死にたくないから生きてるだけで   作:猿も電柱に登る

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 いつも間にか10000UA突破していてびっくりです!、記念に何かするべきなのかと考えていますが、皐月賞まではのんびり書き進める予定なので、それが終わったら何かしようかと考え中です。

 ちなみにウマ娘の方は、余裕があれば後書きにほのぼの日常を書くことにしました。
 真面目(真面目になるとはいってない)版はあちらの方にゆっくり書きますがあんまり期待しないで待っていてくださいな。


運命の馬

 『馬主にでもなってみたらどうだい?』

 

 妻に先立たれ、娘も自分で家庭を持った寂しい老人にそんな話を持ちかけたのは、自分の古い友人であった。

 特に趣味もなかった私は、日々を過ごすだけなら定年前に集めた貯金を切り崩す必要もなく、年金生活で生きていけたものだから、その貯金を恵まれない人に投資でもしようかと考えていた。

 遺産として残すのも悪くないが、娘もその夫もしっかりした子たちである。老人のお節介などいらないから好きなようにお金は使ってと、いやむしろ使いなさいとはっきりと口にしてくれた。

 

 それじゃあ、やはり寄付をするかと考えていた最中、久しく友人が訪ねに来てくれた。

 寂しい老人にとって家を賑やかにしてくれる友人というものは、何者にも替えがたい存在である。

 

 そんな友人にお金の使い方を聞いた時のことだ。まるで同好の友を見つけたと言わんばかりに目を輝かせて、前述の言葉を口にした。

 

 その時の私は馬主というものを良く知らず、成金どもの道楽程度に考えていたものだから、ああ、私は馬というものにも競馬というものにも興味はないと言ってやった。

 するとそいつは、最初は皆そういうもんだと、やってみると楽しいもんだと、まるで宗教の勧誘のようなことを話す。

 ああ、そこまで言うなら行ってやろうと春のセリとかいう馬を買う場所へ足を運んだ。

 友人が話すに、育成牧場とやらで半年鍛えた馬で馬主がいない馬を買うトレーニングセールと呼ばれるものだそうで、実践さながらの馬の調教でタイムを見てから買うことができるらしい。

 そんなことを言われても何もわからないが、友人としては馬を見極めるのに実際の数字が見れるからやり易いのだと。

 

 さあ、それを見ようとコースへ向かうと、随分と短い距離を走るようで、コースはほとんど使われないようだった。

 

 さあ、一斉にスタートした馬たちはあっという間にゴールへ走り去った。

 けれども一頭、灰色の馬が目に見えて遅れて走って来たのが見える。

 ああ、この子はもうダメだなと諦観の気持ちで見たその馬は、決して諦めてはいなかった。

 ただ、最初から一生懸命に走るものだと、逆に感心をさせられたのだった。

 

 その後、実際に馬を買うことになったわけだが、ポンポンと手が上がる中、あの遅れた馬の出番となると、皆しんと静まり返って言葉を手を下ろす。

 四百万という大金、されど軽く一千万以上の値が着く競走馬としてはあんまりな値段。

 やはりと言ってはなんだが、その馬を買う声が挙がることはなかった。

 

 すると

 

 目があった。

 

 いや、私の勘違いかもしれないが、それでも確かに目があった気がしたのだ。

 私に買って欲しいのかと、こちらから目をあわせると、頷くように頭を動かす。

 

 すると脳裏にはあの時の一生懸命な走りが思い出されるのだ。

 

 ドラマチックな言葉になるけれども私はこの出会いを運命だと思った。

 

 どんな種族でも、若い者が必死で努力しているのなら、それに応えてやるのが老人の役目。

 さっと、手を上げる。

 最低額で買うのも気が引けるので、少しだけ値を上げて五百万で勝負をする。

 いや、勝負ではなく一人だけの落札なのだが。

 

 案の定、他に手の上がらなかったこともあり、ポンと落札できた。

 

 他の馬の紹介もほどほどに、自分が買った馬に会いに行く。

 すると若い厩務員が嬉しそうに頭を撫でている様子が見える。

 ああ、あなたがこの子を買ってくれたのかとその嬉しそうな雰囲気のままに自分に手を伸ばす。

 その手を取ってブンブンと動かすと、さらに嬉しそうに握り返してくれた。

 こんなに良い人に育てられているのなら、この馬も良い子に違いないと思い再度目を合わせて

 

 「よろしく頼むよ」

 

 そんな言葉をかける。

 そう言えば仮の名前しかついていなかったようなと思い、その場で名前を考えることにした。

 うむ、何から連想すべきかと、灰色の身体からシンデレラにするべきか、それともこの立派な体格から力士の名前でもつけようか。

 迷っているうちに咄嗟に浮かんだのは、妻の生前、美術館で見たあの作品。けれど名前にするには少し語呂が悪い、さらに言えばあれば赤である。

 

 ならば

 

 「ラ·ジャポーネ、僕の最初の競走馬くん?」

 

 うむ、老人のセンスにしてはなかなか良い線ではないだろうか。

 

 すると彼は私の胸に頭を擦り付ける。

 まるで撫でてくれと言っているようで、随分人懐っこい子なんですねと聞くと、自分からすり寄ってくるのは珍しいとのことで、ああ、やはりこの出会いは運命であったかと幸せな心地になる。

 しばらく話していると、厩務員くんの服の裾をくいっと引いているようで、ああ退屈なのだなと引き留めたことを謝罪しながら、今日はその場を離れた。

 

 「ほれ、ジャポーネ」

 

 最近では彼に会う日を特別な日として、牧場へ足を運んでいる。

 願わくば彼が、日の本の名を冠した彼が長生きしてくれることを強く願う今日この頃であった。

 

 

 

 「はは、できれば知り合いにお願いしたくてね、どうか引き受けてくれないだろうか?」

 

 親父の古い友人だという人からそんな依頼を受けたのは、俺がこの仕事を辞めようと思っていた時だった。

 血統もそこそこで、才能も確かにあったはずの馬を預かったのに、ろくな重賞も取れずに引退させてしまって、それが何度も続いて、ジョッキーなんて辞めちまうかと嘆いていた。

 まあそんな時だったもんだから、その人の申し出に素直に了承するわけにもいかなかったんだよ。

 もともと今の仕事を辞めても親父の牧場を継げば良いわけだからな。

 

 それでも顔を見るだけってその人は畳み掛けるように言ったわけさ。

 そこまで言われたんじゃあ、しょうがねえとその馬を見に行った。

 

 まあなんて言うのかね……。

 

 こんなおっさんが言うのは気持ちが悪いと思うんだけども……。

 

 

 運命って奴を見たんだよ。

 

 

 そいつは出鱈目に立派な身体をしているわけでも、とんでもない血統をしてるわけでもなかった。

 

 

 でもよ

 

 

 『ん?、誰?』

 

 

 喋る馬ってのは運命を感じるのには充分だろ?

 

 

 まあそれでな、喋る馬ことジャポーネなんだが、こいつがまた賢いんだよ。

 俺の言葉の意味は良く理解できてないんだが、一度教えたことは大抵のことができてな、この前にはナポレオンのポーズをしようなんてバカなことにも付き合ってくれた。

 その後、落馬しそうになって格好付かなかったけどな。

 

 ああ、そんなこたーどうでもよかったな。

 

 こいつの面白い所は、賢いからでも、喋れるからでもねえんだ。

 

 『いくよー』

 

 止まらねえ所なんだ。

 

 加速して、加速して、加速し続けて

 

 明らかに速度が限界を超えたと思っても加速が緩むことはない。

 

 このままだと壊れてちまうんじゃないのかってレベルで加速し続けてんのに、獣医の人に見てもらったら疲れ一つ見られないときたらもうとんでもない。

 

 でもこいつはバカなんだよ。

 

 加速してその先をまるで見てない。

 

 柵にぶつかるとか、他の馬目の前にいるとか、そんなことを一切考えてない。

 

 目指すのはスピードの限界。

 

 まるで人間のアスリートじゃねーかってな。

 

 ふざけた身体とふざけた頭、ついでに言葉も喋れる。

 

 そんな化け物に乗せてもらったならどうしても夢を見たくなる。

 

 こいつと夢を見たくなる。

 

 

 新馬戦は2000m

 

 

 こいつの真価を発揮するにはちょいと短いが……。

 

 

 「いつもみたいに行くぜ!」

 

 

 『あいよ』

 

 

 こいつをこの国に見せつけるのには充分だ。

 

 

 さあ、おっ始めようか新馬戦

 




 ご都合主義タグを着けることを決意させたキャラクターの登場ですよー。
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