BloodMoon:Origin 作:名無しの鉄血病患者
「はぁ……はぁ……ッッ~!」
紅き月が上る深き夜。
道に月と同じような真紅が滴る。
肩を抉る黒鉄は骨にすらも侵入し、一切の移動を封じられていた。
更には
「どこへ行こうというのだね、少年」
「ッッ!?」
脱兎の如く駆けていた少年は唐突に横から聞こえてきた声に驚き。
直後、今は人無き
巻きあがる粉塵。
月光を受けて紅く変じるそれは、音に聞く血霧のようで。
少年に死を覚悟させ、絶望させ、諦めさせる。
「つまらぬぞ少年。ああ、実に退屈だ。血が不味くなる、座に縋る権力者の如くみっともなく足掻け」
「は、ははっ……生憎、堕ちた
瓦礫に埋もれた少年は、他ならぬ
一切の思いやりなし。
刺さった瓦礫が全身を削り、至る所から血を流させる。
出血と激痛に苛まれ、神経すら傷つき動かなくなった右腕がだらんと力なく死に落ちる中。
最後の抵抗にすらならない。
みっともない嫌がらせとして血と砂の混じった唾を、女に吐いた。
「死を前に、神の下へ堕ちようとするでもなく、命乞いをするでもなく、最期になろう選択は“唾棄”か。餌なれど見事なり。だが、そんなものは求めていない」
「僕も……貴女に品評は求めていません。……おしゃべりな
意趣返しとばかりに挑発的な笑いを浮かべ。
けれど気力が足らずに虚ろな目が赤魔の月を眺める。
(赤の魔月、かぁ……あとちょっとで誕生日。どうせ皆贈り物用意してくれてたんだろうなぁ……もったいなくて、申し訳ないなぁ……)
「少年。私が童女に見えると?」
「僕……
「ふっ、それはすまなかったな。ではついでだ、殺す貴様の名くらいは憶えてやろう」
「シスル。それが僕の名です」
「私は“テラ・サースティ”。魂消滅する時までその名で恐れよ愚物」
土に塗れていることも気に留めず、テラと名乗った女はシスルと名乗った少年の肩に舌を這わせ。
じゅる、と口を紅く化粧した。
「死する理由は我が変貌を見た故。己の迂闊さを恥じよ。――では、死ね」
血の味に恍惚とした表情を見せたテラ。
待ちきれぬとばかりに鋭い牙を見せつけるように剥き出し、シスルの首筋に突き立て、味わうようにゆっくりと。
器の中で氷が溶けるようにゆっくりと、ピッチドロップのようにゆっくりと。
シスルの
(死ぬ……弱すぎてよく「末代までの恥」とか言われたけど、まさか僕が末代とはなぁ……結婚は無理でも恋くらいはしたかったなぁ……)
全身の感覚が消失し、意識すらも大気に溶けそうな。
そんな状態で。
不意に――
キュィィィン
と、甲高い発砲音が聞こえた。
「な……に……?」
「反鉄弾三号――これは少々過剰だったかな?」
「貴様……一体……」
「それに新型の魔導銃。反動がデカすぎて普通の奴には扱えんな」
「無視……失礼な奴だ。――ならば無視できぬようにしてやろう――【略式・
腕を離されたシスルは地面に崩れ落ち。
テラの足元が揺らぐ。
いや、波打つ。
波紋が生まれ、大量の血が湧き出し、酸化するように赤黒く変じ、大量の針が銃を構える女に向かって飛んだ。
百を超える針は雨の如く流れる。
「反鉄障壁――展開」
呟くように発された鍵言。
一瞬にして
「ふっ……この程度か
「その呼び方……なるほどな、貴様ら
「ああ、私は色金機関対赤部隊三番隊副隊長“ゾーヤ・ジドコヴァ”。貴様を屠った者の名だ、魂に刻め」
「随分な自信だな。屠るではなく屠った、とは未来視の能力でも持っているつもりか貴様」
攻撃を防ぎ切ったことが嬉しいかと、僅かな憤慨を見せるテラ。
だがゾーヤと名乗った女は余裕の表情を崩すことなく。
そしてゆっくりと持ち上げた指で、テラの胸元を指さした。
次の瞬間。
テラの鼓動に合わせて身体が大きく跳ね、そして弾丸が叩き込まれた胸元に、緑の結晶が咲いた。
花が咲き、テラの力を吸って成長する。
「言葉通りだ。貴様など……疾うに屠っている」
「ぐゥッ!?」
「心臓魔石は砕いた。その
「……なるほどな。確かに全身が鉄のように硬く、重い」
鉄の棒を常温で曲げるかのように、錆びついたような動き。
全身を霧散させようとするテラの意思に反して、核である心臓部は動かず、魔石を砕かれ師が近づいている。
「されどッ!」
「甘い。その手は疾うに見ている」
他の
最期は決まってそうだった。
毒が廻る前に、辛うじて霧散可能な末端を使って、殺そうと。
「ふふふ、この愚物に気を取られていたあの時点で、私の死は運命づけられていたということか」
「いや――もっと前だ」
「! ……そう、か」
テラは死に。
膝から崩れ落ち。
『死なぬ、死なぬさ。私はいずれ蘇ってみせる』
「副隊長ッ、再生が阻害されています! 手持ちの
「――解毒薬を使え」
「よろしいので!?」
「元より我々が巻き込んだ者だ。助けるのが道理だ」
「了解しました!」
部下の男が取り出した濃緑色の液体。
その一部を傷口に振りかけ、残ったモノを飲ませる。
視覚的変化はないが効果はあり、部下の男が再び回復薬を飲ませると傷口がシュウと音と蒸気を発して塞がる。
「彼を拠点まで運ぶぞ」
「了解しました」
「傷口を塞いだとて内部に異常が出ていないとは限らん、徹底的に調べ、万全の状態で目覚めさせるのだ。良いな?」
「はッ!」
敬礼、そして駆け出す。
シスルの肩に刺さっていた鉄の針は肩にはなく、そしてその場にもなく。
この世の何処にも、なかった。
「民間人に被害を出してしまうとは……隊長にまた馬鹿にされてしまうな」
ゾーヤは
白いはずの靄は月明かりに照らされ、紅く染まり、ゾーヤはふと“奴らのようだ”と思った。
人体にとって害となる魔月。
しかも今宵は最も影響の強い望月の最中。
そんな日に見回りに駆り出されたシスルとゾーヤは巻き込まれたことも含めて哀れに思いながら周囲に目を向ける。
壊れた建物。
人気のない
血で溢れている。
「見事な正義感だよ、まったく。周囲へ被害が及ばぬようにあえてこの場へ。それが援護を遅らせ、死を招いたとしても誘導し、救助に来た我々が戦いやすいように。……色金機関など噂程度でしか耳にしないだろうに、それを信じるとはな」
普人種は魔力を有しますが魔術を有しません
なので他種族に比べるとどうしても戦闘力で劣ります
ただ、世界には魔を有した物質が多数存在するためそう言った素材を用いて道具を造り、それを駆使して強くなるということはできます
他種族は魔的に特化した傾向があるため道具には種族適性が強くありますが、普人種はその特化がない汎用性に富んだ魔をしているため、その道具の一〇〇は出せないまでも七〇や八〇までは出すことができ、他種族が使えない道具も全て使えるという長所があります