あの後、殆どのおかずを幽々子さんに取られて空腹の俺は、起きていても腹が空いてむなしい気持ちになるだけなので洗い物を済ませると、自室に敷いてある布団に潜りこみそのまま寝ることにした。
空腹に耐えながら目を閉じていると、その内意識がまどろみ始めたころ、急に俺の体がどこかに引っ張られだした。
「おいおい!何だこれ!?体がすごい引っ張られるんだけど!」
畳にしがみ付いて引っ張られるのを抑えてはいるがそれでもその力は強く、徐々に畳から手が離れる。
「こなくそぉぉぉぉぉ!!」
布団から手が離れたのだが、俺は近くにある柱に手を伸ばして何とか掴むことに成功し、そのまま両手で柱を掴む。
状態的にはもう俺の体は鯉のぼりみたいに横向きに中に浮いており掴んでいるのがやっとの状態である。
「どうしたんですか!?恭一さん!?」
「どうしたの~?騒がしいわね~?」
俺の叫ぶ声が聞こえたのか二人とも寝巻き姿の格好で俺の前に現れる。
もっとも幽々子さんの方は半分寝ているような足取りでふらふらとこっちに来ていた。
「それが!急に体が引っ張られるような感じがして慌てて柱に掴まったんだけどこの通り引っ張る力が強くてそのまま中に横向きに浮いている状態なんだ!!」
「ああ、やっとですか」
「そうね~案外遅かったものね~」
俺の言った言葉に妖夢と幽々子さんは急に何かを理解した様子で、特に妖夢は心配そうにしていた顔をなくし普段の顔に戻っていた。
「あれ?どうしたんだ二人とも!?俺まだ空中に浮きっぱなしなんだけど!」
「心配しないで下さい恭一さん。それはあなたの魂が現世の肉体に戻ろうしているため、そのように身体が引っ張られているのですよ。だから、そのまま身をゆだねたら、あなたの魂は現世に戻るはずです。」
「え?マジで?そういえば賽の河原でもこんな事があった気がする!」
思い返せば賽の河原の時にもこのような事があって、肉体に戻ることができたんだった!
もう生きたまま行くことはないと思っていたので完全に忘れてた!
「今まで、色々と私のお手伝いをしてくださってありがとうございました。恭一さんの教えてくれた料理は忘れません。向こうの世界で達者に暮らしてください。そして、もう二度と死に掛かるような事にはならないでくださいね。」
「私もあなたがいてくれた間、色々と楽しかったわ。ご飯も美味しかったし、掃除もしてくれるし、言うことなかったわ~。向こうの世界に戻っても元気に暮らすのよ~。」
二人とも別れの言葉を言ってくれてはいるが俺は横向きのままなのでなんともシュールな別れ方になっている。
しかしながらこの手を離してしまうと肉体一直線なので(前回体験したのを思い出した)この体勢を取り続けなければならないのだ。
「妖夢!料理を一緒に作れて楽しかったよ!それと霊力の修行に付き合ってくれてありがとう!それと幽々子さん!見ず知らずの俺を白玉楼に住まわせてくれてありがとうございました!」
「それじゃあ、今度俺が死んだ時に会いましょう!」
死んだ時と言うのも妙な話だが何だか妖夢と幽々子さんにはまた会えそうな気がする。
だからこのような事を言ったのだ。
「はい!またいつか縁があればお会いしましょう!」
「そうね。縁があればまた会いましょう。」
そして俺は手を離して肉体の方にと引っ張られていく。
そして、ずいぶんと長い間お世話になってしまった白玉楼の生活を思い返しながら俺はそのまま意識を失っていくのだった。
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「おはようございます!」
俺はその場で飛び起きると辺りを見回す。
「どうやら無事に冥界から幻想郷に戻ってこれたみた………ここ何処よ?」
紅魔館に戻ってきたと思い辺りを見回して見たのだがそこは見たことも無い景色で洋風の作りの紅魔館に対し此処は純日本風の作りで、俺が先ほどまで居た白玉楼の部屋に近い作りだった。
白玉楼では見たことの無い部屋だし、今度は何処に来たのよ?俺?
「あら?目を覚ましたの?」
そんな事を考えていると、部屋の襖が開いて廊下から銀髪の髪を三つ編みにした左右別々の色を対象にした奇妙な服を着ている女性が現れた。
「そろそろ目覚める頃だとは思っていたけど丁度よかったわね。」
そういって部屋の中に入ってくる女性。
「あの?すいません。あなたは誰なんですか?それと此処は何処です?」
「ああ、ずっと意識を失っていたから分からないわよね。ごめんなさい。ここは、永遠亭というところなの。それであなたがここに居る理由だけど、あなたが吸血鬼のお嬢ちゃんにタックルをされたのは覚えているかしら?」
「はい、そのタックルで冥界まで行って、今までそこで住んでいたんですけど。」
「あら?面白い体験をしているのね?興味深いわ………まあ、その話は後で聞くとして、あなたはその後意識を失って1ヶ月近く寝ていたままだったわ。」
マジか?確かに白玉楼で一ヶ月ぐらいはいたとは思うんだけどそんなにも寝ていたのか。
どうりで身体のあちこちが軋む感じがするわけだ。
「それで、あなたが寝ている間に色々あって紅魔館の人たちと知り合いになったの。そしてその時にあなたの意識を戻すようにいわれて今こうして意識を戻してあげたの」
「それは、すいませんでした。意識を戻してくれてありがとうございます。あ、俺の名前は日野 恭一って言います。」
「ご丁寧にどうも。私の名前は八意 永琳よ。この永遠亭で医者をやっているわ。よろしくね。」
そういって手をさしだしてくるので俺も手を出して握手をする。
「それで、俺の体は大丈夫なんですか?」
「ええ、体の方にも怪我は無いみたいだし、魂の方も無事に戻ってきているみたいだから大丈夫よ。明後日辺りに紅魔館の人たちが此処にあなたの様子を見に来るみたいだからその時に一緒に帰ってもいいわよ。」
「本当ですか?何から何まで本当にすいません。何も持っていないので御礼とかできないんですけど」
「それは別にいいわ。魂がなくなっている体を弄るのも久しぶりだったからこっちの方が逆にお礼をしたいぐらいよ。」
ん?この人、今体を弄くるとか言わなかったか?
何だか物騒な言葉を聞いたような気がするが………身体を治してくれたんだし気のせいだろう。
「ああ、あとあなたの治療を頼んだ吸血鬼の妹さんにも感謝しなさいよ。私があなたを此処に運ぶのに紅魔館に出向いた際に泣きながら「恭一の体を治して!」って頼まれたのだから。あと、最初にあなたの体を治すように言った妹さんのお姉さんにもね。」
あの二人そんな事をお願いしてくれていたのか………フランの方は分かるのだけどレミリアまで言ってくれるなんて………これは明後日会った時にちゃんとお礼をいわないとな。
「それじゃあ、あなたの体も大丈夫みたいだし私は部屋からでるわね。ここに居る間は別に何処に行ってもいいから明後日までゆっくり寛いでいて頂戴。」
「はい。わかりました。」
「そう。それじゃあ失礼するわ」
八意さんは立ち上がるとそのまま部屋から出て行く。
それを見送って俺は再び布団の上に横になる。
「しかし、何とか無事に戻ることができてよかったなー妖夢と幽々子さんに会えなくなるのは残念だけどやっぱり生きてたほうがいいもんな!」
そんな事を考えながらボーとしていると部屋の襖が開いて
「あれ?もう起きてるウサ?」
黒髪の上にウサ耳をはやした小さな女の子が入ってきた。
ん?ちょっと待てよ?頭の上に耳?………ウサ耳!う・さ・み・み・だ・と!?
外見上は黒髪の少し癖の入った髪の女の子だが頭の上にはえているウサ耳が俺の思考の大半を埋める。
「なん!ちょ!ええ!?」
「どうしたの?そんなに驚いて?私とは初対面のはずだけど?」
「いや、確かにそうだけど!それよりもその頭にはえてるものって………」
「ああ、これ?何処から見てもウサ耳だけど?」
「そう!何で頭にウサ耳なんてはえているんだよ!?普通の人は頭からウサ耳なんてはえてないだろ!?」
「それは私がウサギの妖怪だからさ!私の名前は因幡 てゐ。この永遠亭で働いているウサ。お兄さんの名前は?」
「ああ、俺の名前は日野 恭一。最近この幻想郷に来たばかりの普通の人間だ。」
「なら、よろしくウサ!恭一!」
「ん、よろしく。てゐ。」
「それで、何でてゐは俺のところに来たんだ?」
「ああ、忘れてた。お師匠様がご飯を持っていきなさいって言われて持ってきたんだった。はいどうぞ。」
後ろからご飯の載ったお盆を出して俺の前に置くてゐ。
「お、あんがと。ご飯を見たら急に腹がへってきたよ。」
「それじゃ、私はすることがあるからまた、今度来るウサ。」
「ああ、わかった。それじゃ、またな。」
「ばいばいウサ」
立ち上がって部屋の外に出るてゐ。
俺はてゐが部屋から出るのを見送って目の前のご飯を食べる事にする。
体が食べ物を欲しているのか、目の前にあるお粥を自分でも驚くぐらいのスピードで食べ終えて満腹になった腹をさする。
「やっぱり生身の体じゃあまったく食べてなかったから腹が空いていたのかな?」
しかしよく一ヶ月の間何も食べないで持ったよなっと思う。
もしかしたら咲夜さんが時を止める能力で俺の体の時間を一時的に止めてくれたのかもしれない。
そんなことを考えていると
「くあ~飯を食べたらまた眠くなってきたな………まだ体も本調子じゃないし寝るか。」
そのまま布団の中に入りまた眠りにつくのだった。