「いかん、あまりに早く寝すぎて夜に眠れなくなった。」
あの後そのまま寝てしまっていたのだが急に目が覚め、辺りを見回すと暗かったのでもう夜だろうと思い、もう一度寝なおそうとしたのだが、今度はなかなか眠りにつけない。
よく考えれば一ヶ月間近く眠っていたのに今日さらに昼寝?(時計がないから何寝か分からない)までしてしまったので目がギンギンにさえており、まったく眠れる気配がしない。
仕方が無いので暇つぶしに外の風にでもあたろうと思い布団から抜けだして部屋からでる。
「おお、白玉楼も日本家屋風だったけど、此処は本当に昔の日本家屋みたいだな。」
部屋を出ると廊下の向こうに中庭があり、見事な竹が生えて日本庭園といった雰囲気を出していた。
「はあ~綺麗な庭だよなー。こんな光景見たこと無いぞ。」
廊下に座りそのまま中庭を『ボケー』っと眺めていたのだが不意に俺の向かい側にある廊下に1人の着物姿の女性が座っているのが目に入った。
「あれ?誰なんだろう?」
俺はその女性が気になって腰を上げると、女性の居るほうに向かって歩き出す。
「ここの人だったら挨拶ぐらいはしないといけないしな。お世話になっているんだし。」
女性の方に近づいていくと段々面影が見えてきた。
外見は、綺麗な長い黒髪で、着物を着ており、顔に至っては百人中百人が振返るほど綺麗な顔立ちをしていた………鼻ちょうちんを作っていなかったらの話だが。
「おいおい、驚くほど綺麗な人なのに鼻ちょうちんを作って寝る女の人ってどうよ?てか、鼻ちょうちんって漫画の世界だけじゃなくて現実にも作れたんだ」
そう女性は廊下で座ったまま眠りこけていたのだ。
しかも鼻ちょうちんだけでなく半開きの口元からは微妙に涎も垂れており、これでは百年の恋も一瞬でさめるだろうといった顔をしていた。
このまま何も見なかった事にして部屋に戻ろうかとも思ったのだが、夜風も冷たく、そのままここで寝ていると風邪を引いてしまいそうなのであまり関わりたくないのだが、このまま無かった事にするのも夢見が悪いので一先ず目の前の女性を起こす事にする。
「あの、すいません。ここで寝ていると風が冷たいので、体が冷えて風邪を引きますよ?」
そういって女の人の肩を揺するのだが
「ぐー、ぐー」
と、まったく起きる気配がしない。
仕方ないので今度はもう少し強めの力で、
「すいません!ここで寝ていると風邪を引きますよ!起きてください!!」
「んー?………ぐー、ぐかー!」
一瞬起きそうな気配がしたのだが、また鼾をかきだし、寝てしまう。
「この!此処で寝ていると風邪を引きますって起きてくださいよ!!」
ガクガクとかなりの勢いで体を揺するも
「ぐ、ぐ、ぐ、ぐー。んがー!ぷー、ひゅるるるる!」
と、起きるのではなく鼾が大きくなるだけ。
「だあー!!起きて下さいって!!」
こうなれば意地にでも起こそうと思い、前後左右凄い勢いで揺さぶっていると
「あ!」
手が滑ってしまい女の人の頭が廊下にぶつかってしまう。
『ゴン!!!』
という凄い音が辺りに響き
「ぬあああああ!!何よ!?何でこんなに頭が痛いの!!?」
打った頭を抱えて廊下を転げまわる女の人。
やばい………ここは関わらなかった事にして逃げようか……。
廊下を転がり続ける女の人を見て即座に逃げようと判断を下す俺。
そのまま気づかれないようにゆっくりと後ろを向いて離れようと足を一歩踏み出した瞬間、
「待ちなさい!!」
廊下に倒れている女の人に足を掴まれて歩くに歩けない俺。
「あなた、女性が廊下で倒れているのに何処に行こうとしているのかしら?それに見たところここに居る住人じゃないみたいだし、何者なの?それと、私の頭が痛いのはどういうこと?」
これは逃げ切れない。
そうと分かると頭を必死に回転させてこの場の言い逃れを考える。
「俺はここで八意さんに治療をしてもらった日野 恭一と言います。俺が今住んでいる人が明後日にならないと迎えに来ないので、今はここに少しの間ですけど居させてもらってます。それと俺はこの前幻想郷に来たばかりの普通に人間です。そして、頭の痛みですけど、どうやら寝ている時に体を滑らせて廊下に頭を打ったんじゃないですか?俺は大きな音を聞いて此処にきたんですけどその時にはもう頭を抱えて転がってましたよ」
どうやら、俺が起こしているのは気づいてないみたいなのでこのまま言い逃れをするために早口で言葉を喋る。
今、此処に来たばかりじゃ無い事を除けば、後は本当の事なので何とか誤魔化すことはできるだろう。
「ふーん。そうなの、あなたが紅魔館という所から此処に運ばれて来た人間だったのね。頭が痛くなった原因は分からずじまいで気になるけど………まあいいわ。」
よかった。どうやら誤魔化すことができたようだ。
「私はこの永遠亭の主の蓬莱山 輝夜というものよ。確かあなたは外の世界の住人といったわね?それならなよ竹の輝夜姫と言ったほうが分かるかしら?」
ふふん、と髪をかきあげて自慢げに胸をはる蓬莱山………言いにくいな……輝夜さん。
しかし?誰だろう?特に知り合いではないはずだがどこか有名な人なんだろうか?………ナメタケの輝夜姫だっけ?
「あの、すいません。ナメタケの輝夜姫さんでしたっけ?俺、あなたの事を知らないんですけど。」
「ナメタケじゃなくてなよ竹!あなた、輝夜姫の事を知らないの!?あの最後には月に帰ったって言う絶世の美女の話を!?」
「ああ!あの輝夜姫の話ですか!もちろ知っていますけど、それがどうかしましたか?………そう言われてみれば名前が一緒ですね?物語の輝夜姫と。
「名前が一緒じゃなくて本人よ!本人!私が輝夜姫自身なの!」
ええ!?マジで!?でも何で昔の輝夜姫が今の時代まで生きているんだ?それにあの話は物語だったはずなんだけど
「あなたが考えていることを当ててあげましょうか?あれは、単なる物語じゃなかったのか?それと、もし実在するとしても何で今まで生きているのか?それと月に帰ったんじゃないのか………でしょ?」
「はい。その通りです。」
「めんどくさいから簡単に説明すると、あの輝夜姫の話は実在にあった話。それに私は今まで生きているのは私が蓬莱人だから。」
「あの、蓬莱人って何ですか?」
話の中に分からない単語が出てきたので聞いてみる。
「人が話をしているのに話の腰を折らないでよね………まあいいわ、蓬莱人って言うのは簡単にいうと不老不死の人間と言う事。文字通りどんな事をされても死ぬことも無いし老いる事もないわ。その蓬莱人だからこそ私は今の時代でも当時の姿のまま生き続けているの。」
はあ~。確かに輝夜姫が月に帰った時、時の帝に不老不死の薬である蓬莱の薬を渡したって書いていたけど本当に不老不死の薬なんてあったんだな。
「それで、話を元に戻すと、物語では月に戻ったってあるけど、実際には月には戻ってないわ。その辺の事情は色々あるのだけど、長くなるからパスね。まあ、それから先も色々あったのだけど、平穏を求めて安全な場所を探していたら幻想郷という場所があると聞いて、そのまま此処を探し当てて居ついたってわけ。」
「そうだったんですか。」
「そうなのよ!改めて分かった所で私の美貌に酔いしれるといいわ!かつて日本中の男を虜にした美貌よ!泣いて拝むといいわ!!」
口に手を当てて高笑いをする輝夜さんに
「あの、頬に涎のあとが付いてますよ?」
頬に涎の後をつけて高笑いをする輝夜さんを見かねて指摘する。
確かに顔自体は非常に整っていて綺麗といっても過言ではないのだが、性格的なものと、先ほどの鼻ちょうちんや寝言を見た俺としては拝もうと思う気などはさらさらしない。
それに頬に涎のあとも付いているし。
「~~~~!」
俺の指摘に顔を赤くすると急いで着物の裾を使って涎のあとをふき取る輝夜さん。
「あなた!恭一とか言ったかしら!?これが普段の私とは思わないことね!今日はちょっと日が悪いから明日にでもまた改めて会いにいらっしゃい!何日かはこの永遠亭に居るって永琳に聞いたから、その間私が普段どれだけ完璧に過ごしているのか見せつけてやるから覚悟して待ってなさい!!」
そういって足音を大きくたてながら廊下の向こうに消えていく輝夜さん。
「何だったんだ?いったい………」
「こんな事になるんだったら起こさなければよかった………」
と後悔しながら輝夜さんの姿を見送って、これ以上厄介ごとを引き起こさないためにも自分の部屋に大人しく戻っていく俺だった。