「静か……だな」
『だね。ここが栄えていたのなんて、もうとっくの昔の話なんだね』
高速道路を歩きながら、レドはジェネと通話している。道路はヒビが入っている所もあり、かなり荒れている。
『中央都市セントル……この世界に存在する五つの都市の中で一番大きく、さらに各都市間の交易の要にもなっていた都市。それが今は人は一人も居ない静かな廃墟に成り果ててしまった……』
「この雰囲気も悪くは無いけどね。高速道路を歩くなんて、普通できないし」
『まぁ……うん。そこは楽しめるかもね』
レドはガードレールにもたれかかって足を休めた。
「ジェネ、僕達がコールドスリープから覚めるまでに何年かかったのかな……」
『うーん……廃墟の荒れ方からして、かなり経ってると思う。僕達以外に誰か生きてる可能性は皆無に近いね』
「だよね……」
『でも僕達が居たシェルターはほとんど無事だったし、壊れていたのも直せる範囲だった。お父さん……どれだけ頑丈で長持ちするものを作ったんだろ』
「おかげで生活は不自由無かったからね。ジェネのお父さんには感謝しなきゃ」
レドは再び歩き始めた。今日は快晴だが、暑すぎるほどではない。風も心地よく、過ごしやすい気候だ。
「ん?」
『何かあった?』
「なんか……デパートみたいなのが」
レドの視界に、一際目を引く大きな建造物が現れた。文字がかすれて読めないが、看板らしきものが付いている。ガラス張りの自動ドアや、広い駐車場も見える。
『あ、そこってこの都市で一番おっきいショッピングモールじゃない?』
「へぇ……面白そうじゃん」
『ね、行ってみてよ! お菓子とかあるかな?』
「あっても食べれないと思うけど……うん、行こう!」
レドは高速道路を下り、ショッピングモールに向かって走った。
*
「大きいな……」
『セントルにはこれ以上大きい建物は無いからね。さ、入ってみよー!』
「あぁ!」
自動ドアを開け、中を覗く。電気がついていないため、かなり暗い。昼間だというのに、少し不気味だ。
『かなり頑丈な造りだったみたいだからかな? 中は綺麗だね』
「でも、そのせいで明かりが……」
『大丈夫。これ暗視フィルター入ってるから。暗いとこに入ると自動でつくよ』
「本当、すごいの作ったね……」
建物の中に入ると、目の前に電子のフィルターが現れる。そして暗闇の中だというのに視界が鮮明になった。
「おぉ、これが……」
早速、傍にあった案内を見てみる。どうやら十階建ての建物のようで、地下駐車場まである造りらしい。今居る一階は主に食材を売っていたエリアのようだ。
(とりあえず見て回るか)
レドは一階の探索を始めた。真っ暗で静かなショッピングモールの中にはレドの足音だけが響いていた。
「缶詰め……」
『あ、食べれる物!?』
「いや、流石の缶詰めでもなぁ……」
商品棚に綺麗に並んでいた缶詰めを一つ手に取る。鯖の缶詰めのようだ。
『ねぇ、とりあえずそれ開けて食べてみてよ』
「……異臭がしたら即捨てるからね」
レドは恐る恐る缶詰めを開けた。
「異臭は……しないな」
『じゃあ食べてみて』
「それはちょっと……」
『あはは、冗談だよ。何か適当なの一個持って帰ってきてよ。それ分析して食べれる状態か見るからさ』
「じゃあこれ開け損じゃん……」
レドは開けた缶詰めを床に置くと、別の缶詰めを手に取りポーチにしまった。そして一階の探索を続ける。
「う……」
『どうしたの?』
「なんか……腐った匂いがする」
『あぁ……多分そっちには果物とか刺身とか、そういうのが置いてあったのかもね。放置されてたから腐ったんだと思う』
「……ごめん、こっちは行けないわ。匂いがキツすぎる」
『あぁ、うん』
その後もレドはショッピングモールの中をくまなく探索した。
*
屋上にある展望エリアに着く頃には、もう日が落ち始めていた。西側の空が綺麗な橙に染まっている。
「特にめぼしいものは無かったな」
『缶詰めくらい?』
「あぁ、そっか。持ち帰れるのはそれくらいだな」
『わかった。どうする? 一旦戻る?』
「いや、ここで休んでから戻るよ」
『休めるの?』
「家具を売ってた場所があったからさ。そこのベッドを使わせてもらうよ」
『あーズルい! こっちは布団なんだよ!』
「こういうのも旅の醍醐味、だよ」
レドはジェネと会話をしながら階段を下りた。家具を売っているエリアは三階にあった。
『ねぇレド。もしレドが良ければさ、地下駐車場も調べてきてくれないかな?』
「地下駐車場? なんで?」
レドはベッドに横になりながら通話を続けた。
『まだ調べてないでしょ? それに、気になる事もあるから……』
「……わかった。じゃあ、地下駐車場を調べてからそっちに戻るよ」
『ありがとう』
「じゃ、僕はもう寝るよ。おやすみ」
『おやすみ、レド』
通話を切ると、レドは目を瞑った。ベッドは柔らかく、とても寝心地が良かった。そのせいか、いつもよりも早く眠りに落ちてしまった。
*
翌日
「ここか」
階段を下り、鉄製の扉を開けた先には、コンクリート張りの広大な空間があった。このショッピングモールの地下駐車場だ。
「……調べる必要あるか?」
暗視フィルター越しに見ても、何か特別な物があるようには見えない。ただ鉄柱と、駐車位置を示す白線と、点かなくなった電灯が見えるだけだ。
『大いにあるよ』
「……わかったよ。調べるよ」
真っ暗で無機質な駐車場を歩く。視界は良好なはずなのに、何か出てくるんじゃないかと思うくらい不気味だ。
「ん……?」
ふと、隅の方に扉のようなものを見つけた。近付いて見てみると、「関係者以外立ち入り禁止」の札が貼ってある。ドアノブの近くにはカードキーを通す機械が付いている。
「これ……カードキーが無いと開かないのかな」
『前まではそうだったろうね』
「前までは?」
ドアノブを回して押したり引いたりしてみたが、扉はビクともしない。
「いや、今も開かないが……」
『ロックしたまま機能を停止したんだろうね。今はカードキーがあったとしても開かないと思う』
「そういう事か……じゃあどうする」
『焼き切ればいいじゃん』
「……なるほど」
レドは機械刀を抜刀すると、柄に付いているボタンを押した。刃が熱されて橙に染まった。
「いける?」
『鉄扉くらいなら余裕』
「よし……」
レドは扉に機械刀を刺した。思ったよりもすんなりと、刃は扉を貫通した。そのまま下に向かって焼き切っていく。次は右に、今度は上に、最後に左に。扉に大きな四角い穴を開けた。切った部分を蹴り倒すと、向こう側に更に地下に続く階段があるのが見えた。
「この先に何かあるの?」
『多分ね。行ってみて』
「わかった」
『あと……機械刀の電源、ちゃんと切ってね。使いたい時に加熱出来なくなるよ』
「あ、ごめん」
機械刀の電源を切り、鞘に戻す。そして焼き切った扉をくぐって階段を下りた。
荒廃した世界で通信出来たりするのも、ジェネが整備した機械のおかげだったりします。二人の拠点については、今後描写する時に改めて説明します。