黒き王の原罪   作:イテマエ

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お待たせしました!
今回はいきなりオリジナル回です!
この度もどうぞよろしくお願いします!


戦闘校舎のフェニックス
第11話 拒絶


 レイナーレの計画を見事破綻させた春雄と一誠。

 神器(セイクリッド・ギア)と呼ばれる特別な力を狙った、ほぼ彼女率いる堕天使の独断的なこの計画は、本来アーシアに宿った()()()()()()()()()()()()を手にすることであるはずだった。

 その力は「聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)」と言い、その気になれば人だろうが悪魔だろうが、さらには堕天使だろうが、あらゆる勢力の垣根を超えて使われる高価値なものであった。

 

 レイナーレはこの力を我がものとし、晴れて堕天使総督の目を引こうという欲念を持っていたのだが、そこでたまたま神器所持者である一誠に遭遇。

 彼の些か低俗な欲を利用し、積極的なアプローチをかけ、ここぞのタイミングで躊躇なく殺害したのだ。

 大元がアーシアの神器であり、今後害を及ぼす恐れがあると言う不明瞭な理由で理不尽にも殺された一誠。

 

 無事この計画は解決できたと言え、レイナーレに一誠もアーシアも手にかけられたことは変わらず、さらにはその中で浮かび上がった春雄のあの謎の力もある。

 突如目覚めた春雄の力は、強大すぎるあまり一度は排除対象だったが、レイナーレはこの力を前にすぐ、手出し無用と改められた。

 

 今後春雄の力を巡って何か騒動が起こる可能性もある…

 

 

 

「はあ…」

 

 僕は兵藤春雄。

 窓枠に肘を置き、盛大なため息をつく。

 やはり何度でも考えてしまう。僕に眠る力がどんなものかわからないだけでなく、そのせいで周りの人たちを危険に巻き込むかもしれないし…

 現実であんなことが起こった直後だし…本格的に僕も戦いに身を投じることになりそうだな…

 

 今まで悪魔はもちろん、神とかその他オカルト的なことは熱狂的には信じていなかったわけだが、ここ最近ではその認識は大きく変わったのだ。

 まあ現にその悪魔と僕は学校生活を送っているし、堕天使とか言う集団と戦ったし…

 

「…よしっ!」

 

 だから僕は思い切って決めた。

 

 

 

 深夜のオカルト研究部に、イッセーの素っ頓狂な声が響く。

 

「はぁ?バイトを辞めたのか?」

 

 オカルト研究部に行き、入室して早々こんなことを切り出し、取り敢えず僕の考えを伝えた。

 

「うん。今回起こった事件で、イッセーやアーシアはもちろん、僕もあの謎の力が目に見える形で発現してしまいました。今回起きた諸々のことは、部長は悪魔側に報告するつもりですよね?」

 

「ええ…だけどあなたのその力については見送ろうと思ってるわ」

 

「どうしてです?」

 

 思わず僕は尋ねてしまった。

 すると部長は、

 

「あなたの力は今まで前例が一切無い謎に包まれたものなの。さらにとてつもない強力なものでもある。下手に上にこのことが知れ渡ったら、いいようにあなたを利用しようとする連中も現れるかもしれないの」

 

 ため息をしながら答える部長は疲れが見えている。

 恐らく僕のことを伝えるか伝えないかで相当悩んだんだろうな。

 

「一応協力者というだけで、眷属ほどの繋がりがないから、ひょっとすればあなたを狙う者がさらに増えるかもしれないわ」

 

 確かに…眷属でないならばいろんな理由をこじつけて僕の力を引き込もうとするだろう。それだけ強力なんだもんなぁ…

 まぁそれだけならまだいいさ。

 過激な奴であれば、部長たちを脅して僕を利用しようとするだろうし、そもそも僕を危険人物として取りまとめられ、堕天使だけでなく悪魔も僕を排除対象にするとなれば…

 うわあ…想像しただけでも鳥肌ものだ。

 ことを荒立たずに穏便に済ませたいけど、意外と僕に宿る力の影響力がデカいせいでそうともいかなそう…

 まぁそれもあって今日は正式にあるお願いをしようとしたんだけどね。

 

「と言うわけで部長、僕を眷属にしてください。そして、正式にグレモリー眷属となり、部長の元で戦わせてください」

 

 いっそのこと眷属になれば、まず部長はもちろん、彼女のお家の方からでも保護されるだろう。

 それに僕に敵対する奴らと戦うための土台も欲しかったし、完全な悪魔側に立てば、まず堕天使たちはそう簡単に僕の問題に踏み込まないだろう。

 僕を敵視するだろう悪魔たちは部長のお家、魔王さんにでもどうにかしてもらう算段である。

 

 突然いきなりこんなことを言ったものだから、部の人はみんな驚愕と疑問で声を出した。

 

「おい春雄、お前それ本気で言ってんのか?」

 

「ああ、イッセー。僕は本気だ」

 

「だって…あ、悪魔になるってことなんだぞ?」

 

「それが?」

 

「『それが?』って…」

 

「勘違いしないでくれよ、イッセー」

 

 イッセーは割と本気になって僕を悪魔になるのを止めようとしている。

 他の部員たちもどこか困惑した様子だった。

 だからこの際ハッキリさせないとな。

 

「イッセーは僕が悪魔とか堕天使を嫌っている理由を知っているだろうけど、悪魔側に明確に自分の立場を置ければ、僕の保護を約束されるし、僕の力を危惧して排除しようとする悪魔たちに、表向き見方として立つことができる。そうすれば少なくともイッセーたちグレモリー眷属はもちろん、僕たちの家族だって安全だろう」

 

「な、なんでだ?」

 

「言ったろう?部長の懸念は僕の力を狙う者なんだ。何がなんでも拿捕、又は排除しようとする奴らなら、部長たちや家族を狙って僕を引き合いに出させるだろう。だがグレモリー眷属となれば、魔王さんの保護はきっと固い。この力が上に知られ、有用性を見出してくれれば、僕の力を保護してもらえるよう頼めるかもしれないだろう?」

 

 我ながらかなり野心で溢れてると思っている。

 一応身の安全のため、家族や仲間の安全のために、魔王の権力を利用しようとしているのだ。

 部長の家族は悪魔界の中でも実力はトップクラスなうえ、彼女のお兄さんが現魔王と言うことも聞いたし。

 強力な後ろ盾を得られれば、仮にいるなら僕を狙おうとする堕天使にいい牽制ができるだろう。

 

「どうですか?」

 

 部長は頭を抱え、しばし考えていた。

 数分経ったところで、

 

「あなた…私のお兄様が現魔王であると言う情報はどこから?」

 

「裁定者です」

 

 僕のこの発言に、再び部員たちは驚かされていた。

 裁定者…どの勢力に属することもなく、対等に物事を見極める謎多き人物でもあると同時に、人間界、冥界、天界の情報を掌握しているある意味恐ろしい人物でもある。

 そんな人が、数日前、公園で一人でいる僕に情報を教えてくれたのだ。

 そのおかげで僕もある程度の考えをまとめられて、部長にこうして相談できたんだけどね。

 隠された実力は恐ろしいものがあるけど、あの人からこれでもかと悪い気はしなかった。

 一切の警戒心が僕には湧かなかった。

 

 話を戻して。

 部長は眉間に皺を寄せて難しい顔で悩んでいる。

 

「どうしてあなたは悪魔を…その…憎んでいるのかしら…」

 

「…」

 

 僕は部長の質問に黙ってしまった。

 その僕の返答を待っているその時の空気は地獄だっただろう。

 イッセーはあの様子じゃ、昔僕が話したことを思い出したようだし、つーか良く覚えてたな。あんな作り話みたいなこと、信じてくれたんだな。

 だけど僕をよく知らない朱乃先輩に木場さん、子猫さんにアーシアは複雑な表情だった。

 無言を貫くと言うことは、肯定…つまり悪魔は憎んでいると言うことになる。

 

「部長…僕は…堕天使もそうですが…悪魔も憎んでいます…殺したいほど…昔からその気持ちは変わりません…ですが…」

 

 僕は知った。

 同じ人間から、聖人君子や殺人鬼が生まれるくらい幅が広い可能性があるんだ。同じ知的生命体でもある悪魔や堕天使の中にも、恐らく人と同じくらいの可能性があると思う。

 

「部長や朱乃先輩、木場さんに子猫さん、そしてイッセーやアーシアが悪魔なんですよね…こんな優しさで包まれるこの部に、悪魔を憎む僕を受け入れてくれたんです…こんな優しい方たちに何を憎む理由があるんでしょうか…」

 

 僕は今まで彼女たち、彼たちが向けてくれた優しさに対し殺意を向けていたのだと思う。

 クソ野郎だな…僕は…

 だから僕は地面に額をつけた。

 誠心誠意、心からの謝罪をするため。そして、

 

「僕の守りたい気持ちは変わりません。居場所を与えてくれた部長の期待に応えたいんです。受け入れてくれたみんなの力になりたいんです。僕を眷属にさせてください。自分でも都合がいいことはわかってますし、図々しいとも思っています…

 ホント、僕は救いようのないバカです…でも…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…僕が守りたいと思う気持ちは本気ですし、守るためならどうなろうとも立ち上がり続けます」

 

 僕は懇願した。

 ハッキリ言って、断られても僕はおかしくないと思う。

 こんだけ「悪夢が嫌い」って明確に言っておきながら、僕がそれになろうとしてるんだからさ。

 気持ち悪いったらありゃしないだろうね。

 

 あまりにも沈黙が長かったから僕は恐る恐る顔を上げると、部長が僕の目の前まで来ていた。

 僕はしばらく顔を上げられなかった。このまま殴られるだろうか?

 もちろんその覚悟はできている。

 

 しかし、この長く感じられた一瞬の沈黙で、僕に衝撃があるわけでも、部長の答えが返ってくるわけでもなかった。

 音もなくスッと顔を上げると、なぜか部長は涙を流していた。

 

「あぁ!うわ、えと、その…」

 

 何かやらかしたかもしれないと思った僕は、すぐ立ち上がりどうにかしようとするが、頭は真っ白だったし、あたふたと落ち着きを失ってしまった。

 他から見ると僕は随分と馬鹿げて見えただろう。

 

「どどどどうしよう?い、イッセー?」

 

 動揺のあまり浮ついた声になってしまった。

 

「そんなの知るか!わかんねえけどとりあえず謝っとけ」

 

 イッセーも予想だにしなかったこの状況で居心地悪さと焦りを感じていた。

 二人して頭を下げようとした時、

 

「良いのよ。気にしないで」

 

 部長が優しく微笑みながら僕たちを差し止めてきた。

 何のことやらと僕たちは顔を見合わせたが、よくわからん。

 反応に色々困った僕たちを推察した部長が口を開く。

 

「実は私たち、あなたが悪魔に対してもっといい印象を持ってもらおうと色々話してたんだけど、上手くいかなくてね…」

 

 呆けていると、次に朱乃先輩が、

 

「あなたが悪魔に並々ならない憎悪を抱いていたと知ってから、ずっと申し訳ないと感じておりましたの」

 

 そして木場さんに子猫さんが、

 

「君の過去に何があったかわからないけど、恐らく相当辛い目にあったんだよね?悪魔を怨敵として敵対するほどに…」

 

「そんな先輩に、悪魔にも優しい人はいるんだと知って欲しかったですし…仕方ないとは言え、身内の一人を悪魔にして、悪魔が集まるオカルト研究部に半ば強引に入れてしまいましたから…」

 

 そして部長が申し訳なさそうに、

 

「勝手なのも、言っていることが滅茶苦茶なのもわかってる…でもあなたは悪魔でないのに深く関わった上、堕天使や悪魔から狙われしまう…窮屈な生活になるかもしれないと思って、せめて部活の時くらいは過ごしやすくなってほしくてね…」

 

 そうか…僕は既に沢山の人に迷惑をかけてたのか…

 くそっ!

 何も知らない自分に虫唾が走る。

 どうして今まで部長たちの厚意を、僕の嫌悪を理由に見向きもしなかったのだろう。

 

 僕はとてつもない罪悪感を感じ、頭を90度下げた。

 そして誠心誠意、下手に飾ろうとせず素直に、

 

「すみません」

 

 謝った。

 暫くして顔を上げると、部長たちの表情は柔らかなものになっていた。

 僕の心も不思議と軽くなった気がした。

 

 

 

 無事自分の考えも伝え終わり、部長たちの思いも知れたし、あとは僕が悪魔になるだけだった。

 部長は準備があるそうなので、僕はソファに座って待つことにした。

 

「あの…春雄さん…」

 

 すると不意に後ろからか弱い声が聞こえた。

 振り返って見ると、そこには罪悪感に押し潰され、今にも泣きそうな表情のアーシアがいた。

 

「悪魔を憎んでいると言うことは…私があの家にいたら…」

 

 あ、まずい。

 ホント僕はどれだけ色んな人に…

 

「いや、違うよ。さっきも言った通り、僕は悪魔のことは嫌っているけど、部長たちはそんな気は湧かないさ。このオカルト研究部にいてわかったんだ。悪魔にだって色んな人がいるってね。アーシアさんだって、教会にいた時は悪魔は悪い奴と習ったでしょ?」

 

「はい…ですけど、イッセーさんや部長さんのような優しい方がいたので、全部の悪魔がそうとは言えないと思うようになったんです…」

 

「僕も同じ。むしろ部長やイッセーのような悪魔は特別そうなのかもしれない。ここまで眷属のことを思いやって、そして眷属でもない僕にもここまでしてくれてるんだもの」

 

 だから僕は自分にできる精一杯の笑顔を作って、アーシアの頭を軽く撫でた。

 

「悪魔は今でも思うところがあるけど…僕の認識は変わったさ。だから大丈夫、今まで通り接してくれたらいいよ」

 

 

 さて、準備も整い、いよいよ僕の転生がなされようとしているわけだが…

 みんな目をキラキラさせて、興味津々に見ていた。

 

「あの…どうしたんです?」

 

「いえ…やっぱりあなたの力は魅力的だから…わからないことも多いから色々と楽しみなのよ。だけどやっぱり、あなたが私たちに心を開いてくれたことが嬉しくてね」

 

 なるほど。

 まあこの力が自陣に引き込めたらそれだけ戦力は大幅強化されるだろうし。

 

「じゃあ、始めるわよ。あなたの駒は、他を圧倒する攻撃力、そして途方もない防御力…よって『戦車(ルーク)』ね」

 

「…むう。悔しいですが、私よりも力も防御力も既に上回ってます…即戦力になると思います」

 

 部長から駒の説明を受けている時、子猫さんが悔しそうにしていた。

 自慢の力がぽっと出の人間に負けていたとなれば、そりゃ悔しいだろう。

 

「大丈夫ですよ子猫さん!僕にはスピードが無いですし、あの変な術みたいなのもないですから!」

 

「変な術と言わないでください。それに先輩も似たような力があるじゃないですか」

 

「?あったっけ?」

 

「…もういいです」

 

 ありゃりゃ…変に怒らせてしまったなぁ…

 後で何かお菓子でも送ろうか?

 

「喧嘩はそこまでよ…全く…愉快になりそうね…」

 

「ええ。ほんとですわね」

 

 部長も朱乃先輩も楽しそうだし、イッセーも木場も数少ない男子が入るかもしれないと言う期待をしていた。

 

「それでは、お願いします」

 

 真剣な顔つきになり、その場の雰囲気が変わると、部長も一つ咳払いをしていよいよ転生の儀式を行おうとしていた。

 

 部長はいかにもらしいことを言いながら、腕を突き出してくる。

 すると彼女の言葉に反応するかのように駒が光りだした。

 すげえ。

 

「我が『戦車』として、新たな生に歓喜せよ!」

 

 と、唱え終わると、駒がひとりでに動き、僕の体の中に入ってくる。

 不思議な体験をできることに僕は心を躍らせていると、

 

「!?」

 

 突如頭に激痛が走った。

 

「ぐぁぁぁあああ!?」

 

「春雄!?」

 

 異変にイッセーが駆けつけるが、苦しみは止まるどころか激しさを増す。

 頭が割れそうなほどの重苦。

 想像を絶する痛みに僕は床をのたうち回り、意識はその瞬間刈り取られた。

 その時頭に響いたのは、僕を心配するみんなの声ではなく、いつか聞いたあの黒い僕の主の…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…怒りの声だった。

 

 

 

「おい!春雄!しっかりしろ!」

 

「春雄さん!気を確かに!」

 

 激しく足をバタつかせ、頭を押さえつける春雄。

 様子が変貌した兄弟なんとかしようと一誠とアーシアが駆けつける。

 

「そんな…どうして…」

 

 ショックのあまり呆然とするリアス。

 たくさん悩んだ彼の気持ちに応え、やっと蟠りも溶け、オカルト研究部の新たな第一歩を行こうとした矢先だった。

 

「リアス!今は彼を止めます!」

 

 ここで漸く親友の呼ぶ声に我に帰ったリアスは、すぐ儀式を中止させた。

 だが春雄の容態は一向に良くならず、心なしか頭の激痛が増したようにも見えた。

 

ア"ァァァア"ア"ア"!!」

 

 耳をつん裂くような春雄の雄叫びは、野獣の如く荒々しく、低く唸るようにも聞こえ、体の芯から震え上がらせるようなものにも思える。

 頭を抑える手は力のあまり深く食い込み、流れ出る血が絨毯にポタポタと垂れていく。

 だが、かっ開かれた目は驚くほど血走り赤く染められ、焦点が定まらない感じで瞳が小刻みに震えていた。

 

 本格的に春雄自身に危険が及ぶと判断し、一誠は彼の手を抑えようとするが…

 

(なんつー力だ!とてもじゃねえが抑えられねえ!)

 

 悪魔になってどれだけ身体能力が向上しようが、今の春雄を止められなかった。

 春雄は振り解こうと、痛みに悶えつつ暴れる。

 

「やめてください!春雄さん!」

 

 アーシアが目に涙を浮かべながら、『聖母の微笑み』で春雄を癒そうと一誠が押さえつける手に抱きつく。

 しかし、それでも春雄は良くならない。

 すると雄叫びと同時に今度は尻尾が生え始めた。

 その尻尾は生き物のように動き、地面を何度も叩きつけていた。

 

「春雄君!」

 

「先輩!」

 

 木場も子猫も止めに入ろうと急いで近づくが、一誠は気づいてしまった。

 

(こいつ…笑ってるのか…?)

 

 春雄の目は白目となるが、充血しすぎて赤く光っているようにも見える。そして口元にまで垂れてくるほど血が流れているのだが、その口は不気味なほどに吊り上がっており、垣間見える歯は悍ましいほどに鋭くなっていた。

 

ガァァァア"ア"ア"!!」

 

 その叫びはもはや人から出ているとは思えなかった。

 一誠たちは瞬間に恐怖と困惑で押さえつける手を緩めてしまい、その隙に春雄は脱出。

 そしてそのまま窓の方へと勢いよくぶつかっていき、対象を粉々に砕いて外に出てしまった。

 着地と同時に見た目からは想像できない音と土煙をあげ、天に向かって息を大きく吸い込むと…

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

 一誠たちは戦慄を覚え、息をするのを忘れるほどその光景に見入っていた。

 天に向かって雄叫びを上げる春雄は、いつにも増して大きく見えた。

 今の彼の状態を見て、多くの人は恐らく恐怖を覚えるだろう。

 聞くだけで魂を震わせるような恐ろしい咆哮だったが、同時にそこには威厳があった。

 まさしく彼の姿は()であったのだ。

 

 

 

 この深夜、東京駅付近では原因不明の小刻みな揺れが続いたと言う。

 だが規模が小さいため、さして多くの人々は気づかず、気づいたという人がいてもこの地震国である日本だ。そこまで焦るほどでもなかったそうだ。

 唯一気になるとすれば、震源が東京駅のほぼ間下。それも断層等によるものではなかった。

 付近の住民の間では、「何かいるのでは?」と言う噂が広がったのだった。

 

 さらにほぼ同時、日本から遠く離れた南極では、突然大寒波が襲来。

 南極基地では猛吹雪に見舞われ、派遣された調査団の者が口を揃えて言う。

 

「ふと窓の外を見ると、吹雪の中に巨大な影が見えた」

 

 謎を残したまま、寒波は真っ直ぐ日本の方角を目指していた。

 

 

 

 

 

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