LAST LORD   作:シラネ

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2話

オーバーフィクスに着いた私たちはとりあえず、グラキエを車から降ろし、ベンチに寝かせた。グラキエが淑女として、見られてはいけない……?行動をとった結果か、顔色は少しは戻っているように見えた。

 

 

「……ひとまずはこれで大丈夫なはず。ヨウカ、お前はちょっと来てくれ。アクセラはグラキエの様子を見ててくれ。」

「「分かった。」」

 

スクトがある程度の応急処置を施した後、車を動かせる私を連れて車に戻り、荷物を全部出して一応の処理を行った後に洗車の手続きや宿の手続きを始めた。

 

 

暫く経つと諸々の手続きが終わったようでスクトが戻ってきた。

……が、少し深刻そうな表情をしていた。

 

「どうしたの?」

「ああ……お前の少しの間の婚前旅行だから油断していたんだが、噂によると、ここら辺に魔物が出るらしくてな。」

「魔物?モンスターってこと?」

「そ。……ここの町の住民が最近、畑に魔物が出て来てどうしようもないんだと。」

「はぁ。」

「……洗車代チャラにするからってことで交渉ついたから、今から2人で狩り(モンハン)といこうじゃねぇか!!!」

「は、はぁぁぁぁ!!!?」

 

 

いつの間にかスクトが困ってる住民を見逃せないというのと、その困ってる住民を代表して、オーバーフィクスのガソリンスタンドの店長が洗車代チャラにするからというお願いを聞いて、害獣駆除(討伐クエスト)を勝手に請け負っていた。

 

「久々に身体を大きく動かせる機会だ!楽しもうじゃねぇか!」

「ゲームのようなノリで請け負うな!!!」

「大丈夫だ。モンハンってのはモンスターハンティングの略だからな!」

「何のことを言ってるのか分からないけど、話が噛み合ってない!……というか、そもそも武器が無い!」

「あるじゃねぇか。」

 

スクトは私の足を指差しながらきっぱりと告げる。

 

「……私は足蹴で敵を討てと?」

「運動になるぜ?」

 

運動になるとかのそういう問題以前のことだ。なんで結婚式を挙げる寸前……というかその式場がある隣国へと向かおうとしているのになぜ、私たちがそういうことをやらないといけない。あとは正装なのにそういう依頼をやるというのをどこかのマンガかゲームで見たことがあるような気はするが、ここは現実。色々とツッコミがしたくなる気分になった。

 

「格闘家か?私は?」

「どっちかつぅとお姫様だな。今更だけど。」

「大体、私が駆除をすることはまだ良いとしよう。だが、この格好で外行きの正装で動くのはダメでしょう?」

「そんなお姫様の為に近衛女性騎士用の騎士団服を御用意させていただきました。(キリッ)」

「なんであるのよ!?」

「お相手がコスプレダイスキーなお方だったらと。メイド服などもございますわよ!オホホホホ!」

「そんなお方じゃないと思うし、まず着ないし、その口調は何!?」

「さて、着替えたら行くか!」

「話を聞きなさい!!!」

 

 

スクトの手のひらの上で転がされている気分になりながら町の服屋の更衣室を借り、騎士団服に着替えることになってしまった。

 

アクセラには電話で伝えると、

『ああ……うん……頑張ってね。』と、激励の言葉を掛けられた。

 

 

 

「……お待たせ。」

「似合ってるじゃねぇか。」

「……。」

 

実を言うと騎士団服を着るのは初めてではない。むしろ、何回も着ており、度々騎士団の訓練に参加していた程だった。新品ではあったが、完全に私の身体に適したサイズの服で動きやすかった。

少し変な目で店員に見送られながら私たちは服屋を後にする。

 

「というか、貴女は着替えないの?」

 

スクトは半袖シャツ一枚と黒の長ズボンという、女性よりも男性の方が着そうな(偏見)格好をしており、騎士団将軍の娘とは思えない風貌だった。

 

「ああ。アタシは良いんだよ。目立つのはお前だけで良いからな。」

 

一体なんなんだと思いながら、謎に笑顔の彼女を睨み付ける。

 

 

「というか、本当に武器はどうするの?足蹴は流石に冗談よね?」

「まぁな。あっちに着いてから渡そうと思ったが……ほれ。」

 

ポケットから出されたそれは、質素な鞘に包まれた短剣だった。

 

「護身用で持たせたかったが、まぁ、今回はこれで戦ってくれ。」

 

無いよりかはマシである。本来ならばスカートなどで存在を隠すような護身用武器だが、今回は騎士剣を差す所に固定させる。

 

「スクトは?」

「アタシはこれだな。」

 

そう言いながらスクトがずっと背負っている大きく膨らんだ鞄の中から出したのは、大盾だった。

 

「……盾?」

「ああ。流石に剣を持ち出すのは物騒だから、せめての護衛武器ってとこだな。」

「一応武器……なのか?」

「武器だぞ?守る為のものとはいえ、盾で殴られてみろ、かなり痛いぞ?」

 

 

そういうものなのかと思いながら、他諸々の支度を整え、準備が終わった。

 

 

「さて、行こうぜ!」

「はいはい。」

 

 

ヨウカ王女の害獣駆除という名の初陣が始まるのだった。

 

 

 

 

オーバーフィクスの外は荒野が広がっており、その荒野の中でオーバーフィクスの人たちは畑や農場を持つ。元々農作業にはあまり適さない環境なために魔物や魔獣が現れると生産に影響が出やすく、ここから少し離れた王都のハンターギルドや騎士団に討伐要請が度々寄せられる程だった。

 

 

「討伐対象はデントっつう、狼みたいな魔物だな。アタシらは犬って言ってるけど。」

「デントか。ハンター成り立てとかは苦戦するレベルってところの魔獣だね。」

「群を成していることが多い輩だからな。油断していると怪我するから気を付けろ。」

 

 

そんな事を話ながら目的の畑や農場を見回る。

 

 

「……。これは……酷いな。」

 

畑は踏み荒らされ、作物は食い散らかされていた。また農場に至っては飼育されている羊の何頭かが行方不明になっているという被害だった。

 

「少なくとも人的被害ではなさそう。ここまでの被害だと群で活動しているでほぼ確定だね。」

「雑食で悪食だから余計にタチが悪い。見かけたら殴らねぇとな!」

 

今回の依頼は討伐個体数が指定されていない。単に言えば、1体倒すだけでも達成になるが、このような依頼は討伐個体数がしっかりと調査されていないか個体数が変動しやすいことによって指定されない事がよくある。今回のは後者で、デントは非常に繁殖しやすく迷惑極まりない害獣として有名だ。

 

「いつ襲ってくるか分からねぇ。荒野だからってなめてるとあいつらの牙の餌食になるぜ。」

 

 

頷きかえし、デントの被害が及んでいない畑を捜す。

 

 

 

 

 

時間が幾らか経ち、被害がない畑は捜せども見つからない。

 

 

「事態は思ったよりも深刻だな……。」

「ああ、次に行くところが捜索範囲最後の農場だ。」

「王都から少し出ただけでこんな状況だったのか……。」

 

 

デントも中々見つからず、依頼が達成できるか以前に自国の状況状況をしっかりと把握しきれていなかったことに焦る自分がいるなか、最後の農場を捜索することになった。

 

 

 

 

 

 

「おい、見つけた。デントの群だ。」

 

 

最後の農場では、農作物を食い散らかしているデントの群がいた。

 

「ひきつけて広い場所で戦うぞ。」

「了解。」

 

そう言いながら、スクトは周りの石を二つ拾い、一つをデントの群に軽く投げた。

 

 

 

石が落ちてきたのが気づいたのかデントは食事を止め、辺りを見渡す。そして、私たちの存在に気づいた。その瞬間にもう一つの石をデントの群の中でも少し大きめの奴に強く投げつけ、当てる。

 

 

当てられてヘイトが集まったのか、群が唸り声を出しながら私たちを睨む。

 

「来るぞ。油断するなよ!」

「分かってる!」

 

 

そして、石が当てられたデントが吠え、群が私たちに向かって突進してきた。

 

 

短剣を抜き、敵の行動を見張る。

 

 

デントは頭は悪く、単純な攻撃しかしてこない。しかし、見た目が獰猛な野犬もしくは狼に見えるため、特に力を持たない人にとっては身近な畏怖の対象となっている。

 

 

「突っ込んで噛みついてくるから、うまく受け流しながら喉か腹を刺せよ!間違っても頭は狙うな!噛まれるぞ!」

 

 

既に前側でデントに襲われるのと同時に盾で弾き飛ばしまくってるスクトが注意するように指示する。

 

出来るだけ、私のもとにデントが来ないように私の前でひきつけて盾で殴るの一撃で気絶させるという妙技をするスクトを凄いと思いながら、溢れたデントが私に襲いかかってくるのを捌く。

奴の刺された所からは鮮血が散り、私の顔や服に掛かる。血を見るのはあまり慣れてないというか、実戦は初めてなので血の匂いと緊張で気分が悪くなるのを必死に抑えながらデント……犬の生命(いのち)を絶つ。最初は憎たらしく吠えていたそいつも刺された箇所と口から血を吹き出し、死に絶えた。

 

一体を倒せば他の犬が私を強く睨む。飢えているのか奴らの口からは涎をボタボタと垂らし、血の匂いに興奮しながら人間に襲いかかる。

 

怪我をしない為、殺されない為に奴らに刃をたてるのは、ただの作業だった。

 

 

 

 

喉や腹を裂いた数は4体。数で言うと少ないが、意味の分からない緊張のせいでどっと疲れが降る。

周りを見回すと、そんな4体の約二倍程の犬の死体や瀕死体を囲んでスクトが立っていた。

 

「ヨウカ、無事か?」

 

私の方をチラッと見たスクトは瀕死体の首に盾を落として首を折りながら私の様子を尋ねる。

 

「……うん。疲れた。」

「そうか。なら、さっさと終わらして戻るぞ。」

 

 

倒した後の遺骸から討伐証明部位……素材をとり、袋につめる。

スクトは手慣れた手付きで自分が倒したそれら、血がほとんど出ていないそれらを分解していく。私は私で倒した血だらけの4体分の作業をしていく。

 

「……この世の中、スマホとかある時代で王女が自分で狩って血だらけになりながら素材を剥ぐとか、世も末……?」

「何も出来ない箱入り娘よりかはよっぽどマシだ。」

 

その後は黙々と作業を続け、太陽が沈みかけている時に私たちはオーバーフィクスへと帰還した。

 

 

戻ってからは直ぐに宿屋のお風呂に入ったのは言うまでもない。

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