魔剣鍛治師と正義の使徒   作:川さん

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次の一話でシャドウ編は終わる予定です。
まさかのハシャーナさん登場。


第八話 正体

 

 

 

 

 

『影』は放浪していた。

 二人の『朱』と『赤』の獲物により、灼熱に晒さられた体から、熱のこもる呼気を吐き出す。

 魔石灯の光に照らされ、漆黒の『物干し竿』は赤銅色の煌めきを放っていた。

 狙った四人を全員取り逃した。

 二人は崩落に巻き込まれ、もう二人はそれに乗じてこの寺(戦場)から逃げ出した。

 ()()()()我が身にとって、獲物(強者)逃した(斬れなかった)ことは耐え難いものである。

 

「guuuu-------」

 

 呻き声を上げながら、自分の身体を顧みる。

 この仮初の身体はもうすぐ限界を迎えるだろう。

 《■返し》の二度にわたる使用、妖精の檄風魔法、心臓が偽りの鼓動を奏でるたびに、己の身体がすり減っていくのを感じる。

 魔法を叩き込まれた脇腹。刀を握る上でさほど問題はないが、機動力は格段に落ちる。『赤』の必殺を避けた、あの瞬間的な跳躍はもうできないだろう。

 ――いずれ、自分は朽ちる。

 冷静に思考した上で、出した結論に唾を吐きかける。

 ――それがどうした。

 我が存在意義は()()()にある。

 そこで自壊を果たしたとしても、それは本望だ。一介の侍として生きた前世……『■■木小■郎』としての自分も、死合いで愚かな一生を終えたのだから。

 

 だからこそ、『影』は、マグマに似た思いを滾らせていた。

 

 途中から乱入し、形勢を180度好転させた『赤』。

 最後に、あれと戦いたい。あれと、身を削り、技を発揮し、高みを目指したい。

 明鏡止水の心なれど、その水面には波紋が生じていた。

 いずれ来るであろう死合いに身を馳せ、黒刀についていた深紅の液体を払う。

 

「guuaaaaaaaa!!!!!」

 

『影』は大きく咆哮する。

 死合うべき『赤』を思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、アリーゼ」

「どうしたの?」

 

 ようやく涙が止まった時には、墜落してから三十分ほど経過していた。

 泣き腫らして、赤くなった不細工な顔を見られたくなかったので、予備の仮面をつけようと思ったらアリーゼに止められた。

 とりあえず傷が癒えるまでは見渡す限りかなり距離のある地下を、アリーゼと共に探索している。

 

「なんで横抱きなの?」

 

 ――なぜか横抱きで。

 アリーゼが喋る度、息が頬にかかってくすぐったいので止めてほしい。

 そもそも隣りで歩くのでも、おんぶでもなく横抱きなのか。

 そのような意を込めた疑問を、フフンと胸を張るアリーゼに問うた。

 

「私の傷はまだ治ってないしから歩けないし、おんぶだとガルフの背中と傷が当たって痛いじゃない。お姫様抱っここそ至高なのよ!」

「じゃあ、探索は僕に任せて休んでればよかったのに」

「そうしたら、ガルフは勝手に『影』と戦いに行くでしょ?」

 

 確信めいた口調に、後ろめたくなって目を逸らした。

 そんな僕に、アリーゼはやっぱり。とため息をつく。

 

「ガルフ一人で戦うのはダメよ。最低でも二人いなきゃ、あの技を防げない」

 

 おそらく『シャドウ』の宝具だと思われる多重次元屈折現象(キシュア・ゼルリッチ)

 洗練された技能が、紡ぎ上げた『シャドウ』の前世が、神速の一刀を次元が超える攻撃(もの)まで至らせた。

 一刀が必殺なので、どれも許容範囲に留めることが出来ないのだ。

 その斬撃をモロに食らったアリーゼに、居た堪れない気持ちになる。

 

「暗い顔しないの。二人で生きて、リオンたちにドヤ顔をしてやりましょ!」

「それは一人でやってよ……」

 

 傷など一端も感じさせない口調で、アリーゼは陽気に言った。

 ドヤ顔する前にリューに泣きながら抱きつかれて、傷を痛める未来が見えた。

 けど、どこか違和感を覚える。アリーゼが、無理して場を盛り上げてるような……

 

「アリーゼ、まだ傷が痛むんじゃないの?」

「清く美しい私は全然大丈夫よ! 今ならじゃが丸くん三個いけるわ!」

「……やっぱり、なんか無理してる気がする」

 

 アリーゼは、ビクッと擬音がつくほど身を震わせた。

 普段の彼女はアホみたいな事しか言わないけど、こんなに捲し立てて言うことはあんまりない。

 無言でアリーゼに顔を寄せると、面白いほどにアリーゼは顔を振った。

 

「違う、本当に違う。傷の痛みはだいぶ治ってきてるの」

「……じゃあ、どうしてそんなに挙動不審なの?」

「そ、それは……ね?」

 

 全く意味が分からず、アリーゼを見つめた。

 当の本人は目線を四方八方に送り、あえて僕を見ないようにしている。

 何か嫌われることでもしたかと落ち込んでいると、アリーゼの髪で隠れていた、()()()()()()()()耳が目に入った。

 全体を俯瞰して見れば、微かに頬も紅潮し、息は動いてないのに激しくなっている。

 ここから導き出される仮定は一つのみ――

 

「――もしかして、今になって恥ずかしくなってる?」

「っっ!」

 

 少女は自分からお姫様抱っこを要求しておいて、いざやってみたら顔が想像以上に近く、色々と考えてしまったのだ。加えれば、少年の素顔を見たのは先程が初めて、幼さを残しながらも男前な顔つきは少女の胸を高鳴らせるのに充分であった。

 アリーゼの顔が、美しい髪に匹敵するほど茹で上がった。さながらリンゴのようで、頭からは湯気が出ている。

 

「あの、えっと、その、」

「へぇ」

 

 熱を出して混乱し、譫言をブツブツ呟いているアリーゼを見て、そこはかとない快楽を覚えた。

 心情が顔に出してしまったようで、それを見たアリーゼの顔が強張った。

 紅潮する耳に口を近づけて、そっと息を吐いた。

 

「ふぅ〜」

「ひゃぁっ!!」

 

 少年の猛攻に、アリーゼは腕の中で暴れた。

 必死に逃れようとするが、レベル3かつ怪我人がレベル5に勝てる道理はない。

 十数秒手足をジタバタさせ、少女は時間の無駄であると知った。諦観を醸し出しながら、少年を睨む。

 正直、真っ赤になった顔で睨まれても全然怖くなかった。

 

「むぅ、ガルフってSなの?」

「いつものお返し。アーディにも変なこと言ってたみたいだしね」

「ライラも言ってたわよぉ」

 

 流れるようにライラ(仲間)を売るアリーゼは、ポカポカと僕の胸を叩いて、不機嫌そうに顔を逸らした。

 本当はこんな筈じゃなかったのに、とでも言いたげな表情だ。

 そんな顔を見て、自然と笑みが溢れると、アリーゼは再び睨んでくる。

 弱々しい眼力にまたも噴き出しつつ、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(普段は元気なのに、こういう時だけ塩らしくなるなんて……)

「――反則でしょ」

「何が反則なの?」

「ううん、何でもない」

 

 まだ頬に赤みを残す少女を横目に、爆音を鳴らす心臓の音を彼女に聞こえないよう努めるのに必死だった。

 なんとも言えない沈黙が流れるなか、銀製のドアを見つける。

 魔石灯の光が反射することで煌めいているドアは、暗闇の中で一際存在感を出していた。

 

「新しい部屋かしら?」

「そうみたいだね。それに、あのドア……微かだけど魔力を感じる。いや、魔力を吸い取ってる……?」

 

 地下に来て一番の疑問は、仮面を付けずとも()()()()()()()()()()点だ。外せばすぐに苦しくなる筈なのに、頬が外気に触れていても一切苦しみを感じない。

 落ちた時から微かに魔力がどこかに引っ張られる感覚を覚えていた。

 それが僕の魔力の飽和した分と相殺されることで、仮面を外しても生活できていたという事だ。

 

「確実に言えることは、あのドアの先に何かいる」

「二体目の『影』だったら一貫の終わりね……」

「念のため、アリーゼは少し距離を取っておいて」

 

 傷は塞がったとはいえ、流した血液は戻らない。『シャドウ』や、可能性は低いがキャスターがいればアリーゼを守ることは不可能だろう。

 横抱きの状態からゆっくりアリーゼを立たせると、アリーゼは少しフラフラしたが、しっかりと地面を踏みしめている。

 《炎天爛媧》を右手に持ち、アリーゼに目線で確認してから、銀製のドアノブに手をかける。

 

「行くよ」

 

 アリーゼは小さく頷いて、愛剣を携える。

 それを横目に勢いよくドアノブを捻った。

 

「 ………………………………えっ?」

「どうしたの?」

 

 部屋に突入して固まっている僕にアリーゼは心配げに尋ねる。

 だけど、返答を返せる余裕がなかった。

 中を覗き込んだアリーゼが、息を呑む。

 

「――――――」

 

 そこには、人がいた。

 部屋の中心、乱雑に汚れているテーブルの近くに、倒れている人たちが。

 目視できる範囲から五十人は優に超える人数で、中にはまだ幼い子供のものもあった。

 しかし、種族は分からない。顔も、はたまた性別さえも。

 

「なんで、こんなっ。こんなの、ひどい……」

 

 アリーゼの啜り泣く声が聞こえる。

 なぜ、顔や種族が分からないのか――それは、その()()には肉も皮もないからだ。

 特有の腐敗臭が、鼻を貫く。

 唇が震えるのを感じながら、その正体を告げる。

 

「白骨化した死体……!」

 

 部屋の中央にあったもの、それは無数の骸骨であった。

 正確には、人だったものがいた。

 何者かに極限まで吸い取られ、乱雑に放置された人だったものが。

 その醜悪な所業に吐き気を催す。

 

「うぅ……こんな、子供までっ」

「……こんなことをするやつ、一人しかいない」

 

 静かに嗚咽を漏らしているアリーゼの背中をさすりながら、部屋に落ちていた呪符を握りつぶす。

 確信を持って、この場所の正体を告げた。

 

「ここは、キャスターの『工房』だ」

 

『帰らずの館』の真相は、最恐の呪術師による人体実験場だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着いた?」

「うん、ありがとう……。迷惑かけてばっかで、ごめんね」

 

 目を腫らしたアリーゼは、申し訳なさそうに謝罪をしてきた。

 怪我でまともな戦力になれないのに加え、泣いてしまったことで罪悪感が増したようだ。

 そんなアリーゼに向かって、レベル4くらいの力でデコピンを放つ。

 

「いったいっ!」

「そんなこと気にしなくて良い」

 

 赤くなった額を抑えるアリーゼが睨んでくる。

 一昨日のアルフィアさんもこんな気持ちだったのかと思いながら、まだ済まなそうにしているアリーゼに言い放つ。

 

「見ず知らずの誰かのために涙を流せるのは、欠点じゃなくて美徳。だから、謝る必要なんてない」

「……」

「アリーゼが泣いてくれたことで、僕も激情を鎮めることができた。他ならない、アリーゼのおかげでね」

 

 アリーゼが泣いてなかったら、きっと思うままに魔剣を振るって、この下衆な部屋を焼き尽くしていただろう。

 アリーゼは、僕の言葉をゆっくり咀嚼した後、口角を微かに上げた。

 

「そう、ね。この作戦が終わったら、しっかり供養してあげましょう」

「こんな所じゃ死にきれないもんね」

 

 せめて、日の当たる場所に埋葬してあげよう。

 神が言うところの輪廻転生というものも、きっと薄汚い部屋にいるよりは外の方が上手くできる筈だ。

 アリーゼは切り替えるために自分の頬を強く叩き、真剣な顔で向き直った。

 

「この子たちの無念を晴らすためにも、情報を根こそぎ持っていくわ」

「……とは言っても、得られる情報(もの)は限られてそうだけどね」

 

 部屋の中にあるのは、白骨化した骸に壁に貼り付けられている呪符、後は床に大きな魔法陣があった。

 魔法陣を凝視すると、白い物体が散りばめられている。

 おそらくだが、数多の死体はあそこで魔力を吸収されたんだろう。

 証拠に、魔法陣には『吸収』の呪術が埋め込まれている。

 吸い取りきった骸骨は雑に部屋の中央に放っておいた、つまり、魔法陣にある白の物体はその際に落ちた骨の破片と言ったところだろう。

 人を人と思わないキャスターの性根に殺意を募らせながら分析していると、アリーゼが奥の方を指さす。

 

「この魔法陣、奥に繋がってない?」

 

 魔法陣の先からか細い線が出ており、それは奥へと続いている。

 魔法陣が魔力を吸収する場だとしたら、奥は溜めた魔力を使う場所……つまり、数十人の魔力を持った何かが奥にいる。

 大きく息を吐いて、アリーゼと共に歩みを進める。

 慎重に一歩一歩踏み出していくと、ポコポコと泡の音が聞こえる。

 ようやくその全貌が見えてくる――

 

「……この人は、確か【ガネーシャ・ファミリア】の人だよね?」

 

 緑の液体を内包したポットに、その中に入っている見覚えのある冒険者。

 ガタイが良く、筋肉質でいかにも頼りになる大男というイメージだった。

 近くには彼の主武装であろう、大きな斧が転がっている。

 その光景は、さながら実験動物のようで、キャスターがしそうな事だと思ってしまう自分が嫌になる。

 アリーゼに確認を取ると、彼女は信じられないような目線を冒険者に向けていた。

 

「嘘っ、なんでハシャーナが……!」

「アリーゼ? 大丈夫?」

「……この人の名前はハシャーナ・ドルリア」

 

 震える唇で言葉を紡ぐ。

 

「レベル3の上級冒険者にして、【ガネーシャ・ファミリア】の幹部の一人よ」

「レベル3……!」

 

 今のオラリオにおいて、レベル3というのは貴重な戦力だ。

 二度も器を昇華させた者は最低でも二つの修羅場を乗り越えて来ていると同義であり、その経験と技能は計り知れないものだ。

 そのハシャーナさんが、為す術もなくこのような状態になっているのは信じられない事だった。

 ハシャーナさんに目立った外傷は無く、一撃で気絶させられた可能性が高い。

 

「……とりあえず、ハシャーナさんをこの気味の悪いポットから出そう」

 

 《炎天爛媧》を逆手に構えて、ポットに突き刺した。

 刺した所から徐々に亀裂が入り、中からは緑色の液体が噴出する。液体は魔力を含んでおり、白骨化した人たちから吸い取ったものだとは容易に分かった。

 ハシャーナさんの胸に手を当てると、鼓動をしっかりと刻んでいる。一命は取り留めたようだ。

 そして、救出したところで、ようやく最初から抱いていた既視感に気づく。

 

「思い出した。僕を保護してくれた二人のうちの一人だ」

 

 オラリオに来たとき、ボロボロだった僕を見つけてくれたのが【ガネーシャ・ファミリア】だった。

 その時に対応してくれた二人組のうち、面倒見のいい大男がいたのを覚えている。子供扱いされたけど、優しく頭を撫でてくれた。

 

「でも、ハシャーナはなんで殺されなかったんだろう」

 

 アリーゼの疑問に、心の中で共感を示した。

 レベル3であれば持っていた魔力も一際高いはず、子供を数十人殺すよりも効率は遥かに良いだろう。

 

「ハシャーナさんを殺さなかったのには理由があった……?」

 

 魔力を吸い取るよりも、大事な理由がハシャーナさんにはあった。

 それが何かを考えようとして、思考を打ち切った。

 

「こういうのはフィンさんとかライラの仕事、僕たちは生き延びる事にとりあえず集中しよう」

「……そうね。ここで正解が分かっても、『影』に殺されたら意味がない……生存のことだけ考えましょう」

 

 おそらく、崩落してから一時間は経過した。

 ライラたちの増援を待ち、挟み撃ちにして『シャドウ』を倒す手もあったけど、それだとハシャーナさんが死んでしまう可能性がある。

 実際、ハシャーナさんの心臓の鼓動はどんどん小さくなっていっている。

 

「タイムリミットは一時間くらい……。それ以上を過ぎたらハシャーナさんは死んじゃう」

「『影』との再戦は避けれないって事ね」

 

 アリーゼの傷は塞がり、残りわずかの回復薬(ポーション)を使えば、体力も戻るだろう。

 

「アリーゼ、最後の忠告だよ。『シャドウ』と戦ったら、アリーゼは死ぬ可能性が高い」

「……」

「それでも来る?」

 

 これは脅しでも何でもない、純然たる事実だ。

『シャドウ』は偉業を成し、人理に刻まれた英霊。たとえ出来損ないのシャドウ・サーヴァントで限界したとしても、その強さに曇りはない。

 再度アリーゼに問いかけると、彼女は僕の視線から真っ向に立ち向かい、吠えた。

 

「当然よ! 私がいた方が勝率百万パーセントなんだからね!」

 

 虚勢を張って、微かに足は震えてる。神々がいれば、即座に嘘と見抜き腹を抱えて滑稽だ、と笑い転がる。

 だけど、僕にはその姿が、ひどく尊いものに見えた。

 自分を偽ってまで行う自己犠牲が、歪で、美しく思えた。

 だから、返す言葉は一つしかない。

 

「じゃあ、一緒に『シャドウ』を倒そう」

 

 アリーゼに向かって、手を差し出す。

 彼女は差し出された手を見て、一時的に固まり、満開の笑顔を咲かせて言った。

 

「うん!」

 

 アリーゼは、僕の差し出した手を強く握ったのだった。

 

 

  

 

「じゃあガルフ、作戦よろしく!」

「えぇ……」

「私は労働担当だから! 頭使うと眠たくなってきちゃうわ!」

「なんでアリーゼって団長になれたんだろう」

 

 感動的な雰囲気から一転、アリーゼの頭からは湯気が出ていた。

 おそらく頑張って作戦を考えたが、良いのが思いつかなかったんだろう。

 故に僕に丸投げしてきたというわけだ。……本当になんでアリーゼは団長になれたのかな。

 

「私には他のみんなにはないものがあるのよ! そう、それは包容力! 全てを包み込むアリーゼお姉ちゃんの胸に誰もが飛び込んでくるわ!」

「今まで一度もその光景を見たことないよ」

「じゃあ初めてはガルフね! さぁ、おいで。前例は作るものよ!」

「そういうのはアルフィアさんで充分」

 

 包容力と言えばアルフィアさんかアストレアが挙げられる。

 少なくともアリーゼは絶対にその中に入れない。

 アルフィアさんという謎の人物にアリーゼは首を捻っているが、何となく説明したくなかったので、話を強引に進める。

 

「まず『シャドウ』と真正面から斬り合うのは止めよう。力では勝てるけど、技能は『シャドウ』の方が格段に上だから、消耗戦に持ち込まれたらアリーゼが脱落しちゃう」

「輝夜がいた時でも押し切れなかった、文字通りの化け物よね」

 

『シャドウ』がリューの魔法で損傷を負ってるとはいえ、戦闘が長引くにつれて不利になるのはこっちだ。

 僕はまだしも、アリーゼの傷口がまた開く可能性だってゼロじゃない。

 一対一になれば、また魔剣を叩き折られて仲良くあの世行きだ。

 

「けど、遠距離から魔剣を放つのも得策じゃない」

「え、そうなの? てっきりその方向で行くのかと思ってた」

 

『シャドウ』の唯一の弱点である耐久の低さを攻める、この作戦自体は間違ってない。

 しかし、二度目の【ルミノス・ウィンド】を思い出す。

 

「あいつは一度【ルミノス・ウィンド】を見ただけで、二度目の対応しただけじゃなく、利用さえしてきた。実際、僕とアリーゼが動かなきゃ輝夜とリューは大怪我を負ってた」

「……魔剣という手札は割れてるから、既に対策されてるってことね」

 

『シャドウ』は天才型ではなく、果てなき修練で英霊へと至った努力型だ。もちろん、才能だけで英霊に至れるはずがないけど、根本がそっち系なのは確かだろう。

 先の戦いで魔剣を使い過ぎた。

 既に《炎天爛媧》の対処法は『シャドウ』の中で編み出してると考えてもおかしくない。

 

「万策尽きてない?」

 

 アリーゼは戦慄しながら冷や汗を流す。

 アリーゼ自身も魔法は発現しているが、それは付与型(エンチャント)であり、今回の戦いでは意味を成さない。

 たしかに、『シャドウ』に対抗できる手札はゼロと言っていいだろう。

 

「無いなら作れば良い」

「……どいうこと?」

 

 頭の中で疑問符を浮かべているアリーゼに、《炎天爛媧》をかざす。

 

「この魔剣……《炎天爛媧》を昇華させる」

 

 少年の姿を見ていた少女いわく、真紅の双眸は灼熱に輝いていたらしい。

 

 

 

 

 

 




ハシャーナが入っていたポッドはドラゴンボールのフリーザ軍が使っていたやつがイメージです。
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