決闘幻想郷 〜The Fantastic Duel Story〜   作:永夜 藤月

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氷の妖精あらわる!

 翌日。霊夢はいつものように朝食を食べ終えると、人里へ出かける準備を始めた。新しいルールについて、人間たちへ伝達と注意喚起をするためである。

 

 弾幕を生み出せる者しか参加できなかったスペルカードルールとは異なり、新たな「デュエルマスターズルール」は、カードさえあれば誰でも決闘ができてしまう。

 そのため、気を大きくした人間が無謀にも妖怪に挑んだりしないよう、早めに呼びかける必要があったのだ。

 

 準備を終えた霊夢は神社を飛び立つと、人里へと一直線に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ見えてくるはず……ん?」

 

 飛び始めてからしばらく経ち、少しずつ人里が見え始める頃。霧の湖で生まれたと思われる濃い霧の塊が、霊夢の視界に入ってきた。

 

 霧の湖は幻想郷のほぼ中心に存在する湖であり、名前の通り常に深い霧が立ち込めている。付近には妖精が多く棲んでおり、不用意に近づくとさまざまな、時には危険な悪戯(いたずら)をされてしまう場所だ。

 

 そんな霧の湖から流れてきた、不自然な霧の塊。しかも大きさは、ちょうど子供一人が入りそうなぐらいである。霊夢は大幣(おおぬさ)を取り出すと、霧の塊に背を向けた。

 

「くらえー、アタイの必殺技!」

 

 次の瞬間。陽気な掛け声とともに、霧の中から氷柱が飛び出してきた。氷柱はそのまま霊夢のいる場所に向かっていき、ドスッ、という音を立てた。

 

「やった、当たった! へへん、どうだ!」

 

 氷柱を飛ばしたその人物は、意気揚々と霧の中から出てくる。しかし当人の想像とは異なり、そこにあるのは氷柱の刺さった一枚のお(ふだ)だった。それを見て首を傾げたのも束の間、バシッ、という音とともに、頭に強い衝撃が走る。

 

「あいたっ⁉︎」

 

 痛む頭を押さえながら後ろを振り返ると、そこには、大幣を振り下ろした霊夢の姿があった。途端に顔を青ざめるその人物を見て、ため息混じりに霊夢が呟く。

 

「こんなところで何してるのよ、チルノ」

 

 問いかけられたその人物────氷の妖精チルノは、慌てた様子で口を動かす。

 

「な、な、何にも?」

 

「何にも、ねえ。じゃあ、あの氷柱はどう説明するのかしら?」

 

 とぼけるチルノに対して追及する霊夢。その目は絶対に逃がさないと言わんばかりにチルノを見つめている。妖精の中では強い力を持つチルノといえども、博麗の巫女が相手では(かた)なしである。

 

 その表情を見て、さらに慌てるチルノ。なんとか言い訳しようとあたふたする様子は、まさに悪戯がバレて親に叱られる子供のようである。

 

「……まぁ、いいけど。私は用事があるから行くわよ」

 

 とはいえ霊夢も、こんなところで油を売っていられるほど暇ではない。そもそも、自然の権化ともいえる妖精に何かを諭したところで、何も変わらないのは目に見えているのだ。時間を使うだけ無駄である。

 

 チルノに背を向けて、人里に向かおうとする霊夢。すると背後から、震えたような声が聞こえてきた。

 

「そ、そんなこと言って、後でこーふくするつもりだろ!」

 

「それを言うなら報復ね。何で私が降るのよ」

 

 どうやらチルノは、後で霊夢に仕返しされると思っているようだ。もう霊夢は大幣で叩いたのでチャラにしたつもりなのだが、思い込んだら一直線なのが妖精である。こうなっては何を言っても聞くことはない。

 

「……それで。あんたはどうしたいの?」

 

 霊夢は仕方なく、チルノの気が晴れるまで付き合おうと決める。自身の方に向き直った霊夢を見て、チルノはニカッと笑った。

 

「アタイと勝負だ! そんでアタイが勝ったら、さっきのはチャラにしろ!」

 

「いいわよ。でもあんた、新しいルールのことは聞いてるの?」

 

『デュエルマスターズルール』については霊夢が人間たちへ、紫が妖怪たちへ周知することとなっている。普段は怠けがちな紫も、幻想郷のこととなれば仕事が早い。当然、既に周知し終えているのだろうが……。

 

「新しいルール? なにそれ?」

 

 やはりと言うか、妖精には届いていないようだ。とはいえ今から説明するのも億劫だし、どうしたものか……と霊夢が思ったとき。

 

「チルノちゃん! 何してるの‼︎」

 

 チルノの隣に、どこからともなく別の妖精が現れた。緑の短髪をまとめたサイドテールは風に揺れ、背中の羽は(せわ)しなく動いている。よほど急いできたのだろう、すでに軽い息切れを起こしていた。

 

「あっ、大ちゃん! どうしたの、そんなに疲れて」

 

「どうしたもこうしたもないよ! いっしょに遊んでたら、急にいなくなっちゃうし!」

 

 どうやら彼女は、チルノを追いかけてここまで来たようだ。ちなみに大ちゃんというのは彼女のあだ名であり、大妖精という種族をもじってチルノに付けられたものである。

 

「あっ、そうだ! 大ちゃん、新しいルールって何のこと?」

 

「え? さっき遊んでたあのゲームだよ! 忘れたの?」

 

 急な話題転換についていけるのは、普段から振り回されているからだろうか。とはいえその答えは霊夢が望んでいたものだった。

 

「なんだ、知ってるじゃないの。だったら話が早いわ」

 

 大幣をしまい、カードを取り出す霊夢。それを見て、チルノもようやく思い出したようだ。

 

「そういえば、そんなのあった気がする! ……大ちゃん、アタイのカード持ってる?」

 

「そう言うと思って、持ってきておいたよ。はい」

 

 大妖精から手渡されたカードを受け取り、チルノは霊夢に向き直る。その顔には、新しい遊びへの期待感がありありと浮かんでいた。

 

「アタイの力、見せてやる!」

 

「はいはい。こっちは急いでるから、さっさと終わらせるわよ。それじゃあ……」

 

「「デュエマ、スタート!」」

 

 

 

 

 

 先攻はチルノ。1ターン目から《冒険妖精ポレゴン》を召喚し、2ターン目は《フェアリー・ライフ》でマナ加速。さらに《ポレゴン》で攻撃し、霊夢のシールドを減らしていく。

 

 対して後攻の霊夢も、負けじと2ターン目に《フェアリー・ライフ》を唱えてマナ加速。マナを伸ばし、着実にドラゴンを出す準備を進める。

 

「アタイのターン、ドロー! 《天真妖精オチャッピィ》を召喚!」

 

 3ターン目。チルノは《オチャッピィ》の能力で墓地の《フェアリー・ライフ》をマナゾーンに送り、残ったマナで前のターンに手札に戻った《ポレゴン》を召喚した。

 

「ターンエンド! 次のターンに、アタイの切り札を見せてやる!」

 

「へえ、あんたの切り札……どんなやつなのか見ものね。私のターン、ドロー。《コッコ・ルピア》を召喚して、ターンエンドよ」

 

 次々とスノーフェアリーを展開するチルノに対し、霊夢は淡々と準備に徹する。余裕を崩さない霊夢の様子が癪なのだろう、チルノは頬を膨らませていた。

 

「う〜、もう怒ったぞ! アタイのターン、ドロー!」

 

 4ターン目、チルノは2体目の《ポレゴン》を召喚。これでバトルゾーンには、チルノのスノーフェアリーが3体並んだ。そして宣言通り、チルノの切り札が姿を見せる。

 

「G・ゼロ発動! 見せてやる、これがアタイの切り札────《武家(ぶけ)類武士目(るいもののふもく)ステージュラ》だ!」

 

 スノーフェアリーを友とする誇り高き(ドラゴン)が、戦場に姿を現した。

 

 

 

 

 

「へっへ〜ん! どうだ、驚いただろ!」

 

 突然現れた大型ドラゴンに目を見開いた霊夢に対し、勝ち誇るように胸を張るチルノ。自信満々なその姿は、早くも自らの勝ちを確信しているように見える。

 

「さらに、《ステージュラ》の能力発動! マナゾーンから《ダイヤモンド・ブリザード》を回収して、そのまま今出した《ポレゴン》の上に進化!」

 

 続けて現れたのは、進化獣である《ダイヤモンド・ブリザード》。登場時に墓地とマナゾーンのスノーフェアリーを全て回収する豪快な能力を持っており、これによってチルノの手札が回復した。

 

「このまま一気に行ってやる! 《ポレゴン》と《オチャッピィ》、そして《ブリザード》でシールドをブレイクだ!」

 

 そして、続けざまに霊夢のシールドが割られる。S・トリガーは1枚もなく、シールドは残り1枚となった。

 

「次のターンに止めを刺して、アタイの勝ちだ! ターンエンド!」

 

 わずか1ターンのうちに追い詰められた霊夢。チルノのクリーチャーは4体もいるのに対して、霊夢のクリーチャーは《コッコ・ルピア》のみ。この物量差をひっくり返すのは至難の業である。

 

「……正直、あんたがここまでやるとは思わなかったわ」

 

 普通なら返せないような盤面。しかし、霊夢は笑っていた。

 

「でも、勝つのは私よ。私のターン、ドロー!」

 

 霊夢は最初、適度に手を抜いて戦うつもりだった。相手は妖精、それもあのチルノ(まるきゅう)である。まともな勝負になるとは思えなかったし、何より急いでいたから。

 

 けれども、そんな霊夢に対してチルノは工夫を凝らし、ここまで追い詰めて見せた。だからこそ、霊夢は決めたのだ。本気でチルノと向き合い、そして勝つことを。

 

「見せてあげるわ……私の新たな切り札を!」

 

 霊夢の手札から、《コッコ・ルピア》の上へと乗せられたカード。その縁は赤く染まっており、中心には赤い装甲を見に纏うドラゴンの姿があった。

 

 脚の先にある鋭い爪に、背中から生えた燃え上がる翼。鍛え上げられたその肉体は、それ自体が鎧のようである。

 そして何より目につくのは、肩に備え付けられた一振りの大剣。その柄の部分に光るのは、何にも屈しないことを表す“革命の拳”の紋章。

 

「ドラゴンを超えしドラゴンよ、その力を解き放て────《燃える革命ドギラゴン》‼︎」

 

 どんな逆境も跳ね除ける最強のドラゴンが、ここに降臨した。

 

 

 

 

 

「《ドギラゴン》で《ブリザード》に攻撃するわ」

 

 霊夢の言葉を聞き、はっとして顔を上げるチルノ。どうやら雰囲気に呑まれていたようだ。そのことを誤魔化すように慌ててバトルゾーンを見れば、《ブリザード》はバトルに負けて破壊されていた。

 

 一瞬でチルノのクリーチャーを葬り去った赤いドラゴン。その力の一端を見たチルノは、次は何が起こるのかと身構える。

 

「ターンエンド」

 

 しかし、聞こえてきたのはターンを終えるという言葉。その意味が飲み込めずしばらく呆けていたチルノだったが、徐々にその顔に生気が戻り始めた。

 

「な、なんだ、大したことないじゃん! アタイのターン、ドロー! ……《オチャッピィ》で、最後のシールドをブレイクだ!」

 

 最初の勢いを取り戻したチルノは、すぐさま攻撃を仕掛ける。霊夢の最後のシールドが割られ……S・トリガーはない。

 

「いっけー! 《ステージュラ》でダイレクトアタックだあああ!」

 

 自らの勝ちを確信したチルノ。だが、その攻撃が霊夢に届くことはなかった。

 

「無駄よ」

 

 その言葉と共に、《ステージュラ》の攻撃が無効化される。

 

「な、なんで⁈」

 

「《ドギラゴン》の一つ目の能力……“革命2”。出た時に私のシールドが2つ以下なら、次の私のターンのはじめまで私はゲームに負けず、あんたはゲームに勝てない!」

 

 そう、これが《ドギラゴン》の持つ、最上級の敗北回避能力。出すだけで確実に次のターンが保証され、反撃を可能とする、“革命”を体現したような能力である。

 

 こうなると、もうチルノにできることはない。しぶしぶターンを終了する。

 

「くぅ……ターンエンド。でも次で、今度こそアタイの勝ちだ!」

 

 とはいえ、状況は変わらない。霊夢のシールドが0枚なのに対して、チルノのシールドは5枚。依然としてチルノが圧倒的に有利である。

 

「いいえ────私の勝ちよ」

 

 しかし、霊夢は言う。このターンで、自分が勝って終わりだと。

 

「私のターン、ドロー。そのまま《ドギラゴン》で《ステージュラ》に攻撃する時……“革命0”、発動!」

 

 革命0。それは文字通り、世界を変えるほどの力。《ドギラゴン》の持つそれは……攻撃時にアンタップする能力。

 

「つまり、無限攻撃よ‼︎」

 

「⁉︎」

 

 瞬く間にチルノのクリーチャーが一掃され、さらにシールドも全て消し飛ばされる。S・トリガーを引いたとしても、並のパワー指定では意味がない。

 

「あんたにしては、よくやったわよ……《ドギラゴン》で、ダイレクトアタック!!!」

 

 勝者────博麗霊夢。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う〜、あとちょっとだったのに〜!」

 

 デュエル終了後。余程悔しかったのか、うんうん唸っているチルノ。その様子を見た霊夢は、そういえば魔理沙もこんな表情をしていたな……などと考えていた。

 

「くそう! 次は負けないからな!」

 

 とはいえ、さすがは刹那を生きる妖精。しばらくすると、先程まで唸っていたのが嘘のように明るい顔をしていた。そして、霧の湖の方向へ飛び去っていく。

 

「あっ! チルノちゃん、待って〜!」

 

 デュエル中は完全に空気だった大妖精も、再起動したようにチルノを追いかけていく。テレポートでも使ったのか、その姿はあっという間に見えなくなった。

 

「……なんか、思ったより疲れたわね。まあ、楽しかったからいいか」

 

 嵐のように過ぎ去った妖精たちを見て、ボソリとつぶやく霊夢。その口元には、小さな笑みを浮かべていた。

 

「さてと、だいぶ油を売っちゃったわ。さっさと人里で用事を済まして、神社に帰ってお昼寝しようっと」

 

 再び人里に向けて飛び始めた霊夢。しばらくすると、高い塀に囲まれた人里が見えてきた。

 

「そういえば、デュエル中のチルノはやけに冴えてたわね。デュエマをすると、妖精の知能も上がるのかしら? ……まさかね」

 

 その独り言を拾う者は、誰もいなかった。

 




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