自分に「バカヤロー!」って感じです。
すみません…今回も僕の稚拙な文章に付き合っていただけると幸いです…
現在オカルト研究部は、ライザーとのレーティングゲームで勝利を収めるため、特訓場となるグレモリー家所有の別荘を訪れていた。
一誠とアーシアは、悪魔でありながらその力を十分に使いこなせていない。
アーシアの場合、彼女の聖女のような性格も合わさり、実質攻撃手段は皆無だが、神器の『
基本攻撃に重点を置き、どちらかと言うとパワープレイが多く見られるオカルト研究部は、アーシアの回復役がいれば、以前と違って前線の踏ん張りや場持ちが桁違いに伸びるだろう。
だからこそ、アーシアは
「私、精一杯頑張ります!」
両手で拳を作って力強く応える彼女は、いつもより頼もしく見えた。
時折ドジを踏むも、努力家でもある彼女ならこれからの苦難を乗り越えられるだろう。
問題は…
俺は兵藤一誠だ。
今、ライザーをぶっ飛ばすため、俺たちは部長が持つ別荘に来ていた。
初めはその広さと、整った設備、そして素晴らしい眺めに少し浮かれていたところだが…
「イッセー、あなたはこの10日という短い期間でキッチリ強くなってもらうから、そのため他よりもハードになるわ。頑張ってちょうだい」
部長は一人一人に特訓の内容を簡潔に伝えていき、俺のところに来ると真剣な眼差しと共に言葉を送ってきた。
このメンツの中じゃ、戦闘の経験とかはもちろん、そもそも格闘技をかじってすらない俺は、早急に強くならなくちゃならない。
どんな試練もどんと来い!
「それじゃあ…」
部長は俺の時とはうって変わって、春雄の前に来るなり、申し訳なさそうに言葉を詰まらせた。
「遠慮はいりませんよ、部長。この前戦った怪物相手に死ななかったくらい、僕は防御力もパワーも生命力も高まってます。この際、イッセーたちと一緒に扱っても構いません」
「そう?本当にごめんなさいね…本来人間であるあなたは全くの無関係なのに…」
「ご心配はいりません。この部の関係者ですし、それに…
…僕は既に人間紛いの化け物ですから」
俺は最初の特訓である、木場との模擬戦を終えたところだ。
流石『騎士』の特性だけあって素早いし、あの剣捌きを前に、俺は完全に太刀打ちできなかった。
お互い木刀を使った模擬戦だったが、やはり先頭の経験とか、剣の扱いとかの差は如実に現れるもんだな。
俺は剣を使わないファイティングスタイルだが、剣を持つ相手の対応に慣れるためにも、いきなり実戦形式で戦いはした…
…果たして俺は強くなれんのか?
俺はこの辛い現実を前に、この先に不安を抱えていくのか…
…不安と言えば、俺には気掛かりになることがもう一つ。
それは春雄のことだった。
初めに違和感に気付いたのは、部長の別荘に到着してすぐの時だった。
日差しによる怠さはかなり改善されたとはいえ、訓練の一環として重い荷物を背負い込んで登るのはキツかった。
何とか根性で山道を登り切った俺だったが、身体中から悲鳴があがり、すぐその場に倒れ込んでしまった。
その時心配して声をかけてくれたのが、兄弟の春雄だったんだが、アイツの表情は瞬く間に変わっていった。
焦点があっていない、まるで呆けているように、無気力、無感情になった顔をしたんだ。
俺は荷物を下ろし、どこか虚なアイツを現実に引き戻そうと、少しばかり大きな声で呼んでみた。
『春雄?』
『…ごめんイッセー。考え事してた』
コイツは気分屋で、感情が結構コロコロ変わる奴だった。
今となってそれは始まったことじゃないから、そこは別にいい。
部長が招集をかけたんで、俺はそっちに行こうと歩き始める。
その時、春雄の方を一瞥すると、その時アイツは…
…笑っていやがった…
そんなことを無意識のうちに考えるようになり、特訓にも些か集中できなくなっていた。
木場との剣の打ち合いでも、一方的に俺がボコボコにされていたしな。
まあそもそも勝てるとは思ってなかったけど。
「…とまあ…こんなことがあったんだが…」
念のため木場に打ち明けたが、別に気分が軽くなることも、俺から不安が拭われることもない。
以前俺たちオカ研部と、暴走した春雄との間で一触即発の状態になった。
今は春雄と部のみんなの関係は良好になったものの、依然として危険性が高いこともあり、警戒色は薄まったが解かれることはない。
「…あの時のあいつの目は…」
あの眼光を思い出すだけで、背筋が凍るような感覚に陥る。
ライザーとの邂逅、フリードとの初戦闘、そして俺たちに向けた圧倒的殺意…
(俺の心配が杞憂に終わればいいが…)
その後、朱乃さんから魔力の基礎をアーシアと共に学んだわけだが…微塵も魔力の才能を感じない自分に、心底失望しちまった…
アーシアはメキメキと力をつけてきてるのに、俺はというと米粒程度のエネルギーの塊を作るだけが限界だった…
(突っ走ってばかりの俺は…強くなれんのか?)
そして今、俺は子猫ちゃんと拳闘の特訓中で、地面を転がりまわってるけど…
(いい加減、俺も何かしなくちゃ…)
戦闘も魔力も何一つ俺はできていないし、悪魔の活動でも全く貢献できていない。
いつも後先考えず、勢いだけで突っ走ってばかりで、失敗することなんて日常茶飯事だ。
今まで通りならそれでもよかったかもしれない。
でも今、俺の立場からそうともいかねえ。
悪魔として生き、死と隣り合わせの危険な状況に身を置くこともある。
そんな中また考えなしに行動なんてしたら、俺の命にかかわるだけでなく、みんなに迷惑をかけちまう。
(木場が言っていたように、もっと周りを見ないとな…)
このままじゃ、
僕は兵藤春雄。
なんか僕が寝ている間に話が進んで、身に覚えがない内に、ライザーさんという悪魔から反感を買ってしまっていた。
部長とライザーさんは、「純粋な悪魔の血を絶やしたくない」と親同士の意向で、結婚が約束されていた。
でも、自分自身の心に決めた人と結婚できないことに納得していない部長は、女遊びがすぎるライザーさんにあまりいい感情は持っていない。
この結婚を破棄すべく、レーティングゲームでの勝敗で結婚を決めることに落ち着いたが…
「と、このようなことがあったのですわ」
一通り特訓が終了し、みんなが一時休憩に入ったところで、僕は今回の詳細を聞いた。
朱乃さんが話し合えると同時に、僕は無性に怒りを感じた。
部長やライザーさんの親は、大戦を生き抜いた純粋悪魔の中でも、上級である「七十二柱」の種族の一つ。
希少な純粋な血であり、そもそも悪魔の出生率の悪さもあって、親としてみれば血を絶やしたくないと思うかもしれない。
(結局、部長もライザーさんも、ただ利用されてるだけじゃ…)
ここ最近抑え込んでいた黒い感情が昂る。
ホント悪魔に碌な奴はいないのか…
まぁライザーさんからしてみれば、新しく女が手に入ると喜びそうだが…
とは言っても、親の立場がかなり特殊であるため、世間的に融通の効かないところはあるのだろう。
恐らく親も、娘である部長に、好きな人と結婚してもらいたいはずだ。
ただし、純粋な血が絶えようとしている悪魔社会において、政治に影響するほどの七十二柱の存続は看過できない問題。
(まぁ…冥界が転生悪魔だらけになるのはな…)
情愛深いグレモリー家にとって、かなりの苦渋の決断だったに違いない。
まさか情愛深いのは上部だけで、やはり悪魔、打算的な考えしかないのか。
「…春雄君?」
「なんでしょう?」
不意に朱乃さんに呼ばれたのでそちらを向くと、何やら困惑しているような表情を浮かべる彼女がいた。
どうしたんだろう…
「いえ…思い詰めた顔をしておりましたので…」
「あ、いえ…なんでもありません」
なんでもないわけない。
どちらにせよ、このゲームに勝たなくては、欲深い悪魔共に僕の力が大々的に知られ、利用されてしまうかもしれない。
部長たちのような悪魔は恐らく少数…
自分勝手で残虐な悪魔だったら…
「そんなの…死んでもごめんだ…」
僕は拳を握りしめた。
力には力しかない…
そうか…もし悪魔や堕天使が楯突いてきたら、逃げる必要がないじゃないか…
正面から向かってくる奴には、正面でぶつかり合う…そして…
「『殺すか』」
「「「「「「春雄(君)(さん)(先輩)!」」」」」」
みんな一斉に僕の名前を呼んできた。
どこか切羽詰まった表情…いや、何か「怯え」に近い感じがするかな。
「えーと…みんなどうした…んです…か?」
僕はイマイチ状況を飲み込めない。
疑問を投げてみるが、みんな冷や汗を流すだけで何も発さない。
というより、言いたくても言い出せないという方が合ってるかな。
「春雄…」
「何?イッセー」
「お前…何を言って…何を…
…殺すんだ?」
はあ?
何を突拍子もないことを…って言おうとしたけど、この張り詰めたような空気感、みんなも同じなのだろう。
なんで口走ったんだろう。
わからない…
「ちょっと頭を冷やしてきます…」
耐えきれない僕は、屋敷の外に出る。
あの黒い感情…ドス黒い殺意を感じるのだが…
「なんで…あんな安心できるんだろう…」
ゲームに勝つ以外何も変わらない。変えられない。
僕はただ与えられた役割を果たすだけ…
今はどうしようもできないこの状況に、抑え難い怒りをかんじてしまう。
俺は剣術、そして拳闘は当然ながら期待できない。
小さい頃から武術を嗜んでりゃ、今回のレーティングゲームも幾分かマシになっただろうが、戦いにはそれだけでは足りない。
戦闘を積み重ねるたびに得られる「経験」と、相手を倒そうとする「覚悟」が必要だ。
俺には我武者羅に突き進む覚悟はあれど、経験ばっかりはどうしようもない。
ずっと何気ない平和な日常を送っていた俺に、全く必要なかったものが突然必要になってしまった。
大昔の人間の全てに備わっていただろう「生への執念」。
物で溢れ、楽に生きていた俺が、これを取り戻すために与えられた時間は10日間。
あまりにも短すぎる…
でもやるしかねぇ。
(部長のために…みんなのために…!)
本来穏便に済ませられただろうあの時、ライザーの野郎と衝突にまで発展しそうになったのも、春雄がマークされてしまったのも、俺が先走って動いたからだ…
頑張る
言うだけなら簡単な言葉。
無責任のようにも感じる言葉。
一番弱い俺が、軽々しく言うもんじゃないのはわかってる。
「だったら俺は、死に物狂いで強くならなきゃな…」
強くなる理由はもう一つ。
「春雄…お前はどうしちまったんだ…?」
漠然とした不安、しかしそれはあまりにも大きいものだった。
思考を巡らせながらも、俺は魔力を使って、夕食の材料であるじゃがいもと玉ねぎを皮をむく。
「イッセーさん…」
「…!なんだ、アーシア」
「これはちょっと…」
困惑する彼女を見てやっと気づいた。
あたりにはむかれた皮が散乱し、ボウルの中にはツヤのあるじゃがいもと玉ねぎたちが、満員電車の如く詰められていた。
やりすぎた…
じゃがいもと玉ねぎだらけの夕食を食べ終えた俺たちは、明日に備えて風呂に入ろうと準備を進める。
「イッセー」
「ん、なんだ春雄」
どうしたんだ?
これから風呂だってのに、何も持ってねえじゃねえか。
「ちょっと外の風に当たってくるから」
「おう、早く戻ってこいよ。部長たちがあがったら、次は俺たちだからな」
…
結局俺と木場が風呂に入ってる間は来なかった。
ちょうど風呂から出たところで、あいつはなぜかびしょ濡れな状態で帰ってきた。
どうやら近くの池に入ったらしい。
みんなが何があったか心配したが、
「わかりません…どうしてか入りたくなって…」
「入りたいって…いつから入ってた?」
「う〜ん…ここを出てすぐかな?」
ボリボリと頭をかく春雄に、俺はもちろんみんなも衝撃を受けた。
少なくとも30分くらいは水中にいたってことになる。
春雄は慌てふためいて風呂場に直行する。
俺はそんな春雄に対して、抱いてしまう疑念がデカくなるのを感じた。
アイツが風呂に入ってる間、みんなでリビングルームに集まって話をすることになった。
当然議題は…
「さて、イッセー。春雄の様子が今朝からおかしいと言っていたわね」
「はい…」
アイツのことだった。
…
俺は別荘に到着してからのこと、そしてさっき突然外出した時のことを話した。
「みんなも知ってると思うんですが…さっき春雄が呟いた…」
あの場にいて耳にした者は全員、心臓を握りつぶされたかなような感覚になるほど、アイツの声には凄みがあった。
今まで何度かあった、春雄の豹変。
温厚で、どこか抜けているアイツからは想像もできないほど、ゾッとする声…
そこにあったのは「底しれない殺意」と「尋常ならざる怒り」だった…
「たぶんすけど…アイツの中の力が、ライザーの戦意に刺激されたのかもしれません…そして、あの場に多くの悪魔が集まっていたことが、余計に不機嫌にさせたんでしょう…」
アイツはたまに記憶が飛び飛びになる。
恐らく我を失っている間、力の主が春雄の体の主導権を持っているんだろうな。
だとしたら、力の主の意志が残ってる…?
今まで見せてきた殺意が、春雄のものではなく力の主のものだったのなら…
「なるほど。その可能性はあるわね」
「そうですわね。春雄君自身は、もう私たちのことを認めてくれていたとしても、彼の
おいおいマジかよ。
アイツに宿った奴は、この地球の守護神かなんかか?
だとしたら俺たち悪魔、他所モンがいるだけでご立腹じゃねえか。
「この星の守護神…あの桁外れな力といい、その可能性はあるかもね」
「…自然が好きとおっしゃってましたが、単に好きと言うわけではないようです。春雄先輩自身もよく理由がわからないと呟いていましたし」
「春雄さんは、神様なんでしょうか?」
なんか俺もそんな気がしてきたな。
一応赤龍帝の力を持ってるとはいえ、この前対峙した時は、アイツのオーラとかに圧倒されてたしな…
あの戦い方とか、戦いへの心構えとか…
「『殺す』」
「『粛清』」
「『排除』」
…なんつーか、守護神って言うよりも、「破壊神」って感じだな。
てか、そんな伝説的な存在なら、多少なりとも伝説とか絵巻とか、なんかあってもいいんじゃね?
結局アイツの中にある力にはわからずじまいに終わったのだった。
「じゃあ部長、春雄は参加させない方がいいんじゃないすか?」
「それもそうね…戦力としてこれ以上にないほど頼もしいけど…この前みたいに暴走されてもね…」
たぶん止められないことはないかもしれないけど、その時は本気でぶつからなくちゃならねぇ…
仲間である春雄をこれ以上傷つけたくない。
みんなそう思ってる。
部長みたいな優しい悪魔が主人で、みんなみたいに思いやあのある悪魔が眷属で、ホント良かったぜ。
あとは…アイツが素直に勝負事から降りてくれればいいんだけどな…
…
「アッハッハッ!みんなして心配しすぎでしょ」
オカルト研究部男子が集まる寝室で、俺と木場は春雄のゲーム出場を控えてもらうよう、なんとか説得するが…
コイツ、変に勝負事に関してマジだからな…
まさしく「やる時はやる男」だが、やばい力を持っていることもあって、なんか洒落にならない気がする。
「僕が勝負にはうるさいのは、良く知ってるでしょ?」
はい、確かにそうでしたね!
だけどわかってくれ!もしお前が暴走したら、止められる奴は…
「イッセーに木場さん」
春雄は雰囲気を変え、真っ直ぐな目で俺たちを見る。
「心配してくれてるのもわかる。僕だってこの力に不安を感じてる。でも暗い意識の中でも、イッセーや部長の声は聞こえてるんだ。
だから力の主に言ったんだ。
『大切な人には手を出さないで』
そしたら、力の主は僕の願いを聞いてくれた。
だから安心したんだ。あの時誰も傷ついてなかったことに」
そうか…
力が暴走した時、これといって反撃してこなかったのも、春雄が力の主を説得していたからなのか。
思えば、春雄が力を使った時って、特に力に振り回されてるようでもないからな。
あのムートーとか言う黒い怪物相手に、正気を保ったまま戦えてたようだし。
あまり俺たちが気にする必要はないのか…?
「イッセー。僕は戦うよ。みんなが僕のことを守るように、僕もみんなのことを守る」
期待していいのか…
いや、本人がここまで言うならそうさせておくか。
それにアイツ自身の目も曇りのない真っ直ぐなものだったし。
僕はずっと保身にはいって、戦いから逃げることばかり考えていた。
部長の悪魔としての地位を利用して、家族や仲間を危険から遠ざけようとする…
…と言うのを口実に、僕が助かろうとすることばかりだった…
悪魔や堕天使の冥界の荒事は、それこそ悪魔の仕事だろうと決めつけ、部長たちばかりに任せようとしていた。
「そんなものはただの『甘え』だ」
僕は強く思い込み、「力」を呼び起こした。
四肢は黒く染まった鎧のような皮膚に包まれ、同時に逞しく発達する。
そして腰あたりからは、太く強靭な漆黒の尾が伸びる。
武器はある。
守れる力もある。
必要なのは「覚悟」だ。
ー大切な者は自分自身で守れ。
ー我が道を行け。
黒い主さんが、僕に教え諭すように、まるで父親のような威厳と優しさを持つ声で語りかける。
そうだ。
悪魔や堕天使、狙うのならこの僕だ。
だったら僕が目障りな連中を薙ぎ払えばいい。
家族やオカルト研究部のみんなが人質にとられそうなら、僕が守り通せばいい。
自分で歩く道くらい、自分の力で切り開いてみせる。
翌日。特訓2日目を迎えた。
昨日は冥界のことを詳しく知ろうと、本を読み漁った程度だったが、今日から僕も本格的に実戦形式の特訓を行う。
早い話、昨日イッセーが行っていた特訓に、僕も混ざることになっていた。
そして今目の前には、木場さんの猛攻を食らってダウンするイッセーの姿があった。
素人目でもわかるくらい、イッセーの剣は初心者丸出しだ。
構えも、踏み込みも、振りも、全て力任せな感じが否めない。
反対に木場さんは、流れるように次の技、次の技と繋げていく。
圧倒的な剣技に加え、『騎士』の特性であるスピードを利用した速攻の威力も半端じゃない。
(僕の力の特性上、スピード勝負では完全に勝ち目はない…)
だったら自分の強みを活かす他ない。
「じゃあ次に…春雄君」
「よ、よろしくお願いします」
初めてこんなことをするから、緊張で少し声が変に…
これから戦いが始まるってのに…
「よろしくね。でもいいのかい?」
「うん!遠慮しないでいいよ!」
だって僕、もはや人間じゃないからね。
…
う〜ん…負けちゃった☆
いやぁ、流石に剣を習っているのとそうでないのでは話にならないね!
僕が仕掛ければあっという間に目の前からいなくなるし、あっちの攻撃は目にも留まらぬ速さだし…
お陰で持ってきたジャージは早速ボロボロになっていた。
これは…後で母さんに怒られるかも…
「あはは…ごめんね春雄君…」
「速すぎる…終始誰と戦ってるのかわからないよ…て言うか、イッセーの時より力入ってなかった?」
時折食らう「突き」がそれなりに痛い。
力のおかげで異常なほどタフになったけど、一発本気の攻撃を食らった時、その衝撃には驚かされたよ。
完敗。チャンチャン。
さ〜て、次は子猫さんと特訓か。
それまで僕は時間あるし、また本でも読んでこよっかな?
「じゃあ木場さん、お疲れさんでした」
「…」
あれ?応答がないな…
「あの…木場さん?」
「!ごめんね、春雄君。なんだい?」
「いえ…ただ挨拶を、と…」
「ああ…うん。お疲れ様」
なんかぎこちないなぁ。
疲れたのかな?
まさか木場さんに限ってそんな…ね?
とりあえず家の中にないろうと歩き始めた時、チラリと木場さんの方を見ると、何やら深く考え込む様子だった。
「…えい」
子猫さんの、イマイチ感情のない、囁くような掛け声と共に打ち出されるパンチをもらい、僕は宙を舞った。
え…エグくね?
イッセー、こんなヤバいのとずっと特訓してたの?
それじゃあ、あんなヘロヘロになるわけだ。
感情の起伏がない、物静かなイメージがある彼女は、戦いでもやはり熱くなることはない。
でも、あの小柄な体からは想像もつかないほどの力を持っており、イッセーと2人がかりで挑んでも、その体を地面に打ち付けることはできなかった。
一応、僕にはあの力があって、子猫ちゃん以上のパワーを出せるかもしれないし、イッセーだってそれなりに力はある。
じゃあなんで負けるのか。
その答えは単純。
僕たち、武術の心得も何もない、ただ我武者羅に考えなしに拳を振るってるだけだった。
こんなのは、「戦い」とは言えない。
「…むぅ…春雄先輩、真面目にやってください…」
あまりの不甲斐なさから、子猫さんが不貞腐れてしまった。
いやいや、何もわからないとはいえ、僕は真剣そのもので挑んでるんですけど…
その後もイッセーと仕掛けるが、身軽さを利用して避けられたり、時に柔術を使ってくるしで…
特にダメージを与えられるわけでもなく、そのまま時間だけが過ぎていった。
「本気」と書いて「マジ」に、やっても子猫さんの機嫌は直ることはなかった。
「「はぁ〜」」
僕とイッセーは同時にため息をつく。
部長に今日の夜ご飯当番を割り当てられたけど、僕たちは思うように手をつけられていない。
「なんか…不甲斐なかったね…」
「そうだな…一日で上達するとは流石に思ってねえが、こんなにできねえことに…軽く自分に失望したぜ…」
また野菜を切る手が止まる。
僕は力を持ちながらも特に何もできないことに、そしてイッセーは明らかにみんなから遅れをとっていることに焦っていた。
果たしてゲームまで間に合うだろうか…?
「お二人とも、元気を出してください!まだ成果は出ていなくとも、これから力がついてきますから!」
元気付けようとするアーシアは、魔力の才能に溢れ、メキメキと成長している。
彼女のポテンシャルの高さから、回復役としてのスキルは申し分のないところまできた。
彼女には素直に脱帽だ。
「だな…俺たちも頑張るか!」
「そうだね…」
「そうですよ!」
こうして僕たちは再び料理に取り掛かった。
途中、イッセーが魔力を使って野菜の皮を綺麗にむいていたのを見て、何か悪寒を感じたが、特に言及する気も起きない。
それ以上に気になることが…
(イッセー…)
バレバレだよ。
空元気だってことは。
「そうだ春雄、お前もう食っちまったなら風呂にでも入ってこいよ」
夕食のカレーを、みんなより一足先に食べ終えた僕に、イッセーが一番風呂を促してきた。
特別断る理由はないけど…
「いいんですか?僕なんかが…」
部長たちを差し置いて、ただの協力者が最初だなんて…
煩わしさを抱いてしまう。
「良いのよ。食事の準備も最後までやってくれたし、今日の特訓も慣れないことばかりだったでしょ?お風呂でゆっくり疲れをとりなさい」
部長はそう言ってくれたけど、みんなは…
「あらあら、私たちに気を遣わなくてもよろしいのですよ」
そう…ですか。
じゃあお風呂に入ってこよう。
せっかくみんなが良いって言ってるんだこら、ここは素直にご好意に甘えておくとしよう。
…ガチャ…
春雄が部屋を出たことで、今いるのは部長とその眷属だけになった。
みんな食べ終わり、片付けも済ませ、あとは風呂の順番を待つだけとなった。
「イッセー、春雄はどれくらいお風呂に入るかしら?」
「う〜ん…そうっすね…大体30分くらいです」
すると部長は頷いて、手を組んで考え込む。
ほんの数分経ったところで、
「祐斗、子猫。今日春雄と特訓してみてどうだった?」
部長の問いに、木場も子猫ちゃんも一拍置いて答えた。
「…戦闘経験がないとはいえ、春雄君の防御力とパワーは他と一線を画しています。正直、彼が少しでも戦闘術を知っていれば、僕に勝っていた可能性もあるくらいです…」
「…春雄先輩が私に一度も攻撃を当てられないのは流石におかしいです。あの黒い怪物を力だけで捩じ伏せたみたいに、まだまだ力を出せたはずです。
本気で来てるのはわかるんですが、全力とは思えません…」
確かに…
俺は木場や子猫ちゃんの攻撃を受けて負傷したところはアーシアに癒してもらったが、アイツの場合、これといって怪我はしていなかった。
別に二人が手加減したんじゃない。
少なくとも俺も同じくらいの攻撃を受けてたし、そもそも手加減できるような相手でもない。
悪魔である俺と、神に匹敵する力を持つ春雄を同時に相手取るなんて、手を抜いて対処しようものなら、逆にやられかねない。
「そう…今後もあの子を注意深く見ていく必要があるわね…」
…
「ふ〜…部長、先にお風呂いただきました。ザッとですが浴槽も洗っておいたので」
「あらそうなの?ありがとうね」
「いえ、これくらいして当然です」
春雄が風呂から帰ってきたタイミングで話は終了。
みんな春雄にさっきの話を悟られないよう、自然に接していた。
アイツはプールや海、風呂が好きで、あがった後は機嫌がいい。
なるべくその機嫌を損ねないよう、俺も切り替えないとな…
…
……
………
「くそっ!」
数日が経過し、一向に強くなった実感がわかない俺は、自身の無力さへの苛立ちと、周りが確実にレベルアップし、置いてけぼりにされる焦りで、きがきでなくなっていた。
ついつい八つ当たりの如く、石を殴りつけてしまった。
心赴くまま、目一杯の力で殴った後の余韻に浸っていると、時間経過で痛みが増していき、自分を現実に引き起こしてくれた。
「ホント俺は…ダメダメだな…」
今日まで生きて、これほど自分を恨んだことはない。
「何が…『頑張ります』だ…』
口で言うのは容易い。
特訓も残すところ3日となり、俺は今まで何をしてきたのかわからない。
戦闘経験のない俺は、ただ拳を振り、ただ力を振り回してばかりで、あまりにも戦い方が稚拙であった。
さらに俺は、ろくに転移もできなかったり、魔力弾を米粒程度の大きさにしかできなかったりと、魔力のセンスも致命的に欠けていた。
はぁ…
特訓の日も、残すところあと僅かとなった夜、僕は水でも飲もうかと起きた時、イッセーの姿がないことに気づいた。
水を一口飲んで、数回深呼吸をする。
清々しい気分となったが、やや眠気がとれてしまった。
でも布団に入ればまた寝られるだろう。
「あれ…イッセー…?」
部屋に戻ってきても、イッセーの姿はなかった。
どこ行ったんだろう…
気分転換で屋敷の中を散策するがてら、僕はイッセーを探していた。
あの後少し待ってみたものの、イッセーが部屋に戻ってくることはなかったのだ。
部長の手が行き届く家だから安全だとは思うけど、万が一のために。
…
僕は今長い廊下を歩いている。
窓から差し込む月明かりが、僅かに青く照らしていた。
ふと僕は外を見る。
粛然と青白く光る月が、動物も寝静まった静寂な森を見下ろしている。
そんな中、風だけがその自然を駆け巡っていた。
と言っても、ほんの微風のようなもので、草や木の枝を揺らす程度にすぎなかった。
ザワザワ…と言うほど鬱陶しく感じない自然が作る音に、僕はまるで音楽でも聞かされているかのように、心が満たされていく。
「…!あれは…」
テラスの方に人影が二つ。
警戒しつつ、よくよく目を凝らしてみると、一人は赤い髪の女性と、もう一人は彼女に泣きつく男の姿。
「なんだ…部長とイッセーか…」
僕は侵入者かと思ったが、見知った人たちであることを確認すると、警戒を解いて二人を見つめる…
…そう言えばイッセー…ここのところ伸び悩んでたんだっけ。
ここのところ、自分の力に自信を持てないイッセーは、一人でいる僕のところにやって来ては相談してきた。
側から見ると、イッセーも負けず劣らず力をつけてきてはいる。
しかし…
「周りが周りだからなぁ…」
揃いも揃ってグレモリー眷属は優秀だ。
そこへ戦いも知らない、ちょっとエロい以外普通な男子高校生が入ったのだ。
ただ神器を持っていただけで殺され、悪魔と言う理由で戦いに巻き込まれ…
気後れしたり、焦ってしまうのもわかる…
(部長…イッセーのことを頼みます)
部長もイッセーも大きな悩みや不安を抱えている者だ。
今思ってることをお互いに打ち明けて、いい意味で吹っ切れてほしいかな。
…
「…あれ?春雄君…」
「ごめん…!起こしちゃった?」
「いや、大丈夫だけど…って、イッセー君は?」
「ああ…イッセーなら…大丈夫ですよ」
さあイッセー、壁を乗り越える時だ!
部長に思いの丈をぶつけた俺だったが…恥ずかしい…
誰よりも辛いのは部長のはずなのに、何一丁前に悩んでんだよ!
『部長のことは、俺がなんとしても守ります!』
とノリと勢いで宣言しちまったけど、今の俺にそれだけ力はあんのか?
「イッセー!」
ふと俺は春雄に呼ばれ、
「気張っていけ!」
「お、おう」
思い切り肩を叩かれた。
寝起きにはいい刺激にはなったし、激励も嬉しいが、流石に痛かったぞ?いや、マジで。
…
特訓も残すところあと僅か。
俺は今回から「
「よし、じゃあイッセー君。行くよ!」
最初の相手は木場。
持ち前のスピードで一気に距離を詰めようとする。
速攻か…だったら…
俺はすぐ左手に魔力を集中させて、エネルギーの塊を作る。
米粒程度の大きさには変わらないが、今の俺にはこの赤龍帝の力がある。
『Boost!』
もっとだ…
『Boost!』
もっとだ…!
『Boost!』
もっとだ!
『Boost!』
もっとだ!たりねぇ!
『Boost!』
これじゃライザーを倒せねぇ!
『Boost!』
これじゃ部長は守れねぇ!
『Boost!Boost!』
これじゃ…
『Boost!Boost!』
「いっけぇぇぇえええ!!」
気合を込め、ありったけの思いをのせて叫んでやった。
せめて一撃くらいは!
俺のエネルギー弾が発射されると、真っ直ぐ木場の方へと向かっていく。
おお!今までにない力を感じるぜ!
「届けぇぇぇえええ!!」
…
……
………
あたりには轟音が響いた。
呆気に取られていた俺は、木場のはるか後方、山の方を見た。
「なっ…」
思わず言葉を失った。
真っ直ぐ飛んでいったエネルギー弾は、地表を抉りながら進み、山にぶつかると大爆発を起こしたのだ。
「ふぅ〜…間一髪だったよ…」
汗を拭う気場が持つ剣は、粉々に砕けてしまった。
思わず俺は自分の手を見る。
これが…神をも殺すほどの力を持つとされている『
「イッセー」
部長が呆けてる俺に声をかける。
きっとあのぶち壊した山の弁償だの、隠蔽だの…謝りようがねぇ…
しかし、俺の予想に反して、部長は特に怒っている様子ではなく、穏やかに微笑んでくれていた。
「部長…」
「イッセー…今までのあなたは12回のブーストに体は耐えられなかった。でも今は」
確かに…今までの俺は、ここまでの力を倍増させれば体はついてこられなかった。
でも今、俺は途轍もなく疲れてるが、しっかりと二本足で立っている。
「イッセー…自信を持ちなさい。こんな頑張り屋さんな下僕なのだから」
そうか…これが…
俺は感極まって泣きたくなるのを堪えて、改めて部長に宣言する。
「部長、俺はまだまだ弱いまますけど、1日でも、1時間でも、1分でも、1秒でも強くなってみせます!」
高らかに宣言した俺に、部長は最高の笑顔を見せてくれた。
今までお互い悩みを抱えていたとは思えないほど、清々しいものだった。
「よくやったね、イッセー」
「お、春雄もサンキュー」
僕とイッセーはグータッチを交わす。
イッセーはやる時はやる男だ。
(結局イッセーは、克服して立ち直るんだから…)
最初から僕は心配していなかった。
今まで長く一緒に生活していたからわかったけど、イッセーはこう言う男なんだ。
人より欠けている部分は、途方もない努力で近づき、補う。
全く…エロさえなければ………
…さて、あとは僕だ。
…
迎えたライザーとのレーティングゲーム。
今日までみんなは調整を終え、現在ゲーム開始をオカ研部の部室で待っているところだ。
ちなみに僕は、子猫さんとの格闘、木場さんとの木刀を使った剣戟、部長と朱乃さんの魔力を同時に相手をする模擬戦、そしてイッセーとの戦い…
正直、長い間一緒にいたイッセーだから、癖とかいろいろわかってるから、それなりに戦えたけど、他に関しては惨敗。
いずれも本当の戦いだったら死んでいただろう。
幸いダメージは受けていないものの、これでは………おや?
『ゲーム』
あ、そうか。いくら結婚がかかってるとはいえ、所詮はゲーム。
何を格闘やら剣にこだわる必要があったんだろう…
僕の中に宿る力はそんな戦いはしない。
試合なんかしない。
常に生きるか死ぬかの瀬戸際で、明日のために争い続けた『王』。
どう動くかはイメージがついた。
なんだろう…
黒い殺意が僕の中でとぐろを巻く。
不思議と心地いい…早くゲーム始まらないかな…
刻々と迫るゲーム開始時刻。
緊張していた俺は、ふと春雄の方を見ると…
…笑みを浮かべた口から鋭い歯が垣間見えた。
次こそは、ライザーと戦いを!
そしてそろそろ怪獣王たる戦いを書きたい!