決闘幻想郷 〜The Fantastic Duel Story〜   作:永夜 藤月

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新連載です!


新たな決闘法⁉︎(前編)

 忘れられた妖怪たちの楽園、幻想郷。その東端に位置する博麗神社で、一人の少女が黙々と境内の掃除をしていた。

 

 年齢は10代半ばだろうか。腋が開いた独特な巫女装束は、そのほとんどが紅白の二色で構成されている。頭には同じく紅白の大きなリボンをつけており、それで長い黒髪を一つにまとめているようだ。

 妖怪退治を生業としながら、されど人妖問わず惹きつける不思議な魅力を持つ少女。彼女こそがこの博麗神社の巫女、博麗(はくれい)霊夢(れいむ)である。

 

「ふう……こんなものかしらね」

 

 一通り掃除し終えたのか、霊夢は手にしていた箒を片づけ、台所へ向かう。そしてお湯を沸かす準備をすると、いつものように縁側に腰掛け、くつろぎ始めた。

 

「いい天気……でもこんな日ほど、厄介ごとが飛んで来るのよね」

 

 ぼんやりと澄み渡る青空を眺めていた霊夢は、その中にこちらへ向かって進んでくる黒い点を見つける。自らの勘が当たってしまったことに溜息をつきながら、彼女は重い腰を上げて立ち上がり、台所へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい霊夢〜! ってなんだ、いないのか?」

 

 霊夢が縁側を離れたしばらく後。彼女の名を呼びながら、一人の少女がゆっくりと神社に降り立った。

 

 年齢は霊夢と同じくらいか。魔法の箒の上にまたがり、白いエプロンと黒い服を身につけている。リボンのついた黒の三角帽子は二重底になっており、マジックアイテムがしまわれているらしい。魔法使いを意識したというその衣装は、確かに遠くからは黒い点に見えるだろう。

 

 少女は箒から降りると、キョロキョロとあたりを見回していた。その後、目的の人物が近くにいないことを悟ると、ガッカリした様子で縁側に腰掛ける。そして、片側だけおさげにして前に下ろした金髪をいじりながら、ブツブツと呟き始めた。

 

「せっかく私が面白い話を持ってきたっていうのに、霊夢のやつはどこに行ったんだ? まったく、あいつは本当に────」

 

「本当に、何だって言うのかしら?」

 

 ここにはいないはずの家主の声を聞き少女が後ろを振り返ると、そこにはお茶を乗せたお盆を両手で持ったまま、呆れ顔で少女の方を見る霊夢の姿があった。

 その姿を目にして、少女は少し驚いたような顔を見せる。しかしそれも一瞬のこと、すぐにその表情を引っ込めて笑みを浮かべると、何事もなかったかのように霊夢に向けて話し始めた。

 

「何だ、いたのか。だったら返事しろよなー」

 

「今さら誤魔化しても遅いわよ、魔理沙(まりさ)

 

 ジト目で指摘する霊夢に、金髪の少女────霧雨魔理沙はばつの悪い表情を浮かべ……ることはなく、反省した様子も微塵もなかった。そして霊夢の持つお盆に手を伸ばし、二つある湯呑みのうち一つを手に取ると、中身のお茶をおもむろに口へと運んだ。

 

「はーうまい、わざわざ用意してくれるなんて気が利くなあ」

 

「用意しなかったら私の分を奪うくせに何言ってんだか……」

 

 おどけた言い方をする魔理沙に呆れつつ、霊夢はいつものことだから言っても無駄だと思い直し、その隣に腰を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、しばらく軽口を叩き合っていた二人だったが、一段落したところで霊夢が改めて口を開く。

 

「────で、今日はいったい何の用で来たのかしら? 面白い話がどうとか言ってたけど」

 

「ああ、そうだった。すっかり忘れてたぜ!」

 

 そう言うと魔理沙は、自分の荷物を漁り始める。そして目的のものを見つけると、見せびらかすように霊夢の目の前に突き出した。

 

「これを見せようと思ってたんだ!」

 

「……なにこれ、新種のアビリティカード?」

 

 魔理沙が手にしているもの。それは、10cm四方にも満たないほどの大きさの、長方形のカードの束だった。表側は一枚ごとに異なる絵が描かれているが、裏側はすべて同じ柄のようだ。霊夢は以前の異変で天弓(てんきゅう)千亦(ちまた)がばら撒いたアビリティカードの一種ではないかと推測するが、それを否定するように魔理沙は首を横に振る。

 

 その反応を見て、霊夢は再びカードに視線を向けた。裏側は全体が青を基調とした落ち着いた色合いであり、その中心には黄色い光を放つ龍の紋様が描かれている。そしてその紋様にまたがるように、横書きで「Duel Masters」の文字があった。

 

「これは『デュエル・マスターズ』カードって言ってな。最近人里で流行ってるカードゲームなんだ」

 

「カードゲーム……花札みたいなものかしら? だったら別に珍しくもなんともないじゃない」

 

 人里で新しい遊びが流行ること自体は、珍しいことではない。得てして人間というのは、娯楽を追い求める生き物なのだ。だからこそ霊夢には、魔理沙がこれを「面白い」と言う理由がわからなかった。

 

「確かにそうだ。これが、普通のカードならな」

 

「? どういうことよ」

 

「まあ、論より証拠だ。よく見てろよ?」

 

 魔理沙は新しく一枚のカードを取り出す。カードの裏側には先程と同様の絵柄が描かれていたが、反対に表側は真っ白であった。それをどうするのかと訝しむ霊夢をよそに、魔理沙はカードを両手に持つ。そして魔力を込め始めると、突然カードが光を放ち始めた。

 

「な……」

 

「驚くのはここからだぜ?」

 

 魔理沙がさらに魔力を込めると、カードが放つ光はどんどん強くなっていく。そして光の強さがある段階を超えた途端に、フッ……と光が消えていった。

 

「これでよし。ほら、見てみろよ」

 

「見ろって言ったって、いったい何を……⁈」

 

 魔理沙がカードを渡した瞬間、霊夢の顔が驚愕に染まる。それもそのはず、白紙であったカードの表側に、新たな絵が描かれていたのだから。呆然とカードを見つめる霊夢を目にしながら、魔理沙が口を開く。

 

「こんなふうに、自分でカードを作り出せるんだ。しかも、最低限の霊力や妖力さえあれば、人間だろうと妖怪だろうと関係なくな」

 

 その言葉に、聞き捨てならないと言わんばかりに霊夢が聞き返す。

 

「人間だけじゃなく、妖怪にも? 人里で流行ってるって話だったじゃない」

 

「人里で流行り始めたのは確かだが、いつのまにか話が広まったみたいでな。どこかの妖怪がためしにやってみたら、妖力でもできたらしい」

 

「……そもそも、この白紙のカードはどこで手に入れたのよ」

 

「人里でも売ってるが、私のは香霖(こうりん)からもらったやつだ。あいつの話によると、無縁塚にたくさん落ちていたらしい」

 

 香霖とは、魔法の森で道具屋を営んでいる森近(もりちか)霖之助(りんのすけ)のことである。半妖である彼は魔理沙の実家で修行していた時期があり、魔理沙とは幼い頃からの顔馴染みなのだ。

 そんな彼の店である『香霖堂』は幻想郷のみならず、外の世界の道具まで取り扱っている。と言っても、彼が外の世界に伝手があるわけではない。

 

 縁者のいない者を弔う共同墓地である『無縁塚』は、その特性ゆえに外の世界のものが流れ着くことがある。霖之助はしばしばここに赴き、弔いとともに珍しいものを拾い集めているのだ。

 魔理沙によると、ことの始まりは数日前。霖之助がいつもと同じように無縁塚を訪れたところ、これまで見たことのない謎のカードをたくさん発見した、ということらしい。

 

「私が調べたところ、香霖が発見する以前にもすでに人里ではこのカードが出回っていたみたいだ。ただし、カードしかりゲームのルールしかり、誰が最初に広めたのかは不明なままだな」

 

「……そう」

 

 魔理沙の言葉を聞き、険しい顔で考え込む霊夢。その様子を見て、魔理沙が再び口を開いた。

 

「お前が考えてることもわかるけどさ。スペルカードルールがちゃんと機能してるか心配なんだろ?」

 

 スペルカードルール。それは、血を流すことなく妖怪の力を保つために編み出された、弾幕の美しさを競う遊びである。

 妖怪が異変を起こしやすくすると同時に人間が妖怪を退治しやすくすることを目的として作られたこの遊びは、このルールが初めて用いられた紅霧異変以降、その理念の通りに幻想郷の秩序を保っていた。

 

 だがそこへ来て、今回の件である。どういうわけか、このカードは人間だけでなく妖怪にも広まっているようだ。つまりこのカードさえあれば、スペルカードを使えない普通の人間でも簡単に妖怪と決闘ができるというわけである。

 これでは下手をすれば、人間が妖怪を恐れなくなってしまう。そうなることは、人間がもつ恐怖の感情によって存在をなしている妖怪にとっては死活問題なのだ。

 

 このような事情もあり、霊夢は今回の件を幻想郷の根本をも揺るがしかねない事態だと考えた。しかし、事はそこまで深刻ではないと魔理沙は言う。

 

「実は、作り出せるカードの強さには差があってな。製作者が持つ魔力や妖力の量や質に依存するようなんだ。だから少なくとも、普通の人間を増長させるようなことにはならないと思うぞ」

 

 霊夢の最大の懸念は、幻想郷のパワーバランスが崩れること。しかし、強い妖怪ほど強いカードを生み出せる仕組みならば、その心配は杞憂というものだ。

 

「ふうん……まあそれなら、ひとまずは放置でよさそうね」

 

「そういう割には納得いかないって顔をしてるな。そんなに気になるならいっそのこと、これで遊んでみないか?」

 

 名案だと言わんばかりに魔理沙が提案する。その顔には新しい遊びへの期待がありありと浮かんでいた。最初からこれが目的だったのかと悟った霊夢は、一人納得しながら頷く。

 

「わかったわよ。とりあえずカード作るから、白紙のやつをよこしなさい。あと、ルール説明よろしく」

 

「ああ! それじゃあ、まずは……」

 

 

 

 

 

 少女説明中…………

 

 

 

 

 

「……なるほど、基本的なことはわかったわ」

 

 霊夢は自身の霊力を込め終えたカードをまとめると、シャッフルして決められた通りに並べる。テーブルを挟んで向かいに座る魔理沙も同じように準備し、霊夢に向き直った。

 

「じゃあ、早速」

 

「よし、いくぜ!」

 

「「デュエマ、スタート!」」

 

 

 

 

 

 先攻をとったのは霊夢。1ターン目はお互いにマナチャージのみで、2ターン目は霊夢が《チッタ・ペロル》を、魔理沙が《魔光ドラム・トレボール》を召喚し、どちらも次へ繋げる構えだ。そして3ターン目。

 

「《コッコ・ルピア》を召喚。そのままターンエンドよ」

 

 このターンも場にファイアー・バードを並べ、着々と準備を整える霊夢。魔理沙にとって、継続的にドラゴンの召喚コストを下げる《コッコ・ルピア》は厄介な存在であった。しかし、今はそれを除去する手段もないため、このターンは自分の動きを優先する。

 

「私のターンだ。《ドラム・トレボール》の能力で1コスト軽減して、《魔弾グローリー・ゲート》を唱えるぜ!」

 

 魔理沙が呪文の使用を宣言すると、その効果が発動。魔理沙が手を使わなくとも、山札の上から3枚がひとりでに宙に浮き、表向きになった。

 

「この中からナイトを1枚……こいつを回収して、残りは山札の下に。そして、“ナイト・マジック”発動!」

 

 魔理沙の声に反応し、再び山札の上から3枚が表向きになる。

 

「何それ?」

 

「こいつは“ナイト・マジック”っていう能力を持っててな。唱えたときに自分の場にナイトがいれば、もう一度その効果を使えるんだ」

 

「……ずるくない?」

 

「れっきとした正規の手段だぜ」

 

 そんじゃあ……と呟きながら、魔理沙は表向きの3枚のうち1枚のカードを手に取った。金と黒の二色に煌めく、光と闇の多色(レインボー)カードを。

 

「よし、ターンエンドだ」

 

 このターンで、魔理沙の手札はだいぶ整ったことだろう。その様子を見た霊夢は、攻めに転じることを決める。そしてここから、霊夢の攻撃が始まった。

 

「私のターン! 《コッコ・ルピア》の能力で2コスト軽減して、4マナで《ボルシャック・NEX》を召喚!」

 

 宣言とともに霊夢の手から放たれたカードは、赤い光を発しながらテーブルに着地する。次の瞬間、激しく燃える大きな両手を掲げたドラゴンがバトルゾーンに姿を見せた。

 

 そして、《NEX》の能力が発動。霊夢の山札のカードがすべて捲られ、霊夢にのみ見える形で宙に並ぶ。通常ならここから名前に『ルピア』とあるクリーチャーをバトルゾーンに出すことで処理が終了するのだが、それだけでは終わらない。

 

「私が出すのは《ボルシャック・ルピア》よ。そのまま能力発動! もう一度山札を見て、名前に『ボルシャック』とあるドラゴンを回収するわ」

 

 再び捲られた山札から、霊夢は1枚のカードを手に取った。火文明の英雄にのみその名が受け継がれるボルシャックの一族、その王たるドラゴンを。

 

「そして、G(グラビティ)・ゼロ発動!」

 

 特定の条件を満たせばコストを支払わずにカードを使用できる能力、G・ゼロ。ボルシャックの王が登場する条件は、自分のバトルゾーンに『ボルシャック』の名を持つドラゴンがいること。そして今、霊夢のバトルゾーンには《ボルシャック・NEX》がいる。

 

「おいおい、嘘だろ⁈」

 

「嘘じゃないわ。《NEX》を進化元にして、0マナで《超竜キング・ボルシャック》を召喚!」

 

 霊夢が《NEX》の上にカードを重ねると、カードは強い光を放ち始める。そして光が収束すると、そこには《NEX》よりもひとまわりほど大きい、激しい炎を両手に纏う勇ましいドラゴンの姿があった。

 

「さあ、行くわよ! 《キング・ボルシャック》で攻撃!」

 

 霊夢の声に共鳴するように、ひとりでに《キング・ボルシャック》がタップする。次の瞬間、魔理沙のシールドが3枚捲れ、宙に浮いた。

 

「0マナで出てくるT(トリプル)・ブレイカーとか、冗談キツイぜ……」

 

 予想外の速攻に舌を巻きながら、魔理沙はシールドを確認する。欲しいカードではなかったのか1枚目と2枚目を見て渋い顔をするが、3枚目を見るとニヤリと笑った。

 

「だが、引ければこっちのもんだ。S(シールド)・トリガー発動、呪文《魔弾アルカディア・エッグ》! 効果で、アンタップしてる《コッコ・ルピア》を破壊だ!」

 

 これで、このターンに攻撃できるクリーチャーは《チッタ・ペロル》のみ。しかもドラゴンのコスト軽減が消えたため、霊夢は次のターンにドラゴンの早出しができなくなった。

 さらに魔理沙は、1枚のカードを手札から見せる。

 

「そして、《アルカディア・エッグ》のもう一つの効果。墓地に《グローリー・ゲート》があれば、手札からこいつをタダで出せる!」

 

「はあ⁈」

 

 霊夢の驚愕をよそに、魔理沙が手に持っていた1枚のカードがバトルゾーンに出る。堂々たる立ち姿をした、金と黒に輝く人型のクリーチャー。ナイトの4大派閥のうち一つを束ねる魔弾の名手、《魔光大帝ネロ・グリフィス》である。

 

 突如現れたパワー7000のブロッカーにより、霊夢は攻撃の中断を余儀なくされる。そのまま霊夢のターンが終わり、魔理沙の4ターン目が回ってきた。シールドが割られたこともあり、手札は潤沢にある。

 

「ここからはこっちの番だ。まずは呪文《ボーンおどり・チャージャー》を唱える」

 

 魔理沙の山札の上から2枚が墓地に置かれた後、唱えられた呪文がチャージャーの効果によりマナゾーンに置かれる。墓地に落ちた闇のカードを見て、魔理沙は小さな笑みを浮かべた。

 

「そして、《ドラム・トレボール》で《キング・ボルシャック》に攻撃だ!」

 

「え?」

 

 霊夢は疑問の声を上げる。それもそのはず、《キング・ボルシャック》のパワー13000に対して《ドラム・トレボール》のパワーはたったの1000。これではただの自爆特攻である。

 

 そのままバトルが始まり、《ドラム・トレボール》は破壊される。しかし、これが魔理沙の狙いだった。次の瞬間、魔理沙の手に握られていた《デーモン・ハンド》によって《キング・ボルシャック》が破壊される。

 

「な……」

 

「これが《ネロ・グリフィス》の能力。味方のナイトが破壊されたとき、手札から光または闇のコスト6以下のS・トリガー呪文をタダで唱えられるんだぜ。これでターンエンドだ」

 

 これで、形勢は完全に逆転した。このターンは動けないことを悟り、《コッコ・ルピア》を召喚して次のターンに賭ける霊夢。その様子を見た魔理沙は、運に頼ることを承知でこのターンで決めにかかる。

 

「いくぞ、呪文《煉獄と魔弾の印(エターナル・サイン)》!」

 

 唱えられたのは、コスト7以下の火または闇のクリーチャーを墓地から出し、さらにスピードアタッカーを与える呪文。その効果により墓地から現れたのは、禍々しい黒いオーラを纏った人型のクリーチャー。

 

「邪眼を統べる煉獄の王よ、今ここに復活せよ────《邪眼皇ロマノフⅠ世》!!!」

 

 戦場に降りたつ闇の騎士(ナイト)の口元は、笑うようにわずかに歪んでいた。

 




ここまでお読みいただきありがとうございます。

次回、後編。近日中に更新いたします。

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