ユウタは焦っていた、リカは今まで少なくはない人数に危害を加えていたが、相手に一生残るような傷をつけた事はなかった。
しかし家出してしまった理由の一つである、リカの今までにない機嫌の悪さと、ユウタからも対峙してわかる、目の前の男の底知れなさがリカを刺激し、リカに本気の殺意さえ抱かせてしまっていることに気づいていた。
幼馴染が人殺しをしてしまう。止めなければ。
そんな思いとは反して彼はこの状況で何も出来ず、自分の無力感を感じ、大切な指輪の上に手を重ね、相手の無事を神に祈ることしかユウタには出来なかった。
「ごめん...ごめん」
ボクは悪い奴だ。
ボクはリカちゃんが人を傷つけたとしても、傷つけられた側より、リカちゃんに気がいってしまう。
最初はリカちゃんが、怖かった。しかし生前のリカちゃんを思わせる仕草が目に付くたびに、ボクはどうしようもなく、今のリカちゃんに愛しさが湧いてしまっていた。
ボクはリカちゃんに汚れて欲しくなかった、しかしリカちゃんを鎮める力がボクにはない。
力が欲しい、ユウタはずっとそう思っていた。
クロロはリカの巨大な腕から繰り出される攻撃を、一つ一つ丁寧にかわし、冷静にどちらも観察していた。
凶々しいオーラを放つ異形と、同じく凶々しいオーラを放ち、手の一点にオーラを溜めていくその少年の姿を。
「まるで言っている事と矛盾しているな...あの子供は念獣使いかそれとも...なるべく安全で無抵抗に出来、かつ効果的なのは...」
そう呟くと彼は片手に本をどこからともなく出現させた。
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本は持ち主の意志に応え、目的のページを開き、能力を発動させた。
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クロロの手のひらから卵の様な銀色の発光体が浮かぶ、それはまるで獲物を求めるかの様に浮かんでいき彼の手のひらに入り込むように消えていった。
リカは怒っていた。
ユウタに元気がないこと、周りがユウタを慰めることが出来ないこと、自分がユウタを慰めることができないこと、周りがユウタを煩わせること、ユウタを気味悪がること、全てに怒り、当たり散らせるならなんでもよかった。
今もちょこまかと動く人間を潰そうと躍起になっている。
人よりも何倍も大きい手を握り、それを思い切り振り下ろす、それが当たってしまうだけで常人なら抵抗することも出来ず潰されてしまうだろう。しかし男はそれをただ淡々と作業のように全て捌いていた。
『がァァあああ』
リカは攻撃が掠りもしないことに、嫌気がさし、遂には口元にオーラを集中させ、邪魔なものもろとも全て吹き飛ばそうとしていた。
その時。
クロロが矢のようにリカに急接近し、リカはオーラを迎撃の為にやむなく、溜めるのをやめ、咄嗟に近づいてきた相手を殴り潰そうとした。
しかしクロロにとってその攻撃は余りにも大振りであり、そのままリカのしたを潜り抜けるように攻撃をよけ、ユウタのもとへ向かった。
「チェックメイトだ..」
荒れ果てた部屋の中で嫌にその声は響き、クロロはユウタに触れ、その後、ユウタの服の襟腰を掴みリカに投げつけた。
「ぐぇ」
『ゆうだ』
リカはそう言ってなによりもユウタを優先し、かつ優しくユウタを受け止めた。
そしてクロロの能力が発動する。
ユウタの視界は光りに包まれ、光りがおさまった頃にはリカの姿はなく、ユウタがつけていた指輪も無くなっていた。
「リカちゃん?」
代わりに自分の手のひらの中に小さな銀色の卵のような物が存在していることに、ユウタは気づいた。
「安心していい、
「しかし、本当におまえが念獣の念能力者じゃないことには、驚かされた」
クロロは、そう言いながら呆然としているユウタに喋りながらゆっくりと近づいて、後三歩先という所で止まった。
「おまえのオーラについて色々聞きたい事があるんだが、それは一旦置いておこう....単刀直入に言う、オレの仲間になれ」
「え?」
意味がわからない。それが今のユウタの純粋な心情であった。
いまだ呆然としているユウタをおいてクロロは話を続ける。
「正確には仲間候補なんだが、おまえならなれるとオレは思った」
「・・・」
「おまえが仲間になるなら、一つ願いをきいてやろう。何がしたい?何が欲しい?何を叶えたい?」
「・・・・」
「オレは、それの助けをしてやろう...その代わりオレの元に来い」
これは取引である。ユウタの望みをクロロが叶えてあげることで成立する。
「なら...リカちゃんを消してください...そしたらボクは、仲間にだってなんだってなります!なんでもやります!」
クロロは少しも反応することなく、聞いた。
「...理由はあるのか?」
「リカちゃんはボクの大切な人なんだ、でも死んじゃって。でもボクのせいで生き返ってあんな姿になって、ボクはリカちゃんが好きだ!あんな姿になっても、変わらず好きで、見捨てることなんてできるわけがない!...でもさっき、ボクは何も出来ずに自分のことばかり考えて、リカちゃんを守れなかった。今までもこれからも守れないならーー
「それが本当にして欲しいことなのか?」
クロロはユウタの言葉をしたり、そう疑問を投げかけた。実際にユウタは言葉を吐くごとに生気を失ってしまっている。
「じゃあどうすればいいんだよ!」
ユウタは夢が壊され、日常が壊され、自分で何一つなしえない自分を壊してしまいたかった。
「それは、おまえが決めろ。お前にはもう何もないのか?」
「・・・」
約束だよ リカとユウタは....
ユウタは理解した。あぁ、ボクは目を逸らしていたんだ。
できっこない。無理だ。諦めよう。彼女はそうした方がきっと幸せだ。そう思って抑えこもうとした。
でもこのタイミングで、このリカちゃんにもらった呪いから目を逸らせるわけがない!
リカちゃん待ってて、必ず君を幸せにする。
「もう一度言うぞ?何が欲しい?それとも仲間になるなんてごめん被るか?」
ユウタは一度息を吐き、そして生気を取り戻し、今まで出してこなかったかのような大きな声で叫んだ。
「ボクに力を貸してください!リカちゃんとの願いを叶えるために!!」
「取引成立だ」
クロロの表情に変化などない。交渉は始まった時から終わっていた。
彼から見てユウタの顔は、あの時のオレ達の様に欲しがっていた。
【愛の巣】(コクーン)
この能力は元々希少動物を求める幻獣ハンターの念能力であり、傷ついた幻獣を安全に護送するための能力である。
能力
対象に触れることで繭の元を対象に宿らせ、対象が仲間と認識しているものと対象を仲間と認識しているものに接触した時、この条件を満たしたものに連鎖的に繭の元が宿る。
そして対象が仲間と認識しているものに触れている場合、この能力の持ち主が任意で対象に宿る繭を展開させ対象を繭の中に閉じ込める。
繭が宿る対象の数が多過ぎるとオーラ切れを起こす。
繭の中は時間が止まったような状態であり、傷の回復を促進させる機能と解毒作用がある。
生き物以外に繭の効果は効かない。
この繭から対象出して一週間以内に死なせてしまった場合、この念の使用者は死んでしまう。
繭と念能力者は50メートル以上離れる事はできない。