魔剣鍛治師と正義の使徒   作:川さん

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今回は短めです。
朝起きて評価を見たら赤バーになっていて発狂しました。


第六話 影の英雄

 

 

 

 

 

『今回の小拠点襲撃作戦はかなり親指が疼いた。君と彼女たちを一緒にしてしまった選択を恨んでくれていい、必ず制圧してくれ。先遣隊が大体の地図を書いてくれた、よければ活用して欲しい』

「彼女たちって、誰だろ」

 

 手紙に書いてあったフィンさんの言葉から脳裏に嫌な予感がよぎったが、さすがにそれは無いかと否定する。ラウルもそんなこと言ってなかったし、僕と【アストレア・ファミリア】だと戦力過多な気もする。

 このオラリオでフィンさんが信頼してかつ女性が筆頭の勢力ならおのずと限られてくる。

 

「もしかしたら【ヘルメス・ファミリア】かな。アスフィならこういうの得意そう」

 

 何故か怖がられている苦労人の女性を思い浮かべて、あり得る可能性だと思った。

 アスフィは副団長だけど、主神と団長のせいでいつも矢面に立たされてる気がする。

 そうこうしているうちに、地図に示されている場所に辿り着いた。

 地図を見る限り、今回の襲撃は二面作戦のようで僕は裏口から、そしてフィンさんの『彼女たち』は表口から突入するようだ。どこか既視感を感じる作戦だけど、重要な襲撃なのでどうでもいいことは頭の片隅に追いやる。

 突入の時間がまだ先なので武器の手入れでもしようかと思うと、近くから気配がした。

 

「っ、あれは……闇派閥(イヴィルス)!」

 

 見覚えのある白装束たちが眼前に飛び込んできた。

 物陰に身を隠しバレないよう息を潜めていると、白装束たちはこちらに気づかず逡巡するような素振りを見せ、意を決して中に入っていく。

 それに合わせて、僕も音を立てないように足を進める。

 

「追いかけよう。規定の時間よりは速いけど、ここで取り逃すよりはマシ」

 

 そして、少年は突撃予定時間の十分前に一足早く小拠点へと足を踏み込んだ。

 

 ――少年がアリーゼたちと再会するまで、あと二十分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少年が時間を無視して乗り込んだ一方、表口では――

 

「なんでガルフは裏口からなのよー!」

「フィンの命令だから仕方ねぇだろ。中で合流すりゃいい」

「どこぞのエルフ様は会いたいのか会いたくないのか分からない顔をしておりますのぉ。これでは襲撃に失敗してしまいそうです」

「口を閉じろ、輝夜。色々と複雑なんです。彼と再会したいのに、少し怖がっている自分もいて……」

 

 大事な作戦の前でも彼女たちは彼女たちらしかった。

 若干一名だけ複雑な面持ちだが、本番になれば切り替えられるだろう。

 指摘する輝夜も内心ではいざ会うとなると、ずっと煙たがってきた自分はどう接すればいいか悩んでいるのだが、それを知るのは全てを察していた正義の女神(主神)だけだった。

 各々が胸中に思いを抱えるなか、団長たるアリーゼは毅然とした顔をしている。

 

「昨日は一番ダウンしてたお前が今日は絶好調じゃねぇか?」

「もちろん! もう、私は迷わないから!」

 

 少年から逃げない。

 何度拒絶されても、拒絶された数だけその手を引っ張る。

 どれだけ嫌な顔をされても、その分笑顔で応えてあげる。

 

「ガルフがどんなに否定しても、ガルフは【アストレア・ファミリア】の一員だからね!」

 

 一点の曇りもない笑顔に、団員たちも釣られて笑顔になっていった。

 そんな時だった――襲撃予定の拠点から悲鳴があがったのは。

 

「きやぁぁぁぁぁ!!!」

「悲鳴っ! 輝夜とリオンは私と一緒に乗り込むわ、ライラたちは辺りの警戒と敵の増援を食い止めて!」

「分かりました」

 

 【アストレア・ファミリア】の主戦力である三人でまずは乗り込む。

 悲鳴の身元が分かって保護できるまでは迅速に対応する算段でオーダーを出した。

 私はリオンと輝夜を連れて拠点へと足を踏み入れようとする。

 

「アリーゼ!」

 

 外での仕事を任せたライラが、大きな声を上げて私を呼んだ。

 なにかと思い目線を背後に逸らすと、そこには軽く笑みを浮かべたパルゥムが見える。

 

「ガルフのこと、頼んだ!」

 

 ライラは半ばガルフはもう拠点に乗り込んでいると確信していた。だからこそ、一番最初に彼に会うのは私だろうと当たりをつけて言ったんだろう。

 その言葉に対して、返答は一つしかない。

 

「任せて!」

 

 確固たる意志を持って、私は待ってくれてた二人と共に拠点に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今のところ人影はありませんね」

「あぁ、いなさすぎて億劫になるくらいな。団長、どうする?」

「……とりあえずこのまま進む。悲鳴の音量からそろそろ着くはずだし、リオンは詠唱を始めて!」

「分かりました――【今は遠き無限の星々……】」

 

 新米ながらもリュー・リオンが【アストレア・ファミリア】で一目置かれている理由の一つ、それは強力な魔法である。

 前衛の剣士でありながら並の魔導士以上の火力を備えた固定砲台……それに加えて『並行詠唱』も習得している。単純な火力だけで言えばリュー・リオンは【アストレア・ファミリア】でも随一の強さを持つのだ。

 道が開け、光が漏れる。

 新しい部屋に着くようで、おそらく悲鳴の居場所はここだろう。リオンと輝夜に視線を送り、『敏捷』をフル活用して踏み込んだ。

 

「覚悟しなさい! 私たちは【アストレアって、何これ……!」

「これは、闇派閥(イヴィルス)の死体。しかもこの斬り口、私と同じ刀を使うものがいるようだな」

 

 そこに転がっていた死体(もの)は白装束を着ていて、()()()()()()()()()()()()

 死体はまだ生暖かく、命を散らしてから数分も経っていないのが分かった。

 切断面は人を斬ったとは思えないほど滑らかで、それだけで下手人の隔絶した技量が感じ取れる。

 特に輝夜は同じ武器を使う者として、この状況があり得ないことだと事態を飲み込めずにいた。

 

「ふざけるなっ……! 刀というものは確かに力よりも技量が試される、しかし、これは明らかに()()()()!」

「それに、ここは……お寺?」

 

 まるで野菜を切ったような滑らかさ、白装束はおそらく一秒も経たずにその命を失ったのだろう。

 本来、刀というのはその刀身の反りを最大限活かして戦う物だ。剣では叩きつけることが可能だが、刀となれば撲殺は不可であり、そんな事をすれば折れてしまう。

 そのため、冒険者で刀を使う者はそうそういない、己の技量が刀に追いつくまでかなりの時間を要するからだ。幼い頃から刀を握らせれてきた自分だからこそ、下手人の技量は信じられない。

 さらに奇妙なのはこの部屋の造形だ。極東で神ではなく仏と呼ばれるものを祀る建物として寺がある。賽銭箱に紐のついた鐘、輝夜のみが見たことがある寺の下位互換のような作りであった。

 

 ――色々な奇妙が折り重なったからだろうか、後ろから迫る長身の影に気づけなかったのは

 

「輝夜! 後ろ!」

「っ! しまったッ!」

 

 首を狙い、長すぎる刀を振りかぶって襲い掛かろうとする『影』。

 一切の音が消え、時の流れが緩慢になる中、輝夜は濃密な『死』を覚悟する。迫り来るであろう痛みに目を閉じて、反撃できるように愛刀を逆手に持った。

 アリーゼさえも目を見開き動けないでいる最中――

 

「【ルミノス・ウィンド】!!!」

 

 ――リューだけは動いていた。

 既に完成していた11の風の球を全て『影』にぶつける。

 直撃した『影』はよろめき、その中心からは砂塵が舞う。刹那の攻防で作った明らかな隙――それを見逃す者はこの場にいない。

 

「ナイスよ! リオン!」

「今だけは褒めてやる!」

 

 炎が付与(エンチャント)された剣と神速の一太刀が『影』の胴を斬り裂こうとし、掠めた。

 ガラ空きの胴体に叩き込んだはずなのに、肉を切った感触は一切ない。

 そこで気づく。掠めたのではない…………()()()()()のだ。

 

「嘘っ! リオンの魔法をもろに食らったのに」

「避けられた、だと……?」

 

 『影』は剣と刀が当たる直前、真後ろに飛び引いた。

 簡単なことではあるが、アリーゼと輝夜の迅撃は容易く躱せるものではなく、その上魔法を直前に食らって態勢が悪い状態での話だ。

 第一級冒険者であってもそれなりの負傷を与えられる連携であった、それのはずだったのに、返ってきたのは空を斬る感触のみ。

 アリーゼたちと『影』の距離は約3メートル、煙がようやく晴れ、『影』の全貌が明らかになる。

 

「あれは……ウォーシャドウ?」

「ふざけるな。新人殺しがレベル3(わたしたち)を圧倒してたまるか」

 

 ダンジョンの上層で出現するウォーシャドウ……通称は『新人殺し』。鋭利な爪を使った攻撃に何人もの初心者がその身で赤い花を咲かせる。

 ウォーシャドウと勘ぐったリューも確信があった――あれは、そんな生やさしいものではないと。

 

「東方風の出立ち、輝夜の知り合いじゃないわよね?」

「おかしな知り合いなどあなたたちだけで充分だ。同郷でも何でもない、あれはただの化け物だ」

「あの姿形は……『影』というより、『泥』でしょうか」

 

 驚くべきはその風貌。

 分かるのは全体的なシルエットのみで、表面は闇に覆われている。

 目を引くのはやはり身長以上の長さを持つ刀だ。

 黒一色に染まったそれは、何も知らない物が見ればただの長い棒だと勘違いしてしまう、それほど長い刀だった。

 

「話が通じる相手でもなさそうよねぇ」

「むしろあれに理性があれば奇跡だろう。しかし、技能に能力を全振りしたようだな」

「っ、脇腹が抉れている……!」

 

 【ルミノス・ウィンド】が直撃した箇所からは黒い泥が溢れており、常人でいうところの血であることは容易に理解できた。

 とてつもない技量の代償に、『影』は耐久を失ったようだ。

 つまり『影』の攻略法はただ一つ。

 

「極力距離をとりつつ魔法で倒す、これしかないみたいね。正義っぽさはゼロだけどその作戦で行きましょう!」

 

 無言の視線を持って、団長のオーダーに二人は肯定の意を示した。

 そして、リューが少ない精神力(マインド)を使って再び詠唱を始めようとしたその時、初めて『影』が構えを取った。

 

「「「っ!」」」

 

 長刀を逆手に構え、顔の真隣に持ってくる。

 それは、ただ奇抜な構えだった。

 そして、構えられた瞬間、三人の首は()()()

 信じられないように自身の首を触ると、確かな感触が返ってくる。

 横目で見れば、同様に二人も同じように姿勢をとり、疑惑と混乱の表情を貼り付けていた。

 頭を捻らす間にも『影』は構えを解いていない。

 数巡の思考を経て、ようやく確信した。

 落ちたのではなく、落ちたと錯覚したのだ。

 それはあり得る未来、いや、今の棒立ちが続けば確定された未来だろう。

 黒い刃先が首元に滑り込み、勢いのままその刃が食い込む。

 引き伸ばされた意識だけの、体は動かせない状態でその光景が思い浮かんだ。

 ようやく認識できて、アリーゼがとった行動は攻撃でも、はたまた防御でもない――――

 

「「アリーゼ、何をっ!」」

 

 ――――隣の二人を突き飛ばすことであった。

 可能な限り遠くへ、あの長刀の間合いに入らない場所に、レベル3の力を持って突き飛ばす。

 二人は驚愕し、そして自分の団長が何をしたのかをようやく理解することができた。

 突き飛ばして、剣を『影』に向かって構える。

 

「えっ……?」

 

 表情はおろか、顔の位置さえ漠然としない。

 しかし、それでも確かに、『影』が微笑を湛えた気がした。

 そして、『影』は声にならない言語を紡ぐ。

 

「《■返し》」

 

 それは、ある農民がたどり着いた人の極地。

 側から見れば、『影』はただ長刀を振りかざしただけだった。

 正面から見ていたアリーゼは、防ごうとして、その異常さに気づいた。

 

「斬撃が、みっつ……?」

 

 振りかざした長刀は一刀、それなのに、飛んでくる攻撃は三刀。

 その大いなる矛盾に反応できたのは、冒険者として活動してきた経験によるものだった。

 一刀…………右肩を目掛けた斬撃を、自身の剣で弾き、かろうじて防ぐ。

 ニ刀…………脇腹を目掛けた一閃を、体を捻らすことで断たれるのではなく、少し抉られるまで被害を減少させる。脇腹から散る赤い液体が、どこか他人事のように考えられた。

 三刀…………首を目掛けた必殺を、何も出来ずに、ただ眺めている。

 剣は一刀を弾いたことで今から防御することは叶わない。

 体は脇腹の損傷により、動かすことは能わない。

 

「アリーゼっ!」

 

 リオンの悲鳴が耳をついて、けど状況は変わらなくて、そのまま黒い刃先が首元に滑り込む――――

 

「《炎天爛媧》!!」

 

 ――――――寸前、燃え盛る炎の魔剣が遮った。

 息を荒くしながら、仮面をつけて、赤髪を揺らす少年を、私は一人しか知らない。

 出会えたことの喜びとか、また助けてくれたことの感謝とか、色んな想いを込めて、彼の名前を呼ぶ。

 

「ガルフ! ナイスタイミングよ!」

 

 一昨日のことを何も感じさせない私の声に、彼は目を見開いて、その後、優しく細めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 笑顔で赤髪を揺らすのは、二日ぶりあった少女だった。たった二日なのにすごい月日が流れているように感じられて、最初に見つけた時は、思わず身を隠してしまった。

 どのような声を掛ければ良いのか、どうやって接すれば良いのか、アルフィアさんがいれば『さっさと行け』と言われそうだけど、女々しく地団駄を踏んでた。

 だけど、『影』……()()()()()()()()が長刀を構えて、アリーゼが傍のリューと輝夜を突き飛ばした時には、理性よりも先に体が動いていた。

 首元を目がけた一筋の黒閃に、燃え盛る魔剣を滑り込ませる。

 長刀を弾いてアリーゼの方を振り向くと、彼女は少し呆けたあと笑顔を咲かせて、声高に叫んだ。

 

「ガルフ! ナイスタイミングよ!」

 

 喉まで出掛かっていた言葉が、全部引っ込んだ。想像以上のいつも通りさに思わず固まってしまう。

 無言で固まっている僕を見かねた輝夜が、アリーゼに向かって嘆息しながら声をかけた。

 

「感動の再会は良いが、せめて脇腹を回復薬(ポーション)で癒やせ。あれは手負いで倒せる相手ではない」

 

 輝夜の声によって気を取り直し、英霊の成り損ない……『シャドウ・サーヴァント』に魔剣を構える。長刀を防いだ《炎天爛媧》を握っていた右手は右腕にかけて痺れており、『シャドウ』の力強さが窺える。

 

 だけど、()()()()だ。

 

「やっぱり、あいつの力はそんなに強くない。腕が痺れるだけでおさまってる」

「えぇ、加えて耐久もないわ。ただ……」

「技能に関しては化け物だ。『刀』という武器を己の手足のように扱う……一体何十年刀を握ったらその境地に至れるんだろうな」

 

 輝夜はどこか惚れ惚れとした声で『シャドウ』を称えた。敵でありながらも、その技量と積年の研鑽は一人の武人として尊敬すべき理想だからだ。

 後ろでは既にリューが詠唱を始めている。アリーゼを助けたときには、もう輝夜が魔力を練るようリューに言っていたんだろう。半分ほど詠唱を終えているリューを目に入れながら、二振りの魔剣を強く握る。

 

「僕が前線に出る、二人は援護をお願い」

「癪だがそれが一番効率が良い、背中は任せておけ」

「………………え?」

「……なんだ?」

「輝夜が、話しかけてくれた……?」

 

 目線でも送ってもらえれば上々なのに、言葉をかけてくれた。

 思えば、いつものような警戒心とか、嫌悪感が輝夜とリューから感じない気がする。

 疑惑の視線を向けていると、輝夜は気まずそうに目線を逸らし、アリーゼに助けを求めた。当のアリーゼはただ嬉しそうに笑みを浮かべるだけだった。

 

「ふふっ、良かったわね、ガルフ!」

「こんな反応をされるほど私は冷たくしていたのか……」

「え、えーと、あっちは準備万端だから始めるね」

 

 腰を曲げて姿勢を低くし、切り上げられるよう《冷華儚凛》を逆手に構える。

 後ろの二人の空気が変わったのを肌で感じて、大きく息を吐く。

 ――狙いは、【ルミノス・ウィンド】ができるまでの時間稼ぎだ。

 

「行くよ」

「「ああ!/うん!」」

「gaaaauuu!」

 

 声にならない叫びを上げる『シャドウ』との戦いが幕を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 




【アストレア・ファミリア】がガルフに抱く印象
アリーゼ:守らなきゃいけない存在。
ライラ:手のかかる弟。
リュー:魔剣使いは嫌い。本当は善人だと分かっているのに素直になれないポンコツエルフ。
輝夜:化け物。少年の過去を推測して、罪悪感に苛まれている。
アストレア:不器用で甘え下手。
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