無能in異能バトル   作:我らに幸あらんことを

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なにとぞ


必要のない処罰

 俺の初任務が終わったところで、一応報告にと日野が入院している病院へと向かった。勝手な行動をとったカンナだけは連れて行こうと思ったが、ひさのが「私も行きたいです!!」と主張し、三人がかりで押し掛けることになった。おそらく日野に褒められたいのだろう。

 炎をまともに食らったカンナだが、ちょっとのやけど程度ですんでいた。また、このぐらいのけが一日寝れば治るとも言っていた。

 どうやら異能持ちとそれ以外では自然治癒力も大きく違うらしい。こいつら何かと優遇されすぎじゃね?

 病院につくと、口を開くやいなや、ひさのが誇らしげに語った。

 

「うまくやりましたっ。ほめてくださいっ」

「うるせえ」

「静かにしろ」

「そうですか。さすがですね」

 

 病院内とは思えない音量であったが、日野は妹の蛮行をとがめることなくほめたたえた。

 

「これからのこともお任せくださいっ。頑張りますので!」

「うるせえ」

「病院内だぞ」

「ええ。信用してますよひさの」

「はいっ!!」

「だからうるせえって」

「いい加減学習しろよ」

 

 ひさのは得意げなまま、「異能の練習をしたいので」とぱっぱと帰ってしまった。

 

「それで、今日はどのような用件でいらっしたのですか?」

「報告と……一応こいつが指示に逆らったから、処罰の相談かな」

 

 ボス代理を日野ひさのに任命する。このことは俺たちが勝手に決めたわけでなく、ボスである日野の命令である。これに逆らうのは、彼女のためであろうと命令違反であることに違いはない。

 命令違反には相応の処罰が必要だ。

 

「命令違反……ですか。カンナ、どうしてそのような?」

「それは本人の口から言ってもらう方が早い」

「……すべてはボスのためにです。正直言って、ひさのにボス代理が務まるとは思えませんでした」

 

 そのため、ボスの意向に従わずひさのと戦い、負けました。

 カンナは能面のような表情で淡々と続ける。初めから覚悟は決まっていたのだろう。

 

「言い訳なんぞ一つもありません。いかなる処分も受け入れるつもりです」

 

 重い沈黙が室内を充満する。これ以上カンナは口を開く様子はない。

 また、日野もこの件について決めあぐねているようだ。

 

「……飯泉、あなたはこの一件を思いますか?意見を聞いてみたい」

 

 意見を聞いてみたい、日野がこの言葉を口にするのは、たいていしたいことが決まっているのだ。

 じゃあ、どうしていちいち俺に聞くのか?それは、自分の行動に理屈をつけることができないから。

 ボスとして命令に背いたものは罰さなくてはならない。しかし、したくない。

 だから、カンナ本人でさえしていない、助けを求めるような目で俺を見るんだ。

 俺はいつだってその眼に弱かった。それこそ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「カンナはそもそも勝つつもりなどありませんでしたよ」

 

 俺の言葉にいち早く反応したのはカンナの方だった。

 

「何を言っているんだ?でたらめを言うのはよせ」

「『ひさのにボス代理が務まるとは思えなかった』これは確かに本心でしょう。しかし、そう考えた人間は果たしてカンナだけでしょうか?」

 

 俺は日野の目を見てゆっくりと話す。

 はじめはゆっくり、大事な点は早口で。説得力と緩急は表裏一体である。

 俺の言っていることは事実でなくても構わない。ただ、日野の奴がそれを事実だと思ってしま場こちらの勝ちだ。

 

「チームは俺と日野を除いて八人。他に反発する奴が出てこないといえるだろうか」

「でたらめを言うなと――」

「カンナは少し黙っていてください。飯泉が話している途中です」

 

 よし、食いついた。日野が俺の話に希望を見出している。

 ここから一気に畳みかける。

 

「カンナの目的は、チーム内の不満を表立って代弁し、被る責任を一身に受けることだ。だから勝てる試合でもわざわざ負け筋を選んだ」

 

 一拍。

 

「カンナほどチームのことを考えている奴はいませんよ」

「……カンナ、今回に限ってはいかなる罰もくだしません。これからは飯泉のもとしっかり指示に従うのですよ」

「……かの戯言を信じるのですか」

 

 ここまできて、日野はにっと笑った。

 

「ええ、信じます。友である飯泉を、部下であるあなたを」

 

 カンナは下を向いて、ぎゅっと唇をかんでいた。

 

 

 病院を出た後、俺の送り迎えとしてカンナと帰路についていた。

 

「普通男女逆じゃね?」

「無能力者が異能力者より強いわけないだろう。あんたは一応私たちチームの一員だしな。敵対組織に狙われたらどうしようない」

 

 さっきまで敵対していたが、今のカンナは初対面の時とは比べられないほど態度が軟化していた。

 節々の言葉の荒というものが消えているのだ。

 

「そういや飯泉、あんたなんで私があの試合で本気を出していないってわかった」

「……『一度に分解できるキャパはあるだろう』。まさにその通り、カンナがえんえんと遠距離攻撃をしている限り、いつかは負けていただろう。ひさのにち目はなかった。でも、あんたは急に接近戦に持ち込んだ。勝ちたいのなら、あんな選択はしない」

「単なるミスって線は?」

「ない。お前は百戦錬磨のつわものだろうが」

 

 本当はその可能性もあった。でも、さっきも述べた通り、日野さえ信じてしまえば事実かどうかなんてどうでもいいのだ。

 ただ、日野にカンナを罰さない口実があればそれでいい。

 

「飯泉あんたは嫌な奴だな」

「ああ、俺は嫌な奴だ。だから、カンナはもう嫌な奴のふりをしなくてもいい」

 

 その役目は昨日から俺が担当することになった。

 だから、もう演じなくてもいいのだ。

 

「金鞍、金鞍カンナだ。私の名前」

「金鞍って呼べばいいのか?」

 

 相違や初対面の時からずっと下の名前で呼んでいたな。

 

「いや、今さらだ。今名乗ったのは、なんとなくだよ」

 

 後で聞いた話だが、カンナの奴は戦っている相手に気に入ったやつがいると、名乗りを上げる癖があるという。

 この時名乗りを上げたのは、まあ、俺を好敵手と認めてくれたからだろう。

 

「頼りにしてるぞ飯泉」

 

 カンナは笑った。俺も笑った。

 

 こうして俺の初任務は終わりを迎える。




明らかになった名前
金鞍カンナ

第一部、完。というか、一区切りって感じ
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