彼はそのままレンゲルバックルを睦月から返して貰うように説得しようとする。
だが
「俺が、どんなに捨ててもっ、こいつは何度も戻ってくる。
そして、俺が逃げれば、逃げる程にっこいつはっ」
その言葉には真剣な表情だった。
その言葉と共に私利私欲の為ではなく、本当の事を語っていると。
「それだったら、俺がそいつの面倒を見てやるよ」
「君は」
振り返ると、そこに立っていたのは、カテゴリーXとの戦いにおいて、共に戦ってくれた錬司だった。
「お前は錬司」
「そいつは結構厄介だからな。
まぁ、その分、なんとかしてやるぜ。
けどな」
そう言うと共に、その義手は怪しく動く。
「その分、覚悟しておくんだな。
俺の特訓は命懸けだぜ」
「えっえぇ!?」
レンゲルとの戦いから数日後。
俺達は次に来るだろうアンデットの戦いに備えて、各々が様々な動きをしていた。
俺の場合は、その日はバイトを行いながら、その帰り道の事だった。
公園の中心で何か騒ぎがあり、疑問に思った。
俺は気になり、すぐにそこに行くと、そこにはヤンキーだと思われる奴らが何かを虐めていた。
それは、見れば、子犬のようで、それを楽しんで、虐めていた。
「お前らっ、何をしているんだっ!!」
俺はすぐにヤンキー共を睨み付けながら叫んだ。
すると、リーダー格の男はすぐに言い返す。
「あ? 誰だテメェ?」
「その子犬は怯えているだろう!! 何をしている!?」
「ハァ? 別に関係ねぇだろうがよ?」
リーダー格の男はそう言い、俺の胸倉を掴む。
しかし、そんな事はどうでも良かった。ただ、今の状況では子犬の方が危ないと感じていたからだ。
「いいから離せっ!」
「あぁん? じゃあ、コイツの代わりにテメェを可愛がってやろうか?」
リーダー格の男がそう言うと、周りにいた仲間達が笑う。
俺はそんな状況よりも、早くその子犬を助ける事を優先にした。
ゆっくりとヤンキー達の方へ歩き出す。
「あ? やるのかよ?」
ヤンキー達の一人がそう言うと、俺は静かに告げる。
「かかってこいよ、クソ野郎」
「あ? 上等だゴラァ!!」
俺の言葉に、リーダー格の男がそう言って殴り掛かってくる。
そして、そのまま殴ろうとした瞬間、リーダー格の男の手を誰かが止めた。
「あぁ!!」
「まったく、下品で極まりないですね」
その言葉と共に、リーダー格の男を止めた人物を見る。
黒いスーツ姿のさわやかな印象を持つ眼鏡の青年であり、腕には白いワシのついた装飾を身に着けている。
「なんだぁ、てめぇは、やるってのかぁ!!」
そう言いながら、そのリーダー格の男はそのままその青年に殴りかかろうとした。
だが、その攻撃を軽く避けると共に、腹パンを喰らわせる。
すると、一瞬にして気絶するかのように倒れ込む。
それを見て、周りにいた他のヤンキー達は逃げていくように去っていった。
その様子を見て、この場に残った青年の方へと振り向く。
「無事のようですね」
「まだ、終わっていない。
早く、この子犬を動物病院に」
「そうですね。
ここで、この子を死なせたら、意味がないから」
そう言って、俺とその青年は公園の中にあった動物病院まで走る。
幸いにも近くに病院があった為にそこまで時間はかからなかった。
そして、すぐに子犬の状態を確認する。
その体は傷だらけであり、呼吸も苦しそうだった。
恐らくは、栄養失調を起こしていると予想出来た。
獣医はすぐに治療を始めてくれて、子犬は何とか無事に助かった。
「はぁ、良かった。
本当に焦ったよ。
ありがとうございます」
「いいえ、当然のことをしただけです」
「それでもですよ。
あそこで、もたもたしていたら、あの子犬は助からなかった」
「そう言われたら、素直に受け取りましょう」
その医者は、そう言いながら笑みを浮かべた。
そして、俺もその笑顔を見て少しだけ気持ちが楽になる。
「それにしても、人間は実に勝手ですね、本当に」
「勝手ですか」
「えぇ、生物を生物たらしめている遺伝子。
その塩基配列を見ると、ヒトとチンパンジーとはわずか1.23%の違いしかないそうです。
なのに一方は檻の中に入れられ、もう一方は万物の霊長として君臨している。それだけではない。
先程の子犬もそうですが、人間の身勝手によって、多くが傷ついている。
君は、その状況をどう思いますか?」
「そうですね、正直に言って、返す言葉もありません。
なんだって、人間は人間同士でさえ差別しますから」
俺はそう言いながら拳を握る。そんな俺に対して青年は何も言わない。
ただ、俺の目を見ながら話す。
「君のように優しい人間ばかりならば、私も納得できたんですけどね」
「納得が何か分かりませんが。
けど、あんな奴らだけが人間じゃないですから。
同じように見えても、全く違う人なんて、沢山いますからね」
俺は笑いながら言うと、彼は不思議そうな顔をしていた。
「そうですね。
君と話していると、不思議だ。
あれ程、嫌悪していた人間であるはずなのに、君には自然とあいつを思い出します」
「あいつ?」
「えぇ、友として、互いに認め合ったライバルがいました。
そんな彼を思い出させるほどに、君はどこか似ている。いや、同じだと言ってもいいかもしれませんね」
その青年は笑いながらそう告げる。
「失礼、いきなりこんな話をして」
「別に構いませんよ。
あっ、やばっもう次のバイトの時間がっ」
「それは大変だ。
あの子は僕が見ておきますから、君は急ぎなさい」
「何から何まで。
あっ良かったら、今度、ゆっくりと話をしましょう。
えっと、俺の名前は志村刀磨です!」
「刀磨っ」
俺がそう名を言うと、一瞬、驚きを隠せないように目を見開く。
「んっ?」
「いえ、私は高原です」
「それじゃ、高原さんっ!
俺はここで失礼します!!」
そう言って、そのまま病院を後にした。
「彼が、私達の知らないアンデットを使い、変身するライダーか」
そう言いながら、自身の膝の上で眠る子犬を撫でながら呟く。
「不思議な事だ。
この現代で、人間の醜さを知ったつもりなのに、彼のように確かに動物に優しい奴もいる。
果たして、私が勝ち残ったとしても。
いや」
その言葉と共にゆっくりと覚悟を決める。
「今は、この子の里親を探さないとな。
それからだ」