「お姉さまぁ!?」
そういえば確かに、めっちゃ似てる。
何が既視感があるだ、中学の日野そっくりじゃねーか。
ボスなんてみょうちくりんな名前で呼んでるから、全然そんな雰囲気なかったし。
いや、日野そっくりってか、妹だからこいつも日野か。
「わかってください。勅使河原を相手にできるの彼だけです。あなたたちを信用していないわけではないのです」
「こんのダメ男に何ができるというのです!?」
「口を慎みなさい。彼は私の……親友ですよ」
それに、これは命令です。
ここまで言われるとさすがに何も言い返せないのか、日野妹はぐっと押し黙ってしまった。
妹かぁ。日野の奴妹がいるなんて一度も話してくれなかったな。ちょっと悲しいけど、俺のこと親友って言ってくれるしなぁ。
なんで話してくれなかったんだろう。勅使河原の奴は知ってたのかな。いや、彼女に知らないなんてことはないか。
なんたってあいつは――
「飯泉、聞いていますか」
「ん、ああ。ごめん。聞いてなかった」
「あなた、ボスを前に……」
「だからごめんて」
呼び方がお姉さまからボスに変わってる。
どうにも興奮すると呼び方が変わってしまうようだ。
「今話していたのは、この依頼をあなたが受けてくれるかどうかです。約束を反故している立場であることも、無茶を言っている自覚もありますが、お願いできますか」
「いいよ」
即答であった。
だいたい、俺が彼女のお願いを断ったことはほとんどない。
勅使河原が言うには、俺は彼女にかなり甘々であるらしい。
「よかった……。私、あなたに断られたらどうしようかと……」
日野が涙目で安堵していると、その様子があまりに珍しかったのか、日野妹は目を見開いたかと思うと、キッと俺をにらみつけてきた。
いや、安堵の涙じゃないですか。それ、いい涙っすよ。
「ああ、一つだけ条件があるけどいいかな」
「条件ですか?いいですよ。どのようなものですか?」
「それは――」
病院を出ると、春とは思えぬほどの日差しに立ち眩みを覚えながらも、日野妹と歩いていた。
行き先は彼女らのアジトである。リーダーの代役が決まったのなら、早めに挨拶しておくに越したことはない。
「ところで、日野妹」
「やめてくださいよ、そんな呼び方。日野って呼んでください」
「それじゃ姉と被るじゃん。下の名前で呼んでいいか?」
「……ひさの」
「それじゃあ、ひさのちゃん」
できるだけチームのことを詳しく教えてほしい。そんな質問を投げかける前に、二人して目の前の人物に気が付いた。
「あんたがボスの代打ってやつか」
女性にしては高い身長、黒髪を後ろに束ねた、十人いれば九人が振り向くような美少女。
しかし、まとう覇気は百戦錬磨。いくつもの修羅場をくぐりぬけて来たことは十二分にわかる。
「悪いが、弱い人間に従う気はないのでな」
「ちょうどいいですね、飯泉先輩。先輩の実力を示すチャンスです」
「え?」
「構えろ、殺しはせん」
「始めの合図は私がしますね」
「え?」
こうして物語は冒頭に戻る。
「いざ尋常に、はじめ!!」
その言葉とともに、彼女はまっすぐに向かってきた。
黒い髪を後ろに束ね、女性にしてはやや高い身長。
十人見れば九人が振り返る美しい容姿。振り返らない奴はおそらく逆張り野郎だ。
そして何より異質なのはその得物である。
何も持っていなかったはずの両手には、いつのまにやら俺の身長と同じぐらいの槍があった。
「まずは小手調べだ」
彼女は持ち手の部分を、俺の横っ腹に向思いっきり振り払う。
俺はその攻撃を――まんま食らった。
「ぐえぇ」
「弱!?」
ひさのが俺のあまりもの弱さにびっくりしている。恐れるなかれ、俺の肉体は驚愕するほどのよわである。ついでにメンタルも弱い。
「どういうことだ。どうして手加減をする」
「そうですよ先輩っ。どうして
異能?何を言ってるんだこいつ。
「あー、どうやら君は二つの勘違いをしている」
「なんだと?」
「一つ、俺は異能とやらを使えない」
「まじか、あんた
「二つ、リーダー代理は俺じゃない。ひさのだ」
これが日野と交わしたたった一つの条件。日野ひさのをリーダー代理にすること。俺はあくまでその補佐だ。
「ひさのがボス代理?ふふっ、あーはっはっは!!そりゃあ、無能よりは可能性があるけどさ、それにしたって、その可能性が地を這うほど低いことに変わりはないよ。なんたってひさのは
また聞きなれない単語が出てきた。今度はいったい何だってんだ?
「カンナ先輩。確かに私はあのチームの中で誰よりも弱いです。しかし!!これはボスの命令でもありますっ。これに従わないというのは、先輩の命令にも従わないということですよ」
「ああ、従わないね」
「!?」
なんだ、思ったより内部がごたごたしているな。
日野のことだから、チームメンバー全員忠誠心マックスにしててもおかしくないけどなぁ。天性の人たらしだし。
「ひさの、あんただってわかるだろ?わたしたちはボスの命令を聞きたいんじゃない、ボスの役に立ちたいんだ。あんときだってそうだった。違うか?」
「……」
人たらしは健在だった。
「どうしてもってんなら、わたしを倒して見せな。それが私たちのルールだろ」
「……いいでしょう!!わかりましたっ。その勝負、受けて立つっ」
「始めの合図は俺がしよう」
ちょうどいいや。日野の作ったチームが異能集団なら、ひさのの実力を早い段階で知っておくのは大切だ。それに、あのカンナ先輩とやらも気になる。
「いざ尋常に、はじめ!!」
「ふんっ」
「ぐへぇ」
「弱!?」
瞬殺だった。ひさの、恐るべき弱さ。
というか、ほとんどさっきのリプレイじゃねーか。
「あんたも見て分かっただろ。ひさのは異能を持ちながらほとんど使うことのできない無能もどきだ。チームは私に任せて、どことなく消えちまうんだな」
カンナは失望を隠すこともなかった。
しかし、なあ。
「うぅっ、ぅ……」
「……」
あまりに強く殴打されたからなのか、はたまた別の理由か、ひさのは泣いていた。
ああ、その泣き顔は、あまりにあいつそっくりで――。
「待てよ」
俺は、呼び止めずにはいられなかった。
初めてフルネームが分かったキャラが出てきましたね。日野ひさのちゃん、中学生です。