黒き王の原罪   作:イテマエ

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第16話 積もる懸念

 僕は兵藤春雄。

 今オカルト研究部の皆さんと、とある場所に向かって山を登ってる。

 獣道のように不安定な道を、そこそこ重量のある荷物を持って登っていく。

 

 この感じ、非常に懐かしさを感じるね。

 

 僕の故郷はお世辞にも大きいとも、発展したとも言えないし、自然と共生と言えるほど樹木は生い茂っているわけでもなかった。

 

 低い山とかその周辺にはそれなりに木々が生えてたけど、人が生活しているところは畑や田んぼが広がって、道路もまちまちだが舗装はされていた。

 

 幼い時、僕はよく山に登っていた。

 野生動物の危険とかあったし、実際遭遇したこともあったけど、特に襲ってくるわけでもないし、むしろあっちから寄り添ってきたね。

 

(こうして駒王町中心部から離れて、普段見ない植物とかを横目に登山か…あの頃を思い出すよ…)

 

 僕はなるべくその思い出の先を考えないようにしていた。

 今、仲間と一緒に楽しい時間を共有できているのに、幼い頃のとある事件を思い出してしまえば、一瞬にしてこの楽しさは崩壊するだろう。

 

(それにしても)

 

 僕は最後尾から、オカルト研究部の皆んなを見る。

 

(部長も、朱乃先輩も、木場さんも、子猫さんも、イッセーも、アーシアも…よくこんな僕を受け入れてくれたものだ…

 こんな危なっかしい人間を…)

 

 僕は彼女たちに言葉に表せないほど感謝している。

 

 冥界において、上流階級の堕天使や悪魔が何やら僕に宿る力に興味を持っているらしい。

 

 それだけならまだいいさ。

 

 でも、その力は同時に、レイナーレをはじめとした堕天使を退けた程の力を持っていることが一部に知られてしまった。

 それもあって僕を排除対象としているのも確かだった。

 

 一方で悪魔は、この力の有用性を見出し、何としても傘下に加えたいとしているのもちらほらと。

 

 それもあって僕は部長の眷属になろうとしたけど、僕の中の力の主が激しく拒絶。

 結局何の後ろ盾を得られそうになかった。

 僕のこの力のせいで、自分はもちろん、家族や友達に危険が及ぶかもしれない。

 眷属になれていれば、部長からの保護、そして悪魔として明確な立場を手に入れられ、他は迂闊に手を出せなかったのに…

 

 

 

 なんて思ってたけど、部長たちグレモリー眷属の皆さんが僕を保護するようだし、さらに嬉しいことが一つ。

 

 以前部室にライザーさんと言う悪魔が来た時、僕の力を目の当たりにしたグレイフィアさんが、魔王様にトップシークレットとして報告。

 報告されたのは痛かったけど、魔王様は部長の兄。

 悪魔の中でも情愛深いグレモリー家でもある魔王様は、私の妹である部長の必死な要請を聞き入れ、今僕を狙う悪魔の行動を抑制させたそうだ。

 

 僕の立ち位置だが、表向きは魔王様とその妹の監視下にあり、手出し無用と言うことらしい。

 実際は、事情を汲み取った魔王様は、邪な感情抜きで間接的に保護するそうだ。

 

(ま、とりあえず身の回りの安全は大丈夫かな?)

 

 まだ安心は出来ないけど。

 僕と、僕の中にいる存在がいずれ、冥界とか天界とかに知れ渡るのも時間の問題かな…

 

(となれば…今回のこのレーティングゲームはまさにベストタイミングかな…?)

 

 良く捉えよう。もしこれで部長たちが勝利すれば、そのまま部は残存。

 ライザーを破ったと言う功績を持つグレモリー眷属が後ろ盾として得られる。もっと上手く事が運べば、部長の兄である魔王の保護だってあり得る。

 

(裁定者から魔王様のことを聞くに悪い印象はない…情愛深いことで耳に伝わる彼とその家族であれば…)

 

 僕の中の本能が思慮深く、疑っている。

 

 

 

ー相手は()()()()だぞ?

 

 

 

ーお前から全てを奪っていった…

 

 

 

 僕はあの人たちを悪魔の負の部分だけで見たくない。

 

 

 

ーなぜそこまでして仲間にこだわる?

 

 

 

 僕はあの時を知っている…誰もいない暗闇でただ死を待つ恐怖を、言いようのない怒りも…そして孤独も…

 

 

 

ー孤独…

 

 

 

 気がつけば僕たちは、部長の所有する山の別荘に到着していた。

 ここに来る途中バテ気味だった一誠は、早速汗だくで地面に力なく倒れ込んだ。

 これから特訓があるって言うのに…

 

 はぁ…

 

 大丈夫だろうか?

 ライザーに勝ち、今回の部長の政略結婚を破断に持ち込まねばならないのに…

 心の中でため息が止まらないな…

 

「はぁ…はぁ………あん?どうした春雄?」

 

「?どうしたって…何が?」

 

「いやな、浮かない顔してたから…考え事か?」

 

 まあそんなところだけど、僕にはどうしても気になることがあった。

 

 先程、黒い殺意がぼそりと呟いた後、あれっきり何もなかった。

 以前のように気持ちが昂って、無性に殺したくなるような、猟奇的な面は見せなかった。

 

 だが、獣が発するような、喉の奥から鳴らす、低くて短いリズムが脳に響き渡った…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…笑ったのか?

 このなんとも言えない不気味さに、心なしか安らぐところがあるのも不思議だ…

 

 宿主である僕と、力の主である黒い殺意さんとの親和性が単に高いだけだと思うけど…

 

 決してそれだけに思えないところもある…

 

 

 

 陽が照りつけるこの山の中で、兵藤一誠、今日も頑張ります!

 とりあえず目の前の目標は、ライザーと戦って勝利する。そして、部長をお守りする!

 

 って宣言したは良いものの、俺は木場を前に全く手も足も出ない。

 せめてもの武器として待たされた木刀は、容易く弾かれその辺に転がっている。

 

 木場お得意の生成された魔剣による斬撃じゃなくてよかったぜ。

 あれが魔剣だったら、今頃俺は木刀と同じように、ただの肉塊としてその辺に散らばってただろうな…

 

 流石に木場もそこまでのことをする外道じゃないけどな。

 俺はただ痛いだけで済んだ…

 

…いや、ちげーだろ、普通に痛えよ。なんだよアイツ。

 顔が良いだけじゃなくて、あんな剣捌きも、あんな高速移動もできんのかよ。

 ここに学園のあの女子たちがいたら、黄色い悲鳴が飛び交っただろうな。

 

 それにしても…

 

「…とま、反省点としてはこんな感じかな?ってイッセー君?」

 

「あん?」

 

「ちゃんと聞いてたかな?」

 

 やっべ…

 

「悪い木場…」

 

 俺は素直に謝罪した。

 こんな俺のためにわざわざ時間割いて稽古してくれたにも関わらず、この俺が何も聞いてないなんて、いくらあの木場でもブチギレしてもおかしくねえぞ。

 

「すまん」

 

「いや、大丈夫さ。それよりも君が心配だけどね」

 

「え?」

 

 すると木場はやんわりと微笑んだ。

 

「君がそこまで真剣な顔で悩んでたんだし…何かあったのかい?」

 

 言っていいのか?

 アイツの()()()に…

 

 

 

 裁定者は、ここ数日活動を活発化する禍威獣の対応に追われていた。

 とは言うものの、ただ闇雲に、自分が本当の姿を曝け出して戦うことは得策ではない。

 

(この世界の地球には不確定要素が多すぎる。多数潜む外来種に私という存在が大々的に知られて仕舞えば、今後の活動に大きく支障を及ぼす。

 それだけで済めばいいが、最悪の手段として()()を使用することになるのは私も避けたい。

 この世界での禍威獣、そして外来種の裁定、さらには…)

 

 裁定者は懐から3枚の遺跡の写真と、古いボロボロのモノクロフィルムを取り出した。

 

「『生きた絶滅現象』、『髑髏島の巨神』、そして『荒ぶる神の化身』…そしてこの…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…『牧吾郎』と言う男…か…」

 

 まじまじと写真を見つめていると、彼の脳内にゾーフィの声が届く。

 

「なんだゾーフィ。つい先日定時連絡を終えたばかりだろう?」

 

『君が本来の任務を忘れるほど、教諭という職に没頭していたのも事実だ。私の方から直接テレパシーを送らなければ、今頃処罰は免れなかった」

 

 ゾーフィは先日、定時となってもテレパシーを送らなかった彼のため、自ら直接声をかけたのだ。

 

 裁定者である彼の行動を諌めるゾーフィだが、単にそれだけで態々テレパシーを送るのもおかしい話である。

 

「…こうして連絡を寄越したのも、何か光の国で動きがあったか?」

 

『我々の把握できていない世界はごまんとある。今回君の調査する悪魔や堕天使、その他の勢力も、興味深い存在ではあるが、それ以上に大きな危険性もある』

 

 裁定者は黙り込む。

 このゾーフィと言う男は星の掟に忠実である。

 

 光の国が、他の宇宙に甚大なる影響を及ぼしかねない存在と判断した時、その存在がいる宇宙ごと滅却する。

 

 それが彼らのやり方でもある。

 ただし、誤解してはいけないのは、ただ危険だからと言って、そう簡単に正義を執行するのではない。

 

 本当にその星が、どうしようもないほどの巨悪を生み出したのならやむを得ない。

 それを厳しく裁定するため、光の国の使者である裁定者が派遣されるのである。

 

 軽く彼ら裁定者の任務を紹介したが、ゾーフィよりテレパシーを通じて情報交換するこの裁定者は、内心かなり驚いている。

 

(ゾーフィが直接テレパシーを送って、私に光の国の意志を伝えるとは…)

 

 想定外の事態である。

 

 まさかと裁定者は思ったが、冥界や天界に赴いて調査したところで、()()を使うまでの者たちとは判断し難い。

 

「ゾーフィ、彼らはこの地球の人間たちに影響し、時として無造作にその命を刈り取る者はいるが、まだそこは容認できる範囲だ。彼らが地球そのものに影響し、我々が『干渉』と判断し、()()を使わせるほどの力は無いと思える」

 

 どうにかして、アレだけは使わせてはいけない。

 

『私もそう踏んでいる。危険性が皆無とは言えないが、現段階で実行するのはあまりにも早計だ。そうすれば、我々は『正義の執行者』から殺戮者として他宇宙の者たちから烙印を押されるだろう』

 

 現在、他の光の国の組織である宇宙警備隊、そして全宇宙の平和を維持しようとする宇宙正義の目もある。

 

「…光の国の意見はなんだ?」

 

 ゾーフィとの念話では何も見えなかった裁定者は本質に迫る。

 結局のところ、光の国はどうしたいのだ。

 

『その宇宙の星にその星を治める最強の存在、それこそ、その星の(キング)がいるのだろう?』

 

「ああ」

 

『最近君が任された国では…そうだな…前に赴いた先の言葉を借りるなら、禍威獣と呼ばれる大型生物が活発的になった。それはその星の王が関係していると考えられている』

 

「何が言いたい」

 

 僅かながらに、裁定者のその言葉のトーンが落ち、心なしか怒りを感じ取れる。

 

『君の報告に上がった外来種…彼らの存在が、地球に影響を及ぼさずとも、地球を支配する者、つまり王に刺激しているのではないのか?』

 

 ゾーフィからの問いに、裁定者は完全に否定できない。

 本人たちに悪意はなくとも、結果的にあの子に宿る力ある者を刺激していることに変わりない。

 

『その地球はまさに不安定で、僅かに傾くだけで崩壊するかもしれない状態だ。外来種によって崩されようとしている秩序を、禍威獣とその王が取り戻そうとすれば、必然的に根本である外来種排除に移るだろう。

 そうなれば戦いに巻き込まれるのは力のない人間たち…』

 

 ゾーフィの言葉に、裁定者は拳を握る。

 

『禍威獣たちの力は強大だ。特に君が先ほど挙げた3体、そしてそれらの息がふきかかったものもいるだろう。それこそ、我々の力に匹敵するほどの力を持つものたちだ。

 このままの状態はそう長く続かない。そしていざ禍威獣と外来種がぶつかれば、滅ぼされるのは外来種と、脆弱な人間たちだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…リピアよ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…人間が好きになった君だ…私情に任せ、判断を誤った行動は取らないでくれ。私も、心というものを少しわかった。

 

 その星の生命…もちろん外来種である彼らの中にも良い感情を持つも者もいるだろう。

 

 そのような者たちを亡くすのは惜しい…無論、振り回され続ける人間の生命もだ…』

 

「…忠告感謝する」

 

 

 

 私は裁定者だ。

 そして、今の姿は地球と言う星で、最初に出会い、私の可能性を広げてくれた者の姿を借りている。

 

 あれから時は流れた。

 

 人の寿命は我々に比べればほんの一瞬だ。

 恐らく彼はもう生きていないだろう。

 

 異なる時間軸で、短い間だったが共に過ごした者たちとの生活はどれも新鮮だった。

 私にとって不足していたものを、彼らは与えてくれた。

 

 これも全て彼…神永新二がきっかけとなってくれたからだろう。

 私は彼に敬意を表し、この姿を借りることにした。

 今の私が、この星での活動する際最もしっくり来る姿である。

 

 私も彼のようになろう。

 

 私を受け入れてくれた彼のように。

 

 弱き者を危険を顧みず助ける彼のように。

 

「この星の生命を守り通し、今保たれている外来種との共存の状態を維持し続けよう…」

 

 だからせめて、今だけは刺激しないでくれ。

 私の懸念する力を宿した彼を…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…『荒ぶる神の化身』の子を…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あっという間に、オカルト研究部の強化週間は過ぎてゆき、今彼らは旧校舎にある部室に集合していた。

 

「さあみんな、準備はいいかしら?」

 

 部長であるリアスの問いに、力強く応える眷属たちと協力者。

 満足そうに彼女は微笑むと、いざ決戦となるところへ向かう。

 

 魔法陣が展開され、旧校舎からは誰もいなくなってしまった。

 

 

 

 ギイィィ…

 

 

 

 誰もいなくなった部室に忍び込んだのは、なんと神永だった。

 

「行ってしまったか…」

 

 彼の呟きは瞬く間に、静寂の中へと消えていく。

 今は裁定者として、そして教師として彼らの無事を願うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回修行編を詳しく、そして戦闘に入っていきたいと思います!
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