死にたくないから生きてるだけで 作:猿も電柱に登る
持病で寝込んでました……。
これからは頑張って更新を早めるので、許してヒヤシンス。
あと、ウマ娘編のジャポーネとこっちのジャポーネは違うということを改めて。
『ほれ、行くで鼻垂れ』
やあ、同士よ。
まあ座りたまえ、私は二度目の引っ越しを乗り越えて、ここに来た。
そして今、ボスらしき馬に気に入られている!
ああ、かつてないこの高いテンションに皆さん驚いただろうが、この馬生にて始めて意思の疎通ができる同族と出会ったのだから許して欲しい。
このボスらしき馬の名前も、本当にボスであるのかも知らぬが、周りから恐れられているのを見ると、間違えなく隣にいれば他の馬へ対応する必要性がなくなると考えれば、たまに蹴られる心配にも耐えられるというものだ。
『いつまで寝とるんや鼻垂れ!』
『へいへい』
ボスが呼んでいるからな続きは後にしよう。
『相変わらず遅いな、お前は』
『あと二キロくれたら、ボスの足を潰せる自信はありまっせ』
『はは、抜かせ!返り討ちにしたる』
それではいつものように、ここに来た時のことを語るとしよう。
ふむ……、三度目の引っ越しともなれば流石に取り乱すことはなかった。
どれだけ歓声のないつまらない勝利であったとしても、新馬戦に勝利した馬を殺す必要性はないであろう。
特に問題を起こしていない上に、基本的に人間様の命令に背いたりもしていない私をここで殺す必要性も薄いのだから。
そんなわけで気楽な旅行を終えてここに来たわけなのだが……。
大きいな……。
基本的に同年代の馬たちは私よりも小柄であったため、言葉を無視してくるような馬が相手であったとしても、手が出しにくかったのであろうが、ここにいるのは成熟しきった馬。
おそらくシニア?と呼ばれる階級を走ってきた歴戦の猛者たちなのであろう。
そんな中でコミュニケーションができない馬が一頭混ざればどうなると思う?
ああ、囲まれてのリンチであろう。
『おうおう、お前!、先輩に挨拶もせずに何をしとるんや?』という具合にボスからハブられて、子分に潰されるに違いない。
そんな新たな恐れに震えていた……、いや気楽な旅という言葉は取り消そう。
今回もいつものように、心が粉々に砕け散っていたのだ。
そんな私を救ってくれたのがボスだった。
いつも厩務員、彼女に振られた彼である、に手綱を引かれて、トレーニングセンターらしき場所に到着した私を待っていたのは、前述の巨大な馬たちである。
いや、巨大と呼ぶには語弊があるのだが、威圧感なども含めたものだと思ってもらえるとわかりやすいやもしれん。
新入りである私をじろじろと眺める奴らが、何かをぼやいているように口を開くのを見るたびに、恐怖で震えることしかできなかった。
だが何よりも、隣の部屋に、顔を見合わせることができる程度には解放感のある、いた馬が恐ろしかった。
『ん、新入りかいな』
『ひえっ……』
『ん?、失礼なやっちゃな、何を突っ立っとるんやおどれは?、それと何や?人を見た途端に悲鳴とは、食われたいんか!』
体格は大したことないのだが、放たれる覇気のようなものが抜き身の刃のような誰も近づけないようなものなのだ。
見れば放牧の時も、彼に近づくことを恐れる馬が多く、一人でむしゃむしゃと芝を食んでいる。
馬基準でも恐ろしい存在であることを知った私は、どうしてもっと分厚い、それこそ顔も出せないような檻に奴を閉じ込めていなかったのかと、怒りの余り寝込みそうになった。
しかし、数時間後に冷静になれば思うのだ。
『なぜ彼の言葉が聞こえるのか……』
そう、今まで聞こえなかった馬という生命体の言語がすらすらと頭の中に流れ込んでくるのだ。
私の馬主やジョッキーとは違う、明確に頭の中に言葉が流れてくる。
それこそ、トレーニングセンターに馬がいることと同じように、当たり前のことのようにその馬の言葉が理解できる。
だが、これを好機に馬の言葉を解読しようと考える前に、人間の言葉に変換されるものだから結局このお隣さん以外と会話を行うことはできんでいたのだった。
この時ほど……、いや、産まれた時から人間の記憶を持ったことを恨んではいる。
『あのー……親分?』
『ん、邪魔やぞ鼻っ垂れ』
『後ろ失礼させていただきやす……』
となると私にできることは一つ、この抜き身の刃のような馬に気に入られることだけ。
それからはいろいろとやってきた。
『何で人間どもはわいに芝を走らせんのやろうな?』
『親分があんまりにも力強いもんだから人間どもも勘違いしてるんでさ』
『世辞ならいらんで、ほれ走るで』
『あいあいさー』
レースでなかなか勝てないという親分の機嫌を取ったり、愚痴を聞いたり。
『おら!、白いの!、もう帰る時間だぞ』
『あ!?、おどれごときに従うわいやないわ!』
『(良くわからんが)そうですぜ、親分の言う通りでさ!』
放牧中も鬱陶しいボス?らしき馬を一緒に追っ払ったり。
『ん、それ旨そうやな?』
『へい、どうぞ親分』
『いや、止めとくは』
別に好きでもない果物を譲ったり。
まあ、いろいろとやってきて、やっとこさ受け入れてもらったわけだ。
そのお陰もあって、ボスらしき馬以外から言葉を浴びることは消え、やっとこさ、親分の背中を歩くことを許された。
これで、ようやく大手を振るってこの場所を闊歩することを許された。
これまた唐突な話なのだが……。
ここでの訓練は随分と真剣だ。
いや、あの場所でのトレーニングが温かったのかもしれない。
とはいえ私の気分でトレーニングを決めることは許されなくなった。
しかし、親分との会話以外では暇な私にとって大抵のことは暇潰しとなるし、その疲れすら気持ちのようものになる。
そんなスポコン漫画展開を乗り越えたことで、私は筋肉モリモリマッチョマンの変態競走馬に近づいた。
そして運ばれるトラックの中
試される大地にて……。
「ここも久しぶりだな」
『いや始めてだけど?』
「今日はあの時よりも短けえからな、いつもより気張っていけよ」
『は?、無理でしょ』
地面に水溜まりができている。
そして
『雨降ってるけど』
たしかにぐちゃぐちゃのダートを走らされたことはあったが、実際にびしょびしょに濡れながら走るのは始めてである。
遅れを取るつもりはないが、誰かを背に乗せて落ちることを考慮しながら走るのはきつい。
「おいおい、安心しろ、いつものように走れば大丈夫だ」
『かなり派手に曲がるよ?、しっかり捕まってないと落ちるよ?』
「上等だ!」
『……、まあいっか』
「おう、気楽にいけ、気楽にな」
それでは改めて
日本一の雪の大地は
今は青い空のまま
再び入る真っ白ゲートは
酷く窮屈に思えてならない
ここに咲くのは秋の桜
それじゃあ
始めるとしよう
ウマ娘の方は反骨精神の塊みたいなタイプなのでギャップが大きすぎるかも……?と思っての注意書きです。