機動戦士ガンダム U.C.0090~Fact or Fiction~   作:折井昇人

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後章「真の気持ち」

 ルーシーの第一ドックに帰還したブルードのマラサイは、固定用のネットでその動きを静止しようとしていた。

 ブルードはマラサイから降りるなり、部下に問うた。

「連邦の部隊がルーシーに潜入したというのは本当か」

「確かです。どうやら我々は、囮につられたようです」

「連邦ごときが小癪な真似を。忌々しいものだな」

「して、どうされますか」

 ブルードは、ノーマルスーツの腰に備えていた拳銃を取り出し、ニヤリと笑みを浮かべながら撃鉄を起こした。

「決まっている。貴様らも準備をしろ」

「はっ。お前ら、白兵だぞ、さっさと準備しやがれ!」

 部下がそう言うと、レッドのメンバーがライフルやサブマシンガンの準備を急いで行い始めた。この迅速さが、ブルードは好きだった。

(待っているがいい、潜入した連邦の雑兵共め、我らレッドの力、思う存分味合わせてくれるわ)

 

 

 

 

 サイド1ルーシーの物資搬入口に到着したコネリー小隊のジーラインMk-Ⅱ二機は、一旦ここで待機させておくことになっていた。さすがにコロニー内で調査するのに、モビルスーツなど必要ない。

 マークたちはこの物資搬入口に空気があることを確認すると、それぞれのコックピットでノーマルスーツから私服に着替えた。

 コックピットから出る前に、マークはレイケリーに通信を取った。

「こちらマーク、デール中尉、応答せよ」

『こちらディーマ。隊長、どうですか?』

「とりあえず潜入には成功した。今は作業搬入口にいる」

『そうですか、よかった。あのガーナー小隊がヘマしたらやばいなって思ってたんです。まぁ、実際あの隊のジムが損傷したらしいですけど』

「余計なことを言うな。彼らも同じ連邦軍、仲間だ」

『隊長の言う通り。あんたは空気を読め』

「も、申し訳ありません……」

 マークとレイリーに苦言を呈されたディーマは、ただ気まずそうであったが、どこかやはり腑に落ちない何かがあるようだった。

 しかし、今はその何かについて議論している場合ではない。迅速に任務を遂行し、脱出しなければならないのだから。

 マークは息を吐き、声を出した。その声はいつもよりも少し堅かった。

「さて、ここからが本番だ。コロニーで情報収集し、レッドの拠点を特定、すぐさま脱出しなければならない。ベクター中尉、準備はいいか?」

『こちらはいつでも』

「ディーマ、コロニー内部のキーロックの解除を」

 コックピット内にタッチパネルを操作する音が聞こえる。

 少しすると、外でキーロック解除の音がする。

『ロック解除完了。ここからはコロニー内部のルート指示を行います』

「よし、行くぞ」

 マークたちは、機体から降りてルーシーの内部へ入り込んだ。

 

 

 サイド1ルーシーの市街地というものは、特別変わったところはないとマークもレイリーも実際に見てそう思った。特徴としては、地球のちょっと田舎のレンガなどで構成された少し古い街に似ている。

「何となく、懐かしい気分になるコロニーだな」

「私は別に、何も」

 マークとレイリーは、思った感想を少しだけ言うとすぐにサングラスを付けた。特殊な加工が施されているわけではないが、少しは視線を見られずに済む。

「行こう」

 そうしてマークたちは、ルーシー市街地で現地の連邦軍調査員に接触した。

 曰く、レッドはこのコロニーの市長クワイル・バボデットと繋がっている。クワイルが資金提供をして、レッドはモビルスーツの整備が出来ている。モビルスーツはどうもドックのどこかに隠しているらしい。あと一人息子がいたらしいけど、子供の頃に邪魔っていう理由で冤罪を被せて追い出したらしい。それ以上のことは知らない。

 その話を聞いて、マークはルシェートのことをようやくある程度理解出来た。

 殺したくなるのも分かる。十分過ぎるほどに。

『隊長、ルーシーの監視カメラにハッキング出来たんですけど、後方二〇〇mぐらいに不審な動きがあります』

 ディーマからの通信を聞いた瞬間、マークは視線を感じた。振り返ると、黒ずくめの明らかに怪しい男が近づいてきている。

 と思えば、懐からいきなり拳銃を取り出し、無差別に発砲してきた。

「レイリー!」

 マークとレイリーは、伏せながら拳銃を取り出し、民間人に当たらないよう、注意して応戦した。

 レイリーの撃った銃弾が命中し、黒い男は思いの外あっさりと倒れたが、これで終わるはずがないとマークもレイリーも分かっていた。

 案の定、奥の建物の陰から拳銃を持った男が四人走ってくる。

『隊長!』

 ディーマの悲鳴のような声が耳に響く。

「レイリー、後退するぞ! ディーマ、機体を待機させている場所までのルート指示を頼む!」

『は、はい! 物資搬入口ですね、出来る限り今から言うルートで行ってください!』

「了解した! それからディーマ、場所はもう言うな、傍受されているかもしれない!」

『り、了解!』

 とにかく何とかして安全な場所まで行って、レイケリーにレッドの居場所を報告しなければ。マークはその一心で敵の銃弾が当たらないよう走り続けた。

 でなければ、連邦中央情報局の肩書が泣くからだ。

 

 

 

 

「ん……」

 ルシェートが目を覚まして最初に視界に映ったのは、白い電灯と天井であった。少し視界を傾けると、点滴のパックが見えるので、ここが医務室だということが分かった。

 体を動かそうとするが、全身に痛みが走った。激痛というほどではないが、それでもいきなりこの痛みは正直きつい。

「駄目だって、あんた体にかなりのダメージきてるんだから!」

 アンナの声がすると思ったら、ベッドの傍らにアンナがいたことにルシェートは今更気付いた。こんな近くにいたことにも気付けないとは。

 ルシェートはため息を吐き、起こしかけていた体を横にする。

「どれくらい、時間が経ったんだ?」

「まだ一時間半ぐらい。コネリー小隊が潜入してるところ」

「ああ、作戦の半分は成功したんだな」

「そう。後はコネリー小隊の情報待ちね」

 ルシェートは、横のまま室内を見渡した。

 一つだけ、違和感を覚えた。ドクターがいない。

「ドクターは?」

「ああ、何か用事が出来たって言って、出て行ってる」

「それでよく軍医を名乗れるなぁ……」

 そうして、少しの無言が訪れる。

 無言の中、ルシェートはアンナからどことなくピリついた雰囲気を感じた。思い当たる節はルシェートには無かった。

 先に口を開いたのは、アンナであった。静かに話しかける。

「……ねぇ、何であんなことしたの」

「え?」

「どうして、ルーシーに近づいたの」

「それは……」

ルシェートは、少し言い淀んだものの、何とか当たり前のことを答えた。

「俺たちは、奴らの護衛が任務――」

「嘘、それって嘘だよね、絶対に」

 遮るように、アンナは強く言う。

ルシェートは、何も返さない、返せなかった。

 アンナは続けた。

「あんたは自分の父さんを、クワイル・バボデットを殺したがってる」

「……」

「違う? 違わないことないよね?」

 全くもって当たりである。

 しかし、だからといって。

「……悪いか」

 そう答えるしか、出来なかった。

 するとアンナは、顔を真っ赤にして、まくし立てた。

「悪いよ! 何で相談とかしてくれないの!? 私も、カイル中尉も、隊長も心配してるんだよ!? あんたが、ルシェートが悩んでるってこと、分かってるんだよ!?」

 ルシェートは、動かしづらい体を起こそうとした。痛みが走る。

激昂していても、それでもアンナは手を差し伸べてくれる。

 だがルシェートは、手でアンナの助けを拒否した。

「これは、俺の問題なんだ。本当は情報局と組むなんて御免だった。けど、任務だから、命令だから従った。それだけだ。命令も何も無ければ、俺の手でどうにかする、どうにかしたかった」

 それは、ルシェートにとって、嘘偽りのない、真の言葉であった。

 だがアンナにとっては、それは辛すぎる言葉だった。

「そんな、そんなのって、辛すぎるよ……」

「アンナ……」

 すると突如医務室のドアが開き、ウェルディとエデルが入ってきた。

「隊長――」

 途端、ルシェートはいきなりウェルディに顔を殴られた。拳が肌を打つ音が室内に響き渡る。

 傍らのアンナに体を支えてもらい、ルシェートは痛む体を何とか起き上がらせる。

 ウェルディは、肩で息をしていた。

「ルシェート! 貴様、何故そんなくだらん嘘しかつけんのだ、我々のような仲間がいるというのに、一人がそんなに大事か、そんなに我々が頼りないか!?」

「けど、この件はクワイルが俺の父だからこそ――」

「そこに拘るのはいいけどよ、拘りすぎは駄目だと思うぜ、俺は」

「エデル中尉……」

「同じ隊で同じ仲間。それなのにそういう嘘吐かれちゃ誰だって悲しいもんだぜ、ルシェート」

 どうして、こんなに温かいのだろう。どうして、こんなに優しいのだろう。ルシェートには理解出来なかった。

 だからこそルシェートは、考えた。今、何を言うべきなのか。

 そんなことは、考えるまでもなく分かっていたことだ。何故今更にならないと分からないのだろう。ルシェートはそんな馬鹿な自分を不思議に思った。

「俺は……」

ルシェートは、一度そこで言葉が詰まった。

 しかし、誰も焦らさない、誰も急かさない。

 だから、ゆっくりと、はっきりと言う準備が出来た。

「俺は、クワイル・バボデットを、この手で殺したい」

 本音を、真の気持ちを言葉にすると、ウェルディが頭に手をポンと置いてきた。

 そのウェルディの顔は、ルシェートは知らないはずの顔だった。なのにどこか知っているような気がした。

 親の顔をしていた。ウェルディに子供はいないというのは知っていたが、うしてウェルディを親として見えたのだろうか。

「知っていたよ、そのことは」

「え……」

 ウェルディが優しく告げると、エデルとアンナも続いて頷いた。

「この作戦が決まった時、お前はどこかソワソワしていた。だから何かあると思い、経歴を調べさせてもらった。その時、そういうことかと気付いたんだ」

「エデル中尉とアンナは、どうやって……」

「私が言った。共有しておくべき事項だと思ってな。作戦とはいえプライバシーを勝手に教えてしまって、すまなかった」

 そう言って、ウェルディはルシェートに頭を下げたがルシェートは慌てることなく、ただ本当に思っている言葉を発した。嘘を混ぜず、純粋な気持ちだけを言葉にした。

「確かにプライバシーです。だけど今は知っていてくれてよかった、とも思えます。軍に入ったのは生きるためですが、こうしてここにいるのは決して悪いとは思えない。むしろよかったと思えます。俺のことでこんなにも考えてくれたことなんて、生まれて初めてですから」

 言い終えると、ルシェートはどこか胸のつっかえが取れた気がした。

 ウェルディが、頭を上げる。

「人が強くなる瞬間を見ることが出来たという意味でも、ルシェートには感謝せねばな」

「隊長……」

 その瞬間、艦内アナウンスが響いた。ディーマの情けない声だった。

『潜入したコネリー小隊に問題発生、通信不能! 誰か、誰かどうにかして隊長たちを!』

 だが、その内容はどう考えても緊急事態そのものであった。

 しかし医務室にいるガーナー小隊は、全員フッと笑った。

 たとえ偉そうにしても、

「所詮は人間ってことだな」

「ですね。私、一足先にブリッジに行きます」

 そう言って、アンナは医務室から出て行った。

「ルシェート、いけるか?」

 ウェルディに問われたその時、ドクターが点滴の替えを持って来て戻ってきた。

「意識は戻ったみたいだな。今打ってるのはただの栄養剤だ。傷の方は処置してあるし、あとは本人次第だと思うぞ」

 ドクターにそう言われ、ルシェートはウェルディとエデルに己の表情を交互に見せた。

「やります、やらないと」

「その意気だぜ、ルシェート」

「もう点滴の替えはいらないな。針を抜こう。少しじっとしていてくれ」

 ドクターが点滴の針を抜き、テープを張ってくれる。ほんの少し、針を抜くのが痛かったというのは内緒にしておこう。

「ドクター、感謝します」

「さっさと行ってやれ。情報局の部隊が危険なのだろう?」

 ドクターの言葉に感謝しつつ、ルシェートはベッドから飛び起きた。まだ痛みはあるが、気にしなければどうということはない。

「行くぞ、二人とも」

 

 

 

 

 ノーマルスーツに着替えたルシェートは、レイケリーのモビルスーツ格納庫に到着するなりジムⅢスナイパーカスタムを見た。つぎはぎの機体だが、ルシェートはどこか誇りを感じた。

「行こう、あいつらを助けるためにも」

 格納庫の床を蹴ってコックピットへ移動し、ノーマルスーツとシートを固定させる。各計器類がオールグリーンであることを確認すると、外の整備兵から通信が入った。

『ルラン少尉、修理は完了してます。あと言われた通りサーベルのリミッターを解除出来るようにもしておきました。多少無茶な動きにも耐えられるになっていますが、なるべく壊さないよう扱ってやってくださいよ!』

「何か色々矛盾してる気もするけど、まぁ了解!」

 そうして、ジムⅢスナイパーカスタムをカタパルト昇降エレベーターに移動させる。

 エレベーターで移動中、アンナから個別回線で通信が入った。

「作戦行動中に個別回線は――」

『黙って聞いて』

 音声のみだったが、ルシェートはどこかアンナの圧に押され、黙るしかなかった。

『行って、あんたの本当に行きたい場所に。隊長たちには既に伝えてるから』

「じゃあ今言う必要は」

『私の気分。回線、切るよ』

 アンナが個別回線を切ると同時に、ルシェートのジムⅢスナイパーカスタムはカタパルトに到着する。

 再びアンナが、今度は通常回線で繋いでくる。

『今回はルラン少尉にルーシーまで行ってもらいます。ウェルディ隊長とエデル中尉はルラン少尉の援護を』

『了解だ』

『お任せあれ』

 機体をカタパルトに接続する。ガゴン、と脚部をカタパルトに固定する小気味いい音が響く。

「カタパルト接続完了。いつでもいける」

『カタパルトOK、発進、どうぞ! ……気を付けて!』

 アンナに励まされ、ルシェートは誰にも見えないというのに、どこか自信ありげに笑んだ。

「了解! ジムⅢスナイパーカスタム、ルシェート・ルラン、発進します!」

 カタパルトが起動。ルシェートはペダルをグッと踏み込み、自らの因縁を断ち切るために飛び立っていった。

 

 

 

 

 サイド1ルーシー周辺宙域を、ジムⅢスナイパーカスタムを先頭に、後方にウェルディのリック・ディアス、エデルのネモⅢがいる。いわゆるアローフォーメーションで進んでいた。

 しばらくすると、ルーシーからモビルスーツが六機出て来た。三機はジム・クゥエル、二機がハイザック、そしてブルードのマラサイであった。

 ジム・クゥエル三機が先行し、手に持ったジム・ライフルを三機同時に斉射してくる。

 先頭のジムⅢスナイパーカスタムは、ジム・ライフルの弾幕をくぐりぬけるように回避運動を取った。

 しかしそこにハイザックが装備しているハイパー・バズーカの弾頭が飛来する。

「連携がしっかりしてやがる!」

 何とか一発目は回避出来たルシェートだが、二機目のハイザックによる二発目のハイパー・バズーカの回避運動がどうにも間に合わない。これ以上スラスターを無理矢理吹かせれば、スラスターそのものが駄目になってしまう。

 駄目かと思った刹那、ハイパー・バズーカの弾頭が爆散した。

『危なかったぞ、ルシェート』

 エデルのネモⅢだった。背部ビーム・キャノンで狙い撃ってくれたらしい。

「助かります、エデル中尉!」

『気を付けろルシェート、来たぞ!』

「ッ!」

 ウェルディの忠告に、体はしっかり反応してくれる。

 上方からマラサイが左腕でビーム・サーベルを抜刀し、接近していた。

 ルシェートは、ジムⅢスナイパーカスタムの左腕で予備のビーム・サーベルを逆手で抜刀し、マラサイと鍔迫り合いとなった。

『この間のオンボロのジムが、性懲りもなく!』

 また声が聞こえる。だが、

「邪魔だ、お前に構ってる暇は無いんだよ!」

 急がなければ、あの場所へ行かなければならない。行って自分と決着を着けなければならない。

 ルシェートは逆手のビーム・サーベルを一瞬自機に引き寄せた。マラサイが押し切ろうと踏み込んできたところを、マラサイの向かう方向を逸らすように退け、ルーシーの方へ全速力で移動する。

 しかし、コックピットにロックオンの警告音が鳴る。振り返ると、マラサイがフェダーイン・ライフルを構えているではないか。

「こいつら、あんなものまで!」

 ――落ちろ、連邦の犬。ブルードの声が聞こえたような気がした。

 だが、フェダーイン・ライフルは発射前に破壊された。ウェルディのリック・ディアスのビーム・ライフルに打ち抜かれていた。

 ルシェートの後ろにウェルディとエデルのモビルスーツが並ぶ。それはまるで、ルシェートを守る盾のようであった。

『行けルシェート、話はアンナから聞いている! コネリー小隊はこちらに任せて、お前はクワイルのところへ!』

『結果はどうあっていいけど、なるべくさっさと帰ってきてくれよな! レイケリーの援護射撃があっても、この数はきつい!』

 これほどありがたいと思ったことがかつてあるだろうか。

「了解! さっさと済ませてきます!」

 ルシェートはそう感謝を告げて、ジムⅢスナイパーカスタムの最大速度でルーシーの第二ドックへ近づいた。

 ルシェートは第二ドックのハッチの管制室に張り付き、通信した。と言っても、交渉して開けてもらう気などサラサラ無かった。

「こちらは地球連邦軍だ、今すぐハッチを開けろ! さもなければ、ハッチを破壊してでも中に入るぞ!」

 返事は無かったが、すぐに第二ドックは開いた。脅しに近い、というより脅しそのものだったがこれでいい。

 ルシェートは唾を飲み込み、己に言い聞かせるように叫んだ。

「行くぞ!」

 

 

 

 

 ルーシー市街地の上空を飛行するジムⅢスナイパーカスタム。コックピットの全天周モニターから見える街並みは、ルシェートにとって嫌でも覚えているものだった。出て行ってからも変わっていない、少し古めかしい、忌まわしい街。

 しばらく進むと、庁舎らしい建物が見えた。マップで照合させると、ルーシー本庁と表示された。

「あれか!」

 ルシェートはジムⅢスナイパーカスタムを急降下させ、ルーシー本庁前に着地させる。

 逃げ惑う役所の人間や、庁舎にいた民間人たち。だがルシェートは、その役所の人間に訊きたいことがあった。

 外部スピーカーに切り替え、問いかける。

「こちらは連邦軍だ! 市長室は何階だ! 答えろ! そうすれば何もしない!」

「な、七階です、七階!」

 怯えながらも、すんなりと教えてくれた。案外信頼されていないのかもしれないと思うと、ルシェートは内心嬉しくなった。

「協力に感謝する!」

 ルシェートはジムⅢスナイパーカスタムのマニピュレーターを庁舎の七階に合わせ、コックピットのハッチを開けた。平手状態のマニピュレーターに飛び移る。拳銃を構え、窓の近くにいた人間に叫んだ。

「開けろ! 開けないなら破壊する!」

 すると、あっさり窓は開かれて、役所の人間は逃げていった。

「ありがとうよ」

 ここまで好都合なことはない。ルシェートは庁舎へ飛び込んだ。

 

 

 

 

 市長室は窓から入ってすぐ近くであった。ルシェートは市長室の扉に手をかけた。だが鍵がかかっていたため、ルシェートは扉から少し離れ、拳銃で鍵を破壊し、銃を構えながら中へ入り込んだ。

 市長室にいたのは、市長一人だけであった。秘書の一人ぐらいでもいるだろうと考えていたルシェートには、ちょっと予想外だった。だが、この市長こそ、ルシェートの最大の目標でもあった。

「そこまでだ、クワイル・バボデット!」

 そう、この白髪頭で頑固そうででっぷりとした体形をしている醜い男こそ、ルシェートの実父、クワイル・バボデット本人であった。あの頃から何も変わっていない、醜い姿。まさかまたお目にかかれるとは。

「クッ、何故連邦軍がここを――」

クワイルはルシェートを見、ハッとした。どうやら目は良いらしい。

「お前は……!」

「そうだ、あんたの思ってる通りの人間、あんたの息子のルシェートだ!」

「ば、馬鹿な……何故、連邦軍に! あの時、お前を家から追放したはず!」

「ああ、追放されたね! けどなぁ、こっちだって簡単にそこら辺でくたばってはい死にましたっていうクソみてぇな人生で終わらせたくなったんでな!」

「殺しておけばよかったか……おのれぇ!」

 まるで親とは思えない発言をしつつ、クワイルは咄嗟に机の引き出しを開けて、中から取り出した拳銃を構え、撃ってきた。

 それが実の息子にすることか。やはりこいつは親などではない。血のつながりではそうかもしれないが、人間としてはもう赤の他人そのものだ。たとえ親子であろうと、他人は他人でしかないのだ。

 ルシェートの頬を銃弾がかすめるも、ギリギリで回避する。そして、反射的に拳銃に引き金を引いていた。

 クワイルの頭をルシェートが放った銃弾が打ち抜く。

 後ろにゆっくりと倒れるクワイル。人間の最期というものは、存外あっけないものだ。

 ルシェートは乱れていた息を整え、

「……用はこれだけだ、もうここには二度と来ねぇよ。じゃあな、精々あの世で喚いてろ、クソ親父」

 そう最後の言葉を告げ、ルシェートはジムⅢスナイパーカスタムに戻った。

 戻った途端、ウェルディから通信が入った。

『聞こえるか、ルシェート!』

「こちらルシェート!」

「聞こえてます!」

『急いで戻って来てくれ、かなり押されている!』

「了解! 持ちこたえてくださいよ!」

 ルシェートは急いでルーシーから脱出すべく、ジムⅢスナイパーカスタムを全速力で飛ばした。

 すると、また通信が入った。今度はコネリー小隊のマークからだった。

『こちらマーク、聞こえるか、ルラン少尉!』

「こちらルシェート! 何か!」

『レッドの拠点は第一ドックの中にある! 我々はガーナー小隊の援護に回るから、君は拠点を破壊してくれ!』

「了解!」

 ルシェートはジムⅢスナイパーカスタムの進路を第一ドックへ変更した。

 少しして辿り着いた第一ドックには、確かにモビルスーツ用の部品や武装の他、中にはまだ稼働可能な旧式のモビルスーツもあった。どれもジオン製やティターンズ製の物ばかりだった。人は出払っているのか、どの機体も動きはしなかった。

 これらを全て一度に破壊するには強力な爆薬が必要だとルシェートは考え、武器庫に何かないか漁ることにした。

 すると、武器庫でネオ・ジオンが運用していたズサのミサイルポッドと、幾つかのチェーンマインを見つけた。

「これなら!」

 ルシェートは各機体にチェーンマインを巻き付けて、ドックの中央付近に持って来る。同じように誘爆しそうな武装類も中央付近に運んだ。これならコロニー側への被害も最小限で済むだろう。ズサのミサイルポッドをモビルスーツの近くに配置。

 これで準備は完了。あとは火種を入れるだけだ。

 ジムⅢスナイパーカスタムは対艦ロングレンジ・ビーム・ライフルを構え、ズサのミサイルポッドに照準を合わせた。

 今後の戦乱の火種を少しでも断つために。そして、己の因縁を断つためにも、

「ここで消えて無くなれぇ!」

 対艦ロングレンジ・ビーム・ライフル、三発発射。

 ズサのミサイルポッドに当たり、爆発。衝撃でチェーンマインも全て引火し、レッドのモビルスーツ、及び武装は全て炎に飲み込まれた。

 誘爆に巻き込まれる寸前に、ルシェートは脱出した。急いで外の戦場に戻らなければならない。

 みんなで生きるためにも、何としてでも。

 

 

 

 

「あれか! 数が多いな……」

 マークのジーラインMk-Ⅱスタンダードアーマーのモニターに、数で押されているガーナー小隊の二機のモビルスーツとレッドが映る。

 ガーナー少佐のリック・ディアスとカイル中尉のネモⅢは、それぞれ健在ではあったが、それぞれ左腕を丸ごと失っていた。

「ガーナー小隊を援護するぞ、レイリー!」

『了解』

 レイリーのジーラインMk-Ⅱライトアーマーのヘビー・ライフルからメガ粒子の弾丸が唸りを上げる。ビームがレッドのジム・クゥエル一機に直撃し、右腕を破損させる。そしてすぐさまライトアーマーの肩部に装備されているミサイルランチャーが展開され、ミサイルが降り注ぐ。弧の字の軌道をしながらミサイルは損傷したジム・クゥエルを喰らいつくした。

『ミラー大尉にベクター中尉、無事だったか!』

 ウェルディのリック・ディアスから嬉しそうな声で通信が入る。

 散開したレッドのモビルスーツ部隊の間を通り抜け、コネリー小隊はガーナー小隊に合流した。が、依然として数はこちらの方が少ない。

『ルラン少尉が戻ってくるまで持ちこたえるぞ!』

『あいつがいてようやく対等になりますからねぇ!』

 ウェルディとエデルが檄を飛ばす。

「レイリー、我々も彼らに劣らないよう戦うぞ! 情報局所属の実力を見せつけよう!」

『賛成です』

 レイリーはいつも一言しか言わない無口なところはあるが、その答えはいつも鋭く、的確であった。だからこそ、マークはレイリーに背中を預けられる。

 レッドのモビルスーツが一斉に動き出す。

 マークはスタンダードアーマーのスラスターを吹かせながらショートビーム・ライフルを構え、ジム・クゥエル一機に予測射撃を行った。

「当たれ!」

 トリガーを引き、ビームが発射される。虚空をピンク色のビームが切り裂き、ジム・クゥエルに直撃し、爆散する。これで一機撃墜。残りは四機。

 背後を見ると、レイリーのライトアーマーはヘビー・ライフルのEパックの切り替えを行っていた。

 マークは次にハイザックに狙いを定めた。が、ショートビーム・ライフルの射程外であったため、攻撃が出来ず、相手のハイパー・バズーカの攻撃を回避するしかなかった。だが、反撃出来ないわけではない。

「ならば!」

 マークは操縦桿の射撃トリガーを引き続けた。すると、スタンダードアーマーのショートビーム・ライフルの銃口が光り始めた。Eパック内のエネルギーを一発に集約させて射程を強引に伸ばして発射しようというものだった。

「くらえ!」

 マークは射撃トリガーを離し、チャージされたビームを発射する。集束された強い光と共にビームはハイザックの中央を抉り、破壊した。残りは三機。

 しかし、残った相手の動きはそれまでとは違うものであった。特にマラサイは別格だった。ライトアーマーのヘビー・ライフルを回避し、ビーム・サーベルで切り落とす。そして海ヘビでシールドを巻き付けて引き剝がす。瞬間、スタンダードアーマーはショートビーム・ライフルをマラサイに向けて発射するが、それを海ヘビを巻き付けたままのシールドで防ぎ、その隙に一気に接近、サーベルでライフルを切り裂いた。

「何と!」

 先ほどからガーナー小隊の二機は回避するので手一杯だった。となれば、これは追い込まれた状況だとマークは考えた。

 さて、この局面、どう切り抜けるか……。

 

 

「随分やられてるな……!」

 ルシェートが宙域に戻ってきた時、戦況は芳しくなかった。コネリー小隊の二機はライフルとシールドを失っただけであったが、ガーナー小隊の二機は左腕を破損していた。

「今行く!」

ルシェートはペダルを一気に踏み込んだ。

「間に合えぇ!」

 対艦ロングレンジ・ビーム・ライフルの照準をジム・クゥエルに定める。

「残り三発! 全弾持ってけぇ!」

 対艦ロングレンジ・ビーム・ライフルから高出力ビームが放たれる。

 一発目のビームは、ジム・クゥエルに直撃し、爆散。

「次、二発目!」

 ハイザックをロックし、二射目を放つ。ハイザックは振り向くが対応出来ず、腹部を貫かれ、爆発した。

「ラスト一発!」

 しかし、マラサイに向けて放った残り一発はギリギリで回避されてしまった。

「仕方ない!」

 どうせ全力を出さなければ、あのマラサイは落とせないのだから。

 ジムⅢスナイパーカスタムは、マガジンが切れた対艦ロングレンジ・ビーム・ライフルを捨て、装備をビーム・ライフルに切り替えた。

 マラサイもビーム・ライフルを装備し、お互い撃ち合いになった。どれだけ狙いを定めても、どれだけ予測しても、互いのライフルは当たらなかった。

 埒が明かないと思ったルシェートは。マラサイのビーム・ライフルの連射をかいくぐって一気に接近した。ゼロ距離とまではいかないが、確実にビームを回避出来ない距離になった瞬間、ショルダー・キャノンを発射し、マラサイのビーム・ライフルを破壊した。が、それは相手にとっても同じで、破壊される前に発射したビーム・ライフルのビームによって、ジムⅢスナイパーカスタムのビーム・ライフルもまた破壊されてしまった。

 威力のある射撃兵装を失った両機は、互いにビーム・サーベルを抜刀し振りかざした。ビームの刀身がぶつかり、鍔迫り合う。

『よくも、よくもやってくれたなぁ、連邦の犬め!』

「当たり前だ、お前らみたいな不穏分子は、取り除かなきゃならねぇんだ!」

『アースノイドが勝手に決めてぇ!』

「そうやって正当化しようとしてるところこそが、テロリスト精神なんだよ!」

『言ってくれやがってぇ!』

「ここで決着を着けてやる!」

 鍔迫り合いをしていたジムⅢスナイパーカスタムとマラサイは、一度離れて距離を取った。

 ルシェートはその瞬間にメインコンソールを操作。抜刀していたメインのビーム・サーベルの出力制限を解除。リミッターを外されたビーム・サーベルの刀身はバチバチと放電し、分厚くなった。左腕に装備していたラージシールドをパージし、両手でビーム・サーベルを持つ。

「次で決めてやる!」

 マラサイもビーム・サーベルのリミッターを解除したのか、刀身が分厚くなっていた。不本意ながら、どうやら戦闘で考えることは相手も似ているらしい。嫌なものだ。

 先に動いたのはマラサイであった。それに呼応するように、即座にジムⅢスナイパーカスタムもビーム・サーベルを構えてマラサイに向かい合う。互いにビーム・サーベルを振り下ろす。

 凄まじい出力のビーム・サーベル同士による鍔迫り合いが起きる。だがそれはすぐに終わった。ジムⅢスナイパーカスタムのビーム・サーベルに異常が発生したのだ。ビーム・サーベルの基部に負荷がかかり過ぎて爆発し、ビームの刀身は瞬時に消滅した。

「やばい!」

『終わりだぁ!』

 出力の増したマラサイのビーム・サーベルが、ジムⅢスナイパーカスタムに襲い掛かる! ジムⅢスナイパーカスタムは何とかスラスターを吹かして、ビーム・サーベルの直撃は回避したが、右腕全てを破壊された。

 マラサイはすかさず、もう一度ビーム・サーベルを振ってくる。ルシェートはギリギリのタイミングで、左腰の予備のビーム・サーベルを引き抜いて受け止めた。だが、すぐにこれ以上は持ちこたえられないということが分かった。

「!? しまった、バルカンか!」

『甘いんだよ!』

 マラサイの頭部には、六〇㎜バルカン砲が装備されていることを、ルシェートはすっかり忘れていた。

 ゼロ距離でマラサイは六〇㎜バルカン砲を斉射してきた。スラスターを吹かして下へ移動し、コックピットへの直撃は回避したが、その代償としてジムⅢスナイパーカスタムは頭部メインカメラを破壊された。

『これで、トドメぇ!』

「まだだぁ!」

 マラサイがビーム・サーベルを振るう瞬間、ルシェートは左腕のビーム・サーベルを投棄し、全速力で少し距離を取った。マラサイは鍔迫り合いの勢いのままビーム・サーベルを振り下ろし、ジムⅢスナイパーカスタムの予備のビーム・サーベルの基部を破壊し、爆発が生じた。

 ルシェートはその間に、左肩部に装備されていたショルダー・キャノンのセンサーとコックピットのモニターと直結させた。真正面しか見えないが、これで十分だ。相手の位置は大体記憶している。機体を動かし、視界にマラサイが入ると、ルシェートはすぐにペダルを思いっきり踏み込み、接近した。

 マラサイもジムⅢスナイパーカスタムが健在なことに気付き、ビーム・サーベルを振るおうとする。だが、ジムⅢスナイパーカスタムは残った左腕でマラサイのビーム・サーベルを持つ腕を抑え込んだ。ミシミシと嫌な音がするが、一瞬だ、一瞬だけ持ってくれればそれでいい。

 マラサイが動かなくなったほんの僅かな瞬間、相手の腹部にショルダー・キャノンの照準を合わせた。

 捉えた。

『なっ!?』

「これで、落ちろぉ!」

 最後に残された武器であるショルダー・キャノンが咆哮を上げ、弾丸が発射される!

 弾丸はマラサイの腹部を貫通、ルシェートは急いでスラスターを吹かせてマラサイから距離を取った。

 マラサイはそれから動くことなく、その場で爆発、消滅した。

戦いが終わったと確信出来た途端、ルシェートは己の息が上がっていることに気付いた。それに、ノーマルスーツの下は汗まみれだった。だがそれは、レッドに勝利したという証でもあった。

「か、勝った……」

 コックピットにガシャンという音が響く。恐らくウェルディかエデルの機体がルシェートの機体に触れた音だろう。

『接触回線で聞こえるな、ルシェート』

「隊長」

『よくやった、ルシェート』

『大したもんだぜ、まったく』

「俺も、無我夢中でしたよ」

 ノーマルスーツ内があまりに暑く、ルシェートは思わずヘルメットを取った。髪の毛が汗で湿ってしまっている上、臭う。早くシャワーを浴びたい気分だった。

アンナから個別回線での通信が入ったのは、レイケリーへの帰還途中であった。

『……無茶ばっかするんだから』

 アンナはどこか涙声だった。

 今は、嘘を吐けない。ルシェートはそう思った。

「あー、その、なんだ。……心配かけたな、アンナ」

『無事だから、それでいいよ』

 そう許してくれるアンナの顔は、涙もあったが同時に綺麗な笑顔だった。

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