黒き王の原罪   作:イテマエ

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 今回もまたオリジナル要素強めです…


第14話 思考と思いやり

 悪魔へと転生させることのできる「イーヴィル・ピース」が引き起こした事件。

 

 春雄は自分の立場を悪魔側に置くことを明確にし、自分を狙う勢力への牽制と、家族や仲間の保護をしてもらうためにグレモリー眷属の元につこうとする。

 今だよくわからない、春雄の中に眠る圧倒的な力に興味を持つリアスは、眷属にして監視下に置けば、頼もしい味方になると考えたのだった。

 それ以上に、彼とオカルト研究部の間にある蟠りも解決できることに皆が喜んでいた…

 

 結果は春雄の中の力が、駒を拒絶し暴走。

 一誠たちグレモリー眷属への人的被害はでなかったのだが、悪魔の力をもってしても一切寄せ付けないパワーと防御力…

 そして何より豹変した春雄の放つ、獣の如く敵意を滲ませた唸り声や、尋常でない怒りに囚われた血走った目…

 

 それらが発するオーラはまさしく殺意…

 強大な力に加えた、その禍々しく真っ黒な殺意に当てられた一誠以外のオカルト研究部の者たちは、純粋な「恐怖」を覚えたのだった。

 

 

 

…殺される…

 

 

 

 今まではぐれ悪魔の討伐や、堕天使との闘争などで戦うことがあった。その命を奪うこともあった。

 だがそれは相手が自分たちより格下なだけだったのかもしれない。

 

 仮に聖書にも掲載されるほどの者が相手になった時、自分たちは戦慄を覚えるだろう。

 その者との決定的な差に。

 

 それと同じように、春雄にもそれがあった…

 

 いや、真正面から受けたあの春雄のオーラは、あらゆるものを凌駕していた。

 立ちはだかったのは、恐らくそんなレベルのものではない。

 まさに神に匹敵する巨大なもの…

 

 

 

 俺は兵藤一誠だ。

 みんなからは「イッセー」って呼ばれてる。

 今目の前のソファで寝息を立ててるのは、俺の兄弟。兵藤春雄だ。

 

 つい先程暴走を鎮めると、あれっきり暴れるようなことはなかった。

 たぶん駒を取り出せたからなんだろうな。

 

「部長、今このまま帰ったら、親が心配すると思うので、一日ここで安静にしておけませんか?」

 

「そうね…あまり騒ぎを起こすわけにはいかないものね…」

 

 とりあえず部長から、コイツを部室で安静にさせておく許可をもらい一安心だった。

 

「…ん〜…もう食べられないよ…」

 

 気の抜けた寝言を呟き、涎を流すコイツはとことん呑気だな…

 と言っても、頭や胸部、腕には痛々しく包帯が巻かれており、体全体には軽度の火傷や切傷ができていた。

 コイツを止めるためとは言え、俺たちはそれなりに全力で攻撃を仕掛けた。

 はっきり言って、あれだけ攻撃しておいてこれで済むとか、防御力がおかしすぎんだろ。

 それにコイツの中にいる奴は…

 

 

 

 

 

…俺たちの攻撃を一切避ける素振りを見せなかった。

 何があってもコイツは真正面からその攻撃を受け続けたんだ。

 そのせいで俺たちの自信がメタメタに削られていくわけだが…

 

 それでもコイツをもとに戻せたし、まあ良しとしよう。

 俺たちは拍子抜けしたようにため息をつくと、小さく笑いあった。

 

(そう言えば…コイツに純粋にダメージ与えたのって…前に戦ってたあの化け物くらいだったな…)

 

 俺の脳裏に蘇るのは、生まれて初めて本能的に「死」そのものを感じて動けなくなった時の記憶。

 レイナーレを倒そうと乗り込んだ教会で待っていたのは、太古に生息していた怪物だった。

 そいつは一切魔力的なものは感じなかった…

 

 つまりあのムートーと呼ばれた怪物は、元々冥界ではなく、地球に住んでいた生物…

 もっと噛み砕いて言えば、あれはただの原始的な野生動物だ…

 

(あんなヤベぇ力を持っていやがるのに…あの怪物も、コイツに宿った奴も…全く魔力を持たねえ生物だって言うのか?

 そいつらが太古の生物なら、元々地球にはこんな奴らがうじゃうじゃ居たっていうのかよ?)

 

 俺はこれから先、生きていく自信を失くしかけるところだった。

 一応俺には『赤龍帝』の神器(セイクリッド・ギア)っつうもんがあるんだが、この力を使って俺の能力を引き上げても、アイツに一撃を与えることはできなかった…

 

 そんな春雄に互角に渡り合ったムートー…

 

 そしてここ最近頻発する謎の巨大生物の出現…

 

 いかに俺たちが小さい存在なのか、否応なく認めさせられた。

 俺は悪魔になって、それなりに力を持って、強くて頼りになる先輩悪魔の元について、どこか慢心していた。

 

 悪魔になっちまった以上、それを狙う他の勢力と戦ったり、時に殺し合いもしなくちゃいけねえ。

 頭でそれはわかってても、どこか内心、そんな考えを閑卻していた。

 ただ注意したつもりでいて、結局俺は煩悩なことしか考えちゃいなかった。

 

(今度こそ…お前を独りにさせねえ…例え世界中がお前を敵に回しても、せめて俺だけがお前と一緒に立ってやるぜ…)

 

 だからこそ、俺はこのことを心に深く焼き付けた。

 目の前で鼻提灯を作って爆睡をこくコイツは、俺の決意を知る由はない。

 それでもいい。

 むしろ見られてないだけマシか。

 

「春雄に…余計な心配させる必要はねえしな…」

 

 俺はボソッと呟いて、日が昇りそうな空を見上げた。

 黒く澱んだ雲に、光が差し込んでゆく。

 

 

 

 朝、出席簿に目を通した神永は、パタンとそれを閉じてコーヒーを飲んだ。

 

(あんなことがあったんだ…今日春雄君は休んで問題ないだろう…)

 

 神永には駒王学園の一誠のクラス担任として表立っているが、裏の顔が存在する。

 

 裁定者…

 「光の国」と言っても、様々な光の国があるそうだが、その国の使者は大異変が起ころうとしている宇宙に赴き、そこでの物事の顛末を安全に見届ける義務があるのだ。

 他の関係のない勢力が介入し、干渉しないように見張り、万が一があれば粛清するのが彼らの役目である。

 

(この世界にとって…悪魔や堕天使…まだ観測できていないが、天使や龍族は言うなれば外来種…)

 

 神永は職員室を退出し、担当の教室まで歩く道すがら、ふと旧校舎の方を見る。

 

(まぁ…私もだが…)

 

 

 この世界もそうだが、かつて私が同じような星に降りた時も、その星は受け入れてくれた。

 私に対して抱く感情は様々なものはあったが、どれもこれもいい刺激だ。

 我々に欠如していたもの、恐らく知的生命体が持つべき最も必要とされるものなのだろう。

 

 流星マークのネクタイピンに手を添えれば、またあの者たちとの光景が、鮮明に思い起こされる。

 

 彼らとそうであったように、この世界の人を含め、悪魔や堕天使などと言った存在にも備わる「心」から刺激を受け、今日もまた学んでいけたらと思う。

 

 

 

 「心」と言うものを学び、私は以前より心配ごとや悩みといった感情を抱くことが多くなった。

 我ながらこれはいい傾向にあるだろう。

 我々の一族は、基本的に論理的で理性的だ。

 「考え」はするが、「思い」はしない。

 

 一応は「その宇宙の平和のため」でありながら、例えばその宇宙の道理に従って死期が訪れた惑星には特に関与はしない。

 

 要するに、我々の星に影響が及びそうな危険性を孕んでいる場合において、我々が実際にその場で裁定し、必要が有れば粛清を開始する。

 

(加えて打算的でもある…か…正義の執行は我々のためであって、この星に住まう者たち、またはその星に宿った外来種の意見などまるでないようなものだ…)

 

 だからこそ、「心」と言うものが芽生え、他を「思う」ことができ、その上で心配や悩みができたのは成長と言えよう。

 この星の者たちとの距離も、僅かながら近づけそうだ。

 

「…!」

 

 テレパシーが届いたようだ。

 同じ観測員であり裁定者であるゾーフィが、私にこの星の情報を求めてくる。

 

 問題なし。観測の余地あり。浅慮にならぬよう、まだ観察を続けていく。

 

 そう伝え終え、私はもう一つの仕事に向かってゆく。

 

「さて…この星の自然が、私や悪魔を受け入れ、まだ調和することができているように、春雄(あの子)を学園は受け入れてくれるかな…?」

 

 

 

 一誠は窓の方を見て耽っていた。

 いつものエロさ爆発、激ヤバパラダイスの変態ではなく、頬杖をついて疲れた目をする彼は、随分と静かだった。

 

「どうしたんだよイッセー?」

 

「らしくないですねぇ」

 

 そんな一誠に突っかかってくるのは、例の如く変態トリオを構成する松田と元浜だった。

 彼らは少し揶揄いながら一誠に近づき、いつもの扇情的な話を持ち出すのだが、いまいち彼は噛み合っていなかった。

 

 松田と元浜は昼休みになっても調子が戻らない一誠を、いよいよ不安がり、そこそこ真剣に問う。

 

「どうした?イッセー。今日のお前はマジで変だぞ?」

 

「何か悩みでも?」

 

 一誠は意図せず、春雄がいない彼の席を見つめる。

 視線を辿った彼らは、「春雄に何かあったのでは?」と、本気で心配するのだった。

 

「なーにエロ馬鹿トリオのあんたらが、いつになくしんみりしてるのよ」

 

 静まる雰囲気の3人に、気さくに声をかけてくる女性が一人。

 眼鏡をかけてもわかるほどなかなかに整った顔と、スタイルの良い体を持ちながら、考えることはほとんどエロ馬鹿トリオとあまり変わらない残念美人の名は、

 

「なんだよ藍華、揶揄いにでも来たか?」

 

 桐生藍華。

 女子の中で唯一、エロ馬鹿トリオの話についていき、その上で彼ら以上のことを平然と喋り、黙らすこともある、このクラスのある意味で親分みたいなものだった。

 

「黙んなさいよ、松田。あんたのアレが粗チンなくせに、心も同じくらい醜くて小っちゃいんだから」

 

「なんだとこのヤロー!」

 

 と、いつものように、また暫く酷い内容の口論が続くと思われたが…

 

「…ヤメだ、ヤメ」

 

「そうね…ストッパーがいないと、なんかつまんないわね…」

 

 そんな口論を止めるのは、エロ馬鹿トリオとほとんど共にいる校内屈指の大馬鹿の春雄だった。

 お騒がせな彼がいなければ、日常にボッカリと穴が空いたようだ。

 

「あいつがいないと始まらんしな…」

 

 松田がボツリと呟いた言葉に、一誠は反応した。

 

(コイツらなら…)

 

 

 

 神永は昼休み、とある教室の入り口付近で中の様子を伺っていた。

 彼が見つめる先には、教室の端の席の方で集まっている若者集団があった。

 

(どうやら…私の不安は杞憂に終わったようだな…)

 

 神永は満足気にそこを後にし、職員室へと戻ってゆくのだった。

 

(これだから…教諭と言う職は感慨深い…)

 

 

 

 一誠はしかと聞いたのだ。

 松田と元浜は長い付き合いだし、この学園に入ってからは桐生ともよく話すようになった相手だ。

 彼らは「なぜいきなりそんなことを?」と言いたげな顔をしていたが、間違いなく言った。

 

 

 

 春雄(アイツ)とは友達だ

 

 

 

 神永は一息つこうとコーヒーをグイッと飲む。

 全く変哲のないインスタントコーヒーだが、朝飲んだより美味しかったのは確かだった。

 

 

 

 

 




 次でやっとライザーとご対面です。
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