死にたくないから生きてるだけで 作:猿も電柱に登る
評価バーに色がついていて驚きました!
それと、誤字報告ありがとうございます!、ろくに見返しもしないで、投稿しているものですから、本当にありがたいです!
あと、サチくんは自分の耳を聞こえていると、馬になったから人の声が聞こえないものだと思っています。
あと今回は短いです。
人間界でのお話は長くなりそうですが、馬世界のお話にするとあっという間に終わってしまう不思議。
「よし!、いくぞジャポーネ!」
私は激怒した。必ず、かの邪智暴虐なジョッキーを除かねばならぬと決意した。
私には競馬がわからぬ。私は馬である。今まで草を食み、厩務員と遊んで暮らしてきた。しかし、鞭による痛みには馬一倍敏感であった。
というのは建前である。
私として出鱈目に加速が遅い馬にわざわざ騎乗してくれるような方や名乗り出てくれる馬主がいたことは感謝の極みである。
それはそれとして彼はなぜ鞭というものをもっていないのだろうか。
確かに鞭は恐ろしい、私も痛みは大嫌いなものだから、トントンと叩く形で合図をしてくれるのは嬉しいのだが……。
おっと、そうであった、私にも馬主と騎手らしき者ができたのだ。
先日、それは桜舞う春の日であった。
ゲート訓練に、体力向上の基礎訓練、小さくとも設備は十二分なこの場所を気に入っていた私。
唐突にパリッと決めたいつもの厩務員に久しく車に乗せられて出掛けた先、ああついにこの時が来たのかと恐れているが……。
まあ、何度目の経験かわからないがいつものように屠殺場には見えない。
ああ、死なずに済んだと思うと同時に、いい加減にこの天丼が起こらないような確固たる心を持つ必要があると認識した。
そもそも、私を連れていく時にえらくカッチリとした服装をしていた時点で気付くことができたはずだ。
馬の耳に念仏と言うが、瞳も節穴であったようである。
あんまりな脳みそは人間であった名残を見せていないものではっきり言って馬に心までも侵食され始めているようである。
絶望的な現実に瀕死となった彼、いつものように手綱に引かれて歩んだ先は裁判所のような円形の椅子に囲まれた場所であった。
私が何か罪を犯したのか……、なんて思うほどバカではないぞ!
言ってしまえば『セリ』と呼ばれるものだろう。
私にはどれ程の値打ちがつくのか少し興味がある……。
始まったばかりのバナナの叩き売りのようなシンと静まり返った会場は、自分の値打ちはその程度だと嗤われているようで居心地が悪くなる。
馬主になるような大金持ちにとって競走馬など所詮、ただのステータスか、肉にされることに哀れみこそ覚えるものの、救う価値はないおもちゃか……。
盛り上がったのかそうでないのかも良くわからず、ただ一頭の馬は買われたのか、桜吹雪となるのかもわからず、延々と一点を見つめるだけであった。
全てが終わり牧場に帰る前、初老?くらいの人間が自分を訪ねてきた。
「えっと、よろしく頼むよ『ラ·ジャポーネ』、僕の最初の競走馬くん……?」
静かに言葉らしきものを紡ぐ姿はどこか寂しそうで、身体を擦り付ける。
「おっと、人懐っこい子なんですね……」
「あ……、そのどちらかと言えば撫でてくれた人へのお礼としての側面が強くて……、自分から行くのは珍しいですね」
「くすっ……、そうですか、これはもしかして運命というものなんですかね」
何か良くわからないことを話している二人から手綱をこちらから引いて、気を引いてみる。
「おっと、すみません」
「いえいえ、こちらこそ、呼び止めてしまって」
ん、どうやら終わったらしい。
待ちぼうけをするのも悪くないが、もうすぐでデビューするであろうこの競走馬人生。
少しでも身体を動かして、身体を仕上げておきたいのである。
「おいおいサチ、あの人はお前の馬主になる人なんだぞ、ご機嫌を損ねたらダメだからな」
『馬主』
人の言葉はリズムで覚えてきた私にとって始めて理解できた人間の言葉は、図らずもこの馬生を生きる上で最も大切な言葉だった。
ならさっきまで私が身体を擦り付けていたのは、かなり失礼にあたるのではないか……、途端に恐ろしくなったものの、頭を撫で撫でとしてくれたものだから、気に入ってくれたと思うのも良いかもしれない。
ポジティブにならなくては、ビクビクと怯える姿ばかり見せていては、同族から侮られるに違いない。
怯えるのではなく、俺に着いてこいと人を引っ張れるような馬になる必要があるのやもしれない。
その後も、たまに来て頭を撫でて帰っていく謎多き馬主さん、気に入られたのは本当のことのようで、あの時のような黒いカッチリとした服ではなく、白シャツにジーパンらしきものを着ている様子、いつもの甲高い娘ちゃんの反応からして、ファッションセンスのないイケメンオジらしい。
イケオジが馬主になってくれるなんて、ドラマチックな展開を期待するしかない。
おっと、謎の馬主さんの話も良いが、もっと面白いのが私の上にいるジョッキーさんである。
「今日はどう走りたいんだ?」
『大外』
「了解だ!」
いるだけで気温が上がるような気分になる熱々の男である。
スポーツマンは皆こんな感じという偏見を持っていた私の期待に見事に当てはまっている彼、乗せていて楽しいと思えるような人が上にいてくれることに感動の涙が出そうだ。
さらに言えば、この人は私の言葉を何となく理解しているらしく、一方的ながら、会話することもできるのだ。
そのお陰か、好きなように走っても途中から膨らむこともなく、コースの内側に入り込むこともなくなったのだが、はあ、本職の人はずいぶんと凄いなと、馬と話すことができなければジョッキーは成り立たないのかと驚愕しつつ、質問した。
結果、馬の声が聞こえたのは始めてのことだったらしく、実際はどうかわからないとのこと。
ただ明らかに独り言でない会話らしきものを馬としている人もいるらしく、ああ、彼らの世界とは魔境だなと思い知らされた。
まあ、そんなこともあって、走るのが楽しくなってきた今日この頃、そして遂にその時が訪れた。
「いつもみたいに行くぜ!」
『あいよ』
新馬戦だ
三歳馬たちが集まる競走馬最初の門、ここを越えることができなければ、デビューすることすら許されない戦い。
言ってしまえば最も重要なレースの1つ、敗北は許されない。
ならば勝てば良いだけだ。
ゲートに入るは若き獅子たち
そこにいたのは走らぬと嗤われる葦毛ではなく
ただ一頭の獣である。
さあ、ゲートが開く
勝利の栄光か
敗北の苦渋か
そこにあるのは二つに一つ
けれど阻むは数多のライバル
歩みを止めぬ者にだけ勝利は訪れる
さあ、新馬戦の始まりだ
サンプル(実際のものとは違う可能性が高いです)
真剣
トレセン学園
数多の競走バを排出してきたその場所で、最強の馬と言えば誰を思い浮かべるだろうか?
後の世まで、そこに到達した馬がいないと呼ばれた伝説の五冠バ『シンザン』
クラシック三冠こそ出走できなかったものの、現役全てのレースで勝利した『マルゼンスキー』
無敗の三冠を含め、七つの冠を持ち現役生徒会長でもある『シンボリルドルフ』
他にも、故障でダービーこそ出られなかったものの、二冠に加え春の天皇賞を勝利した『ミホシンザン』、禁忌を侵したとすら呼ばれる三冠バ『ミスターシービー』
地方からの刺客『ハイセイコー』、そのライバルであるダービーバ『タケホープ』
TTG時代と呼ばれる三強の時代を生み出した流星の貴公子『テンポイント』、天馬『トウショウボーイ』、緑の刺客『グリーングラス』
ざっと挙げていくだけで、これほどのウマ娘の名が挙がる。
決めてしまえば最強なんてものは一人しか得られないつまらない称号となってしまうが、『最』も高い頂きに立った『強』き者にしか名乗ることを許されない称号。
今日もまた、その座を目指すウマ娘が一人。
さて、彼女はどんな物語を紡いでくれるのでしょうか。
四本の足を持って大きな鹿のような生き物となって、野原を駆け回る。
輝く栄光たち、『ミホシンザン』や『シンボリルドルフ』、『マルゼンスキー』の背中を走り続けて、光を追い続けて、その全てを追い越した後
目の前が真っ暗になった。
背中を追いかけてくれる同族はいる。
隣を走っている同族もいる。
それでも、その目の前は真っ暗。
やがて、諦めたのか後ろを振り向く。
すると、在りし日の自分と同じような存在が自分を追い越そうと追いかけてくる。
そして思い出したかのようにまた走り続けるのだ。
私にはわからない。
その夢が何を示しているのかも
歩みを止めなかったその正体も
でも忘れたらダメだと思った。
だから心に仕舞い込む
落とさぬように
忘れぬように
ほのぼの日常
「ほんならいくでー!」
「炊飯器はまかせろ」
「食器はここにならべておくね?」
ここはトレセン学園の『栗東寮』、世にも珍しい三人部屋に住むのは葦毛三銃士。
最年長の『タマモクロス』、次点の『オグリキャップ』、一番年下の『ラ·ジャポーネ』といっても皆同級生です。
それぞれいくつもの勝利を重ねてきた実力者ですが、今日は揃って鉄板パーティーのようです。
もともとは食堂で満腹になる前に追い出されるオグリのお腹を満たすために、ジャポーネがお好み焼きを作ったのが始まりで、今となっては寮長も含めた多くのウマ娘が参加するお祭りとなっています。
それぞれが好きなものを持ち寄って作るという性質上、ごく稀にゲテモノ料理が生み出されることもあるけど、それもまた楽しみの一つです。
さあ今日のお客さんは……
「三人で食べるなんて久しぶりだね」
「んっ、タマのたこ焼きもラジのお好み焼きもどちらも美味しいからな、私はこれで満足だぞ」
「誰が作ると思ってんねん……、ただ!、食べるんやったら腹膨れるくらいたくさん食べんとあかんで!」
「オグリちゃんに言うのは無粋だと思うよ?」
いないようです。
葦毛三銃士は皆料理こそできますが、それぞれの得意分野が違うので、この場所では様々な美味しそうな匂いが部屋いっぱいに広がります。
「ほな、いくでー」
黒々とした穴空き鉄板に、生地を流し込んでいるのはタマモクロス。
どうやら今日はたこ焼きのようです。
関西人らしく粉ものが好きな彼女ですが、だいぶ前には串カツを揚げていたりしました。
カラッと揚がったうずらの卵を見た時は、そこにいる全員のお腹が鳴ったものです。
「はい、タマちゃんネギだよ」
「タマ、天かすも置いておくぞ」
「はいはい、急かしたって早くできるわけやないで、たこ焼きに肝心なのは見極めやからな」
急かす二人を抑えながら、生地が固まっていくのを待ちます。
流し込んですぐに具材を入れるのが正解とはいえ、小さなタコさんしか入らない貧乏たこ焼きではあるけど、いやだからこその拘りがあるようです。
「今!」
差しきるタイミングを見るかの如く、最善のタイミングで具材が投入されていきます。
溢れないように丁寧に、でも一気に、確実に。
全てが投入されたら再度待つ時間です。
『パシャ』
シャッター音が聞こえた気もするが、機嫌の良いタマモクロスは特別に見逃してくれます。
食事中に携帯を触っている姿は許されませんが、矢鱈と長い自撮り棒を使っての想い出づくりのためのものであると聞いているので、そのくらいは許してくれるようです。
さあ、そんなことをしている間に、生地の状態はクライマックス、ひっくり返すための箸を持って準備万端!。
「いくで!」
そこからはまるで曲芸です。
一度に複数の球体が空を舞い、カリカリに焼けたそれには、黄金色の削り節が乗せられ、ぱっぱっと青のりが振りかけられる。
仕上げにソースをかけて、マヨネーズはお好みで!
皿にコロンと転がされ、はい出来上がり!
「ほんなら手を合わせて」
「「「いただきます!」!」!」
熱々の生地はカリカリで、中に入っている天かすも良い味を出しています。
適切なタイミングで入れたネギは、あまりにもカリカリで、別の何かと錯覚してしまいそうですが、その独特の風味によって原型を取り戻します。
小さめのタコも、ほどよく口に残る固さなので、しっかりと存在感を示していて、とても美味しいたこ焼きです。
ぱくっ
口を火傷しないように、ふーふーと息を吹き掛けますが、それだと削り節が飛んでしまい、かといってそのまま食べようとすると、ほかほかの衣に包まれた中にある灼熱の如き中身が舌を焼く。
取れるのは二つに一つ、三人が選んだのは後者でした。
「あふあふあふ、あっふ!」
「ん!」
「ん、なかなかええんやないか?」
三者三様の反応はあれど皆の心は一つ!
「おいひい!」
「美味しいな」
「うまい!」
さあ全てが終わりお皿を片付ける三人。
今日も今日とて空腹なオグリのために、ストックしていたお好み焼き用の粉が消えたのは、また別のお話。
アンケートですが、よほど大差でもない限り、その時々で書き分けることになると思います。