あり得ない光景が広がっていた。
破壊された野原に、消し飛んだ大地。仄かに香る焼けた匂いが鼻腔をくすぐる。
だが、なにより信じられないのはその場にいる二人が満身創痍の状態になっていることだった。栄えある魔神王に選ばれし《十戒》。その二人が、劣勢である。この世界の誰もが目を見開くだろう光景。
だが、その場にいる二人にはそんなことを考えている暇などなかった。
「はぁっ、はぁっ……クソが!」
「やはり異常だな。予想を遙かに超えている」
ゴウセルと、デリエリ。十戒の中でもある条件下、もしくは相手によっては最良の結果を発揮する、という理由で集められた二人が膝を付き、目の前の敵を睨んでいた。
そして、その
──リン、と音をたてて、その人間の手首を中心に光が輪を作る。
煌々と世界を照らすそれは、女神族の物である。物質を分解し、破壊する特徴を持つその魔力が人間の動きを止めたのだ。
そして、その一瞬は戦いにおいて大きな物だった。
デリエリとゴウセルは弾けるように後ろへと飛び上がる。そして、ちらりと上を見上げたデリエリは苛ついた様子で舌打ちをする。
「……チッ、遅えんだよ」
「デリエリ、一応だが先日の約定通りだ」
「クソが……なんで私らが負け戦みたいなことしなきゃなんねぇんだよ」
そして、その一人はゆっくりと降り立った。目の前の人間が、面倒そうに自身の
「時間稼ぎ、ご苦労様~~」
三対の翼を揚々と開きながら、神々しい光を伴って真上から現れたのは四大天使、その一人である《大海》のタルミエル。
「なんで私が魔神族なんかと~~」
「こっちこそ、テメェらなんかと共闘なんか願い下げだっての」
口喧嘩をおっぱじめる二人に、ゴウセルが不思議そうに声をかける。ぼろぼろになった様相と異なり、欠片も動揺を感じさせない冷静な声が響いた。
「だが、それでも協力しなければならないからここにいるのだろう?」
「……まあ、そうなんだけどね~~」
「……クソが、なんでこんな化け物が人間にいるんだよ」
「それはまったく同意だわ~~」
構えながら愚痴をつぶやく。そう。魔神族と、女神族。その二大勢力の争いだった『聖戦』に、突如として名乗りを上げた存在がいた。
数年前からその予兆はあったのだが、女神族と魔神族。その両方において、『人間は弱い』と言う認識が蔓延っていたのが災いを呼んだ。
気が付いた時には、魔神族と女神族。その領土を大きく削って、人間達の領土が成立していたのだ。
「化け物、化け物かぁ……いや、流石に酷くない?」
──そして、それを成立
赤髪の、《勇者》を名乗る幼い少女。
最初は魔神族だった。十戒に、突如として空席が二つ出来たのだ。
あまりにも突然のことで対応出来なかった魔神族。その元凶すら不明だった当時、それを天の采配と見た女神族の勢力は主力を持って魔神族へと侵攻し──。
そして、四大天使最強を誇るマエルが、何者かに敗北した。女神族に走った衝撃は、呆然、と言っても良いかもしれない。あのマエルが、負けた。
当時は昼直前ほどで、最大限の力を発揮出来なかったとは言え、それでもフルに近いポテンシャルを持っていたはずなのだ。
今現在、マエルは療養中である。片腕を失い、更に一時戦線を離脱せざるを得ないほどの損傷を負った。
それを聞いたとき、女神族と魔神族──いや、全ての種族は理解したのだ。
──《なにか》がいる。
十戒二人を、四大天使最強を凌駕する何者が。女神族と魔神族だけの戦いに、余りにも大きすぎる『敵』が現れた瞬間であった。
「……自分を化け物じゃねぇってか?よく言うぜ」
「いやぁ、そこは否定しきれないんだけどさ……いくら何でも酷すぎると思う」
「酷すぎる、って~~?冗談は程ほどにしときなさいよ~~」
タルミエルが苦笑いをしながら、《勇者》へ声をかける。そして、それにしかめっ面になった勇者を更に劣勢へと追いやる一声が響いた。
「不倶戴天の敵同士であった魔神族と女神族が、一時的とは言え手を組んだ。そして、その要因はお前だ。
人族の《勇者》──リーリァ・アスプレイ」
「……む」
居心地が悪そうにリーリァはたじろく。流石にここまで詰められたら反論もキツい。
「あーもー、はいはい。私はどうせ味方にも恐れられる化け物ですよーだ」
「だろうな」
「まあそうでしょうね~~」
「当たり前だな。あまりにもお前は論理から外れ過ぎている」
そして、リーリァはぶーぶー文句を言いながらも、時間が来たことを理解した。遠方に感じる空気。
魔神族と女神族と、その他雑多な種族。それが、自身の住んでる国へと向かっている。
「……ま、今回はここまでかな。私は戻らなきゃ行けなさそうだし」
そう。いくらその他の人族が貧弱といえ、リーリァという特大の戦力を抱えている人族が世界を席巻してない理由。
それは、リーリァを少しでも足止め出来れば、《勇者》が護らなければならない『人間』を攻撃出来てしまうからだ。
くるりと反転。リーリァは三人へ背中を向ける。
そして、それに声を掛けたのはタルミエルだった。
「あら~~逃がすと思ってるの~~」
ギロリと赤い相貌がタルミエルを貫く。
「──そんなに戦りたいなら、やってあげようか?《四大天使》と《十戒》二人……国は打撃を受けるけど、それを許容する事だって出来るんだよ?」
変わり身はすぐだった。タルミエルは命乞いをするように、顔を引きつらせる。
「ご、ごめんなさい~~ほら、ちょっと調子に乗ったって言うか~~」
「……はぁ」
あんまりな姿にやる気を失ったリーリァは、すぐに視線を戻した。そして、呟くように最後に一言。
「それじゃ、またね」
ふっ、と滲むようにリーリァが消えると数秒後、デリエリがタルミエルの首元を掴み上げながら絶叫した。
「テメェなんであんなこと言ったんだよ!折角アレが引こうとしてたんだぞ!」
「だって~~」
「だってじゃねぇ!」
ガクガクと言う音が空耳するほど勢い良く三つの首が振られる。デリエリの怒りの叫び声が響く中、ゴウセルがポツリと呟いた。
「……だが、ある意味確認にはなった」
それに気が付いたデリエリとタルミエル。二人はすぐに停止し、ゴウセルを見詰めた。
「あん?なにがだ、ゴウセル?」
「気になること言うじゃな~~い」
首元を掴んだ姿勢を維持したままデリエリとタルミエルはゴウセルへ問を投げかける。それに、やはりゴウセルは呟くように淡々と喉を震わした。
「──恐らくだが、奴の目的は魔神族と女神族との聖戦の勝利ではない」
記憶ガバガバなので間違いあったらお願いします!