「今日はあなたに買出しに行ってもらうわ」
この一言で、俺の幻想郷での始めてのお使いが始まった。
それは、苛烈を極める戦いの始まりでもあった。
村に行く途中で妖怪に遭遇し、そこで一時瀕死になるも俺の秘めたる力が覚醒しその妖怪を撃破。
自分の本来の力に気づき、その力を狙う多くの妖怪たちと来る日も来る日も戦い続ける日々。
一時は戦いの影響で心が荒んでいくも、戦いの中で得たかけがいのない親友、そして恋人に助けられ最後にはこの幻想郷の頂に辿り着く………………なんて事は無く、ただ単に今朝起きたら今日はフランの事はいいから、村の方にまで食料の買出しに出かけて欲しいとレミリアに言われたのだ。
「別にそれはいいけど、その村ってのは何処にあるんだ?俺はここの事なんてまったく分からないぞ。第一この館から出たことないし。」
「それは、大丈夫よ。今日はこの咲夜と一緒に出かけてもらうから:
いつのまにかレミリアの隣に現れた咲夜さんを指差すレミリア。
「はい。今日は私が案内させていただきます。」
そういって一礼する咲夜さん。
「よろしくお願いします。」
そう言って俺も頭をさげる。
「それじゃあ、行ってらっしゃい。この紅魔館から人里までは大分距離があるから早く行ったほうがいいわよ。」
そうなのだ。咲夜さんなどは飛んで行くことができ(これは魔理沙が箒に乗って飛んでいるのを見た時どうやって飛んでいるのか気になって食事の時にレミリアに聞いた。ちなみに紅魔館の住人は皆飛ぶことができるらしい)るが俺は飛ぶことができないので、歩いていくしかないのだ。
まさか、咲夜さんに抱えて飛んでもらうわけにもいかないだろう。
こうして俺と咲夜さんの買出しの一日が始まった。
「フランも連れて行きたかったけど、こればかりはしょうがないですよね。そのうち連れて行くことができるようになるといいんですけど。」
そう、今回村に買出しに行くのだが、その時にフランも一緒に連れて行ければっと思い聞いてみたのだが、それは駄目との事だった。
理由は、フランが吸血鬼なので日光に弱いこと。
これは日傘を差せばいいらしいのだが、問題はもう1つの方にある。
それは、フランが吸血鬼という事だ。
人里というからには当然、人間の里であるしそこには人間が大勢いる。
他にも半妖といった人物もいるらしいのだが、その人物は極わずかな数らしい。
そして、妖怪は人間を食べる存在。
そうなると、どうしても人里に来た妖怪の存在を、気味が悪がる人物も出てくるだろう。
そういった視線をフランが受けて、その結果耐え切れずに能力が暴走してしまったら大変な事になってしまう。
人里では、妖怪は人間を襲ってはならない決まりがあるらしく、これはどの妖怪にとっても絶対の掟のような物で、もしそれを破ることになると、この幻想郷を作った妖怪の賢者と言う人物が制裁に来るというのだ。
そうならないためにも、フランを連れて行くことができないっということだった。
「いつか妹様も外の世界に出て色々な出来事を体験できればと思いますが、今は仕方の無い事と思われます。」
咲夜さんと村まで歩いていっているのだが、ただ歩くのも暇なので色々と話をしながら向かっている。
「咲夜さん、もう少し砕いた口調で話してもらえませんか?どうも、丁寧な口調で喋られると首の辺りがむず掻いんですけど。」
そう咲夜さんと話して思っていたのだが、どうもこの丁寧な口調がむず痒く感じてしまう。
どうも、咲夜さんは俺の事を紅魔館の客人として扱っているようにも思えるのだ。
できればいつまで居るのかはわからないのだが、一緒に住む事になるので、客人扱いはやめて欲しいと思う。
「よろしいのですか?」
「はい。できたら、砕けた喋り方をしてくれると助かります。」
「では、わかり…………わかったわ。」
やっと別の口調で喋ってくれたな。よかったよかった。
「それじゃあ早く人里の方に向かいましょうか。早く行かないと夜になってしまうわ。」
「わかりました、それじゃあ、急ぎましょうか。」
そして幾分か歩く速度を早くして俺たちは人里に向かった。
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「へえ~、ここが人里ですか~」
あれから幾分か歩いていると目の前に村らしきものが目に入り、そのまま中に入る。
中は本当に里といった感じで、本当に昔の村といった感じだった。
「そうよ。ここがこの幻想郷唯一の里になるわ。あまり見る時間はないから、早くいる物を買って帰るわよ。」
「うっす。それじゃあ、まずは何処から行きます?」
「まずは米屋ね。行くわよ。」
そして紅魔館に必要な日常品を買って行く。その際に店の人にちゃんと挨拶をしていく。
「おう、見ない顔だな。新顔か?」
「はい。この前に此処にやって来た日野 恭一って言います。これから度々来ることになると思うので、よろしくお願いします。」
「おう!よろしくな!坊主!」
こんな感じで行く店行く店に挨拶をしていく。
そして全ての用事が終わる頃には俺の両腕は色々な物で塞がっていた。
「結構色々と買いましたね。咲夜さん。」
「ええ、これで全部かしらね。それじゃあ、帰りましょうか。」
買う物は買ったので、紅魔館に帰ることにする。
「じゃあ、暗くならない内に帰りましょうか。」
そういって咲夜さんの方に振り向くとそこには、咲夜さんの他に帽子をかぶった女性がいた。
その女性は大変綺麗なのだが、帽子の横から大きな角が出ていた。
あれ?この人は咲夜さんの知り合いか誰かかな?
「そこの少年。この女から離れたほうがいい。この女は吸血鬼の一味だぞ。」
そう言って咲夜さんの方を睨みながらこちらに向かって話す女性。
「この女の主は、最近ここの住人を襲って血を吸ったのだ。幸い命に別状は無かったのだが、またしないとは限らないからな。だから私がこの女を見ている内に早く離れた方がいいぞ。」
どうやら、この女性は咲夜さんの事を人間を襲う吸血鬼の一味だと思っているらしい。
咲夜さんはというとその女性を冷たい目で見ているだけだ。
「あの、すいません。あなたは誰なんですか?あ、俺の名前は日野 恭一っていいます」
黙っていても始まらないので一先ず名前を聞くことにする。
「私の名前は上白沢 慧音という。見ての通り私も妖怪ではあるが半妖で、ハクタクといった妖怪になる。この里で子供たちに寺小屋を開いており、そしてこの里の守護も同時に行っている。」
ああ、だから咲夜さんに関して以上に警戒しているんだ。また人を襲うかも知れないと言う事で。
それに半妖の人なんだ。
どうりで頭に角があると思った。
しかしハクタクって何だ?そんな事を考えるが、その前にまずは、このピリピリした雰囲気をどうにかしないといけない。
「俺の事は心配いりません。此処には少し前に来たばかりなんですけど、色々あって、今は紅魔館に住まわせてもらってます。」
「吸血鬼の館にか?襲われたりしないのか?」
「いえ、良くしてもらってます。右も左もわからない俺を置いてくれるんですから、本当に感謝してます。それに、もう里の人も人里の中にいる限りは約束通り襲わないと思います。」
確か、魔理沙ともう1人の巫女にやられた時にそのような約束をしたはずだ。
俺がそう言うと、慧音さんは少しの間考えて
「わかった。今は君の言うことを信じよう。しかし、引き続き警戒はさせてもらう。いつまた襲ってくるか分からないからな。」
それはしょうが無いことだと思う。
一度襲ったという事実は中々消すことはできないので、徐々に薄れていけばと考える。
俺が話している間は咲夜さんはずっと口を閉ざしており、一言も発することは無い。
そういえば、買い物をしている最中もほとんど話すことはなかったな。
やはり、色々と問題があるのだろうか?
でも、フランにも、もっと多くの物を見せてあげたいのでいつかはこの雰囲気を払拭できればと思う。
「それじゃあ、俺たちはもう行きます。また、此処に来た時はよろしくお願いします。」
「ああ、その時はな。それと、君は外からきたと言うみたいだから、時間があるときに博麗神社という場所に行くといい。そこの巫女はこの幻想郷と外の世界を分ける結界を管理しているいるから、もし君が外にでたいと言うなら力になってくれるはずだ。」
「ありがとうございます!」
よかった!これで少ないながらも帰る見込みができた。
巫女というぐらいだからもしかしたら魔理沙の他のもう1人の方なのかもしれない。
今度、時間ができた時に会いに行こうと思う。
「それでは、私は用事があるので失礼するよ。それとそこの女。くれぐれも里の者には手を出すなよ。」
「かしこまりました。此処にいる以上は手出しはいたしません」
慧音さんの言葉に咲夜さんは慇懃無礼に言葉を放つ。
慧音さんはその言葉に眉を少し上げるが、特に何も言わずに後ろを向いて歩いていった。
「それじゃあ咲夜さん。俺たちも帰りましょうか。」
「そうね。帰りましょうか」
気まずい雰囲気のまま一先ず、紅魔館に向けて帰ることにした。
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紅魔館に帰る途中一言も発することなく帰っていたのだが、不意に咲夜さんが口を開いた。
「ねえ、恭一。あなた、さっきのハクタクの話を聞いてどう思った?」
「どうって…………あの人を襲ったって話ですか?」
「そう。その話の事よ。私は吸血鬼であるお嬢様の下にお使えしているわ。だからお嬢様の命令なら例えどんな事を言われても実行するわ。例えば、あなたを殺せと言われても。」
そこで空気が冷たいものになる。
確かに、咲夜さんならば微塵の躊躇なく俺を殺すだろう。
咲夜さんを見ればレミリアに対して絶対の忠誠を誓っているというのがよく分かる。
ならば、逃げるか?という考えも出てくるが、そんな考えは、はなっから無い。
いきなり現れて、見ず知らずの俺を住まわせてくれているのはこの紅魔館の主のレミリアだ。
確かにフランには殺されそうになったものの、フラン自身もその時は心に問題を抱えていたし、今現在俺は助かっているのでよしとする。
それに、フランの楽しそうな笑顔やレミリアのフランに向ける笑みを見ると、どうにも俺を殺せなんていわないような気がする…………まあ、気がするだけだけど。
パチュリーや小悪魔さんは、まあ昨日あったばかりで分からないのだがあの雰囲気だとそんな心配は無いと思う。
そこまで考えて俺は咲夜さんの顔を見ると
「確かに、吸血鬼や妖怪は怖いかも知れません。現にレミリアや咲夜さんは慧音さんの言った通りに人を襲ったんでしょう。」
俺の言葉に黙って話を聞く咲夜さん。
「でも、今は襲っていないといいますし、その辺は怖くは無いと思っています。レミリアは約束を行ったのならきちんと守りそうな雰囲気ですし、それにフランの教育係をやっている間はレミリアは俺を殺せなんて事は言わないと思います。あんな妹大好きの様子を見ていると、俺のことはどうでもいいとしてもフランが俺に懐いているので殺してしまって悲しませるような事はしないと思います。まあ、フランに懐かれていると思っているのは俺の勘違いかもしれませんが」
「だから、俺はこの紅魔館から出て行こうとは思っていませんし、これからもこの態度を変える事はないと思います。もっともただで住まわせてもらっている以上もう少し遠慮をしなければいけないとは思いますけど」
そこまで言い切ると、咲夜さんは少し考えた後
「そう。そこまで言うのなら私からは何も言う事はないわ。ただ、1つだけ約束をして欲しいの。」
「約束………ですか?」
「そう。紅魔館に居る以上絶対にお嬢様や妹様を恐怖の目で見ない事。そして、妹様を悲しませないこと。妹様が悲しめば、その姉であるお嬢様も悲しませてしまうことになるわ。その二つの内、どちらかが守れなかった場合、私は躊躇なくあなたを殺す。」
そういった咲夜さんの目は本気で、そこから、本当にレミリアやフラン、特にレミリアの事を大事に思っているのだと思う。
だからこそ、人里の時、慧音さんが咲夜さんに向けたような目や思いをレミリアたちに向けてほしくは無いのだろう。
そのために紅魔館に帰る前に今この場で俺の思いを確認しているのか。
「わかりました。約束します。俺はその二つを破ることを絶対にしないと誓います。」
その言葉に咲夜さんはほっとした顔をすると
「ごめんなさい。紅魔館に帰る前にどうしても確認しておきたかったの。あなたもあの人里で私を見る目を見たでしょう?あのような目をお嬢様達にむけるわけにはいかない。特に妹様はあなたに懐いているみたいだからなおさらね。改めてこれからよろしくね、恭一。」
「ええ、よろしくお願いします。咲夜さん。」
最後によろしくと言って微笑んだ咲夜さんの顔は本当に綺麗だった。