黒き王の原罪   作:イテマエ

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 怒るゴジラ…

 それ以上に恐ろしい存在は、この世界にはいないと思われます…



第18話 不完全燃焼

 俺は兵藤一誠。

 今俺たち、オカルト研究部は来たるレーティングゲームの開始時刻を待っている。

 

 レーティングゲームとは、簡単に言えば、部長と対戦相手のライザーが『王』として、俺たち眷属を指示して戦い、相手の大将を討ち取るさながらチェスのようなものだ。

 その駒が俺たち『兵士』、『騎士』、『僧侶』、『戦車』、『女王』であり、それぞれ与えられた特性を駆使して戦うのだが…

 

(あの時は勢いもあったからあれだが…冷静に考えりゃやべえ不利だな…)

 

 ルールに反しない限り、大抵のどんな攻撃でも許されるため、ものを言うのはやはり己の力と経験だ。

 力に関して、『赤龍帝の籠手』もあるわけだし、部長たち古参メンバーも戦闘経験も相まって滅茶苦茶強い。

 さらにこちらには、回復役を務めるアーシアがいる。

 パワーファイターや魔力による遠距離超高撃、近距離戦闘主体という、曲者揃いのメンバーの中で、彼女の存在はかなり大きい。

 彼女のおかげで持久戦に持ち込めることもできるようになったのだが…

 

(ライザーは既に経験者。戦績は8勝2敗…それもこの負けは、懇意にしている相手側を配慮したためのもの…実質無敗…)

 

 立ちはだかる壁は分厚く高い。

 若手悪魔の中でも、次の若い世代の優勝候補として名が上がるアイツの実力は認めざるを得ない。

 

(アイツらには強さもさながら、勝ち進んできただけの経験もある…)

 

 

 

 俺たちで勝てるのか?

 

 

 

 心の中で、弱気になってはいけないとわかっていつつも、不安は拭えない。

 俺の悪魔としてのレーティングゲーム、相手と言い、部長のことと言い、のしかかる荷の重さに震えが止まらねえ…

 

「イッセーさん…」

 

 俺の微かに震える手を誰かが優しく掴んでくれた。

 温かい…

 その美しく白い肌の手を辿っていくと、不安そうに瞳を揺らすアーシアの表情があった。

 

(そうだよな…アーシアだって…)

 

 アーシアにはこれといって攻撃手段はない。

 神器を使って仲間を助けることが彼女の役割である。

 つまりそれは、自分は前線に立って戦うことができない、ということを表す。

 危険な戦地の真ん中に仲間がいる間、貴重な回復役であるアーシアは早々にリタイアできないため、比較的安全なところで待機する必要がある。

 

 彼女だって戦いたいはずだ。

 仲間が危険なところで戦ってるのに、自分だけ待機なんて…

 

「アーシア…」

 

 俺はそっと彼女の頭を撫で、そのまま優しく抱擁した。

 アーシアの気持ちは痛いほどわかる。

 俺だって戦えず、黙って待ってろなんて、とてもじゃねえが無理だ。

 悔しすぎる…

 

「アーシア…心配すんな。俺たちは負けねえよ」

 

 

 それなりにアーシアは落ち着いたものの、俺の手を握っていないとダメらしい。

 こんなこと、こんな状況で思うのはどうかと思うが、ホントに可愛い。

 今の俺は、妹に頼られるお兄ちゃん的な感じだ…

 

 

 

…悪くない。

 おかげで俺も心の余裕ができたぜ。

 

 一つ息を深く吐いて、部員たちを観察してみよう。

 

 まずは子猫ちゃん。

 相変わらず感情の読めない顔だ。

 そんな彼女は手のひら部分に猫の肉球のデザインが施されたグローブをはめ、指の開閉をし、つけ心地を確認している。

 

 そして木場。

 相変わらずイケメンで憎い顔だ。

 騎士として、アイツの顔に「焦り」とか「動揺」はない。落ち着いた様子で魔剣の手入れをしていた。

 

 続いて部長と朱乃さん。

 二人並んでお茶をする姿は絵になる。

 この状況でも優雅に紅茶を飲み、リラックスできるのは流石年長者。

 俺たち後輩の鏡として引っ張ってくれる2大お嬢様は本日もたいへん美しい。

 

 やはり古参メンバーは戦闘慣れしてるだけあって、俺やアーシアのように緊張している様子はない。

 いや、きっと緊張してるだろうけど、それを顔に出してはいない。

 今更どうこう言わず、己の力を信じ、戦闘前のこの短くも長くも感じる待ち時間を有意義に使っていた。

 

 俺は素直にカッコいいと思った。

 

 

 では、俺と同じ戦闘初心者のコイツ(春雄)はどうだろうか。

 

 特訓の時、アイツの中に眠る力を少しだけ見た。

 ハッキリ言って、あれは異常だ。

 

 戦闘スキルのない春雄は、特訓相手になった木場や子猫ちゃん、そして朱乃さんに勝つことはできなかった。

 だが同時に、俺のように完全に手も足も出ないで負けたわけではなかった。

 むしろ手も足も出なかったのは木場たちだった。

 

 武術の心得がない春雄は、攻撃を躱して捌くなんて芸はできない。

 

 だがそうする必要もなかった。

 アイツの中に眠る力が、春雄の身体能力を底上げしていた。

 どれだけ攻撃を食らおうとも倒れることのない屈強かつタフな体、一撃必殺クラスの獣のような型のないデタラメな攻撃…

 躱された拳は岩に直撃すると同時にそれを砕き、避けられた踏みつけ攻撃はそのまま地面を割った。

 

 その力には俺たち全員は冷や汗が止まらなかった。

 訓練とはいえ、あんなのが直撃したらタダでは済まねぇ…

 そしてそんな攻撃を一切躊躇わずに繰り出してきたアイツに、胸騒ぎが収まることはなかった…

 

 その後も特訓はしたが、アイツの力と剣術、拳闘術などあらゆる格闘技との相性は悪かった。

 近距離戦に特化した力であるはずだが…

 なぜ…?

 

 他の追随を許さないほどの圧倒的な力を持ちながら、俺以上に()()()()()がなく、実力を思う存分発揮できずこの日を、この時を迎えてしまった。

 きっと…俺やアーシア以上に緊張して…

 

「クックックッ…ワクワクが止まらない…なんだこの気持ち…今までにないくらい楽しい気分だ!」

 

 そんなことはなかった。

 これから起こる戦いに嬉々と、その時を今か今かと待ち望んでいた。

 「フンス」と鼻息を強く吐き、発現させた真っ黒の尻尾はバンバンと地面を叩いていた。

 

 兵藤春雄は勝負事になると変わってしまう奴だ。

 

 

 

 その時は唐突に訪れた。

 皆それぞれのことに集中していたあまり、そう感じただけであって、実際は定刻通りだった。

 

 グレイフィアさん…だっけ…

 話を聞いていたぐらいの認識だけど、イッセーが言うには眉目秀麗、クールな大人の美女らしい。

 頗るどうでもいい情報だけど、彼女が審判を担ってくれるそうだ。

 

 まあ、まさか相手に贔屓するようなことはないと思うけど…

 

 などと思ってると、転送魔法陣が床に現れた。

 いよいよだ!

 あれだけ争いが嫌いだったのに、今は早く暴れたくてしょうがない気分だ!

 

「みんな、準備はいいかしら?あまり張り切ってボロを出さないようにお願いね」

 

『はい、部長!』

 

「特に春雄、いいわね?」

 

「え?あ、はい」

 

 いかんいかん…

 まだゲームは始まってない。

 ここは冷静に。冷静に。

 思えば…悪魔にもなってない僕が、魔法陣で転送されるってかなり貴重な体験じゃん。

 

 なりたくてもなれない…いや、そもそも悪魔になってしまうことは僕にとって、僕の中の力にとって禁忌であったんだ。

 

(別に…悪魔になれなかったからって、それがどうしたんだ?)

 

 特にこれまでの生活とあまり変わらないし、無理してなる必要もなかった。

 今後とも部長のサポートがあれば僕もそれなりに安心して暮らせるし、そのためならどんなことにも協力すると契約した。

 

 部長及びグレモリー眷属との契約…

 それは、悪魔の活動に僕の力を貸すという協力を見返りとして、僕を守ってもらうということだ。

 分類上はただの人間の僕が、いつ堕天使や悪魔の毒牙にかかるかわからない。

 

 まあお互い守り合えばいいというわけさ。

 

 今回僕は、部長の夢を守る必要がある。

 やってやる。

 相手が例えどんな奴だろうと、楯突く奴は蹂躙する。

 倒せないのなら、力の差を見せて屈服させればいい。

 僕は意地でも立ってやるさ。

 

「ふ…『かかってこいよ…たかだかコウモリ風情が…』」

 

 

 間もなく転送されると言う時、部室の扉からとある人の気配…

 いや、明確には()()()()()な…

 うまく誤魔化せてる。人間に溶け込む悪魔や堕天使はすぐわかるが、この扉の向こうにいる存在は恐らく強力な存在。

 部長たちは気づいてないようだけど、まぁ敵意は全く感じられないから大丈夫だろう…

 

(あの気配…僕がよく知ってるものだった…まるで…)

 

 まさかな…

 こんなところにいるはずがない。

 

 これまでに何度もオカルト研究部と接触を果たし、冥界や天界の動向をいち早く察知しては迅速に解決する提案を持ち出すキレ者…

 

 部長や朱乃さんが言うには、途方もない聖なる『光』で満ち溢れているそうだ…

 

(今回のゲームのことでも察知してここに来たのかな…)

 

 それだけで?

 何のために?

 

 だがそんな疑問は甚だどうでも良い。

 なんで僕がよく知る気配が…?

 

(どうして『裁定者』の気配があなたなんですか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…神永先生…)

 

 

 

 

……

 

 

 

………

 

 僕は誰かに呼ばれ、意識を現実に戻されると、こちらを不思議そうに覗くイッセーと目があった。

 

「あれ…イッセー?」

 

「おいおい…しっかりしろよ。これから戦いが始まるんだぜ?」

 

「え…?でもここ部室のままだよ…?」

 

 するとイッセーは呆れたようにため息をつき、部長はやや怒り気味、他の眷属のみんなは苦笑いをしていた。

 

 その後僕にイッセーが教えてくれたんのだが、どうやらここは既に現実世界ではない、ゲーム専用の仮想空間のようなものになったらしい。

 かなり緻密に再現された机やソファ、そしてオカルトに関わる本、いつも朱乃さんが用意するお茶や子猫さんのお菓子のストック、さらにはイッセーがこっそり隠してあったエロ本までもが置かれていた。

 

「なんでバレてるの〜!?」

 

「いや、流石にこれだけ長く居れば、イッセーの考えることくらいわかるさ」

 

 僕に盛大に秘密をバラされ、心底居心地が悪そうにしているイッセーをほっとき、ふと窓の外の景色に目を向ける。

 

「…確かに…ここが僕のいたところじゃなくなったのはわかった…」

 

 考え事をしていたせいで、貴重な転移の瞬間を見逃してしまったが…

 

 それにしても…

 

 いつも僕に呼びかけるように、風に靡いて騒めく草木の音はなく、そもそもその草木からは一切正気を感じない。

 土壌も見た目だけは酷似しているが、死んでいる。

 死んで静まり返った学校の林を照らすのは、不気味な紫色の空に浮かぶ、恐ろしく大きくて美しい月だ。

 

 正気の感じられない林は、これ以上にないまで寂しく辛い。

 

 早く終わらせよう。

 

 こんなところ、真平ごめんだね。

 

 

 作戦会議終了後、僕はすぐ本拠地である旧校舎を飛び出し、正気のない林に身を潜める。

 そしてそっと目を閉じ、自分の周りの情報に耳を傾けた。

 

「朱乃さん、敵がそちらに気づいている節があります。気配は3匹です。が、そこまで強くはないですね。格下です」

 

『あらあら、そうですか。結界構築を急ぎますわ』

 

「木場さん、敵が3匹食いつきました。そのままの速度と方角を維持して朱乃さんの作った結界に誘い込んでください。間もなく終わるはずですから」

 

『わかったよ。ありがとう』

 

「子猫さん、体育館に向かった4匹は?」

 

『…動きはない…です…』

 

「了解、あと旧校舎側の林には誰もいない?」

 

『…そちらに動こうとする者の気配はありません…むぅ』

 

 よし、順調だね。

 なんか子猫さんのご機嫌が斜めだけど…

 ま、いいか。

 相手側の動きが筒抜けだぜ。

 

 

 す、すげえ…春雄ってあんなことできたんだな…

 

 今俺は部長の指示が出されるまで、アーシアと一緒に部室で待機しています!

 それも、部長に膝枕してもらっちゃったり〜!

 いやぁ、この状態で天井を見上げようとすると、エベレスト級のおっぱいマウンテンが二つ。

 

 眼福眼ぷ…って、イダダダダダッ!?

 俺の頬を鋭い痛みが襲った。

 

「もう、イッセーさん!?みなさん頑張ってるんですよ!?」

 

 俺の頬をつまんでいるのはアーシアだ。

 そんな彼女は赤くした頬を膨らませてぷりぷりと怒っている。

 うんうん、嫉妬して怒ってる感じ、めちゃめちゃかわいい!

 

 じゃなくて!

 危うく何を話すのか忘れちまうところだったぜ。

 

 部長にも十分勇気を与えられたはずだから、俺はそっと立ち上がり、まだ興奮で冷めやらない俺の気持ちを落ち着かせるため、深く深呼吸をした。

 

「部長、春雄のあの力って…」

 

 すると部長はかなり神妙な顔つきになり、アーシアも気を引き締めて話を聞いていた。

 

「以前、アーシアを助けるためレイナーレをぶっ飛ばそうと教会に行った時、アイツはアレに近いことをしていました。でも、その時言ってたんですが…」

 

「『自然が教えてくれた』…でしょ?」

 

 部長の問いに俺は頷く。

 すると部長は、まるで恐ろしいものを見たかのように、力の差を歴然と見せつけられたかのように話すのだった。

 

 春雄に宿った力は未だ謎が多い。

 宿主の力と質量を途方もなく増幅させ、圧倒的な破壊力と防御量を生み出せるようになる他、生命力や治癒力も強化することがわかった。

 

 さらに、春雄が無性に自然が好きで、アイツ自身、「自然に好かれている」とも言っていた。

 初めは戯言かと思ったが、アイツの通った土壌からは草が芽生え、虫や野生動物が臆することなく近寄っては、みんな落ち着いた様子で休んだり眠ったりする。

 

 これがアイツに宿った力によるものなら…

 

(マジでアイツ…地球の神様的な存在が宿ったんじゃねえのか?)

 

 そうとしか思えねえだろ…

 つまりアイツには「破壊と再生」の力があるってことだ…

 

 もはや自然そのもの…

 早速宿った存在が果たして生物のカテゴリーに収まり切れるのか、甚だ疑問だな…

 なんでこれだけ力があって魔力は一切検出されねえんだよ…

 

 まあアイツには、自然と密接に関われる力があるわけだ。

 ひょっとすれば、完全に力を使いこなせた時、自然を操ることさえできそうだな…

 まぁそんな時、あまり来て欲しくはねえな。

 

 何か嫌な予感がする。

 アイツか遠くに行ったきり帰って来なそうな…

 

「では部長さん…この空間は私たちが元いた世界を再現した仮の空間なんですよね?」

 

「そうね、アーシア」

 

「では、自然を読み取って周囲から情報を得る春雄さんの力は、ここでは…」

 

「発揮されるさ」

 

 アーシアが言い終わる前に俺が割り込む。

 部長、あなたが感じた『恐ろしさ』…俺もよく理解できましたよ…

 恐らく木場たちも冷や汗かいてるはずだぜ…

 

 春雄…お前は一体………

 

 

 僕は再び耳を傾ける。

 そうすると、この現実世界から隔絶された空間で、誰がどう動いているのか、見えてもないのに鮮明な映像が脳に送られる。

 

 

「そうよ…イッセー…アーシア…」

 

 

 敵勢力16匹…あまり動かなくなったな…

 ポジションが決まったか?

 たぶん体育館の4匹、木場に釣られた3匹はただの使い捨て…

 

 

「これだけ()()()()()ところで…」

 

 

 ライザーは不死鳥の如く、不死身…

 自分に近づく敵の駒を、自分の駒と相打ちさせれば、あとは『王』としての一騎討ち…

 死なないライザーの完全な独壇場…

 道理でレーティングゲームの基礎的な戦い方が意味をなさないわけだ…

 

 まぁそちらの動きが完全に割れてればどうかな?

 

 

「私たち悪魔の気配を探知するなんてこと造作もないなよ…だって…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「違和感しかない(のよ)」」

 

 

 

 ホント春雄、お前は規格外だな…

 なんか俺の神滅具の『赤龍帝の籠手』が霞んでしまうな…

 

 俺は次々と襲い掛かる不安感に、呆然と歪んだ空を見上げる。

 

「イッセー先輩、行きますよ?」

 

 子猫ちゃんが俺に声をかけてくる。

 いかんな…集中しろイッセー!

 

 俺は自分の両頬を引っ叩き、気を引き締める。

 それでも拭えぬ不安はある。

 

(今日…部長のお兄さんである魔王様や、上級悪魔の方々が見に来てるんだよな…)

 

 第一作戦段階の舞台、体育館に入る直前、俺は今でも状況を見極めている兄弟の方を見る。

 

「春雄…」

 

 

 上級悪魔観戦中…

 

「うむ…流石ライザー…やはり手を打つのが早いな」

 

「フェニックスの力を最大限生かし、レーティングゲームの戦いの型に収まらない駒の配置…いやはや恐れ入る」

 

「グレモリーの娘の方は…結界で守りを固めたと見た…」

 

「あのライザーのことを考えれば、いい策とは思えんな…」

 

 それぞれのチームの動きだしを見て、早速評価を下していた。

 経験者であるライザーの型破りな戦い方にはそれなりに好評だった。

 駒を失えば失うほど不利となるレーティングゲームで、ライザーは圧倒的な回復能力を生かすため、あえて駒を乱雑に使い、相手の戦力を軒並み削ることだけを考えた策をとる。

 そして後半になるにつれ相手戦力は疲弊するが、ライザーはフェニックスの不死の力で何度でも蘇る。

 疲労が溜まり続ける相手は、倒しきれない、殺さない相手に精神を削られ、大人しくやられてしまうか、投了(resign)する以外の選択肢は無くなってしまう。

 

 そのライザー相手に、リアスはレーティングゲームの基本に則った配置を始める。

 駒の数や経験で圧倒的に不利であり、相手があのライザーなのだが、普遍的な戦略を立てていることに、上級悪魔たちは期待はずれと言ったところだ。

 

 だが、この戦いを観戦している者の中にもキレ者はいる。

 殆どが『赤龍帝』の力を持つイッセー、フェニックスであるライザー、魔王の娘であるリアスなど、話題性のある者ばかりを見つめているが…

 

 例えば、リアスの実の兄である魔王ルシファーは…

 

「…ふ…既に戦局は一人の男の手に掌握されているようだな…」

 

 たった一人、林の中で気配を殺し、身を潜めている男を見ていた。

 

 そして、リアスの従兄弟にあたる屈強な男は…

 

「ほぅ…上級悪魔にすら感知されないほどの気配遮断スキル…それでいて他を寄せ付けない桁違いのパワーを感じるな…」

 

 楽しそうであった。

 その目は、思わぬ強敵をお目にかかれたことに歓喜しているものだった。

 

「リアスは本当におもしろい連中を味方につけたものだ…そして何より…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…恐ろしい男をな…」

 

 

「部長、作戦はハマりましたか?」

 

『ええ。あなたのおかげね』

 

 開始からおよそ30分が経過し、お互い出方を探っていた状況から、部長が派手に動きだした。

 て言うかイッセー、雀の涙ほどの魔力をなんてことに使ってるんだよ。

 

 訓練週間の時のあの野菜の皮剥き、やっぱりそういうことだったか!

 イッセーの成長に感動すると同時に、酷く蔑みの気持ちも芽生えた。

 今はとりあえず自分のことに集中しますか。

 

『予定通り重要ポイントとなる体育館は、ライザーの眷属ごと吹き飛ばしてあげたわ』

 

「承知。木場さんの方でも戦いが行われています。イッセーと子猫さん、朱乃さんの方に一人…この気配はかなりの実力者…恐らく敵の『女王』ですね」

 

『そう。ありがとう。3人にはこのことを伝えて警戒にあたらせておくわ』

 

 僕は違和感しかないフィールドで、相手の気配を探る。

 手に取るように相手がどう動くかわかる。

 

 なぜここまで読み取れるか?

 真っ白な無の空間、すなわちこのフィールドで、黒い異物、すなわち僕たちゲームをする者がどこにいるかなんて、探し出せない方が難しい。

 

 これといって特別な術ではないけど。

 子猫さんのようなあの変な術…いや、こんなこと言ったらまた怒られちゃう。でも僕にはなんだろ、本能で感じ取れるようになってるのかな。

 

 さて、部長はどう動くのかな…

 

 うん…無事敵の『女王』の奇襲を凌いだようだね。

 とは言え、完璧に把握しているのは僕だけで、イッセーたちには敵がそちらに行くという趣旨しか伝えていない。

 

(凌いだものの、子猫さんは負傷したか…)

 

 パワーと防御が売りの子猫が負傷、まともに戦えるのはイッセーと朱乃さんだけ…

 

『子猫、あなたは一度下がってアーシアに回復してもらいなさい。朱乃とイッセーは子猫が戻るまで『女王』の相手を』

 

 え!?

 木場さんの援護は?

 いくら実力があると言え、前線に一人だけではあの数相手では捌ききれない。

 

『春雄、祐斗の援護に行けるかしら?』

 

 ここで僕が?

 はっきり言って、木場さんとの相性はそこまで良くない。

 と言うか、部長の眷属で相性がいいと言ったら…強いて言うなら朱乃さんくらいだ。

 

 僕の最大の武器は防御力とタフネスさだ。

 つまり倒れない壁役と思えばいい。

 となると、近距離主体かつ、スピーディーに動き回る木場さん、タイプが似通っているイッセーや子猫さんと組んでもお互い強みを活かせない。

 

 では朱乃さんの守りに入るか?

 それは賢明な判断ではない。

 今『女王』の戦いのフィールドは空中、そこで魔力の撃ち合いをしている。

 飛べない僕が出張ったところで何もできない。

 

 それに、僕の存在が割れてしまえば、後半の奇襲ができなくなる。

 

 このことを部長だけでなく眷属全員に伝える。

 

『じゃあ他にどうするの!?』

 

 なんだ…部長の焦りが尋常ではない…

 そう言えば、グレモリー家はもとより「情愛」の悪魔…まさか…

 

 

「まず子猫さんは回復のために撤退させず、そのまま朱乃さんと共に行動させておきましょう」

 

 この際、『女王』の相討ちになれば万々歳だな。

 相手があのフェニックスなら、眷属にも何かしているに違いない。

 

 だからこそ、子猫さんを使って敵の『女王』を削り、朱乃さんには万全な状態のままでいてもらいたい。

 

『つまり…子猫ちゃんを囮に使うってことか!?』

 

「そうだ。それでイッセーが木場さんの援護に向かえばいい」

 

『お前が木場のところに行けばいいじゃねえか!』

 

「さっきの作戦であった通り、僕のステータスは相手にとって未知数だ。さらに悪魔でもないから相手は、僕相手に慎重にならざるを得ない。

 奇襲を仕掛けて駒を削るには、後半、僕が敵地の真ん中に立って相手眷属を誘導、そして餌に釣られた敵を、イッセーたちが倒すんだ。そのために、朱乃さんに魔力を残したままにしておきたい」

 

 そして『王』との戦いの前に、アーシアさんの神器で回復してもらい、ベストなコンディションで決戦に臨む。

 

『そんな…だから子猫ちゃんを…』

 

「ああ。アーシアさんに回復してもらっている間、イッセーも朱乃さんも()()に疲弊するし、その間木場さんと僕が相手の眷属を相手にするなんてことはできない。

 僕には飛ぶ翼がない。相手がそれにいち早く気付いてしまえば、僕に構う必要がなくなり、木場さんに重点的に攻撃してくるだろう。

 そうなると、僕は彼を助けられない。

 であれば、ここはリタイアになる前に子猫さんに働いてもらいましょう」

 

 僕は、作戦通りに動くべきという姿勢を崩さない。

 子猫さんには酷かもしれないけど…すまん…

 

 

『それはできないわ!』

 

 返ってきた返答は驚くべきもの。

 部長はなんとしても子猫さんという駒を助けたいらしい。

 それは朱乃さんやイッセー、アーシアも同じだ。

 

 だがそれでは、先ほど言ったことが起きてしまうと警告するが…

 

『子猫は大切な仲間よ!そんな酷いことできないわ!』

 

「仲間だからとか私情を挟んでる場合ですか!?」

 

『子猫ちゃんをそんな無下に扱うことはできませんわ…あれだけ頑張った者に、そんな仕打ちなんて…』

 

『そうだぜ!子猫ちゃんを見捨てるなんてできねえ!』

 

『そんなの…酷すぎます…』

 

 

 僕の懸念が当たってしまった…

 

 仲間思いすぎるが故、戦いではそれが大きく仇として出てしまい、冷静な判断がつかなくなり、勝てる算段を捨て、つい無駄な方へと奔走してしまう。

 

 くそっ!

 

「部長!イッセーを木場のところへ向かわせてください!相性を考えればそれが一番いいです!」

 

 そして僕は、無性な苛立ちに反応し、昂ってくる黒い殺意をなんとか押し退け、朱乃さんのところへ走る。

 

 

『リアス・グレモリー様の『戦車』一名、再起不能(リタイア)

 

 僕が到着した頃、子猫さんは敵の『女王』によって倒された。

 負傷した者をみすみす逃すほど、相手も馬鹿ではないということだ。

 

 そして朱乃さんはやや疲れていた。

 恐らく子猫さんを守りながら敵の女王と戦ったのだろう。

 

 今はまだ大丈夫だが、この感じ、長く保たないな。

 敵の女王は僕が到着してもなお、その余裕な感じは崩していない。

 

「朱乃さん!僕は子猫さんより丈夫なんで、気にせず戦ってください!」

 

「そんなこと…できませんわ!これ以上仲間を失うわけにはいきませんもの!」

 

 馬鹿野郎!と叫んでしまうところだった。

 さっきも言った通り、ここは既に戦場なのだ。

 

 本当に僕は優しい方たちの元に保護されたらしい。

 仲間を本気で心配し、仲間のために全力で敵討ちをしようとしている。

 思えば、僕を出しに使った奇襲の案は、あまりいい顔をされなかったな。

 

 だが、そんな感情を抱いて臨めるほど、戦場は甘くない。

 もっと言えば、これはゲーム。

 悪魔となれば、勢力争いで本当の殺し合いをしなければならない時も来るかもしれない。

 

(こんなの…あのムートーとか言う怪物との戦いに比べればただの遊戯だな…)

 

 

 戦局は大きく相手に傾いてしまい、そろそろ我慢の限界だった。

 何のために作戦を立てた?

 本当に勝ちたいのか?

 疑いたいところがありすぎる。

 

 イッセー、お前は部長を本気で助けようと思ったんだよな。

 何を血迷ってか、木場と同様にゾーン状態に突入し、冷静さを悉く欠いてしまっている。

 あの時、部長の前で流した涙はなんなんだ!

 

「くそっ!イッセー、木場、立て直せ!あまり深入りするな!」

 

 ついつい声を荒げ、再三の警告を促すが、

 

『大丈夫だって!心配すんな!』

 

『問題ないさ!それに、騎士としてこんな戦いができる日を待っていた!』

 

 そう言って、完全に切られた。

 こっちからはもう通じない。

 

 すると更に最悪なことが…

 

『春雄、今からアーシアと共にライザーと決着をつけに行くわ』

 

「はぁ?それって1対1ですか?」

 

 なんでも、ライザーから「サシで戦おう」と言う挑発を受けたそうだ。

 部長の性格から確実に乗ってくると踏んだライザーは今、後者の屋根の上で堂々と佇んでいる。

 

「ダメです、部長!イッセーたち眷属と向かうべきです!」

 

『確かにそうかもしれないけど、王としてのプライドがあるわ。それに…ライザーから挑んでくるなんて、願ってもない好都合だわ!』

 

 どうやら部長はわかってないらしい。

 サシ…誰にも邪魔されず戦える点で熱い展開と思われるが、現在の実力ではライザーを倒せない。

 それをわかってるはずなのに、プライドを優先させてしまった。

 

「部長!部長!チッ…」

 

 これで3人目。

 なぜ効率を優先しない?

 ここで勝たなければ、部長はライザーと婚約し、僕たち眷属はどうなるかわからないのだぞ?

 いや、女性陣は見た目の美しさなら群を抜いている。

 ライザーが彼女らを引き取って、恐らく弄ぶ玩具にされてしまうだろう。

 

 木場やイッセーも能力的に欲しい者は多いはず。

 

 ならば僕は?

 

 人間である僕に、付け入ろうとする輩は悪魔だけに及ばないはずだ。

 機会を伺っている堕天使の目もある。

 

「安心なさい。そちらの『王』がライザー様の元へ行くのは邪魔しませんから…」

 

 朱乃さんと戦っている『女王』は、僕の心の内でも読んでるかのように囁く。

 ここで僕は気付く。

 

「なぜ…ダメージが…」

 

 一度、朱乃さんによってボロボロにされて吹き飛ばされた彼女は、なぜか全くの無傷な状態になっていた。

 すると、魔力を使い果たしたのか、フラフラと安定しない飛行をし、肩で息をする朱乃さんが教えてくれた。

 

「彼女は…『フェニックスの涙』を…使いましたわ…」

 

 フェニックスの涙…あらゆる傷を治すことのできる優れもの。

 その程度の認識だったが、いざ見てみれば予想以上の脅威だ。

 たったの一滴で、体の傷はもちろん、損傷した衣服や疲労すらも回復していたのだ。

 更に敢えて本気を出さなかった敵の『女王』は、魔力の消費を抑えられたので、ほぼ戦闘前の状況だ。

 対する朱乃さんはもう無理だな…

 

 初っ端から、子猫さんの敵討ちのため、最大火力の攻撃を仕掛けていた。

 それが災いしてしまったのだ…

 

「それでは…サクッと片付けさせて頂こうかしら…」

 

 そう言って、朱乃さんに魔力が放たれた。

 彼女を中心に爆発が起き、その衝撃は僕にまで伝わってきた。

 

『リアス・グレモリー様の『女王』一名、再起不能(リタイア)

 

 無情にもそう告げられると、黒い爆炎の中から地面に垂直に堕ちていく朱乃さんは転送された。

 

 不幸は続く。

 どうやらイッセーは部長の援護に向かったそうだが、つまりあの軍勢を前に木場一人で相手をするということだ。

 

(今相手側は『女王』一人、『戦車』、『僧侶』、『騎士』も一人ずつ、他何人かの『兵士』か…)

 

 序盤、木場に誘われた『兵士』2人と『僧侶』は結界に引っかかり、そのまま彼が倒し、ついさっき一人の『騎士』もやられた。

 だが…

 

(木場の生命反応が弱い…かなり疲れてる…)

 

 もう彼も無理だ。

 なんて思ってると、

 

『リアス・グレモリー様の『騎士』一名、再起不能(リタイア)

 

 彼までもがやられた…

 

 

 

 

 

…なぜこうもうまくいかない?

 

 

 

 

 

…なぜ勝つべき行動を取らない?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…『脆弱なコウモリ風情が』…

 

 

 

 

 

…所詮、我らに及ばない体のくせに、意地だけは一丁前にあるらしい…

 

 

 

 

 

…馬鹿馬鹿しい…

 

 

 

 

 

…馬鹿馬鹿しい…!

 

 ()はもう、知らんぞ…

 

 

「さて…人間君?わかったでしょ?悪魔でもない弱い存在がいていいところじゃないのよ?

 まあ安心なさい?すぐ仲間のところへ送ってあげるか…」

 

 まずあの口うるさい女に向かって、手を伸ばす。

 躱されたが…まぁいい。

 あの怯え切った顔、殺すのも造作ない…

 

「なんなのよ…あなた…でも!あなたは飛べない!その神器は飛ぶ能力がないはずよ!」

 

 そうして、高く飛び立ち、一撃で仕留めようと、特大の魔力弾を作ってやがる。

 

 礼を言うぜ。

 エネルギーを溜めるばかりで、そこからは動けんもんなぁ。

 

 俺は足に力を思い切りこめる。

 負荷に耐えられない足は悲鳴を上げながら血が噴き出し、圧力のかかった地面にはヒビが入り始めた。

 

 脆いのはこの体も同じか。

 

 まあそれもいいが。

 

 そして俺は、自分の体のことなんざ気にもとめず、一気にその力を解放して跳躍。

 瞬く間にあの女の元まで距離を詰める。

 その際、足は一瞬でボロボロだ。

 足の形状はあの黒い主のように変化したが、膝と股関節はそうではない。

 変わったのは精々脛から下だけだ。

 

 いくら力の主のおかげで、体が丈夫になったと言っても、今までに出したことのない力には、耐えきれなかった。

 骨はバキバキと折れ、太腿の筋繊維はズタズタに切れ、膝、股関節からは血塗れの骨が飛び出す始末だ。

 

 だが…

 

「そんな…うぐっ!?」

 

 女の首を掴むことはできた。

 そして、そのまま自由落下が働き、俺は女を下敷きに着地。

 一瞬で女は転送された。

 

 チッ…呆気ない…

 

『ライザー・フェニックス様の『女王』一名、再起不能(リタイア)

 

 俺はそんな放送などどうでもよく、壊れた足の痛みにもお構いなしに、戦地の真ん中へ歩み寄る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…投了(resign)よ…ライザー…投了(resign)するわよ…!だから…イッセーを…」

 

 俺が戦地の真ん中に到着したと同時に、部長はこの戦いを放棄した。

 見上げる先には、部長が瀕死のイッセーを、我が子を慈しむ聖母のように抱き寄せていた。

 

 

 

 『敗北』

 

 

 

 春雄の頭にはこの単語しかなかった。

 

 なぜ俺は負けた?

 

 まだ戦うだけの力も気力もあった。

 まだ闘志は昂っていた。

 これから目の前にいたコウモリ風情の連中も、あの七面鳥も倒せたはずだった…

 

 まだ俺は動ける…

 

 しかし…

 

 なぜ勝負は決した?

 

 なぜこの勝負から降りた?

 

 なぜ部長(キング)はまだ立っている?

 

 なぜイッセー(兵士)は寝ている?

 

 王よ、なぜ勝負を捨てた?

 

  

 

 この戦いにおける王座を譲ったが…なぜ最後まで抗わない?

 

 

 

 しかし、俺の疑問は最終的にここに帰結する。

 

 

 

 

 

 なぜ俺は負けた?

 

 

 

 

 呆然と立ち尽くす俺の目の前に、七面鳥が降りてくる。

 勝ち誇り、俺の神経を逆撫でするように…

 

「ほう…お前のその力、あそこで伸びていた赤龍帝以上の力を感じるな。

 おもしろい。

 たかだか人間風情が、俺の『女王』を倒し、この眷属前に怯えず、両足で地面に立っているなんてな。まあその両足は見るも無惨だが…」

 

 目の前の男は高らかに笑っていた。

 そして眷属たちはその男に近づき、頰を赤く染め、褒美をねだるように官能的な声を上げる。

 

 耳障りだ…

 

 目障りだ…

 

「おいおい、勝負はついたぜ?これ以上戦うのは流石に殺し合いになるし、ルール違反をすればグレモリーの家に泥を塗ることになるぞ…っておい!」

 

 何か呟く七面鳥の横を通り過ぎ、

 

「どうでした?お兄様の戦いは…ってちょっと!」

 

 小うるさい雛鳥を通り過ぎ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴガァ"ァ"ァ"ア"ア"ア"!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本能の赴くがまま咆哮し、破壊の衝動、抑えられない怒りを腕に込め、手当たり次第に辺りを破壊し尽くす。

 綺麗に整えられた花壇を踏み荒らし、高く聳え立つ校舎の壁を破壊する。

 力に耐えられない肘や肩から骨が飛び出し、血を辺りに撒き散らすが関係ない。

 

 使い物にならない腕での破壊はやめ、太く長く伸びた黒い尻尾と、頭突きで破壊を再開する。

 

「春雄…?」

 

 あの女の呼ぶ声が聞こえる。

 

「ひっ…」

 

 俺の様を見て恐れたらしい。

 知るか。

 降りてこい。

 

「もう…やめて…」

 

 尻尾でも頭突きでも足りん。

 無理矢理足も腕も使い、校舎を破壊する。

 降りてこい。

 

「お願いだから…」

 

 瓦礫や土煙が飛び交い、それに混じって俺の血も飛び散る。

 それでも破壊をやめない。

 降りてこい。

 

「もう、やめて!」

 

 女は悲痛な声で喚いた。

 そんなのいい。

 降りてこい。

 

『こ、これにて、レーティングゲームは終了いたします…ゲーム出場の皆さんは治療のため、冥界の病院に転移させていただきます』

 

 冗談じゃない。

 せめてあの女に一言、言わせてもらわねば。

 だが転移は始まった。

 くそっ!くそっ!

 やめろ!

 まだ俺の怒りは…

 

「もうその辺にしておけ!」

 

 俺は無理やり掴まれ、その場に取り押さえられた。

 感覚から恐らく大勢の者に取り押さえられている。

 さっきの声といい、これはライザーとその眷属によるものだな…

 

 暴れすぎたせいで、俺の足、腕は完全に動かなくなり、体の方は負荷に耐えきれず、所々骨が折れ、筋繊維の殆どが切れていた。

 抑える者を退かせることができたはずだが、これは無理だな…

 

 

 最後に俺は、無理矢理首を起こし、涙を流しながらこちらを恐れの対象として見つめる女に向かって咆哮をあげた。

 

 

 ゲーム終了間際、その場にいた者や観戦者含め、あの咆哮を耳にした者は、とてつもないプレッシャーを感じたと言う。

 その咆哮は聞く者を体の芯から震え上がらせたそうだ。

 

「何という殺意と怒りだ…」

 

 ライザーは、転送される最後の最後まで咆哮し続けたその者から、狂気的なまでの勝利への執念を感じ、素直に恐ろしを抱いたという…

 

 

 

 

 

 春雄は自身を「人間紛いの怪物」と言った。

 リアスや一誠たちは「その力の主は、地球の自然を司る守護神なのでは」とも言っていた。

 そう思えるほどの、圧倒的()としてのオーラを放ち、桁違いのパワー、まさしく大自然の怒りの如く暴れたのであった。

 

 それを語るのは、一部大きく破壊された校舎だ。

 レプリカでよかったと思わせるあの暴れよう。

 

 上級悪魔たちは、レーティングゲームで眷属同士のおもしろい戦いが見れ、純血悪魔の結婚も決まった喜び以上に衝撃を受けただろう。

 

 あの少年に宿った存在は、まさしく自然の猛威の権化…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『荒ぶる神の化身』…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 力の主の名前は、『ゴジラ』と名付けられた瞬間でもあった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 今回の怒るゴジラはどうでしたか?

 ようやく怪獣たる所以の恐ろしさを書けた気が…

 まだほんのちょっとですが…



 これからの春雄の活躍にご期待ください!
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