死にたくないから生きてるだけで 作:猿も電柱に登る
リアルの都合で投稿が滞っていました……。
一週間くらい開けて書いているのであからさまに繋ぎ目が見えている場所があったり…。
というか、どうして世間様はお盆休みなのに私に休みをくれないのですか!
「おお、良かったやないか!」
自分のことのように喜んでくれるタマ先輩の笑顔に癒されつつ、カレンダー片手ににらめっこ。
どうしてこんなことになったのかと言われれば、昨日の夜のこと。
自分で組み立てていた練習の予定は、トレーナーの登場で白紙に戻されて、インターバル走を明らかに無茶だろと心配されて休みをもらってしまった。
すぐにトレーニングしよう!、とトレーナーに訴えたのはいいけれども、こっちも忙しいとのことで、強制的にお休みをさせられたのでした。
「ん、おかえり……」
そんな何ともいえない感情のまま部屋に戻ると、少し眠そうな声での『おかえり』が聞こえた。
気付くと時計の針は門限をとっくに過ぎていた。
もちろん、申請しているので説教を受けることはないけど、態々起きていてくれたのかと申し訳なく思う。
しかし、三人ともベッドは肌に合わないという性分なもので、川の字に敷かれた布団は、二つとも膨らんでいて、眠るのは私だけとなっている状況だった。
不思議に思って布団を注視すると、むにゃむにゃと口を動かしていたタマ先輩。
ああ、眠りながらもこうやって帰ってきた同居人を迎えてくれたのだなと嬉しくなり、その柔らかい頬を少しだけつついてしまった。
翌朝、冒頭の光景に戻る。
正式にトレーナー契約が成立した。
朝食の前に、そんなことを口にしたのは、この喜びを共有したかったのか、自慢をしたいという子供のような心からか……。
結果として二人からは祝福の言葉をもらったのだけども、何だか恥ずかしくなってしまって瞳を閉じてしまう。
少しだけ盛り上がった朝食は、みんなそれぞれの秘蔵っ子を取り出して半ばパーティーになってた。
そして、そのまま空いてしまった予定の話もできないで、それぞれ部屋を離れたのでした。
「えっとね、ラジちゃん、明日って空いてるかな?」
そんな日だったから、代わり映えのない授業が終わった後、チヨちゃんから話しかけられたのは幸運だったと思う。
なんだかんだで勉強会の誘いを断ってきたものだから誘ってくれないようになるかもしれないと肝を冷やしていたけど、こんな私を友達と認めてくれる彼女はとびきりお人好しだ。
そんな彼女の友達というと、同じ様にとびきりお人好しなんだろう。
もちろん美浦寮の誰かだろうから、直接的な接点もないし、顔を合わせて何を言われるかはわからないけど。
着替えるのが面倒だったから教科書と財布の入った鞄と制服の上に羽織るパーカーだけ着てから寮を出る。
これでおしゃれ番長とかが来たら、強制的に服屋に連れていかれるんだろうなっていうクソダサファッションは第一印象を悪くすること受け合いだろう。
まあこれは後から思ったこと。
寮の仲間以外と外出なんて一度もないんだから、かなり気が緩んでいるし、正解なんて知らないんだから許してほしい。
『ラジちゃん、準備できた?』
コンコンとノックの音。
想像の三倍のスピードでされたノックに驚きながら、早すぎる準備に何か恐ろしいものを感じつつ、扉を開く。
すると尻尾を幻視するような明るい雰囲気を纏った制服姿のウマ娘が、目の前にいる。
サクラ色の瞳に吸い込まれそうになりながら、寮から出ると見るからに鍛えているといわんばかりに発達した足を見せる少女の姿もあった。
「お待たせ……」
私と君が別れて十分も経ってないよと視線で抗議する。
後ろにいる彼女も同じ気持ちなのだろう、少しの抗議と七割の同情の籠った瞳で、チヨちゃんを見つめる。
ただ残念、たぶん私が初めて誘いを受けてくれたのが幸せなんだろう、今の彼女に人間の言葉は通用しないようだ。
ならば、ワンと吠えてみるのも悪くないが、それをやるとただでさえクソダサファッションの印象が、唐突に吠え始めるヤバイやつにグレードアップする。
もちろん、上がるのは不審者レベルであるから上がるのは幸せなことではないだろう。
だから特別何をするまでもなく、後ろを着いていくことにした。
「えっと、申し訳ありません……」
そう頭を下げるのは、準備が足りなかったのだろう、私と同じ様にぶかっとしたジャージを着た少女である。
今は夏前なのだからそんなものを着て大丈夫なのかと不安になったが、後から聞くと稽古の一貫とのことだ。
理由は何もわからなかったが、不思議な人であることだけはわかった。
「こっちこそ変に誘いを受けちゃってごめんね……」
初対面であるのに気が合うように感じるのはきっと私だけじゃないはず。
もっとも彼女も修行のために厚手の服を着るという良くわからない方のようだが。
「いえ……、その、名前を教えて、あ、私はヤエノムテキです」
「えーと、私はラ·ジャポーネって言います!、長い縁になりそうですし、よろしくね♪」
明るい彼女に振り回されてきたのだろう。
ほんのり疲れの見えるヤエノさん、その原因は眼前にいるサクラ色な彼女に他ない……はず。
まあ、先頭を進む彼女にその思いは届かないのだろうけど。
「何を食べよっか?」
勉強会の場所はファミレス。
学校の図書館でも悪くないんだろうけど、何だかんだ喋りながらやれた方が楽しい、らしい。
詳しくは不明。
とりあえず注文すべきかと思って取り出したメニュー表は、定番のフライドポテトから、変わり種のいかゲソなんかもあった。
誰も疑問に思っていないようだから、もしかしたらいかゲソはファミレスの定番のひとつなのではないか、なんてことを考える。
「みんなで食べれるものがいいですよね?、それなら……」
「ポテトか唐揚げでしょうか、それとドリンクバーは皆さん頼みますよね」
「「うん!」♪」
サクサク決まっていく注文に、ピンポンと鳴らす呼び鈴。
ファミレスの効果音は想像よりも明るくて、口が回りやすい雰囲気を演出してる。
「それじゃあドリンクバーにいきましょう!」
「あ、私は待っておきます」
「ごめんねー」
声こそ明るいものの、皆、本来ならわちゃわちゃと動くはずの尻尾が小腹の空いたお腹を示しているようにしょぼんとしている。
まあ、ドリンクバーを注ぎ始めてからすぐに横振りの動きに切り替わったのを見るとあんまりにも自分があんまりにも現金な生き物だなと思わされるのだけど。
注がれたオレンジジュースは同時に入っていた謎の液体で薄められて……、はないよう。
始めに入れた氷の方がよっぽど薄める力を持っている。
さて、注文したメニューが届く前から、ガサゴソと鞄を探す三人。
それぞれ取り出した教科書がバラバラな点を除けば、最高のスタートダッシュが決められたのだろうけど、ウマ娘も十人十色。
得意な教科は違うし、そもそもの成績も違う。
比較的万能型の私でも数学は好きになれないし、隣にいるヤエノさんも文系とのこと。
そして目の前にいるチヨちゃんの得意教科は見事に文系。
そう。
数学を教えられる人がいない!!!
のでした。
そのせいで、ストイックなヤエノさんは数学。
みんなと話したいのであろうチヨちゃんは理科。
私が逃げの社会。
バラバラの教科をバラバラに始めることになりそうな状況下。
「えっと、折角の勉強会だしみんなで同じ教科をしない……」
まあ、私が言わなくてもこうなってただろうけど、一応ね。
囲んで食べるご飯も、話題が合わなくちゃ美味しくない、最近知ったことだからさ。
それならそうしようよかと、再度ガサガサ。
三人で取り出したのは初日にある古典。
といっても何を勉強すればいいのかわからないこれ、うんうんと頭を捻っている間に取り出したりますは単語帳。
こつこつと作っていた渾身の単語帳は、タマ先輩のアドバイスの賜物。
とんとんと読み上げを繰り返すと薄いノートは唐揚げを半分にする頃に閉じられる。
となると次は何をするかと考える。
なら社会でもやろうかとペンを取る。
しかし、若い娘が揃ったならば……。
摘ままれる唐揚げ、減っていくポテト、弾む会話、消えていく教科書。
おしゃべりタイムの始まりだろう。
「金剛八重垣流……、良くわからないけど空手?的なやつかな?」
「いえ、空手というよりは徒手武術ですね、足は使わないものです」
「えっ、それでその太股!?」
「好きな食べ物か……、ソースをかけて美味しいものかな~」
「たこ焼きとかでしょうか?」
「え、そこはお好み焼きじゃないの!?」
「今度演舞を披露しましょうか」
「え、見たいです!」
「わかる、すごく気になる」
そして
「だからタービーを取ります」
ウマ娘という生き物は、ただ喧しいだけ乙女ではなく競争を愛する存在だと思い知らせるような覇気で私を見つめるのは穏やかなはずのサクラ色。
「マルゼンスキーさんが一番強いですよ」
「は?、シービー先輩が一番でしょ?」
それは、尊敬する人から、推しウマ娘議論という不毛な争いが始まったことに起因する。
「マルゼンスキー先輩とか古いでしょ?、何年前の話だっけ?」
「なっ!、それを言ったらシービーさんは前世代のルドルフ先輩に!」
「は?、それ以上は禁句だよ喰われたいならいいけど」
「シービーさんは確かにすごいです、でもマルゼンスキーさんの方がもっとすごいです!」
「無敗は強くとも三冠には及ばないでしょ」
『趣旨とは違うかもしれませんが私は祖父を尊敬していますね』
そんなことを語っていたヤエノムテキは、二人の熱量に恐怖している。
取り繕う明るい空気を消したラ・ジャポーネのインパクトに、凄まじい熱量で応じるチヨノオー。
「さんか!、ダービーは出れさえすればマルゼンスキーさんが勝っていたんですよ!」
「さて、どうだったかね?、ダービーは運とも言うし、それを得られなかったのならそれまででしょ」
なら!
ここが公共の場ということを忘れた二人。
立ち上がって宣言するのは……
「私がダービーを取ります!、運だけじゃないって!、マルゼンスキーさんの無念を晴らすためにも!」
「証明して見せます」
「彼女の最強を!」
見開かれた瞳は変わらぬ桜、しかしその奥は燃え盛る炎が広がっている。
無論、冷静になれば彼女の勝利に意味はない。
マルゼンスキーはダービーに出られず、ミスターシービーが三冠を取ったことも変わらない。
しかし
「わかった……、なら私はタブーを犯すよ」
最早二人は止まらない
「目指すは凱旋門、最下位からぶっ飛ばす」
もう一度繰り返すが彼女たちの行為で証明されるのは、自分の力だけだ。
憧れの何かが変わることはない。
だが
「絶対見て「絶対見てろ」てください」
熱しにくい意識が焼けた時は
そう簡単に冷めはしない。
目指す場所も願う未来も違うが
二人は確かにここに誓った。
その夢は誰かのもの?
否
二人が創ったもの
新馬戦まで後少し
揃うは若き獅子たち
さあ
時代を紡ぐのは、桜か、灰か
それとも……
『私のトレーナーさんになってくれませんか?』
『こんな私でよければ、よろしくお願いいたします』
顔も知らない猛者たちか
激動の夏が来る。
最後はガチギレしたヤエノにげんこつを食らって終了。
美浦トレセンとは関わりがないので、どうするべきか思案したけれども、物語の始めで仲良くなってしまった以上、この話は書きたかった。
許してくれると嬉しい。
こいついっつも許しを乞うてるな……。