牛若戦記承前   作:亜楽


原作:仁王2
タグ:仁王2 一話完結
ゲーム「仁王2」の二次創作小説です。
短編1話完結。

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源義経と弁慶が出会った時の話です。


牛若戦記承前

 五条大橋に笛の音が流れる。

 牛若丸。のちの源義経は、朝の大橋を渡っていた。鳥の鳴き声が笛に重なる。

 旋律をはね返すかのように、立ちはだかる。大柄の法師。

「光る。刀。置いていけ」

 地響きにも似た声だった。

「噂には聞いている。橋を通る者から刀を奪う、怪力無双の荒法師。名はなんと言う?」

「刀を置いていけ」

 牛若丸は、笛を刀に持ち替える。薄緑の刀身が朝日に反射した。

「そうか。ではこちらも名乗らないぞ」

 刀を向ける。対するは武蔵坊弁慶。

 

 薙刀を大きく振り上げる。先端の白刃が空に光る。弁慶は振り下ろすかに見えた薙刀を手元に引き、一直線に突き通した。

 牛若丸は体をひねり、刀で受け流す。上段からの叩きつけと思わせて中段突き。

「意外。と言っては無礼か」

 距離を取る。力任せではない、武術を習い修めた動き。

 弁慶は背中に手を回す。今まで奪ってきた無数の刀をつかみ、次々と投げつけてきた。

「なにぃ?」

 左右にかわす。払い落とす。弁慶の剛力から放たれる刀は、どれも渾身の一刀に等しい。

「刀は魂だ。粗末に扱うものではないぞ」

「粗末にあらず。魂の本懐。成就させるための法」

 襲いかかる刀を追いかけて、弁慶が薙刀が振るう。打ち合える重さではないと見て取れる。牛若丸は跳び上がり、橋の欄干に立ち、さらに跳躍した。

 弁慶の視界から牛若丸が消える。頭上を飛び越え背後から刀を浴びせた。

 服とも鎧とも違う、石のような手応え。

「お前、まさか。お前もあやかしか?」

 付喪神。人間の手により生まれた作品が、作り、使われていく中で、思念を宿す。弁慶が着ている僧衣の中は陶器だった。

 妖怪の血を引く牛若丸は、青い目で弁慶を見る。

「仕切り直そう。明日のこの時間。清水の寺にて待つ」

 刀を納め、笛を吹き、牛若丸は去る。

 

 翌日。清水寺。観客のいない舞台。

「武蔵坊弁慶」

「牛若丸」

 牛若丸は弁慶の持つ棒を見た。昨日の薙刀は手にしていない。

「錫杖。いや、仕込棍か」

 後世には弁慶の七つ道具と語り継がれる。多彩な用途の変形武器。

「私も、あやかしが相手ならば、こちらの刀を取ろう」

 ソハヤマルを空に振る。

「輝く刀。強くなる」

 弁慶は仕込棍を折りたたみ、抱え込み、姿勢を低くした。遠間でありながら気迫が届く。力をためている様子がわかる。

 足を踏み出し、仕込棍を突き出した。

 内部の鎖が開放される。襲いかかる虎さながらに。牛若丸はソハヤマルを片手に跳び上がった。

「投げつけるならば、踏みつけられるもまた道理!」

 飛来する仕込棍の上に立つように。上から蹴り宙を舞う。弁慶は仕込棍を引き戻す。刀を受け止めようと振りかぶる。

 空中の牛若丸は、刀と逆の手で仕込棍をつかんだ。

「その巨体。いくつもの刀。振り回す武術。崩すには」

 手を放して、回転。弁慶の足元に落下する。

「支えは脚だッ!」

 両すねを薙ぎ払う。弁慶は体勢を崩し、倒れた。

 

 うずくまる弁慶。眼前に立つ牛若丸。決着は瞭然だった。

「刀を集め、強くなり、どうするつもりだったのだ?」

 武器は人を殺し、また殺される道具。強い思いが宿る。付喪神には力の源。刀を集めるたびに弁慶は強くなれた。

「どこまで強く。強くなりたい。強くなれるか知りたい」

「強くなるだけでは空虚であろう」

 ただ強さを求める道。行く先のない孤独な旅をしていた。

「私と一緒に来い。魂の本懐を与えてやる」

 そして武蔵坊弁慶は牛若丸の従者となる。源義経の臣下であり、相棒。源平合戦の仁王になる。




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