魔剣鍛治師と正義の使徒   作:川さん

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過去一長くなってしまった……


第十七話 英雄

 

 

 

 

 

「……耳元で大きな声出さないでよ、アスフィ」

「っ、ガルフ!」

 

 盾を投影し、三人に対しての爆破を一身に受けたガルフは、瀕死でありながらもその両足に篩をかけて立ち上がる。

 悪かったコンディションが最悪になるのを肌で感じながら、完全に光を失った右目を庇う。

 爆発によって生まれた破片が目の中に入り、右側が死角になってしまった。

 立っているのも辛いが、少年は目の前の外道にだけは屈したくないと思い、気合だけで踏ん張っている。

 

「性根まで腐ってるんだね、キャスター」

「戦術と呼んでくださいませ。母君を殺した術を使えば、貴方は必ず守ることに全てをかけると予想しておりました」

「本当に、救いようのないクズ野郎が……!」

 

 ガルフは霞む意識で現状を確認する。

 呪術師は重症を負ってはいるものの、奴自身はまだ十全に戦える。

 後ろの三人は砂埃こそあれ、それ以外に目立った傷はなく、魔導士のダメージも全てとはいかないが回復しているようだ。

 この場においてのイレギュラーである魔導士は辛く目を伏せるのみで、呪術師に加勢する様子も見られない。

 

 後ろの三人と共に戦う?

 いや、呪術に翻弄され全滅になるのがオチだろう。

 この世界の魔法と前世の魔術や呪術は体系が違いすぎる。

 いくら歴戦の戦士でも、執拗に攻撃する呪術師を初見で対応するのは不可能に近い。

 リヴェリアとガレスは未だに傷が完治しているわけでもなく、アスフィは帰って足手纏いになってしまう。

 脳みそに汗をかかせて考えていると、目の前を何かが横切った。

 

「考え事とは余裕ですな」

「――がはっ!」

 

 余裕の呪術師が重傷など感じさせない俊敏さで、ガルフの鳩尾を殴り飛ばす。

 不意をつかれたガルフは、ボールのように跳ねながら際の壁に激突する。

 何も反応できなかったリヴェリアたちは、眼前の化け物にようやく気づき、己の得物を構える。

 

「もう帰っていいですぞ。拙僧は長年に渡るゴミをようやく掃除できると、身を震わせておりますから、今なら逃して差し上げましょう」

「何をっ!」

「救援に入るのは自由ですが、犬死にになるのを理解した上で行動なさいませ」

 

 リヴェリアたちの返答を無視して、呪術師は自分の言いたいことを言って少年の方に向かっていく。

 三人は動けない。長く冒険者をしているせいか、勇猛と蛮勇の違いをよく理解しており、今の自分たちでは絶対に通用しない事が分かっているからだ。

 嗤い声を高々と上げながら、呪術師は少年の元に辿り着いた。

 

「本当に惨めでございますねぇ。お荷物さんたちを守るために自ら犠牲となり、長年の宿敵である拙僧を仕損じるとは……」

「だまれ……!」

「フハハハ! 黙りませぬとも! それよりも、拙僧はずーっと聞きたかった事がございます」

 

 呪術師は実に甘露であると破顔し、更に絶望の淵へと少年を誘おうとする。

 こちらを睨む気力も残っていない少年に、呪術師は優しく囁く。

 一度入れば二度と戻ってこれない廃墟のように、一度吸えばもうやめられない快楽の薬のように。

 ゆっくりと、確実に塗り込んでいく。

 

「なぜ、貴方は生きているのですか?」

 

 それは、少年にとって、傷だらけの子供にとって、吐き出すことのできない毒だった。

 

「っ、なにを、言って……」

「聖杯戦争であなたは勝利しました。しかし、その時、あなたの後ろに仲間はいましたか?」

 

 いるわけがない。

 セイバーも、アーチャーも、お母さんも、目の前のクズに殺されたのだから。

 

王国(ラキア)での一幕、あなたが守りたいと誓ったヴェルフ殿は、あなたと共に戦うと意気込んでいたクロッゾ一族は生きていますか」

 

 生きていない。

 全員、僕を生かすためにその身を犠牲にした。

 ヴェルフは魂を捧げ、ヴィルさんは鍛冶師としての矜持をボロボロにされた。

 

「それでもっ! 僕は、オラリオで生きたいと思える理由を……」

「一番の疑問はそこでございます」

 

 熱を上げる少年に、呪術師は冷ややかな声で言い放つ。

 

「あなたは【アストレア・ファミリア】や【静寂】殿への親愛で生存本能を取り戻した。彼女たちを守る対象と見做すことでかろうじてその命を繋いでおります」

「それが、どうした……!」

 

 ああ、その通りだとも。

 醜悪でひどく身勝手なエゴ、彼女たちは守られることを望んでなくとも、勝手に自身の願いをぶつけて生きる理由にしている。

 心は痛まない。

 僕は筋金入りのクズだから、身勝手な押し付けであったとしても、彼女たちを守ると決めたんだ。

 その果てに、どんな絶望が待っていたとしても。

 睨みつける僕に、キャスターは更に口を歪ませる。

 

「フフフフ、フハハハハハハハハハハハ! ならば、あちらの【静寂】殿の表情をご覧なさい!」

「………………………………え?」

 

 言われるがままに、視線が動いた。

 美しい灰髪の魔導士は、両眼を伏せて罪悪感をあらわにしている。

 今にでも自分をいびり殺してやりたい、そんな黒い感情が魔導士の中を渦巻いていた。

 毅然とした彼女には似合わない、自責と失意に塗れた表情。

 

 違う、そんな顔をさせたかったわけじゃないんだ……!

 ただ、いつものように、厳しい顔をして、時折笑みを見せてくれれば、それだけで僕は充分なんだ……!

 ――なんで、お母さんはそんな顔をしているの?

 

「正宗殿、全ては貴方のせいでございます」

 

 奇しくも、考えていた事の答えを、キャスターが言ってくれた。

 咄嗟に否定しようとして、否定できる要素はなく、キャスターが断言できる根拠しかなかった。

 指先が、急速に冷えていく。

 身体の熱が、急激に奪われていく。

 

「【アストレア・ファミリア】の方々も、あなたのそばにはいらっしゃいませんね。……はっ、もしや、既に殺されてしまったかも……」

「……やめて」

「やめるはずがなかろう! 断言してやろう! お前は罪禍の象徴にして、生まれてくる事が間違いだった厄災そのもの!」

「おい、【辺獄(リンボ)】、待て!」

 

 お母さんの声がとても遠くに聞こえる。

 耳を塞ごうとして、手を動かすほどの体力も残っていない。

 普段の口調を殴り捨てた、キャスターの素の口調で、彼は断言する。

 

 

 

「――千字正宗! お前のせいで人が死ぬのだ!」

 

 

 

 ボロボロだった心が、完全に砕ける音がした。

 

 

 

「おやおや、戦意を喪失してしまいましたか」

 

 もう、抵抗する力も、死に抗う気力もなかった。

 目尻に涙を溜めながら、ただ終わりの時を待つのみ。

 キャスターが心臓を穿つために、剛腕の左腕を大きく引いた。

 生きる罪である自分が、最期に願うことを許されるのであれば――

 

(――もう一度だけ、アリーゼに会いたいな)

 

 叶わぬ切望を抱く胸を、キャスターの獰猛たる左腕が貫こうとする。

 残酷に、前世から続く彼らの因縁を断とうとする。

 ゆっくりと、まぶたを閉じる。

 

 

 ただ、彼らは勘違いしていた。

 オラリオというものを、ダンジョンという魔境で何度も生き残ってきた者の執念を。

 特に、少年と大差ない年齢の娘を持つ、母の慈愛を。

 彼らが暗黒期の光となりうる存在を、みすみす死なすはずがないのだ。

 

「【吹雪け三度の厳冬、我が名はアールヴ】 」

「あなたは……っ!」

「【――――ウィン・フィンブルヴェトル】!」

 

 極寒の三条の吹雪が、呪術師を凍らせようととぐろを巻く。

 完全な意識外の氷撃に呪術師は一旦身を退き、呪術を展開させ相殺する。

 微かに息を切らしながら霜を払う呪術師は、驚愕の視線で下手人……リヴェリア・リヨス・アールヴを見つめた。

 

「まさか、本当に襲ってくるとは思いませんでしたぞ」

「オラリオを舐めすぎだ、小僧。貴様のような理不尽など、何度も経験している」

「――今のようにのぅ」

「なんとっ!」

 

 歴戦のドワーフの戦斧が、呪術師の胴体を掠める。

 口元から血を噴き出し、ガレスを睨み付ける呪術師に、ガレスは大笑をあげる。

 その態度が癪に触ったのか、呪術師は自らガレスを抹殺しようと呪術を展開するが、リヴェリアの援護によりうまくいかない。

 少年は眼前の光景を受け入れられない……否、受け入れたくない。

 また、庇われていることに吐き気を覚える。

 

「みんな、なにをして……」

「逃げますよ。早くこんな場所立ち去りましょう」

「アス、フィ……?」

 

 虚空からハデス・ハッドを脱いだメガネの女性が現れる。

 三人が土壇場で編み出した計画は至ってシンプルだった。

 レベル5である二人が呪術師を少年から遠ざけ、気をひいている間にアスフィが救出するという流れだ。

 うまくいっている計画に、少年は泣きながら待ったをかける。

 

「やだ、やめて、三人で早く逃げて……!」

「……誰が何と言おうと、私たちはあなたを見捨てるほど堕ちていません」

「でも、僕のせいで、また、みんなが……っ、アスフィ後ろ!」

 

 水色の髪の間から、こちらを嘲笑う式神が見えた。

 数にして十の式神が一斉にアスフィに襲い掛かろうとする。

 魔剣をすかさず放とうして、手に力が入らない。

 呪を携えた式神はアスフィに呪を解き放とうとして、

 

「本当に手口がワンパターンですね」

 

 バトルナイフによってその全てが撃ち落とされた。

 ガレスと戦闘しながら驚きに目を見開く呪術師を横目に、アスフィは少年を背負い始める。

 逃げる気がないなら、無理やりにでも逃すしかない。

 この少年は、こんなところで終わっていい器ではないのだから。

 

「アスフィ、だめ。僕はここで……」

「集中できないので少し黙っていて下さい。気が散ります」

「――ならば、拙僧が永遠に黙らせて差し上げましょう」

「〜〜っ、アスフィ!」

 

 数瞬の内に歴戦のドワーフを退けた呪術師は逃亡なんぞ許容するはずがない。

 しかし、彼の表情は変わらずニヤニヤと嗤っていた。

 少年の前でまた誰かが死んでくれることに感謝をして、アスフィの心臓を穿とうと手を振りかぶり――

 

「――《八重垣》」

 

 漆黒の短刀によって防がれた。

 それを見た瞬間、少年と呪術師の顔色が変わる。

 方や大事な師匠の、方や鎬を削りあった英霊の刀であったからだ。

 漆黒の短刀は赤黒く発光し、渦巻きのように収束していく。

 油断しきっていた呪術師が防御結界を張るが、魔力を糧に大気を斬り裂く赤雷の前では紙切れ同然であった。

 迸る血染めの雷は呪術師を巻き込んで突き抜けて行った。

 

「なんで、アスフィがそれを……」

「説明は後です。【九魔姫(ナイン・ヘル)】、【重傑(エルガルム)】離脱します!」

「心得た!」

 

 ()()()()()()()()()()ガレスが起き上がり、戦場を離脱する。

 機を見計らい、アルフィアの方を見つめていたリヴェリアもガレスと共に脇道へと逃げる。

 三人にとっての本命は呪術師の少年に対する執念を利用し、とっておき(八重垣)の一撃を食らわせることであった。

 アスフィは作戦が成功したことに深呼吸をし、次の行動に切り替える。

 あとは少年を背負って離脱するのみである。

 

「逃がしませぬゾォ!」

「っ、どこまで化け物なんですか……!?」

 

 半身を焼け焦がれ、顔の半分が黒く霞んでいる呪術師は、それでも少年をつけねらう。

 絶好の機会を、世界を超えてもなお焼きついた少年への憎悪のみが彼を突き動かしている。

 

「魔道具が当たらない……!」

 

 少年を背負っているのに加え、先程の《八重垣》は自身の魔力を大量に注ぎ込んだ。

 魔導師タイプのリヴェリアならまだしも、魔法を主だった戦闘手段にしないアスフィにとって、その負担は計り知れないだろう。

 即効性の高い魔道具を闇雲に投げているが、まるで予見されているかのように当たることがない。

 アスフィが疑似的な魔力枯渇(マインドダウン)を起こしているだけなのだが、それを指摘できる者はこの場にいなかった。

 

「まずい、追いつかれる!」

 

 気づけば十メートルも離れていた呪術師との距離は、三メートルにも満たないほどになっていた。

 呪術師の執念にアスフィは冷や汗を流し、何とか最善策を模索する。

 必死に逃げる自分も、背にいる少年も助かるハッピーエンドの道を考える。

 それに、まだ少年に言わなければならないことがあるのだ。

 しかし、現実はいつだって残酷だ。

 

「っ! 速すぎるでしょうが!?」

「お覚悟をォ!」

 

 呪術師の凶腕が少年ごとアスフィを貫こうとする。

 技能なんて一ミリも含まれてない、力に身を任せた天然の凶器。

 抗いきれない『絶対』にアスフィは死を覚悟して――

 

「【福音(ゴスペル)】……!」

 

 ――母親の魔法が呪術師を吹き飛ばした。

 

 アスフィは咄嗟にアルフィアを凝視する。

 かの【静寂】は、なぜ、自分は魔法を打ったのだろうと、信じられないように突き出した右手を見つめている。

 まるで、無意識のうちに、本能が二人を助けろと叫んだように、そこに彼女の意識は介在していなかった。

 愛する妹(メーテリア)の幻影を掻き消すことになったとしても、オラリオを火の海に変えると決心した女はどこにいったのか。

 そんな心情などいざ知らず、この絶好の機会を旅神の眷属が逃すはずない。

 

(感謝します。【静寂】のアルフィア)

 

 アスフィは心の中でアルフィアに礼を言い、少年と共に戦場を離脱していったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あそこで死にたかったのに、何で助けたの……?」

 

 痛いくらいの静寂を破ったのは少年であった。

 呪術師から逃げ切り、白装束の影もない安全地帯に着いた矢先、少年は問いただす。

 アスフィは魔道具の確認をしながらため息をつく。

 

「あそこで貴方を死なせるという判断は私たちの中でなかった、それだけです」

「また、僕の周りで人が死ぬんだ。アスフィも死んじゃうかも、しれない」

「……」

「僕は、生きてることが間違えで、だから、」

「っ、何してるんですか!?」

 

 魔剣を自身の喉に突きつけようとする少年を、アスフィは必死に抑える。

 少年が瀕死の状態でも抑えるのに時間がかかったことから、少年の実力は天と地ほど離れていることを再認識させられる。

 何とか魔剣を奪ったアスフィは、下を向いて生きる希望を失っている少年の頭を叩く。

 

「私たちの苦労をドブに捨てる気ですか!? 今の行いはあの二人への冒涜にも繋がりますよ!」

「……」

「あぁ、もう! いつもの貴方はどこにいったんですか……!」

 

 何を言っても響かない様子に苛立ちを覚えるが、少年の闇の一端に触れた者として見捨てることなど毛頭ない。

 呪術師との死闘、そしてその中で語られた数多の情報を聞いた限り、彼を責める道理はないのだ。

 むしろ、発狂してないだけマシであろうと思っていた。

 

「とりあえず【アストレア・ファミリア】の誰かに……」

 

 少年が最も信頼し、心の拠り所でもある彼女たちの元へと連れて行こうと、傷だらけの少年を再び背負った時、()()は起こった。

 オラリオに破滅を告げる鐘にして、崩壊への序章。

 邪神の奸計が、オラリオを食い尽くそうとうねりを上げる。

 

 

 ――――ひとーつ。

 

「なっ!」

「あれは、神の、送還……?」

 

 大いなるエネルギーの本流が、一つの光の柱となって天に昇る。

 

 

 ――――ふたーつ。

 

「馬鹿なっ!? 二柱目(ふたつめ)だと!?」

 

 住民の避難を行なっていた輝夜は、思わぬ所業に目を見開く。

 

 

 ――――みーっつ。

 

「おいおいおいおい、嘘だろ……?」

 

 白装束を無力化していたライラは、予見してしまった地獄に冷や汗を流す。

 

 

 ――――よーっつ、いつーつ、むーっつ。

 

「主神のクソ野郎が、送還されちまった……」

「恩恵がないと、俺たちは……!」

 

 身を削って闇派閥(イヴィルス)と戦っていた冒険者たちは、背中の奇跡が消えるのを肌で感じ、闇派閥(イヴィルス)から逃げ出す。

 

 

 ――ななーつ、やーっつ、ここのーつ。

 

「【ベレヌス・ファミリア】主神、送還!」

「【ゼーロス・ファミリア】全滅!! 止まらない……っ、ファミリアの殺戮が止まりません!!」

 

 街は燃え盛り、血は流れ、数多の星は散りゆく。

 恩恵を消されて無辜の民と化した冒険者たちを、闇派閥(イヴィルス)たちは逃がさない。

 

「キャハハハハハハ! 合唱(コーラス)を始めようじゃねぇか! オラリオォォォォォ!!」

 

 ヴァレッタは【殺帝】の名にふさわしく、冒険者たちの殺戮を開始する。

 抵抗する力を奪われた冒険者たちは、抵抗することも叶わず、虫のようにその命を潰されていく。

 何とか生き残ろうと皆が必死にもがく中、一つの声がオラリオに響いた。

 

「――聞け、創設神(ウラノス)。時代が名乗りし暗黒の名のもと、下界の希望を摘みにきた」

「神、エレン……?」

「我が名はエレボス! 原初の幽冥にして、地下世界の神なり!」

 

 破壊、慟哭、恐怖、絶望。

 数多の黒き感情がオラリオを包む。

 邪神の号令により、闇派閥(イヴィルス)の猛攻は更に激しさを増し、冒険者たちの心は折れていった。

 アスフィは少年に緊急用に保管しておいたエリクサーをかけて、強制的に立ち上がらせる。

 

「ガルフ、動きますよ。今のオラリオには貴方の力が必要です」

「無理だ……」

「え?」

「僕は、もう戦えない」

 

 少年はへたり込む。

 呪術師の言葉は彼の心を巣食っており、戦意をいとも簡単に奪っていた。

 後悔、自責、陳謝が少年の中を渦巻き、内側で暴れ回っている。

 暴れた先で到達する結論はいつも同じだ。

 

 ――なぜ、お前は生きているんだ?

 

 実際、彼はアスフィがいなくなれば自殺に走る。

 守れなかった命、自分のせいで犠牲になった人々への謝罪を呟きながら、その生涯に終止符を打つだろう。

 表情の抜け落ちた能面のような少年の手を引っ張り、アスフィは強制的に大地を踏ませ――その頬を引っ叩いた。

 

「っ、何するの……!」

「何をうじうじ言っているのですか! それでもあなたは『千子村正』の一番弟子なんですか!?」

「何で、そのことをっ」

「あなたはもう英雄候補の一人なんです! ここですべき行いは絶望の虜になるのではなく、一人でも多くの命を救うこと! それがなぜ分からないのですか!?」

 

 もはや悲鳴に近いアスフィの叫びに、少年は師匠のことの疑問を押し込み、代償に無責任に言い放つアスフィを睨みつける。

 

「何が、アスフィに何が分かるの!? 頑張って、みんなのことを守りたくて、必死に戦ったのに、僕だけがいつも生き残る!」

「っ!」

「笑いながら、幸せな顔で、僕に後のことを託して逝ってしまう! 残された者の気持ちなんて考えないで! 僕は、何万人も人を殺してるクズなのに……!」

 

 少年の心はぐちゃぐちゃだった。

 鍛治のみならず人生を教えてくれた師匠は、笑いながら死んでいった。

 弓術の手解きをしてくれた弓兵は、心の底から笑みを浮かべて、この手でその霊核を貫いた。

 一緒に戦ってくれた兵士たちは、魔獣に変えられて全員焼き尽くした。

 守りたかった弟は、何度も感謝を伝えてきて、魂ごとこの世から消え去った。

 全ては、こんな(クズ)のために。

 

「そんな僕に、一体何を救えるの……?」

 

 何も救えないだろう?

 そう、自嘲めいた視線がアスフィを貫く。

 聞いているだけで涙が出てしまいそうな、悲痛な話にアスフィは下唇を噛み、そしてもう一度頬を叩いた。

 二度目は予想していなかったのか、死人のような顔をした少年の目が見開かれた。

 

「なんで、そんな風に、なってしまったんですか」

「え……?」

 

 彼女は、泣きそうで、辛そうで、そして微かに失望の感情を滲ませた顔で少年の胸ぐらを掴む。

 彼女は思う。

 これは身勝手な押し付けだ。

 勝手に『千子村正』を、ヘルメス()という絶対を打ち破った者を彼に重ねている。

 既にボロボロにひび割れた少年を、無理やり戦場に連れて行こうとしている。

 醜い感情だと分かっている。

 だけど、声を荒げずにはいられなかった。

 

「あなたは悪くなんてない、あなたの選択(ぎゃくさつ)は間違えなんかじゃなかった!」

「でもっ、」

「それでも気にすると言うのならっ! 虐殺を許容した上で『英雄』となりなさい!」

「っ!」

 

 吐き気を催す所業に憤るのでもなく、自責の念に囚われるのでもなく、それを全て受け入れた上で高みへ昇れ。

 少女(アリーゼ)は後悔する少年を宥め、心の底から慰めた。

 母親(アルフィア)は過去に失った命とその者たちの『想い』を少年に説いた。

 しかし、アスフィは慰めるのでも、死者を引き合いに出すのでもない、虐殺という己の罪を乗り越え、『英雄』の階段を踏破しろ。

 残酷で、かっこよさなどない、英雄譚の一ページにも出せない顛末。

 

「なんで、そこまで……!」

「なんでって、それは……」

 

 問われたアスフィは自分に問うた。

 なぜ、自分よりも幼い少年をこれ以上戦場に立たせようとする?

 

 彼がオラリオ有数のレベル5だから?――違う。

 

 彼が『千子村正』の弟子だから?――違う。

 

 彼が自分よりも強い実力の持ち主だから?――違う。

 

 己に問いかけていくうちに、胸中を刺激する感情の正体が形作られていく。

 それは、恋心なんて甘酸っぱいものではなく、

 それは、憎悪なんて真っ黒なものでもなく、

 それは、もっと意地汚くて美しいもの。

 身を焦がし、その背中に抗うこともなく視線が向いてしまう、厄介な『想い』の正体は――

 

 

「――あなたは私の『憧憬』なんです!」

 

 

 きっと、憧れだ。

 初めは『絶対』に土足で踏み入り、赤子の手を捻るように侵した『千子村正』に対する憧れだった。

 しかし、オラリオで『正宗』と関わるうちに、それは彼へと移り変わった。

 見たこともない魔剣に、ポンポンと出てくる新たな魔道具の構想、都市最強に匹敵する実力。

 何より、主神のように打算だらけの自分とは違う、自己を顧みない真っ直ぐな善意。

 そんなものを間近で魅せられたら、憧れるのなんて仕方のないことだろう。

 だからこそ、許せない。

 自分の『憧憬』が膝を突き、失意に塗れ、その命を自らの意思で絶とうとするなんて、許せるはずがない。

 

 

「だから、『英雄』になりなさい。千子正宗!」

 

 

 ハァ、ハァと息を荒くして、憧れる少女は言い切った。

 自分が憧れているんだ、だからさっさと立ち上がれと、傲慢にも命令した。

 ポカーンとした顔をしていた少年は、数秒後にようやく理解が追いつき顔を赤くしている少女を見て吹き出す。

 

「プッ、あははははは! そんな酷い理由で『英雄』を目指す人なんてただのバカしかいないよ!」

「なっ、そんなに笑わなくても……」

「だけど、そんな『想い』に乗せられた大バカが、此処にはいたみたい」

「え……?」

 

 先程の死にたがっている少年は、もういなかった。

 今この場にいるのは腹を捩るほど笑い転げて、希望を確かに取り戻した、『英雄』の卵。

 簡単に『憧憬』という名の『想い』に身を委ねた、愚者にして破滅の道を歩む者。

 大きく深呼吸をし、勢いよく立ち上がったガルフは、高台を指差しながらアスフィに頼み事をする。

 

飛翔靴(タラリア)であそこの高台まで連れて行って」

「えっ?」

「君が憧れた、『英雄』の虐殺劇を見せてあげるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「壮観だね」

「……えぇ、こんなものは二度と見たくないですが」

 

 高台から見える景色は火の海だった。

 悲鳴のない場所は今のオラリオに存在しない。

 恩恵を消された冒険者、住民を巻き込んで自爆する自決兵たち。

 戦う術を持つ強者たちは闇派閥(イヴィルス)を満身創痍で食い止め、それを嘲笑うかのように白装束は無辜の民を狙う。

 

「おっ、さすがアリーゼたちだ。やっぱり眩しいなぁ」

 

 見渡している間に知り合いの少女たちを見つけた。

 絶望を宿しながらも、必死に一人でも多くの人を救おうとするまさに正義そのものを体現している。

 主神まで戦場に出ているのだから、そのお人好しさは他派閥よりも一歩先を行くだろう。

 一通り見渡した後、大きく息を吐いた。

 気色の悪いほどの既視感に、苦笑いを浮かべて。

 

「一ヶ月前と、何も変わらない」

「……」

「だけど、この程度でよく調子に乗れるね」

 

 決めたんだ。

 人を沢山殺しても、『英雄』になる。

 数多の人々から非難されたとしても、今だけは僕なんかに憧れてくれた隣の少女のために戦おう。

 冒険者たちを殺して嘲笑っているヴァレッタやオリヴァスに伝えてあげたい。

 

 ――虐殺において、僕に敵うと思うなよ。

 

「【投影開始(トレース・オン)】」

 

 急速に脳内を駆ける記憶と記録。

 それは、在りし日の戦の記憶。

 家族を喪い、戦友を喪い、何度も炎神から授かった神弓で敵を射抜く。

 民を、父母を、兄弟たちを、愛していたし、愛されていた。

 次々に戦果を上げる自分を讃える声は尽きなかったが、彼は満たされることはなかった。

 しかし、彼は運命に出会った。

 永遠の好敵手にして、生涯最高の死合い相手。

 蒼炎を纏いし鏃を何度も槍で弾き飛ばし、黄金の鎧はこちらの軍勢を幾たびも苦しめた。

 彼とならば、最高の最期を迎えられる。

 そんな二人の因縁は、自分が彼に毒を盛ることによって、潰えることとなった。

 

「【投影装填(トリガー・オフ)】」

 

 ――借りるよ、アーチャー、あなたの神器を。

 

 両手が焼き尽くされる。

 人には手に余る神器が、かの英雄を模倣することで顕現する。

 神々は、自分達と同じ力の再演に目を見張る。

 そうだ、御照覧あれ。

 これこそ、『英雄』の序章にして、英雄譚などには綴られることのない虐殺劇。

 

「いってこい、正宗」

 

 泣きそうなくらい懐かしいセイバーの声(幻聴)が耳を刺激した。

 彼の言った地獄には、もう片足を突っ込んでいるのかもしれない。

 この『英雄』の道こそが地獄への片道切符なのかもしれない。

 それでも、そうだったとしても、僕は戦うよ。

 僕を必要してくれる、僕を『憧憬』として見てくれる人たちのために。

 

 ――どこかで、師匠が、クスリと笑った気がした。

 

「ブリテンの王様にもよろしくな」

「っ! うん……!」

 

 何もかもお見通しなんだ。

 神器の複製(この行動)が、まだ僕にとっての終着点じゃないことなんて、全部分かってるんだね。

 さすがは僕の人生の師匠だと思いながら、大きく息を吐く。

 眼下に広がるのは命を弄ぶ闇派閥(イヴィルス)たち。

 エリクサーで治った右眼を『代償』とし、【鷹の目】を【千里眼】に昇華させる。

 これで二度と右眼は光を写すことはない。

 しかし、英霊の技能を利用する自分にはちょうどいい罰だろうと喜んで受け入れる。

 【千里眼】で狙いを定めるのは闇派閥(イヴィルス)たちの心臓。

 嘲笑う者たちに贖いという名の死を与えるために、僕は今から禁忌を犯す。

 偉大なる大英雄の神弓にして、クルクシェートラの戦いにて数多の戦士を屠った殺戮の象徴。

 その名は――

 

全行程投影完了(セット)―――――――――――是、炎神の咆哮(ガーンディーヴァ・ブレイドワークス)!」

 

 神さえ諸手を上げるチートが、闇派閥(イヴィルス)へと咆哮を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がぁぁぁ!!」

「なんなんだこれはぁぁ!!」

「いやぁぁぁぁ!!!」

 

 それは唐突の出来事だった。

 大いなる魔力の奔流が神威のように高所で渦巻き、蒼炎となって分散する。

 放たれた神弓の一射は無数の条となり、闇派閥(イヴィルス)の心臓を穿つ。

 火炎石で自爆する暇など与えない。

 抗うことの出来ない神の蒼炎が、火炎石ごと対象を灰さえ残さずに焼き尽くす。

 闇派閥(イヴィルス)の十分の一ほどを殺し尽くしたところで、弓撃はようやく止んだ。

 

「うそ、何が起こって……」

「これは神の力(アルカナム)ですって……!」

 

 危険を察知し、アストレアを護衛しに馳せ参じたアリーゼは、どこか温かみを覚える無慈悲な殺戮に、目を見張る。

 アストレアは弓矢の節々から感じる神の気配に、どこかの神が禁忌を犯したと勘違いする。

 アストレアが危惧するように、邪神たちが対抗して自らの神の力(アルカナム)を放とうとしたとき、オラリオに声が響く。

 

 

「下を向くなァァァァァァ!!! オラリオォォォォォ!!!」

 

 

 その声は、邪神(エレボス)の号令と同じ形で、オラリオの冒険者たちに届いた。

 冒険者たちは疑問に声が上がった場所……高台の方へと目線を向け、正義の少女たちは聞き覚えのある少年の声に耳を疑う。

 観客は多い方がいい。

 これは、誰の口からも語り継がれることのない、偽りの英雄譚のプロローグなのだから。

 

「――聞け! オラリオに集いし、一騎当千、万夫不当の英雄たちよ!」

 

 今のオラリオで音が鳴っているのは少年の声のみ。

 冒険者も、闇派閥(イヴィルス)も、無辜の民も、迎撃、殺戮、避難など頭の片隅に置き、高台の方へ視線を注ぐ。

 血だらけになりながら、燃え盛る弓を携える少年に、数えきれない眼差しが穿たれる。

 新たな希望の幕開けにエレボスは邪神の仮面を崩し、最高だと言うように笑った。

 ――ああ、本当に台無しにしてくれる。

 

「本来交わらぬファミリア同士であっても、今は互いに背中を預けよ!強大な敵を打ち果たすためではなく、大切な誰かを守るために!」

 

 その咆哮は、静かに、ゆっくりと、されど確実に冒険者たちの闘志を再燃させていく。

 力を合わせる理由は、己よりも強い敵に打ち勝つためではない。

 己の命に換えても守りたい存在を死守するためだ。

 守ろうとして、誰も守れなかった自分が言うのは、何と無責任なことであろうと自嘲する。

 だけど、もう決めたことだ。

 外道でも、クズでもいい、僕は『英雄』になる。

 

「我が真名は千子正宗! 誇り高き師と母の名の下に、君たちの光となろう! だから、前を向けぇ、オラリオォォォォォ!!!」

 

 オラリオが、一斉に静まった。

 燃え盛る火の音も、崩壊を繰り返す瓦礫の音も、今だけはしなかった。

 少年――否、『英雄』の号令に、大気さえも息を呑み、静止をやめない。

 惨劇に似合わない静寂を切り裂いたのは――

 

「絶やすなァァァァ!!」

 

 ――愚かな『英雄』の友であった。

 急に声を荒げたラウルに、隣で呆気にとられていたフィンとロキは肩を震わせる。

 

「【ロキ・ファミリア】は今すぐ【フレイヤ・ファミリア】と連携して住民の救助を優先! 闇派閥(イヴィルス)への撃墜はガルフがしてくれるっす!」

「ラウル……」

 

 派閥で権力などあるはずがない、取り柄もないただのレベル1の凡夫が、遥かに強い冒険者たちに命令をしていく。

 レベル1の指揮官という異例の事態に【ロキ・ファミリア】の団員たちは動きを止めるが、隣の団長と主神が頷いているのを見て咄嗟に動き始める。

 凡夫の胸のうちにある『想い』は一つだけ――

 

「――ガルフが築いてくれた光を絶やすな!!」

 

 

 

 

「我々のすべきことは怪我人の治療だ! 軽症の者はディアンケヒトのところに、重症の者は私自ら治療しよう!」

「は、はいっ、ミアハ様!」

 

 頬を染めた犬人にいつも通り気づかない医神は、額についた汗を拭いながら呆れ顔で顔を向ける。

 視線の先には号令を行った高台の姿があり、目を凝らせば魔剣談義を重ねた二人がいる。

 見事に付き合わされているヘルメスの子に同情しつつ、神をも震わせた少年へ惜しみのない賛辞を送る。

 

「本当に、お主は何者なんだか……」

 

 

 

 

 

「殺せっ、あの英雄気取りのクソガキを殺せぇぇぇぇぇ!!」

 

 冒険者たちが呆然から帰れば、対する闇派閥(イヴィルス)たちも正気に戻る。

 呆気に取られた、取られてしまったヴァレッタは民衆を殺戮を再開するのではなく高台の【異端分子(イレギュラー)】を殺すことを配下に命令する。

 あの人智を超えた攻撃の後、そう簡単には本領に戻れないはず。

 ボロボロの状態のガキを殺し、オラリオに灯った光を掻き消してやる。

 敏捷に優れた闇派閥(イヴィルス)たちは次々に高台へと向かっていく。

 ――そこには、最高峰の魔道具製作者(マジックメイカー)がいるとも知らずに。

 

「死に晒せっ……なっ、なぜ貴様がっ!」

「【万能者(ペルセウス)】ゥゥゥゥ!!」

炸裂薬(バーストオイル)!」

 

 爆発型の魔道具をばら撒き上がってきた闇派閥(イヴィルス)たちを一網打尽にしていく。

 なんとか回避して上に登れたとしても、そこから先は空中戦。

 飛翔靴(タラリア)を持つアスフィが制空権を維持するのは当然の帰結であった。

 短剣で上がってきた白装束の喉を切り裂き、高揚した声で言い放つ。

 

「ここは英雄が生まれる都。金や名誉、出会いを求めた馬鹿者しかいない無法者の土地」

「がはっ!」

「だから、彼の言葉にあてられない者は、オラリオにいない!」

 

 空の女王という最高の護衛に、白装束たちは少年の姿さえ見ることができなかった。

 

 

 

 

 

「ノイン、イスカ、マリューは保護した住民を避難所まで案内、ライラは【勇者】に状況の確認を! 輝夜は私と一緒に闇派閥(イヴィルス)の迎撃よ!」

「「「「「了解!」」」」」

 

 正義の少女たちは、敬愛なる主神に見守られながら、各々行動を始めていく。

 末っ子が灯した光の希望を、何としてでも繋いでいくために。

 誰よりも打ちひしがれていたアリーゼは、矢面に立って闇派閥(イヴィルス)を無力化していく。

 いつもの調子に戻った団長に、輝夜とは微かに笑みを浮かべた。

 

「気合が入っているようだな。先程の憂いが嘘のようだ」

「当たり前よ! 本当に、悩んでいたのがバカみたい」

「まぁ、あの猛々しい号令を聞けば、心が震えない者はいないだろう」

 

 高台に目を向ければ、再び神弓に力を溜めている少年と、必死に迫り来る闇派閥(イヴィルス)を捌いているアスフィの姿がある。

 彼の隣に自分が立っていたかったと思うのは傲慢かと苦笑し、そんな妄想ができるほど回復している自分に驚く。

 

「青二才も見習ってくれれば良いのだがな」

「きっと、リオンもすぐ立ち直るわ。この号令をどこかで聞いているんだから」

 

 あまりの地獄に心が壊れかけてしまった妖精を、二人は心配そうに想う。

 それこそ、アーディが死んでしまっていたら、確実に堕ちてしまっただろう。

 迫ってきた闇派閥(イヴィルス)の腱を切り裂く。

 火炎石で自爆も出来ない白装束はのたうち回った後、輝夜によって気絶させられる。

 そのまま白装束を放置し、二人はどんどんと闇派閥(イヴィルス)を無効化しようと進んでいく。

 ひとえに、未だに神弓を放とうとしている少年の負担を軽減するために。

 

 

 

 

「さすが英雄の都、オラリオはこうでなきゃね」

 

 眼下に広がるのは、火の海に包まれながらも咆哮をやめない冒険者たち。

 身体中の血管がブチブチと悲鳴を上げているのを無視して、アスフィがくれた即効マジックポーションを飲み干す。

 神器を複製することだけで生命の危険なのに、それを連続で使うなど正気の沙汰ではない。

 あぁ、存分に僕の身体を蝕め。

 僕の望む昇華はこの程度じゃない。

 もっと先、神器(これ)はただの予行練習だ。

 だから、連続で打つなんて片手間に出来なきゃいけない。

 それに――

 

「――焚きつけた張本人が一撃で終わりです、なんて『英雄』ぽくないもんね」

 

 炎神の神弓に、矢を番える。

 対象は闇派閥(イヴィルス)の心臓に加え、こちらを面白そうに、そして、呆れた視線で見ている邪神エレボス――否、神エレン。

 そばに強そうな黒い甲冑の人がいるから大丈夫だろう……うん、たぶん、きっと。

 こんな滑稽な演技をしているあの人たちに、僕の偽りの英撃をくれてやる。

 

「僕の前で絶対悪(クズ)なんて名乗るのはいけないよ」

 

 正真正銘のクズは、人殺しを名声の道具にしている僕なんだから。

 

「轟け――――――是、炎神の咆哮(ガーンディーヴァ・ブレイドワークス)!」

 

 全てを食い尽くす灼熱の顎が、白装束と悪の首魁へと命中したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これにてアストレアレコードの第一部が終了です!
私事ながら目標であった1000ptを達成できたのは皆さんのお陰です!これからも『魔剣鍛治師と正義の使徒』をよろしくお願いします!
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