一つ言えることは、みんな、曇り展開好きすぎだろ。
『初めまして、【王国の殺戮者】。さっそくで悪いが君には死んでもらうよ』
ボロボロの仮面の少年を、各々の得物を持って囲む【ヘルメス・ファミリア】と、私たちの後ろでヘラヘラとした笑みを浮かべながら絶対の殺意を滲ませるヘルメス様。
私、アスフィ・アンドロメダとガルフの初対面は、おおよそ最悪と言っていいだろう。
彼が【アストレア・ファミリア】に居候するよりも、もっと前。それは、オラリオ外での対面だった。
ヘルメス様から、ファルガーやルルネを含む【ヘルメス・ファミリア】総出で、幼い少年の殺害を行うと命令されたときは、さすがに耳を疑った。
突拍子もないことを普段から命令される主神に慣れたつもりだったが、自分よりも年下を殺すのは私も、ファルガーたちも納得していなかった。
オラリオ外で絶体絶命の状況に陥る少年は、飄々とした口調でヘルメス様に話しかける。
『へぇ、理由を聞いてもいいか?』
『……今のオラリオは少しピリピリしていてね。君のような《異常》を許容できないのさ』
『くくっ、素直に
面白そうに笑う少年は、私たちを戦慄させた。
下界では封じられてるとはいえ、神の負のオーラというものは私たちにとっては毒だ。
それを真正面から受けながら、余裕の表情を浮かべる少年は《異常》以外の何でもなかった。
オラリオの総員ではなく、自身の独断であることを見抜かれたヘルメス様は、観念したように腕を上げて話し始める。
『あぁ、君を一眼見た時から、君だけはダメだと俺の勘が叫んだんだよ。おそらく
『くはははは! そいつは大層迷惑な勘だなぁ! そんで持ってお前は高みの見物ときた、付き合わされる嬢ちゃんたちが不憫でならねぇ』
この世界にとって、神は零能だ。
恩恵を持っていない存在であっても、易々と神を送還することができる。
ヘルメス様曰く、第一級冒険者レベルの力を持つ少年を警戒して、私たちの後ろに居てもらっているが、少年の目にはふんぞり変える王様に見えたようだ。
『なんとでも言うといいさ。俺は全知零能だ、君のような怪物から身を潜めるのは当然のことだよ』
『なら、わざわざお前が来ずとも、嬢ちゃんたちだけで襲ってくれば良かったんじゃねぇか?』
当然の質問だ。
戦うのは私たちであり、ヘルメス様がわざわざ戦場に足を運ぶことは必要なかった。
未だに余裕そうにしている少年は、侮りながらヘルメス様に疑問をぶつける。
『それはね――君を確実に殺すためだよ』
『『『『『『『〜〜〜〜〜〜っ!』』』』』』』
ヘルメス様が、アルカナムに届かないギリギリの神威を少年にぶつける。
私たちは自分にぶつけられているわけでもないのに、震えが止まらなかった。
下界の子は神威の前では無力だ。
神フレイヤが何もせずとも男を籠絡するように、身に刻まれる絶対に私たちは抗えない。
それを意図的に、しかも一人だけに集中させたとなれば、発狂してもおかしくはない。
ぶつけられた少年は、微かに目を見開いて動きを停止した。
『やれ、アスフィ、ファルガー』
『……すまない』
隙だらけの少年に、獣人のファルガーが肉薄する。
少年をどのように殺害するか、作戦はヘルメス様の神威で少年を戦闘不能にし、安全地帯から私たちが攻撃を加える、という寸法だ。
仲良くなれた同僚が聞けば、怒り狂いそうな外道の所業。
変わらず無表情のヘルメス様にバレないよう、ファルガーに視線を送る。
(頼みますよ、ファルガー)
(安心しろ。こんな少年を殺すほど俺は腐っていない)
主神の意向に背くが、私たちは少年を殺す気はなかった。
今が暗黒期という状況を鑑みても、守られるべき年齢である少年を殺すなど許容できるはずがない。
一旦気絶をさせて、なんとかしてヘルメス様を説得する。
それがヘルメス様抜きで考えた策略だった。
しかし、それは思わぬ形で挫折することとなった。
レベル3の力を使ったファルガーが愛剣で少年を攻撃しようとした瞬間――少年が消えた。
『なっ!』
『良い大剣じゃねぇか。こりゃ作者に会ってみてぇな』
驚くことに、少年はファルガーが凪いだ大剣の上に乗っていた。
ヘルメス様の神威など影響を受けている様子もなく、身軽な動きでファルガーの大剣を観察している。
驚愕に固まってしまったファルガーに、少年は申し訳なさそうなオーラを纏わせて、いつの間にか握っていた刀を振りかざす。
『逃げなさい! ファルガー!』
『峰打ちだ。悪りぃが、ちょっと眠っててくれや』
刃ではなく、刀の腹でファルガーの首を叩く。
体躯にそぐわない轟音を鳴らし、気づけばファルガーは泡を吹いて倒れていた。
一撃でファミリアのエースがやられたことに、残りの【ヘルメス・ファミリア】は顔を青くする。
思わぬ異常事態にヘルメス様の方を向くと、彼もまた冷や汗を流して少年を見ていた。
『まさか神威を弾くとは……何者だい?』
『ただの鍛冶師だよ』
『――いつの間にっ、ヘルメス様、逃げてください!』
私たちを飛び越えて、少年はヘルメス様に迫った。
すかさずヘルメス様も神威をふたたび放つが、少年にはまたも効かなかった。
『切り裂け――天狗切!』
『っ、がぁぁぁぁ!!!』
目を奪われるほど美しい刀が、ヘルメス様の左腕を切り離した。
下界に降りてから初めての激痛に、ヘルメス様は叫び声を上げて蹲る。
神が攻撃されるという、人間にとって大罪を犯した少年に、私は目が離せなかった。
ルルネたちは息を荒くして、目尻に涙を浮かべているが、私だけは違った。《絶対》に傷をつけた少年を見て心臓が大きく鼓動した。
少年は刀に付着した血を払い、その刀身をヘルメス様の首筋に当てる。
『これで腹割って話せるってんだ、ギリシャの神さま』
『一つ疑問に答えてくれ。なぜ、俺は送還されてないんだ?』
命に関わる損傷を負えば、神は自動的に天界へと戻る。
眷属たちの恩恵はなくなり、絶大なエネルギーの光柱と共に、天に昇って行くのだ。
実際、
そのため、腕を切られてもまだ下界に留まっているヘルメス様は、疑問を覚えた。
問われた少年は自慢げな雰囲気で言い放つ。
『そりゃ、
『……ははは、どうやら手を出してはならない怪物を襲ってしまったのか』
《未知》に飢える旅神であっても、これには笑えなかった。
少年の言葉によれば、彼は本当の意味で神々を殺せる、と解釈できる。
『
『どういう意味だい?』
『
話している内容が半分以上理解できなかった。
私たちを圧倒しているのは本来の少年ではなく別の人格の『千字村正』らしい。
『千字村正』の人格はそろそろ無くなり、主人格である『正宗』が出てくる。『正宗』はそれほど強くないので、屈強な者たちに保護してもらいたい、とのことだ。
『俺のファミリアで保護することも可能だぜ?』
『かかかっ! お前さん、意識が変わった瞬間に正宗を殺す気だろ』
『……はぁ、君は僕の天敵だよ』
この場面において茶化す主神にもはや敬意を抱くが、少年は絶対の確信を持って断った。
ヘルメス様は笑みを消し、毅然とした、神としての口調で少年に向き直る。
『その願い、ヘルメスの名に誓って聞き入れよう。信頼できるファミリアに君の身柄を預けてもらうよう手配するよ』
『サンキュー、これなら安心だ』
『ただし、その後は干渉しない。君の後の人格が
少年を
ヘルメスの少年に対する殺意は消えることはなく、約束が終わればすぐさま少年を殺しに策略を練る可能性だってゼロではない。
それでもいいのかい? と確認をするヘルメス様に、少年はポカンとした雰囲気になり、唐突に笑い始めた。
『何がおかしいんだい?』
『悪りぃ悪りぃ。腹が捩れちまうほど面白かったからな』
『だから、何が……!』
『ーー俺の自慢の一番弟子が
神など取るに足らない、不遜で傲慢な少年。
ヘルメス様は目を見開いて両手を天にあげる、文字通りお手上げのようだ。
そんな様子でも余裕で爺臭い笑い方をする少年に、私は気づけば近づいていた。
『お、なんだい眼鏡の嬢ちゃん』
『あなたは、どうして
震える声で問いかける私に、少年はおろかヘルメス様を含む【ヘルメス・ファミリア】まで疑惑の視線を突きつけた。
ルルネが心配しながら近づいて来るが、そんなのは気にならない。
今は、神という『絶対』の存在を難なく踏破してみせた少年しか目に入らない。
首を捻っていた少年は得心のいったように頷き、私の胸……心臓あたりに拳を置いた。
『めんどくせぇもんに
『何を、言って……』
『いんや、それよりもさっきの質問に対してだが、答えは『想い』だ』
『『想い』、ですか……?』
ひどく抽象的な答えに、思わず不満の声が漏れた。
そんな反応を予見していた、と言いたげに笑う少年は、心臓にかざしていた拳を開きら私の頭の上に置く。
勝手に撫でられているが、不思議と不快な気持ちにはならなかった。
彼の手のひらから伝わってくる心情が、見守ってくれるお爺ちゃんのような、暖かみを伴ったものだったからだ。
『まぁ、言っただけじゃ分かんねぇだろうから『正宗』から学んでくれや』
『後の人格から……!』
『あぁ、『正宗』にはその真髄を教えてある』
その時から、アスフィ・アンドロメダの中で何かが生まれたのであった。
目をかすかに輝かせたアスフィに、少年は笑いながら短刀を渡す。
『これは……』
『
煌びやかな装飾のない、ただ武器としての役割しか果たせない、質素な漆黒の短刀。
しかし、短刀から滲み出るオーラは、神器と言われても納得できるほどの代物だった。
『そいつは一回限りの暴れ馬でな。大事なときに使ってくれよ』
「今の状況で、なぜあの時のことを思い出したのでしょうか」
結局、『想い』が何かはまだ分からない。
怯えながらも後の人格である『正宗』……否、ガルフと話したが、答えは見つけられてない。
それでもあの時のことを想起したのは、目を塞ぎたくなるほどの《異常》を目にしているからなのか。
思ったよりも余裕な自分に驚き、
「やはり、八年前から何も変わっていないな」
「なぜお前がここにいる、【静寂】のアルフィア!」
「【
一言。
ただ魔導士が一言呟いただけで、オラリオを代表する冒険者の二人はやられた。
相手に追撃する気はなかったようで、情報を伝えるために【ロキ・ファミリア】の少年を逃すことに成功したが、状況は好転していない。
文字通りの地獄の状況に、アスフィは思考を回す。
「今すぐに助けに入る……いえ、それでは二人のようにやられてしまう。かと言ってあの二人をこのまま死なせるわけにはっ」
何か、場を覆す一手が必要だ。
あの魔導士の余裕を崩せる最高の一手が。
アスフィは自身の魔道具を漁るが、起死回生の一手になるものは出てこない。
出てくるのは話を盗み聞いて知った、女の正体は【ヘラ・ファミリア】のレベル7という事実に対する乾いた笑いのみだ。
「都市の主柱である【ロキ・ファミリア】の二人がいなくなれば、オラリオは崩壊する……!」
どうすればいい。
どうすれば、レベル7から二人を逃すことが出来るか。
魔道具を全て使って、決死の離脱を仕掛けようとした瞬間――魔道士の視線がアスフィを射抜いた。
「空にも煩わしい雑音がいるようだな」
「っ、しまった!」
「冒険者たるものが安全地帯にいつまで燻っている気だ?」
アスフィに向かって、音の福音を浴びせようとアルフィアは手をかざす。
防御は間に合わないと判断したアスフィは、衝撃緩和の魔道具を使い、少しでも攻撃を和らげようとする。
来る魔法に目を閉じて、衝撃を待つ。
しかし、いつになっても自信を打ち落とす福音は鳴らなかった。
恐る恐る目を開くとそこには、
「なに、してるの。お母さん……?」
絶望の表情を浮かべた知人がいた。
変化は劇的だった。
まさに【静寂】を体現していた女が、目を見開き動揺をあらわにする。
リヴェリアたちは己の記憶を遡り、アルフィアの息子の存在を照らし合わせるが、彼のことは分からない。
場をかき乱す少年はボロボロになりながら、呆然としながらリヴェリアたちを庇うように対峙している。
「アルフィアの息子だと? 奴に子はおろか、結婚したという情報など聞いたことがないぞ」
リヴェリアは眼前で自分達を守る少年を観察する。
年齢はだいたいアイズと変わらない、十歳前後。
仮にオラリオからアルフィアがいなくなった後に産んだとしても、計算が合わない。
そもそも、とある爆弾を身体に抱えているアルフィアが子を産めるはずがない。
リヴェリアは仮定を思い浮かべては否定していたのに対し、ガレスは先ほどの少年の声から、ある人物を思い浮かべていた。
「まさか、ガルフか?」
「馬鹿なっ! そんなはずは……」
否定しようとして、声や髪色が適合していることに気づく。
リヴェリアが咄嗟に否定し、ガレスがすぐに気づけなかった理由は、あまりにもいつもの少年と違いすぎたからだ。
若干天然ぽさのある、憎めない仮面の少年。
しかし、芯の強さは人一倍通っており、オラリオでも三本の指に入るほどの実力者。
そんな彼が泣きそうな声で宿敵に話しかけるなど、理解を拒みたくなるのも頷ける。
勝手に驚いている二人を置き去りに、少年は震えながら母親と慕う女に話しかける。
「なんで、? どうして、ここにいるの、お母さん」
「……私はお前の母親ではない」
「質問に、答えてよ。なんで、こんなことをしてるの。お母さん」
「その呼び方はやめろ。お前の母親になった覚えはない」
「そんな……!」
ガルフは目尻に涙を浮かべ、絶望にくれる。
そんなガルフを直視しないよう、アルフィアは極めて目を逸らした。
今少年と目を合わせてしまえば、覚悟が揺らいでしまう気がしたからだ。
「僕の、せいなの? また僕のせいで、誰かが苦しむの?」
「違う。ここにいるのは私の意思であり、お前は関係ない。私は自分の意思で
食い気味にアルフィアは否定した。
少年と出会う前から既にオラリオの敵になることは決断しており、そこに少年の所在は関係なかった。
もし、少年と決断する前に出会えていれば、共に肩を合わせていれたかもしれないが、それは机上の空論に過ぎないだろう。
「じゃあ、どうして、僕を助けてくれたの……?」
「っ!」
「なんで、僕の相談に乗って、希望を与えて、導いてくれたの……?」
「お前が、妹に似ていたからだ。他意はない。」
ついに、少年の涙腺は決壊した。
大事な少女たちを傷つけて、最後の便りだったアルフィアにも拒絶された。
アスフィは、自分よりも遥かに強いガルフが泣いているのを見て、胸を締め付けられる。
アルフィアは、今すぐにでも駆け寄りたい想いを抑え、その代わりに手をかざした。ちょうど、少し前に宙に浮く少女に攻撃を加えたときのように。
何かを察した少年は泣きながら首を振る。
「いやだっ。アルフィアさんと、戦いたくない」
「お前は冒険者、そして私は悪。これ以上に分かりやすい構図はあるまい」
話すことはもうない、と言うかのようにアルフィアは魔力を回す。
それは少年との訣別のみではなく、新しい自分を殺すという役割を持った、悲しい攻撃。
退く様子のないアルフィアに、ガルフは地面に染みをつけながら、魔剣を構えた。
「行くぞ」
世界一悲しい戦いが始まろうとして――――――
「失礼。その役目、拙僧に変わっていただいてもよろしいでしょうか?」
最悪のタイミングで、最恐の呪術師が乱入した。
ヘラヘラと笑みを絶やさない呪術師は、来る途中で何人か殺したのか、服には鮮血が付着している。
「……【
「少し下準備をしていたのですよ。オラリオを地獄にするためには、」
雄弁を垂れ流していた呪術師の元に、大剣が飛来する。
レベル4程度であれば一瞬であの世に送れるほどの威力を伴った大剣は、防御もとらずに受ければアルフィアも傷を負うだろう。
呪術師は話をやめ、大剣を横に蹴り飛ばすことで防いだ。
蹴り飛ばされた大剣は隣にあった民家を壊すだけでは飽き足らず、数メートルも壊し続ける。
アルフィアは第一級冒険者に匹敵する二人の力に心の中で驚愕する。
大剣を驚くべき速度と威力で飛来させた少年と、それを難なく蹴り飛ばした呪術師の実力にだ。
「人が話している時は邪魔しない。母君から教えられませんでしたか、正宗殿」
「……お前が、お母さんを誑かしたのか?」
そして、アルフィアは瞠目する。
レベル7である自分が咄嗟に構えをとってしまうほどの殺意を少年から感じ取ったからだ。
まるで、冒険者のときに深層のモンスターと対峙したかのような圧迫感。
子供とは思えない殺気はモンスターの
実際に尋常ではない殺気は、宙にいたアスフィをふらつかせるものだった。
殺意と共に疑問をぶつけられた呪術師は、首を捻りながら応える。
「はて、拙僧は一切関与しておりませんぞ。それよりも、“お母さん”ですか」
少年の言葉に違和感を覚えた呪術師は、アルフィアを凝視し、言葉の真意を読み取る。
ゾクゾクとした視線にアルフィアは不快を覚えるが、呪術師は気にしない。
そして、得心が言ったようにポンッと手を叩く。
「言われみれば似ていらっしゃいます。あぁ、ならば……ふふふ、ふははははは!!」
「何がおかしい?」
「いえいえ、なんとも運命というものは面白いと思いまして」
腹を抱えて嗤う呪術師に、少年は睨みつける力を更に強めた。
そんな顔も甘露であると光悦に浸る呪術師は、最高の殺し合いになることを確信する。
「正宗殿は素晴らしい経験をなさる。なんと言っても
――空気が死んだ。
そのように錯覚するほど、気が狂いそうな殺意が放出される。
――ハイエルフとドワーフは、辛すぎる新情報に下唇をかみ、
――稀代の魔道具製作者は、更に濃くなった殺意に卒倒し、
――必死に心を殺す魔道士は、少年の変わりように驚愕する。
第一級冒険者をも呑み込む殺意だが、呪術師には影響しない。
むしろ、この程度かと物足りなさを感じている。
「ほぉう。殺意に飢えた獣と化し、憎悪に塗れた特攻を仕掛けると予想しておりましたが、やはり現実はうまくいきませんか」
「安心していろ。ここで死ぬのは僕じゃない、お前だ。
変わらず笑みを浮かべながら青筋を立てる呪術師は、ふつふつと腹を抱える。
「ふふふ、ふはははははは!」
小さな嗤い声は、やがて全土に響く大声へと転じる。
「いやはや、保険はかけておくべきですなぁ」
宝物を扱うように、血が特段付着していた懐から
取り出した瞬間、少年の雰囲気が変わったのに気づき、さらに笑みを深める。
信じられないように……否、信じたくないように凝視する少年へ、あえて問いかける。
「
灰髪の、まだあどけなさを残した幼い顔つき。
殺される直前に痛ぶられたのか、表情は苦し気に歪んでいる。
取り出した生首は、リヴェリア、ガレス、そしてアルフィアも知り得ないものだった。
しかし、アスフィのみは違う。
「嘘っ、あの子は、ガルフたちと踊っていた……!」
二日前に、彼女は見ている。
リオンたちと同じように、楽しそうに踊っていた三人を。
奇妙な組み合わせでありながらも、誰よりも眩しい笑顔を浮かべていた幼女を。
ガルフは拳を握りしめ、震える唇で、生首の正体を告げる。
「リア、ちゃん………?」
「ふはははははは! それです! それでございます! 現実の残酷さに打ちひしがれるその顔、やはり正宗殿のものともなれば格別ですなぁ!!」
現実を受け止められない少年に向かって、呪術師は生首を投げつける。
足元に転がった幼女だったものをよく見るために、ガルフはしゃがみこんだ。
己の罪を、心に刷り込むように。
無言で死体を見つめるガルフに、呪術師は悦に浸りながら喋り始める。
「最期までその子は素晴らしかったですぞ! 仮面のお兄ちゃんが助けに来てくれると本気で信じておりました! そんな展開は来るはずないというのに!」
「…………」
「最期の
「…………」
「母親の方は殺しておりませぬのでご心配ならずに。ですが、目の前で娘を」
「――黙れ」
少年が、生首に触れて、再び立ち上がった。
無表情なんて生温いものではなく、まるで表情をごっそりと流れたような、失意に塗れた顔つき。
片手で顔を抑えながら、少年は魔力を現界させる。
「もう、何もかもがどうでもいい」
目の前で子供に爆散されたことも。
正義の少女たちを傷つけたことも。
最愛の母に拒絶されたことも。
もはや、全てが些事になってしまった。
今は、目の前の外道を殺せれば、何でもいい。
「【
「ようやくその気になりましたか……!」
十、二十、三十……いや、足りない。
クソ野郎をこの世から一欠片も残さずに殲滅するには、その程度では少なすぎる。
魔術使用過多により、眼球から噴き出した血が、泣けない自分の代わりにリアちゃんを喪失を悼んでいるようだった。
百に達した剣群を背に、揺るがぬ殺意を焚べて宿敵に対峙する。
「ぶっ殺してやるよ、キャスタァァァァ!!」
憎悪に塗れた決戦の火蓋が切られた。
※ちなみにヘルメスの腕はエリクサーでくっつきました。