子供を殺したキャスターは、
姉の怒りを買って、
行方不明になりました。
【第9話】酒宴の誘い
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僕ことウェイバー・ベルベットは、ライダーの牛車に乗っていた。
ライダーは酒宴を開くつもりらしくて、見かけたアーチャーに声をかける。あのアーチャーに声を掛けるなんて、寿命が縮むかと思った。そうして町外れへ向かっていると、あの女性がいた。令呪もサーヴァントも無いのに、聖杯戦争に参戦すると宣言した、あの女性だ。するとライダーは、牛車を女性へ向ける。
「おい、ライダー。まさか、あいつも誘うつもりなのか?」
「あやつ英雄の前で聖杯を掴むと言った、マスターでも英霊でもない人間だぞ? こんな面白い娘、誘わなければ損だろう」
「おい! あー?」
「あら、ライダーじゃない。どうかしたの?」
「お前さんを、どう呼ぶべきか迷ってな。そういえば、名は何と言う?」
「そうね。キャンサーとでも名乗っておきましょうか」
「ではキャンサーよ。余は、これから英雄を招いて酒宴を開こうと思うておる。御主は英霊でもサーヴァントでもない。しかし、酒宴に参加する資格があると余は思うておる。どうじゃ? 御主も参加せんか?」
「しましょう」
「おお、では余の戦車に乗るが良い。酒宴の場まで連れて行ってやろう」
「ちょっと待てよ、ライダー! 僕は反対だ! こんな奴と一緒に乗れるか!」
女だろうと何だろうと魔術師だ。その魔術師と仲良く一緒に座るなんて有り得ない。サーヴァントも無しに聖杯戦争へ参加している上に、サーヴァントは奪えば良いなんて言っている上に、サーヴァントの威圧を受けても平然としている相手だ。そんな奴と一緒に居られるか!
「安心しなさい、ウェイバーちゃん。たとえ私が貴方を殺しても、すぐにライダーが私を殺してくれるから」
「安心できる要素が全然ない! あとウェイバーちゃんって言うな!」
「坊主、もっとドッシリ構えんか。小娘一人に何を怯えておる?」
「魔術師を見かけで判断するなよ!」
僕は反対したけど結局、ライダーに押し切られた。牛車はキャンサーを乗せて、町外れにある森へ向かう。僕は出来る限りキャンサーから距離を取って、安全を計った。まだ僕は魔術師として未熟だ。魔術礼装も持っていない。一流の魔術師の手に掛かれば、令呪を持っているだけの僕なんて良いカモだろう。
「ねえ、ウェイバーくん。貴方は如何して聖杯を求めるの?」
「……そんなの、お前には関係ないだろ」
「私は愛で世界を満たすためよ。愛されないまま死んで行く子供達を救うため。そのために聖杯を求めるの」
「そうかよ。それは御立派な事だな」
僕が聖杯を求める理由は、僕の力を認めさせるためだ。聖杯を持ち帰る事で、僕の力を証明する。聖杯を持ち帰る事が目的で、聖杯にかける願いは特になかった。『世界のため』だなんて、『愛のため』だなんて、そんなに大きな理由じゃない。僕は、小さな人間だ。
「ねぇ、貴方は女の人と、えっちな事をした経験はある?」
「はぁ!? 突然、なにを言い出すんだよ、お前は!」
「貴方が愛されていないのなら、私が愛してあげる。貴方の心を満たしてあげる。だって、それが私の望みだもの」
からかうような、ふざけているような口調――じゃない。真剣な表情で、キャンサーは言った。優しさを秘めた表情で、僕を誘った。その表情を見てしまった僕の意識は、クラクラと揺れる。しまった、魅了の魔術か。そう思ってレジストを試みるけれど効果がない。キャンサーが僕にかけた魔術のレジストは、できなかった。
「あー、坊主にキャンサー。盛り上がっている所に悪いとは思うが、そろそろ目的地に到着するぞ」
ライダーの声で、僕は正気を取り戻す。いつの間にかキャンサーの顔が、目の前に迫っていた。僕とキャンサーは口付けを交わす寸前だった。それに気付いた僕は、慌ててキャンサーを突き飛ばす。危なかった。もしも口付けを交わしていたら、僕の意識は操られていたかも知れない。そうなっていたら手遅れだった。
でも僕の心臓は、まだドキドキと熱い。
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【第8話】聖杯問答
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私こと言峰綺礼は、アサシンを通して酒宴を監視していた。
酒宴の席には英雄王ギルガメッシュ、征服王イスカンダル、騎士王アーサーという英雄達が居並ぶ。その横に何故か、姉が座っていた。サーヴァントでもなければ英雄でもない。そもそもマスターですらない姉だ。無視できない場違い感を発していた。その事に気付いた姉は、他のマスターと同じように離れた場所へ避難しようとする。
『ここに私が居るのは場違いね。あちらへ私は失礼するわ』
『構わぬ、この英雄王が相席を許す』
これには驚いた。まさか、あの英雄王が姉の相席を許すなど、想像も出来なかった。姉を連れてきた征服王も騎士王も、異論はないようだ。まさか英雄王の許しを無駄にする訳には行かず、姉は座り直す。いったい、なぜ英雄王は、わざわざ姉の相席を許したのだろうか?
『よい余興だ』
『期待外れで首を飛ばされないように頑張るわ』
どうやら我等が姉弟は、英雄王の玩具となる運命にあるらしい。
『これより、我らの聖杯問答を始める。酒杯を交わし、各々が格を見せつけ合えば、剣に屈するまでも無く相応しき者を知るであろう!』
聖杯へかける願いについて、英雄達は語り合う。王でも何でもない姉は居心地悪そうに余計な事を言わず、黙って王達の話を聞いていた。征服王は「受肉するため」、英雄王は「財宝ならば我の物だから」、騎士王は「祖国を救うため」だった。そして、ついに、恐れていた姉の番がやってくる。
『私は人々が、愛を知らないまま死んで行く事が許せない。だから私は世界を愛で満たすために、聖杯を求めているの』
『愛を押し付ける傲慢さ、自らの欲望に忠実な有り様、まさに小者らしい願いだ。雑種、全人類を強姦するつもりか? とんだ淫乱と見える』
『ええ、そうよ。私は愛しているわ。
男も女も大人も子供も――みんな等しく愛しているの』
それが姉の得た『答え』なのだろう。善も悪もない、愛の化身だ。姉と私は異なる物で、姉は私の求める『答え』の参考にはならない。やはり私の『答え』は衛宮切嗣に問わねばなるまい。それは兎も角、姉の答えは英雄王の期待に適ったらしく、不興を買うことは無かった。
「綺礼、令呪をもってアサシンに命じよ。『犠牲をいとわず勝利せよ』とな」
師の命に応じて、私はアサシンを集結させる。あの場に姉が居ると知っていながら、師はアサシンの特攻を命じた。運が悪ければ、攻撃の巻き添えで姉は死ぬだろう。しかし、それは我が父も覚悟している事だ。親子の情など、姉弟の情など、今は捨て置かなければならない。
――その時、自身が笑みを浮かべていた事に、私は気付かなかった。
酒宴の席をアサシンが取り囲む。征服王の誘いに対して、アサシンは攻撃で返答した。すると征服王は怒気を見せる。すると征服王が声を発するよりも早く、なぜか殺る気満々の姉が前へ進み出た。いくら分裂でアサシンの能力が落ちていると言っても英霊だ。人の身で勝てる相手ではない。
『私が、やりましょうか?』
『下がっておれ、余が王の格という物を見せてやろう』
ションボリした姉は大人しく下がる。
その後、征服王の宝具を引き出し、アサシンは全滅した。
残るサーヴァントは、
セイバー
ランサー
アーチャー
ライダー
バーサーカー
▼『ぜんとりっくす』さんの感想を受けて、「牛車→戦車」な件を修正しました。牛が引っ張ってるから「牛車」で間違いはないけど、ライダーだったら「余の牛車」じゃなくて「余の戦車」って言うよね。一見ただの誤字報告に見えるけど、Fateのシナリオとライダー個人の性格を把握している高度なテクニックです。
「では余の牛車に乗るが良い」→「では余の戦車に乗るが良い」