死にたくないから生きてるだけで 作:猿も電柱に登る
だいたい交互に視点が変化し続けます。
でも、馬にとってあんまり良くわからないお話は人間のところでじっくりやることになるかも?
あとタグ詐欺が怖いので、5話くらいから、ウマ娘になってからのお話があります。
追記 ごめんなさい!、透明編集を忘れてました!
我輩は馬である、名前はまだない。
否、名前がないと言うのは語弊がある。
人間たちは私のことを名前で呼んでいるのだろう。
『オグリキャップ』だの『シンボリルドルフ』のようなイカした名前を貰っていることがありえるかもしれないと期待しているが、私が馬と呼ばれていると勘違いしたこととから、短く二文字の名前なのだろう。
そんな自称名無しの権兵衛である私がいるのはおそらくトレーニングセンター?なのだろうか、良くわからない場所で立派な競走馬になるために日々研鑽を積んでいるわけである。
そうであった。
先日はさらりと流したが、私がこの場所にドナドナと送られてきた時の話でもしよう。
まあ、馬肉にされるのかと、想像よりも短い一生になったなと半ば諦めの境地にいた私は、短い時とはいえ育ててもらった恩のある人間たちの血肉となれるならば本望だと考え、処刑台へ向かうマリー・アントワネットのように毅然とした態度でトラックに揺られていた。
「さあ、行くぞ」
人間からそんな声が聞こえた気がした。
ゆったりと手綱を引かれ、その動きにも抵抗せずただ悠然と気高く、これから桜吹雪となるとは思えないような美しさを見せつけて。
死にたくないから生きている。
そんな輪廻から廻ってしまった先では、畜生に身を落としながらも、できれば長く生きたいと願っている。
例えそれが怠惰の末にたどり着いたしょうもない結論であってもだ。
これは皮肉なものだと、なぜ人として生きることを許された贅沢な日々を浪費することしかできなかったのかと、神とやらは、仏とやらは随分と悪意にまみれているではないか……。
彼の虎に変じた李徴子も同じように絶望したであろう。
誰にも理解できぬと嘆いていた彼の心を理解することなど、己には難しいであろう。
彼の変じた虎は、傲慢と強欲の果てのもの、対して私の馬は無欲と自我の無さによるもの。
結局、李徴子も私もその心を理解されることのない孤独な存在と成り果てたわけだ。
この世界に私一人
群れることで社会を作る人間が、本当の意味で一人きりというのも、珍しく先例の少ない事態に陥っているわけである。
ああ、これは滑稽だ。
舞台の演目になることだってあるかもしれない。
誰にも知られぬ物語が誰かに知られるなど、それこそ滑稽な話なわけだが……。
「ほれ、とりあえずお前の……、人間と同じ言葉使いを欲しいだったか……、お前の部屋はここだぞ」
悲観に暮れていると目的地に到着したようである。
桜吹雪になる馬への待遇にしては、随分と普通の部屋に連れてこられたものだ。
もしかしたら、そうならずに済むのか、それとも競走馬の方々は豪邸に住んでいるのか。
妄想が膨らむのだが、あいにくそんなことを言ってられるほど、明るい状況でもないのだが。
「今日は疲れただろうからな、ゆっくり休んで、明日から走るぞ」
バイバイと手を振る人間、どうやらこれでお別れのようだ。
一思いにやってくれると嬉しい。
死を恐れはしないが、痛みというものは普遍的で恐ろしいものなのだ。
生前の私が生きたいと願っていたのは、命を落とす時に訪れるであろう痛みが恐ろしくて仕方なかったからである。
持病の頭痛で痛みに鈍感ではあったが、それでも痛みを人一倍知っているとも言える。
そのせいで、私は自分が自分に与える痛み以外が恐ろしくて、逆説的に、自分をつねったりすることが好きだった。
異常な性癖を暴露したところで状況は好転しない。
今ここから逃げ出したところで、私を匿ってくれる人間などいるわけがないのだから、通報されるのが関の山である。
恐ろしい、恐ろしいと眠れぬ夜を過ごしたあと、昨日と同じか、そうでないかは定かではないが、人間が現れた。
「よーし!新入り、飯だよー」
甲高い声、相変わらず意味を認識することはできないが、この明るい声。
これが桜吹雪に対する態度であろうか、いや断じて違うだろう。
だが、声と共に落とされたのは麦らしきものと、牧草が混ざった食料であった。
途端に私は、最後の晩餐という言葉を思い出した。
どんな悪人であっても、その最後には願いを叶えるために好きな食べ物を与えるという習慣があるらしいのだ。
となると大変である。
「食べていいんだよー?」
私はこれを食べてそのまま死ぬのであろうか、恐怖に震える私を見て、さらに甲高い声をあげる人間。
だが恐れるのは無知のやること。
死すら既知の範囲内である私にとって、その死に方すら既知であるなら本当に恐れることはないのだ。
ただ毅然と、美しく、最後に引き金を引く人間の一生に残り続けるような馬へとなってみせようではないか。
そんな悲壮な覚悟を決めていた私に人間は不思議なことを口にする。
「今から放牧だけど、あんまり芝を食べちゃダメだからね」
?
今散歩と言わなかったか?
まさか散歩までさせてもらえるとは、どうやら私が死ぬのはもう少し先になるようだ。
だが、冷静に考えてみると解体する時に、胃の中に草が入っているのでは、やりづらいからではないのか。
そんな邪推も生まれる。
人と言うものは、一度思い込んでしまうとなかなかそれを止められない生き物であり、今世が馬である私にとっても同様のことが言えるのである。
覚悟を決めては、それを崩され、おっかなびっくり向かった先には、先日まで私の住みかであった草原に良く似た風景であった。
違うところは、馬の数であろう。
二桁に届かない馬しかいなかったあの場所と違い、この場所では、黒、白、茶色と様々な馬がいる。
これだけの馬がいる場所が屠殺の場所なはずがないと、改めて確信を得た私は、そのまま草原を走り回るのだった。
「休んだら本格的な調教だからな」
よくわからん言葉をかけられながら、連れられたこの先は、円形のコースであった。
ああなるほど、私は馬術かなにかの馬であったかと、初日にして気付けた私の脳は素晴らしいと言えるが、それはそれとして、何をするのだろうか。
故郷の人間たちのように背に乗せての訓練となるのだろうか、装具を着けられ待機する私を、引っ張っていく人間、良くわからないから着いていく。
引っ張る
着いていく
引っ張る
着いていく
引っ張る
これはなんなのだろうか?
訓練というよりも見張り着きの散歩のようなこれは、果たして訓練と呼べるのだろうか……。
やがて、驚いたように手綱から手を離すと、装具に足を掛けているようで、ああ乗ろうとしているのかと思い、少し体勢をずらす。
すると乗っかったまま手綱を緩められる。
何がしたいのかと見つめると、お尻をポンポンと叩かれる。
前に進めと言うことかと、のんびり歩き始めたが、どうやら違ったようでさらにポンポンと叩かれる。
痛くはないが、鬱陶しくはあるので、何ですかと顔を向けると、ポンポンは加速する。
ああ、歩くのではなく走れと、そんな指令であったのかと、一を聞いて三くらいを知った私は、トコトコという擬音が似合う歩きから、しゅーんという擬音が似合う走りへと移行するべく足を速める。
先ほどまで辿っていた道を完璧になぞりながら、走り続ける。
鞭が飛んでくるかもと思ったが、そんなことはなくただ延々と同じ速さで走り続ける。
満足したのだろうか、手綱をくいっと引く感触にゆっくりと足を止める。
すぐに止まると身体に悪いというから、少し歩いてはいるが、するとまた手綱をくいっとされたので、今度は停止する。
上にいる人間が何やら独り言を呟いているが、かわいそうだからすりすりして癒してやろうと思い、頭を擦り付けようとしたものの、冷静になれば馬上の人間にしてやれることなんてないなと諦めた。
その後、この身体を診てくれる人?、に身体を弄くり回されて、夕飯を食べて、夜にわしゃわしゃと身体を頭を撫でられて、その日は終わったのだった。
友達がいないこと以外は順調な滑り出しであると言えるのではないか。
そんな虚しいことを思いながら、床に着く。
まあ、床に身体を寝そべって眠ることは、生前の「馬は横になると死ぬ」という噂のせいで、恐ろしくてできないのだが、足に体重を乗せる時に、一本だけ力を抜いているので、休むことはできているのだが。
意識も薄れ始めた。
今日のお話はここまでにしよう。
それでは、また機会があれば
zzz zzz zzz
この子、馬になってから、頭が回らなくなってるのよ……、コースを見たら競走馬だと思いそうなものですけどね……。
それはそれとして、ろくにドライビングの訓練もしていない馬が、自分の指示に従って動いてくれたことに気付いた人間はSANチェックです。
お気に入り多いの怖い……、期待されると私が胃痛で瞬殺ですよ。
1話の頭にあるように、面白くなるように頑張ってはいますけど、作者の腕では、そんなに面白い小説になることはないですからね……
別名義の小説と比べて矢鱈とお気に入り登録が多いので怖くなって書いてしまいましたが、登録そのものは嬉しかったり……複雑な作者心なのです。
楽しんで読んでくださっている方はありがとうございます。