アルフィアとは20以上歳の差があるのに同レベルとか、やっぱりアルフィアは化け物。
「と、言うわけで数日は外出しない方が良いかも」
「……ついに始まるのか、オラリオと
リアちゃん、アリーゼと踊った翌日、僕は定番と化している教会へ赴いていた。
当然のように教会にいたお母さんとお茶を淹れながら、掃討作戦のことを掻い摘んで伝える。
もちろん、詳細な事は言わないけど、近いうちに大きな戦いが起こることを、その始末に追われ、しばらくは会えなくなることを。
「お前も戦うのか?」
「うん、今のオラリオに冒険者を放っておく余裕はないからね」
物資も人員も足りてない現状で、
推定レベル6以上の
「僕が戦うことで平和を守れるなら、喜んでこの身を差し出すよ」
それが、たとえどんな結末になろうとも、僕はみんなのために戦いたい。
揺るがない意志を前にして、お母さんは目を伏せ、僅かな感情を込めて問いかける。
「お前はオラリオをどう思う?」
「え……?」
困惑する僕を置き去りに、お母さんは立て続けに言い放つ。
「10の子供が戦場に立つなどあり得ないことだ。本来ならば守られるべき存在に戦闘を課すなど、正気の沙汰ではない」
「……」
「お前は憎いか? 子供に縋るほど頼りないオラリオを、そして、こんなオラリオにしてしまったゼウスとヘラを」
確かに、前世の基準で考えれば頭のおかしい状況だ。
小学五年生が死と隣り合わせにいる、平和な日本では考えられないイレギュラー。
大半の人が仕方ないと切り捨てる状況に、それを許容してしまう現状が憎くないかと、お母さんは問うている。
「お前には憎む権利がある。このオラリオに唾を吐きかけ、逃亡してもいい。それを責める者がいれば私が直々に手を下してやろう」
珍しく口調に熱が篭っているお母さんを見て、少し新鮮な気持ちになる。
思わず笑みを漏らしてしまった僕に、お母さんの責める視線が突き刺さる。
「ふざけているのではない。私は真面目に、」
「オラリオが憎いか、その問いに対する答えは一つだけだよ」
言葉を無理やり遮って、いつも通りの口調で言った。
「憎いわけがない」
お母さんは驚愕に目を開く。
綺麗なオッドアイが疑惑の色を帯びていた。
今日は随分と感情を出していると思いつつ、まだ驚いてるお母さんに理由を伝える。
「僕はオラリオが大好きなんだよ」
「……」
「オラリオに来た当初はずっと自殺しようとしてた」
また僕だけ生き残って、フォボスも、ヴェルフも死んで。
生きる意味なんて見出せるはずもなく、早く終わりたかった。
先立っちゃったみんなと、あの世で再会したかった。
今までの事を謝罪して、罵って欲しかった。
「でもね、僕は人に恵まれたんだ」
お人好しでうるさい少女。
めんどくさがりだけど、面倒見の良いパルゥム。
純粋なはずなのに、ポンコツが拭えない妖精。
毒舌なくせに、人一倍傷つきやすい極東の姫。
これといった特徴はないけど、優しさだけは誰よりもある友達。
そして、何より――
「――お母さんと会えた」
教会を気に入って、お母さんと慕える人と相見えることが出来た。
初めは前世の母親に重ねてしまったけど、今では本当のお母さんのように思ってる。
そんな巡り合わせをさせてくれたオラリオを憎むわけがない。
「僕はその事実だけで満たされてるんだ」
嘘偽りのない本心の言葉。
言いたい事を全て言い切った僕に、お母さんは眩しそうに目を背けて、「そうか」と一言だけ告げた。
その仕草は照れ隠しにしか見えず、お母さんの脇腹を突っつくと頭を叩かれた。
「いたい」
「急につつくからだ。それより、そろそろ時間ではないのか?」
「あっ」
この後は【ミアハ・ファミリア】での定期検診に加え、アスフィとの魔剣開発、フィンさんからの呼び出しも受けている。
おそらくフィンさんとの話は長くなるだろうから、唯一フリーだった朝に教会に来たんだった。
今の時間帯ではギリギリ遅刻してしまう。
お母さんが淹れてくれたお茶を飲み干して、足早に出口に向かう。
「じゃあ、僕は行くね。さっきも言ったように数日は外出しないように」
「……あぁ、死ぬなよ。ガルフ」
そっぽを向きながら、お母さんはどうでもいいように努めて言い放った。
だけど、耳を真っ赤に染める姿は説得力がない。
初めて心配を明言してくれた。
その事がどうしようもなく嬉しく、笑みが溢れた。
「うん。お互い生きてまた会おう」
――出来れば、僕の命が潰えるその前に。
歪んだ約束をして教会を出た。
空は、気持ち悪いほどの晴天だった。
少年がいなくなったのを確認し、アルフィアは自身が座っていた椅子を
椅子だけに留まらず、ヒビの入った壁、鬱陶しいほど光を放つステンドガラスを砕く。
レベル7の力を憤慨なく使って、ボロボロだった教会を壊そうとする。
淡々と無言でやる行動は他者に畏怖を抱かせるが、隠れて一部始終を見ていた男神にとっては滑稽以外の何物にも見えなかった。
「おいおい、落ち着け。お前の嫌う『雑音』を増やしてどうする」
「……エレボスか。なに、大切な物を汚せば、この想いにも区切りがつくと思ってな」
自分が憎くて仕方がない。
下唇を噛み締めて、先程放った言葉を思い返す。
『死ぬなよ、ガルフ』
どの口が言えることだろうか。
オラリオをどん底に叩き落とすのは、他ならぬ自分であるのに。
名誉も、誇りも捨ててまで羅刹と化しオラリオを滅ぼすと誓ったはずなのに、他者に攻撃を加えようとするだけで凛々しい深紅の眼が脳裏にちらつく。
悩める
「クソイケメンお兄さんからの忠告だ。お前はこの作戦を降りろ、ザルドも口にこそしないが同じように思ってる」
何も犯していないアルフィアなら、まだ戻ることができる。後に邪神と罵られるエレボスが発した、純粋な気遣い。
心の奥に封印する善意を、強くて脆い女に向ける。
その気遣いを目の当たりにして、アルフィアは返答をした。
「【
【才禍の怪物】と恐れられた所以、明確な殺意の籠った超短文魔法がエレボスの頬を抉った。
数ミリでもズレていたら送還は逃れられない傷、そんな負傷を持っても、エレボスの表情は変わらない。
葛藤する子供を宥める親の顔であった。
「だまれ。惑わすな。私はお前たちと共に『次代の英雄』を産むと決めた。黒の厄災を乗り越えるために、オラリオに血潮を巻き上げると決めた……!」
少年が美しいと感じたオッドアイが酷く歪む。
怪物の口から漏れるのは、計り知れない自責を含んだ切望。
今のオラリオでは、黒龍を撃退することなどできるわけがない。
神時代を終わらせて、始原の勇士たちが紡いだように、英雄の時代を取り戻す。
残り少ない命を焚べて、誓ったはずだ。
だから、その決意を、その覚悟を――
「――邪魔するな、ガルフ!」
今はいない少年に、激情をぶつける。
彼女が少年の心を救ったのであれば、少年は彼女の心を溶かしてしまった。
最愛の妹との日常を、家族がいることの喜びを思い出させた。
これから、その日常を壊すというのに、何たる失態だろうか。
美しい灰髪を掻きむしるアルフィアに、エレボスは声をかけられなかった。
必死に苦しみながらも、未来のために母親と慕ってくれる少年と敵対する。そんな悲痛の決意に、誰が文句をつけられるのか。
我に戻ったアルフィアはガラスの破片をあえて踏みしめながら外に足を向ける。
「すまない、取り乱した。少し外の空気を吸ってくる。ついてきてはくれるなよ」
「おうおう、好きなだけ吸ってこい。ついでにブッサイクな顔も直してこいよ」
「……あぁ、次に帰ってくるときは【静寂】に戻っていると誓おう」
踏み締めたガラスの破片が足裏を傷つけるが、胸の痛みに比べれば小さいことだった。
精神的にも、肉体的にも痛みに慣れすぎてるアルフィアにため息をつき、彼女が教会を出た瞬間、入れ違いで後ろの裏口から大男が現れる。
「悪い、失敗した。仮面の少年と話した後ならいけると思ったんだが、うまくいかないもんだな」
「仕方がない、元から望みは薄かった。しかし、メーテリアの愛した教会をここまで壊すとは、随分と荒れているようだ」
「全く、本当にかき乱してくれるよ。流石は【
皮肉を込めた賞賛をエレボスは送る。
最恐の女をあそこまで乱した、オラリオのなかで一番
考えた計画が少しずつ狂っていく音がする。
首魁たる自分にもダメージを加えているのだから、百点満点をあげたい気分だ。
「なに、【
「知らなかったのか? オラリオに現れた新たな英雄候補にしてレベル5、【
ザルドは驚愕に目を見開く。
佇まいや鍛え方から高位の冒険者であることは予想できたが、オラリオを騒がせている【
ロキやフレイヤのファミリアとは別のレベル5、戦場に出てくるのは確実だろう。
むしろ、猪や勇者のガキと同じ次元にいるのであれば、積極的に見極めなくてはならない。
「敵対は避けられないか……」
「あの
正確には眷属でなく居候なのだが、それは些細な事だろう。
【アストレア・ファミリア】といえばゼウスたちが消えた後に名を上げたファミリア、その隠し玉がアルフィアと疑似的な親子関係を築いている。
複雑な相関図にザルドは頭を押さえる。
「エレボス、あの少年が戦場に出た時は俺が相手をしよう」
「……良いのか? お前はフレイヤの眷属に託そうとしてだろ?」
確かに、未来を託すのであればいけ好かない勇者か、何度も立ち向かっては蹴落としてきた猪と決めている。
少年の相手をするということは、見極める時間が無くなる事を示唆する。
そんなエレボスの気遣いに、ザルドは口元に弧を描く。
「ふっ、侮るな。『次代の英雄』の見極めと青臭いガキの相手など片手間に終わらせてやる」
顔の大傷を歪め、泣く子も黙る獰猛な笑みを浮かべる。
現オラリオの最高戦力を毒牙にもかけない言い様に、エレボスはヒューと口笛を吹いた。
ザルドはアルフィアが帰ってこない内に退散しようと裏口の勝手口に手をかけ、思い出したように振り向く。
「子供に長い夢を見させるのは、年長者の役目だからな」
「……そうか」
今度こそ、ザルドは教会から去っていった。
一人残ったエレボスは額を抑えながらため息をついた。
「【才禍の怪物】と慄かれたアルフィアも、あいつにとってはまだ小娘か」
誰もいなくなった教会に座り、自身の零能さを呪う。
不甲斐なさを存分に込めて、エレボスは本音を吐露した。
「本当に『絶対悪』なんて役を背負わせるには、お前たちは惜しすぎる」
邪神としての仮面にヒビが入る。
本来ならば歴史に名を残す偉業を成した者たちを、泥を浴びせ世紀に名を残す悪人に仕立て上げようとしている。
自嘲を染み込ませた笑みを貼り付けて、すぐに邪神としての嗤いに変えた。
「だが、今更あいつらに覚悟を問うのも不義理だな」
僅かな命を燃やして、多くの絶望をもたらし、希望のための『踏み台』になろうとしている男に、あれほど自責に駆られながらも、眩い輝きを曇らせない女に報いるために。
全ての元凶たる自分が、手を抜けるはずがない。
善性など一欠片もない『絶対悪』の自分に切り替える。
盤上を支配し、狂乱と殺戮を好む邪神に。
「開演まで後一日。楽しませてくれよ、オラリオ?」
「手当は済ませた。正直、なぜ生きれているかは私でも分からない『未知』だ。特にその左腕はね」
「……魔力の通りが良くなった」
一時間にわたる検診を経て、僕と神ミアハは休憩をとっていた。
神ミアハは仕事に戻ろうとしたが、看護師さんに「いい加減休んでください!!」と怒鳴られ、せっかくなら親睦を深めようと一緒に休憩をしている。
左手をグーパーさせる僕を見て、神ミアハは悲しそうに目を伏せる。
「私は医神だ。大抵の傷を見れば、それがどのようにつけられたのか、酷い時には
「……」
「お主は過酷な道を歩んできた。限られた命くらい、楽に過ごしてもバチは当たらないと思うぞ」
このオラリオで唯一少年の寿命を知る
【ミアハ・ファミリア】は大手医療ファミリアだからこそ明言は出来ないが、善神たるミアハはそれを抜きにしてもこれでは少年が報われないと感じた。
表情をピクリとも変えない僕に、神ミアハは重い口で告げる。
「――
「充分すぎる……!」
一ヶ月もあれば、キャスターを倒すことも可能だ。あれは、生かしておいてはいけない存在、誰にとっても害にしかならない。
「このままいけば、お主の死因は老衰だ」
「……え、僕はまだ十歳だよ?」
「例の魔剣の昇華、それによって生涯をかけて必要な生命エネルギーを使ってしまった。そう、私は結論づけたよ」
魔力とはまた別の生命力、それを媒介にする事で新たな
御伽噺のような展開だが、心当たりがありすぎて笑えなかった。
見透かしたように神ミアハは続ける。
「最近、食べ物の味もしなくなってきてるだろう。味覚の機能が低下していることの証左だ」
「……」
「他にも知的障害や不眠症などが老化が原因であげられる病気だが……その様子では心当たりがあるようだな」
元から睡眠は短時間でも大丈夫な方であったが、退院した日からは一睡もできていない。
その分、魔剣を作る時間に充てられているので、好都合だとは思っていたけど病気だったのか。
アストレアが作ってくれるご飯も、最近は味がしなくて困っていたが、まさか老化が原因とは思いもよらなかった。
「十歳で老衰かぁ」
「あぁ、いずれ手足も正常に機能しなくなる。だからこそ、お主は闘いに身をおくべきではない」
真摯な瞳が僕を貫く。
神ミアハからの警告に僕は軽く首を捻って、軽く笑みを浮かべた。
「ねぇねぇ、神ミアハのこと呼び捨てにしてもいい?」
「あ、あぁ。構わないが……」
「やった」
何がそれほど嬉しいのか露も理解できないミアハは、頭に疑問符を浮かべているが、無視して話を続ける。
一時間前にも同じようなやり取りをしたなぁと思いながら、今でも変わらない想いを伝える。
「僕はミアハみたいな冷静に状況を俯瞰することは出来ない。だから、神々から見たら愚かなことを僕はこれからするのかもしれない」
「……」
「だけど、僕が戦うことで大切な人たちが救われるなら喜んで剣を握るよ」
限られた矮小な命で、眩しい彼女たちと共に最後まで
その先には屍の運命しか残されてないとしても、僕は笑って逝くだろう。
そして、あの世でみんなに伝えるんだ――最高の人生だったよ、と。
ミアハはやっぱりダメか、と言いたげな笑みを宿して、暖かい目で見つめてくる。
「そうか、それほどの決意ならば、神の妄言など不要だな」
「……その割には少し嬉しそうだね」
「いや、お主は心が成熟しすぎていたからな。年相応の
そうだね、と流そうとして、今の会話をもう一度振り返る。
『そうか、それほどの決意ならば、神の妄言など不要だな』
うん、おかしくない。僕を尊重してくれるミアハの善性が垣間見える一文だ。
『いや、お主は心が成熟しすぎていたからな』
これも、まぁ、おかしくないだろう。この年齢にしてはかなり壮絶な生き方をしている自覚はある。
『年相応の
そうそう、僕は恋慕を抱いていて……
「ちょっと待った!」
「うむ、どうした?」
「僕が、恋慕……?」
恋慕、それは異性を慕い恋焦がれること。
早い話、僕が誰かに惚れていることを意味する。
心底意味がわからないという表情をする僕に、ミアハは首を傾げる。
それだけ絵になる美しい仕草で、ミアハは爆弾を投下した。
「アストレアの
「ぶっ」
消そう、毛層、ケソウ?
【アストレア・ファミリア】の誰かに、僕が恋心を抱いている?
全力で否定しようとして、言葉がなぜか出てこなかった。
否応なく【アストレア・ファミリア】の面々が頭に浮かんでくる。
リューはポンコツだし、前に触れたら投げ飛ばされたからありえないだろう。『シャドウ』との一戦から嫌悪感は改善されたけど、まだ距離感を測り損ねている。
輝夜は恋人というよりは、叱ってくれるお姉ちゃんのような感じ。
ライラはフィンさん、以上。
無意識に後回しにしていた最後の一人を思い浮かべようとして、
「ごんっ!」
「お、お主、大丈夫か?」
頭を勢いよくぶつけることで振り払った。
それ以上先に進んでしまえば、戻れなくなってしまう。根拠のない確信が、僕を食い止めていた。
「耳が真っ赤だぞ、本当に大丈夫か?」
「……もうむり」
この医神、朴念仁のくせに何でこういう時は察しがいいんだ。その察しの良さを少しでもナァーザさんに向けてあげろ。
混沌とした状況になるなか、変な雰囲気の漂う二人の部屋にノックが鳴った。
ミアハが入れ、と言うと眼鏡をかけた水髪の女性、アスフィが入ってくる。
「失礼、こちらにガルフがいらっしゃると思うのですが……何をしているんです?」
「聞かないで……」
テーブルに突っ伏している僕を、残念な人を見る眼差しで見てくる。
もう知人に痴態を晒すわけにはいかない、しっかりと意識を切り替えて、僕が呼んだアスフィに空いている椅子に腰掛けてもらう。
これからは魔剣開発の時間だ。
黙々と道具を出して準備を始めると、前から二つの疑惑の視線が突き刺さった。
ミアハからは有事ならば席を外すか?、と。そして、アスフィからはなぜ神ミアハがいるのですか?
二つの疑問に答えるために口を開く。
「僕とアスフィの魔剣開発についてなんだけど、今回からミアハも加わってほしいんだ」
「なっ!」
「ほう、何故だ? 私はへファイストスやゴブニュのように武器の知識があるわけではないぞ?」
ミアハの困惑は当たり前の事だろう。
対してアスフィは、マジかこいつと言いたげな眼差しを向けてくる。医神としての知識について心当たりがあるゆえに、彼女は目を見開いていた。
「僕が作りたい魔剣には、どうしても医神の知識が必要になってくるんだ」
今から少年が行おうとしているのは、まだ誰も成した事のない
ミアハは知り得ない『未知』に冷や汗をかき、アスフィは研究者としての魂が歓喜で震える。
「僕が作りたい魔剣は――――――」
作りたい魔剣の構想に、ミアハは目を見開く。
「なるほどな。ならば私も手伝えることはありそうだ」
前人未到、いや、前神未到の領域に、二人と一柱は足を踏み入るのであった。
「先程の恋バナ、私も興味があるので後で覚悟して下さいね」
「なんで聞いてるの……?」
休憩中に頬を真っ赤にする少年とここぞとばかりに弄る少女、そのやり取りを見て苦笑いを浮かべる男神がいたらしい。
「えーと、体調が悪いようなら少し休んでるかい?」
「……大丈夫、これは、どうしようもないから」
陽が落ちるまで魔剣談義は続いた。
ミアハは医学のスペシャリストといえば聞こえはいいが、突き詰めれば休みの日にも
そこに魔道具オタクと魔剣オタクが組み合わさった結果、時間を忘れるほど白熱した議論が行われた。オラリオにおいて自身の領域で右に出る者がいないからこそ、利点と欠点、生産性や持続性、実用的か否かなど多角的な視点から攻めることができた。
看護師さんが「流石に休みすぎです!」と怒鳴り込んでこなければ、一日中彼らは議論を辞めなかっただろう。
しかし、長い時間作業をすれば、比例して休憩時間も増える。
日頃の恨みを晴らすように怒涛の質問をくらった僕の精神力は底をついていた。
重たい身体を引きずって【ロキ・ファミリア】のホームまで辿り着いたが、疲労の度合いがピーク達したのか偶然門番をしていたラウルに倒れ込み、団長室まで連れて行ってもらった。
フィンさんは頬かいて苦笑しているが、貴重なフィンさんの時間を無駄にするわけにはいかないので話を教えてもらう。
「心配だけど始めようか。察しているとは思うが、今日呼んだ理由は明日の掃討作戦についてだ」
「僕は【アストレア・ファミリア】と【ガネーシャ・ファミリア】の混合部隊に入る予定だったけど、何か変更があったの?」
【ヘルメス・ファミリア】の活躍によって判明した
うち二つは二代派閥であるオッタルとフィンさんたちが担当し、残りの一つは中堅ファミリアの僕たちが混合して対処する。
そのような流れで掃討作戦は決まった筈だ。
「あぁ、すまないが君には別行動をとってもらいたい。これを見てくれ」
出されたのは三箇所黒く塗りつぶされてるオラリオの地図。
その内の一つには真っ赤なバツ印が書かれている。そして、バツ印の場所には見覚えがあった。
「僕とアリーゼが『シャドウ』と戦ったところ……? なら、この黒塗りが意味することは――」
「【ヘルメス・ファミリア】が見つけた、
「っ!」
テーブルの下で拳を握る。
全身を巡る血が冷えていくのを感じながら、歯軋りをする。
「なんの前触れもなく、それこそ神隠しのようにね」
「……」
「君に求める
仮面の下で好都合だと笑う。
キャスターの工房を潰して回るなら、必然的にキャスターと接敵できる確率が高まる。
「かなり危険な橋を渡ることになるが、やってくれるかい?」
上っ面だけの確認。
その質問に対する答えを、僕は一つしか持っていない。
「喜んで壊滅させるよ」
――『大抗争』まで、あと一日。
ライラはフィン、自明である。