作者が笑顔になることが生物学的に証明されています
なにとぞ
さて、小中学校まで一緒だった幼なじみとはいえ丸一年会ってないとさすがに緊張するものである。日野の時も緊張した。
男子三日会わずば刮目してみよ、なんて言葉がある通り、成長期真っただ中の俺たちにとって一年会わないとなると、いったいどのようになるか見当もつかない。
指定された喫茶店に時間通り向かうと、そこにはすでに人影があった。
「やあ」
「……」
女性でいうなら短め、男性としたら長めの髪をして、男子とも女子とも取れそうな服装をした中世的な男性。
人違いか、あるいは勅使河原が送ってきた刺客かと思ったが、その顔には幼なじみの面影が残っている。
「勅使河原のお兄さんですか?」
「いや、ボクは一人っ子だよ。君も知っての通りでしょ」
日野の一件(妹がいたこと)があってから家族構成というものは信じなくなってはいるが、それでも声口調は勅使河原と同じものだった。
とすると、
「すまん。俺お前のこと女だと思ってた」
「うん?ボクはちゃんと女の子だったよ」
「ほえ?」
もはや何が何だかさっぱりわからん。
俺が必死に頭を悩ませていると、勅使河原はいたずらが成功したようにくすくすと笑い、意地の悪い表情を浮かべた。
「気にしないで、こんなのはただの異能だよ。ボクの知り合いに『肉体』を『転換』させる異能持ちがいてね。すぐ元に戻せる」
「それは……よかった。安心したよ」
「安心したって、なにに?」
「……」
本当にまずい。ペースを持ってかれている。落ち着いて、交渉ごとにおいて主導権を相手に握らせるのはイコールで死を意味する。
「今は、そんなことを話しに来たわけじゃないだろ」
「まあ、今回はこのぐらいで済ませてあげようかな、っと」
そう言いながらも、向かいに座っていた勅使河原はわざわざこちら側に座り直し、きゅっと距離を詰めてきた。
「ちょっと」
「ふふふっ、いいじゃん今のボクは男の子なんだし、何も問題はないでしょ」
大ありである。心臓がバクバク言い始めた。くそっ、こんな時は相手を妹だと思い込むんだ。相当げんなりするから。
こいつは月音、こいつは月音、こいつは月音……
「ボクの前で別の女の子を思い浮かべるんだ」
勅使河原が腕を絡めてくる。冷汗が止まらず、彼女、いや彼の冷たい腕が心地よかった。
「ねえ、ボクたちのチームにおいでよ。ここに来た理由の半分は君の勧誘さ。別に義理とか道理とかないだろう?そっち二人は
俺はもう何を言っていいのかわからなかった。
会話というのはいかにして相手の望み通りの言葉を吐けるのか、そういうゲームだと思っていた。
幼少期のころ、同学年の子供から親や先生といった人間まで、相手が何を言いたがっているのか瞬時に理解することができたし、話すことができた。
小学生中年にもなると、そこからいかにして相手が自身の思った通りに行動させるか、そういったことが得意になっていた。
俺にとって会話とは、武器であり、嘘であり、上っ面であった。
しかし今、俺は会話を、本心を伝えるためのツールとして使用する。
「俺はそっちには行けない。
頭にあるのは、俺の手を取って心配そうな目を向ける手のかかる妹分だ。
「妹?さっき思い浮かべてた月音ちゃんのことかい?でも、月音ちゃんは異能持ちじゃ――」
「とぼけんなよ。お前だって知ってるだろ」
勅使河原明日樹に知らないことはない。正確に言うなら『
「俺は、
「……はあ、あともうちょっとだったのに。やっぱり女の子の体できた方がよかったかなぁ」
「性別に関係なく断ってた。第一、なんで男性になっているんだ。そういう願望があったとか?」
思えば、勅使河原がちょくちょく男性視点で物事を語っていた場面があった。つまり、子供のころから男性になりたがっていたのだろうか?
「いろいろ理由はあるんだけどね。でも、男性になりたがっていたというのは正しくない。だってボクはもともと男性なんだから」
「え?でもさっき……」
「うん、だから君が思っているのと逆なんだよ。君は君がいなくなってから、ボクが性別を変えたと思ってる。でも順序が逆なんだ。ボクは
俺と知り合ってすぐのころは男性であったと。たしかに幼児というのは一見して男子か女子かわからない場合も多々ある。
ということは、つまり、俺の前では女性にならないといけない理由があったということで……
「話を変えようか、勅使河原が俺をここに呼んだ門半分の理由ってなんだ?」
「露骨だね、でもいいよ君を呼んだもう半分の理由はね――」
これから先の話に、どう考えても地雷しか埋まってなかったので急遽話題を変えさせてもらった。
ヘタレというなかれ、誰だって地雷原を走り抜けたくはないだろう。
「――宣戦布告をしに来たんだ」
変えた先にも地雷が埋まってた。