決闘幻想郷 〜The Fantastic Duel Story〜   作:永夜 藤月

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後編となります。魔理沙の戦略とは…?


新たな決闘法⁉︎(後編)

 《煉獄と魔弾の印(エターナル・サイン)》によって魔理沙の墓地から蘇った、《邪眼皇ロマノフⅠ世》。バトルゾーンに出たことでその第一の能力が発動し、魔理沙の山札が捲られていく。

 

「こいつは出た時に山札を見て、闇のカードを1枚墓地に落とせる。私が選ぶのは……《邪眼教皇ロマノフⅡ世》だ」

 

「……!」

 

 この動きが何を意味するのか。カードの能力は知らないものの、持ち前の勘の良さによって、霊夢は魔理沙の意図に気づいた。

 

「そして、《ロマノフⅠ世》でシールドに攻撃するときに。《ロマノフⅠ世》の第二の能力発動!」

 

 ロマノフの名を持つ騎士(ナイト)たちは、そのほとんどが魔弾(じゅもん)を放つ能力を持つ。その中でも《ロマノフⅠ世》が持つのは……攻撃時に墓地からコスト6以下の、火または闇の呪文を唱える能力。

 

「墓地から《煉獄と魔弾の印》を唱えて、《ロマノフⅡ世》を復活させる」

 

 再び墓地から光が放たれ、バトルゾーンに第二のロマノフが現れる。効果を果たした《煉獄と魔弾の印》は、山札の下へと消えていった。

 

 そして、《ロマノフⅡ世》の能力が発動。山札の上から5枚を墓地に置き、その中からコスト6以下の呪文を唱えられるのだが……その中には、2枚目の《ロマノフⅡ世》と《煉獄と魔弾の印》の姿が。

 

「……まさか⁉︎」

 

「そのまさかだぜ」

 

 ロマノフの能力で呪文を唱え、さらなるロマノフを呼び出す。これこそが、二種類のロマノフによる大量展開。俗に「ロマノフワンショット」と呼ばれるコンボである。

 

 最終的に、魔理沙の場には《ネロ・グリフィス》と《ロマノフⅠ世》、そして《ロマノフⅡ世》2体が並んだ。ここにきてようやく、《ロマノフⅠ世》の攻撃が処理される。

 

 霊夢のシールドが2枚割られる。S・トリガーはない。

 

 1体目の《ロマノフⅡ世》によって、さらにシールドが2枚が割られる。S・トリガーはない。

 

「2体目の《ロマノフⅡ世》で、最後のシールドをブレイクだ!」

 

 残るアタッカーは《ネロ・グリフィス》のみ。ここのS・トリガーで対処しなければならないが、破壊すると魔理沙の手札から呪文が唱えられ、さらに不利になってしまう。

 

 はたして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「S・トリガー、《ナチュラル・トラップ》! 《ネロ・グリフィス》をマナ送りにするわ!」

 

 最後のシールドはS・トリガーだった。しかも、《ネロ・グリフィス》の能力を使わせずに除去できる呪文である。

 

「まったく、運のいいやつめ……ターンエンドだ」

 

 もうアタッカーがいないため、魔理沙は番を返す。シールドはなくなったが、霊夢の場には3体のファイアー・バードがいる。そして、魔理沙のシールドは残り2枚。ちょうどダイレクトアタックまでいける状態だ。

 

「勝ったわね。私のターン、ドロー」

 

「おいおい、早すぎないか?」

 

 ここからさらに打点を追加できるとはいえ、まだS・トリガーが埋まっている可能性は大いにある。普通なら魔理沙の言う通り、勝ちを断言することなどできない。そう、()()()()

 

「まずは3マナで《トット・ピピッチ》を召喚。これで私のドラゴンはすべてスピードアタッカーを得る」

 

 (いぶか)しむ魔理沙とは対照的に、余裕の笑みを崩さない霊夢。続いて手札から、緑のカードを手に取った。

 

「呪文《フェアリー・ギフト》。これで私が次に召喚するクリーチャーのコストは、3少なくなるわ。そして……」

 

 最後に霊夢は、一枚のカードを表向きにする。赤い炎の中に佇む、蒼い体を持つドラゴン。背中に巨大な砲台を背負い、その聖なる炎は悪しき心を焼き尽くす。

 

「……《コッコ・ルピア》と合わせて、2マナで召喚!」

 

 ー気高き怒りに触れる者、百万回死んでもおかしくない。ー

 

「すべてを燃やし尽くせ────《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》!!!」

 

 デュエマの顔とも言える猛き闘魂の王が、ここに降臨した。

 

 

 

 

 

「《ホワイト・ドラゴン》の炎は、浴びた者の存在を許さない。絶対の盾であるシールドすらも、完全に焼却するわ」

 

「……焼却?」

 

 召喚した《ホワイト・ドラゴン》を右手の三本指で押さえながら、そう呟く霊夢。聞きなれない言葉に魔理沙は首を傾げるが、続く霊夢の台詞に絶句する。

 

「つまり、相手のシールドを直接墓地送りにして、S・トリガーを使わせないのよ」

 

「なっ……‼︎」

 

 驚愕する魔理沙を置き去りにし、霊夢は《ホワイト・ドラゴン》をタップして攻撃。無情にもシールドは割られ、そのまま墓地へと送られる。しかもその中には、S・トリガーである《ホーリー・スパーク》が。

 

「あんたがシールドを割ってくれたおかげで、手札が揃ったわ……惜しかったわね。《コッコ・ルピア》で、ダイレクトアタック!!!」

 

 勝者────博麗霊夢。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっそ〜、あと少しだったのに」

 

 デュエル終了後。霊夢が新しく淹れ直したお茶を受け取った魔理沙は、悔しそうな表情で悪態をついた。それに対し、霊夢は無表情で言葉を返す。

 

「焦って運任せに攻めるからでしょ。あそこはもう1ターン待っても良かったと思うわよ」

 

「やっぱりそうか? いや、でもなぁ……」

 

 霊夢の言う通り、あの時点では霊夢は次のターンの準備ができていなかった。そのため、シールドに攻撃するよりも場のクリーチャーを処理する方が適当だったと言える。

 しかし、それは霊夢目線での話。手札はもちろんデッキの中身すらも知らない魔理沙からすれば、霊夢が何を使ってくるかは全く予想ができない。攻められるうちに攻めておこうと思うことは、ある意味自然な考え方と言えた。

 

「それにしても……なかなか面白いわね、これ。物好きな妖怪たち(あいつら)がハマる訳だわ」

 

「そうだろ。なんなら、スペルカードルール(弾幕ごっこ)の代わりにこれをやるのもありじゃないか?」

 

「さすがにそれはな『いいんじゃないかしら?』い……⁉︎」

 

 突然会話に割り込んできた声。周りには誰もおらず、まるで虚空から聞こえてきたようである。しかし二人は心当たりがあったのか、少し驚くにとどまった。そして何もない空間に向けて、霊夢が口を開く。

 

「本気で言ってるの? (ゆかり)

 

 次の瞬間、()()()()()()空間に一本の切れ目が入り、周りの空間を引き裂くように開いていく。切れ目の中からは、不気味な目玉がたくさん顔を覗かせていた。そしてその奥から、一人の少女が現れる。

 

「もちろん。冗談でこんなことは言いませんわ」

 

 二人の前に姿を見せたその少女は、わずかに微笑みながらそう言った。10代と言うには少し大人びた顔立ちに、ふわりとたなびく長い金髪。大陸の道士服に似た衣装に身を包み、頭には特徴的な形の帽子を被っている。

 

 彼女の名は八雲(やくも)紫。境界を操る能力を持つ妖怪の賢者であり、実質的な幻想郷の管理人でもある。そんな彼女が発した信じがたい言葉に、霊夢に加えて発案者の魔理沙までも困惑する中、紫は再び口を開いた。

 

「先程確認したところ、結界に異常はありませんでしたわ。つまりそのカードは、あるべくして幻想郷に導かれたのでしょう」

 

 幻想郷は「博麗大結界」と「幻と実体の境界」の二種類の結界に包まれている。前者は幻想郷と外の世界との出入りを遮断し、後者は外の世界で忘れ去られた妖怪や物体を流れ込みやすくしている。

 

 一見すると矛盾しているようだが、博麗大結界は壁というよりフィルターのようなものである。意識ある者は通さないが、意識のないものは無差別に通り抜けるのだ。力のある妖怪には無力だが、並の存在に対しては非常に強力な結界である。

 

 ここまでくれば分かる通り、結界が正常に作動しているのならば。カードが幻想郷に現れたのは、外の世界で忘れ去られたからであろう。であれば、カードの存在自体に危惧することはないということだ。

 

 尚も納得のいかない霊夢に対し、紫は言葉を続ける。

 

「カードの強さが所持者の強さによるというのなら、パワーバランスが崩れることもありませんわ。それに、預かり知らぬところで勝手に使われるよりは、目につく場所でやらせた方がいいでしょう?」

 

 紫の言うことは最もである。霊夢もそれは分かっているようだが、どこか飲み込めない、と言った感じだ。その様子を不思議に思った魔理沙が問いかける。

 

「何をそんなに悩んでるんだ? ……もしかして、スペルカードルールの理念と合わないからか?」

 

 魔理沙が思い当たったのは、スペルカードルール制定の基準となった基本理念である。その内容は次の四つからなる。

 

 一つ、妖怪が異変を起こし易くする。

 一つ、人間が異変を解決し易くする。

 一つ、完全な実力主義を否定する。

 一つ、美しさと思念に勝る物は無し。

 

 ここで重要になるのが、四つ目の理念である。スペルカードルールの根幹とも言えるこの理念は、必ず勝敗が決まってしまうカードゲームには合わない。そのことで悩んでいるのではないかと魔理沙は思ったようだが、霊夢は首を横に振る。

 

「美しさや思念は使うカードやプレイスタイルで十分示せるから、それは問題ないと思うわ。そもそもスペルカードルールだって、先に被弾し(ピチュッ)た方が負けって勝負になることもあるしね」

 

 そう言った後、先程の質問には「ルールも何もかも変えるわけだし、慎重になってるだけよ」とだけ答えた。そんな霊夢を宥めるように、紫は言葉をかける。

 

「まあ、いきなりのことで簡単には受け入れられないのでしょう。しかし、人も妖怪も幻想郷も。時には、変わらなければならないこともありますわ。何より────」

 

 扇子で器用に口元を隠しながら、紫は笑う。その様子は普段から見慣れているはずの二人にとっても、ひどく不気味なものに見えた。

 

「────幻想郷は、すべてを受け入れます。たとえそれが、どんな未来を招こうとも。それはそれで、残酷な話ですが」

 

 この数時間後。スペルカードルールに代わる新たな決闘法が、幻想郷中に伝えられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幻想郷から遠く離れた、誰も知らない空間。その中でゆっくりとうごめくソレは、じっと機会を待っている。自身の悲願を達成できる、その機会を。

 

 

 

 

 

 のちに幾つもの世界を巻き込むこととなる壮大な異変は、実に静かに、誰にも気づかれることなく幕を開けた。

 




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