通のものよりも濃度が濃く、強力だ。その食事を食べたレドは、少しもしないうちに眠気に襲われていた。
「レド、眠いの?」
「ぁ……ねてないよ?」
「うん、眠いんだね」
レドをおぶって運び、部屋のベッドに寝かせる。
(数日寝てはずだから、今のうちに……)
ジェネは部屋を出てある物の調整を始めた。時限式の転送装置だ。範囲内の物体を、指定した時間に指定した座標に飛ばすというもの。座標をレドの部屋に設定し、机に置いた。そしてバイタルの安定の為に、早めに眠りにつく。
次の日、レドはまだ起きてこなかった。その日は、レドに邪魔されないようにと、機械刀を分解した。レドの手で組み立てることが出来ないくらいに、細かく分解する。次に、シェルター内のエネルギー供給量を調整した。レドが使わないであろう部屋への供給を止め、無駄な消費を行わないように設定する。最後に、レドの為にと、端末の会話データをカセットに移し、探索記録として残した。
「これでよし……」
今出来ることは全て終えた。後は装置に入るだけ……。
*
装置に五つのコアを入れ、電源を入れる。全ての機能が立ち上がるまでに少し時間がかかるようだ。ジェネはその間、最後の下準備をした。まず、入り口の扉に内側からロックがかかるように設定した。時限式のそれが起動すれば、外からは開けられない。そして、部屋に携帯式の転送装置を仕掛ける。これも時限式のタイプで、範囲内に居る物体を指定された座標に飛ばすものだ。座標をレドの部屋に設定し、扉のロックと同じ時間に設定する。
「よし……」
生命復興装置に目をやると、既に起動は済んでいる様子だった。ジェネは装置の中に入り、扉を閉めた。後は自分の分析が終わるのを待つだけ。
(……レド、起きなかったな。いや、これでいいんだ。顔を合わせない方が……良いんだよ)
そう心の中で言い聞かせながら、解析が終わるのを待つ。その時、後ろの方から扉を叩く音が聞こえた。
(え……)
振り向くと、そこには叫びながら扉を叩くレドの姿があった。
「……レド」
ジェネの声が聞こえたのか、レドは動きを止めてジェネを見た。その不安に満ちた目を見た途端、ジェネの中の罪悪感が、後悔が一気に増幅した。
「ご……ごめんね……」
自然と目から涙がこぼれる。泣きたいのはレドの方なのはわかってる。だが、ジェネも後悔の念と罪悪感に押しつぶされ、だが何もする事ができず、ただ泣く事しか出来なかった。
「なんで……ジェネ……一緒に居る約束だったじゃん……」
「ごめんね……。でも、こうしないと……僕が生き延びた意味が無くなっちゃうから……」
「そんなの……そんなの……!」
「……ちゃんと役目を、果たさないと……」
「ジェネ……ぁ……あぁぁぁ!!」
レドも声を上げて泣きだしてしまった。
「ぁ……レド……泣かないでよ……。叱ってよ、怒ってよ……こんな身勝手な僕を……怒ってよ……」
ジェネの声はレドには届かない。二人を隔てる壁はそれほど厚いものだった。だが、最期にこれだけは伝えようと、ジェネは扉を叩いてレドを呼んだ。
「レド……僕は幸せだったよ。レドと過ごせて……毎日が幸せだった。この幸せは……捨てたくなかった……本当だよ」
「ぁ……」
「……僕は居なくなるけど、今までの旅の記録は……残してる。それを聴いて、僕の事、忘れないでいて欲しい」
解析が終わったのか、装置は次の段階に移行しようとしていた。
「でも……もし、孤独に耐えられない時は……その時は…………無理しないで。生きるのから逃げても、良いから……」
全て伝え切る前に、時限式の転送装置が起動し、レドの姿は消えてしまった。
(……レド、僕達、あッチでまた会えるかな? 会えたら……その時は……)
ジェネの身体を強い光が包む。新しい生命の為の、素材となる為、ジェネの身体は分解されていく。一瞬のうちに、肉体も、意識も、分解されて見えなくなってしまった。
これで本当にこの作品はお終いです。最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。この作品については後書きで語ることが無いって言うか、下手に語るとつまんなくなりそうなのでやめておきますね……。
では、また他の作品でお会いしましょう。