いよいよ裁定者である神永が、そしてゴジラである春雄が、駒王町の危機に奔走、躍動するかもしれません!
第21話 紆余曲折の現実
目の前を、背から蝙蝠の翼を生やす異形が、魔力を纏わせた攻撃が飛ばしてくる。見た目からして悪魔だったが、そんな彼らの攻撃は目障りだった。
さらに背後の方に不快で強烈な光が差し込んでくる。
振り向いた先には、悪魔とは違った翼を持つ異形が、大小さまざまな武器を構えていた。
白鳥のように艶のある白い翼を持つ者、烏のように濁った黒い翼を持つ者からは、同じような光の攻撃をしてきたが、なぜこうも抱く印象は大きく異なるのだろうか。
目くらましには十分な光量で、流石にうざったく感じ始めた。
ふと強烈な振動が空気を揺らし、自身に三大勢力とは比にならない攻撃が加えられた。
出所を探ればすぐに分かったんだが…
トカゲ…蛇?
あ、ドラゴンか。
あまりにもスケールダウンしてたから、「ホントにドラゴン?」なんて思ったけど、すぐその疑問は解決した。
(僕がデカいのか…ていうかこの体…)
いつか見た黒い主だった。
大昔の夢で見たような光景だったけど、対峙しているのがあの
(なんで戦わなくちゃならないのかな…)
なんで黒い主さんは怒ってるのかな。
あの黒い怪物と戦ってたのはお互いに天敵の関係だったから、生き残るためのものだったんだろうけど。
その漠然とした疑問に答えてくれるように、黒い主の視線は大地を見据える。
木々は倒され、野は焼き払われ、美しい山はその原型すら残さず荒らされ、川や海はひどく汚れていた。
(そっか…)
僕はこの黒い主さんの記憶を覗いて、とてつもない喪失感と悲しみに襲われた。
好きな自然が彼らによって壊される様を眺めるだけなのは心が痛む。
許せない…
僕の中で憎悪の念が積もってゆく…
そんな僕の思いと、黒い主の怒りなんて知らず、赤と白のトカゲと、超巨大な体を持つ龍、それこそ黒い主に匹敵するほどの龍が攻撃を仕掛けてきた。
目障りだな…
「…!」
そう思った矢先、気がつけば、僕の目の前の景色は真っ赤に染められていた。
彼らの攻撃によって発生した火なんて生ぬるく感じるほど、ありとあらゆるものを飲み込んでゆく。
瞬く間に辺りを灼熱と衝撃波が襲う。
発生した夥しい量の蒸気が上空へ上り、特徴的な雲を作った。
そして死屍累々となった現場に「死の灰」が降ったのだった…
閉じたカーテンの隙間から差し込む早朝の光は不思議と青く感じる。
外から微かにスズメたちが歌声を重ねて響かせているのに気づき、むくりと体を起こす。
「またあの夢…」
ため息と共に、僕は自然と自分の手に視線を送る。
あまりにも恐ろしい力を目の当たりにし、その手の震えが止まっていない。
強力な気配を感じたあの巨大な龍の他、それと双璧をなす「無限の力」を感じさせる龍ですら真っ向から当たって勝負にならなかった。
巨龍は身体中ズタズタに傷つき、無限の龍は攻撃を喰らってなお倒れずに向かってくる存在に威圧され萎縮、その後すぐ2体は撤退してしまうのだった。
自身に背を向けて逃亡する者を、黒い主は追撃こそしなかったが、怒りと殺意をありったけ込めて咆哮を上げた。
今でもその咆哮は、夢とは思えないほど、僕の脳内に色濃く刻まれていた。
その咆哮は聞く者の魂を震わせ、その力強さで魅了してしまう。
(あの中で別格な2体があの有様なら…イッセーに宿ったあの赤龍と、共に攻撃してきた白龍なんて、黒い主からすれば有象無象に過ぎないのか…?)
あの夢では、終始巨龍と無限の龍に固執していた。
恐らくそれら以外は眼中にない…
(極め付けは最後に見たあれ…)
これが一番春雄を震わせているものだった。
黒い主が放った攻撃で、着弾した地点から超広範囲の爆発が起き、放たれた熱と衝撃で周辺を跡形もなく吹き飛ばされる衝撃的な光景。
発生した蒸気があっという間に爆炎と共に天に昇り、あるものを形成した…
歴史の授業で何度も見た、モノクロの資料写真と全く同じ…
…キノコ雲を形成していた…
「…寝目覚めが悪いな…」
朝のだるさが吹き飛び、二度寝する気にもなれないほどのショックを受けた僕は、真っ直ぐ洗面所に向かう。
バシャバシャと、何か不安を払拭するように顔を洗い、雫の滴る自分の顔を見た。
高校生とは思えないほど、疲れてどんよりした目の奥に、ギラリと猛禽類を思わせる瞳があった。
「僕の力はなんなんだ…」
この力が赤龍帝に留まらず、あらゆるものの頂点に立つ力なら…
この程度で不安は消えることはない。
水の冷たさなんて感じないほどに、僕は先ほどの夢のことばかり考える。
単なる夢…
以前までのように、快活に、単純に、楽観的に受け流せたらどれほど良かっただろうか。
あの夢がただの夢に思えない。
「僕は…何者なんだろ…」
…
僕が重い足取りで居間に入ると、父さんと母さん、イッセーに加え、ホームステイという形で兵藤家で世話になっているアーシア、そして…
「おはよう、春雄」
エプロンをつけた部長ことリアスさんが、僕の分のご飯と味噌汁を用意してくれていた。
ぎこちなくその二つを受け取り、徐に父さんの目の前に座る。
う〜ん…未だ部長がここに居るのが慣れないな…
少し居心地悪く感じる理由が、別にライザーとの試合で僕と部長の関係が一時険悪になったからとか、そういうわけではない。
そもそも、あの時お互いに冷静さを欠いてしまっていたため、まともに話ができないと判断した僕が、一方的に部長をはじめとした眷属のみんなから距離を置いていただけだった。
断じて完全に彼女のことを根に持ってるつもりはないし、お互いに謝って解決はしたから大丈夫なんだけどね。
「春雄…?」
「ん…何?父さん」
「いやな、あまり顔色が良くないからな…大丈夫か?」
いかんいかん、表情に表れてたか。
今まで通り、風邪すら引いたことない元気な様子を届けねば。
「大丈夫だよ、父さん」
僕はいつも通り、丼飯をかきこむ。
おかしい…いつもならバクバクと食べられるのに…やけに重たく感じる…
やっぱり食事って、何気ない幸せを感じる時に食うのが一番だよな。
無理して食べていることを悟られぬよう、僕はなるべくイッセーたちの方を見ずに目の前の料理を平らげる。
「ご馳走様!部長、美味しかったです」
「あらそう…?なら、いいんだけど…」
あれ?
部長、なんでそんな顔するんです?
イッセーもアーシアもどうしてそんな目を向けるの?
どうしてみんな心配するんだろ…まだ顔に出てるのかな…っ!
「う…!?」
さっきの夢がフラッシュバックする。
僕の目の前で、悪魔全員が僕に敵意を向け、攻撃し、みんな等しく僕に殺されていったあの光景…
目に焼き付いてしまったあの惨状が、イッセーたち優しい悪魔との普段の何気ない日常を覆い尽くそうとする。
やめて…
僕は彼らを失いたくない…
でもあの時の悪魔の顔も忘れられない。
あの時見えた表情が、間違いなく黒い主に、僕に向かって殺意を飛ばしていた。
いつか…彼らも…
僕の中で、夢の中の記憶、普段のイッセーたちとの記憶、そして不安がぐちゃぐちゃに混ざっていく。
「…ぃ…おい、春雄!」
イッセーの声で、意識を現実に引き戻された僕はみんなを見る。
いずれは心配してくれている彼らを、僕はこの手で…
僕は居た堪れなくなる前に、そこをすぐ離れて学校へと向かうため、家を出ていった。
早く離れたい一心で、僕はコンクリートを蹴る。
ひたすら無心に。
しかし、どれだけ走っても、ここまで疲れないなんて…
改めて僕は、この体の異常さに恐怖を覚え、震えた。
以前まで抱いていた「自分が何者か?」のような心配入り混じる恐れではない。
その恐れ…
…このままじゃ、『独り』なのかな…
「あと2時間もあるじゃん…」
時間なんてもはやどうでもいい。
僕は公園のベンチで座って心を落ち着かせよう…
…
俺は兵藤一誠と申します。
最近の悩み…とは言っても些細なもので…いや、そんな深刻なものじゃないっていう意味で、俺からしたらかなりビックなイベントで…
これ以上言えばチグハグになりそうだからストレートに言います。
朝、ほぼ毎日のように部長が隣で全裸で寝ているんです!
いや、普通に考えておかしくねえか?
ライザーとの結婚を破断にした後、すぐ部長は俺の家にやってきて春雄との蟠りを解いたあと、この家に住むため親と話していた。
一応、主人として眷属の近くに居たいから、とか一丁前な理由を付けてましたが…
じゃあ他のみんなはどうするんですか?
そう聞いたら、部長は笑ってはぐらかしてばかりだった。
その話は置いておき…
今は俺の隣で眠る美少女について話さねば…!
部長は前、「寝る時は裸」とか言ってたっけ。何やら服が体に密着する感じに違和感を感じるらしい。
それはいい。
俺が問いたいのはですね部長、なぜ俺のベッドに入って、俺を抱き枕がわりにして寝るんでしょうか?
お陰様で俺の息子はいつもの朝以上に元気になってしまってます!
ただの朝○ちじゃね?
そう思ってる全国の経験者たる男たち!そのメカニズムを知っている者たち!
確かにそれもあるが、部長の柔らかくて大きいあの乳が、俺の腕に当たっていたし、しかもその腕は部長の太ももに挟まれて動けなくなっていたし!
こんなことされたら、朝勃○のレベル超えて最強に硬度な塔ができるわけで…
前までこんなことなんてあり得ないと思ってたんだけどなー。
そう言えば、露骨に俺へのスキンシップが増えたのって、ライザーさんと戦ってからだよな。
ライザーさん、実はああ見えて結構いい人だったりする。
俺が代償を差し出してまで得た赤龍帝の力に、臆することなく真正面からぶつかってきてくれた。
あの人のお陰で後ろ髪引かれることなく殴り合いができたと言ってもいい。
(もともとライザーさんも、親が勝手に決めた結婚に反対だったんだろうな)
だったら手を引いても良かったんじゃ?
って思うわけだが、結局アイツは「リアスほどの上玉が手に入るなら悪くない」とか言っていた。
だがそれ以上に俺は、部長を泣かせたアイツを許すことはできなかった。
そのことを伝えるとライザーさんは、
『確かに、俺には殴られるべき理由がある。だからこそ俺は逃げも隠れもしない。だから今は悪魔としての責任やら義務やら地位は全て無しだ!
全力で来い!兵藤一誠!』
ムカつく奴には変わりないけど、悪い奴ではないのは確かだった。
だから俺は、全ての迷いを振り切って、思いをのせた左腕を振るうことができた。
何もともあれ、無事部長の結婚は阻止できたし、この件で悪魔社会の見直しも検討されたし、良かったんだけどな。
あれだけ頑張った俺へのご褒美が、部長との生活ってか?
とりあえず一つ、神様ありがとう!
頭痛すら気にしないと言った感じで俺は朝飯にがっつく。
目の前に広がる料理、全部部長が作ってくれたらしいけど、和洋中全部作れる上に、洗濯掃除とか家事全部できるってハイスペックすぎやしません?
俺の目の前でご飯を食べるアーシアも、部長をどこかライバル視して家事を頑張ってるが、流石に相手が悪い。
それでも一生懸命頑張る彼女の姿は本当に微笑ましい。
今日も朝からドキドキしたけど、平和で素晴らしい日になりそうです!
そう思った矢先だった。
最近、春雄の奴の調子がおかしい…
…
学校でも春雄の様子はあまり変わっていなかった。
俺の目の前の席がアイツでもあるんだが…
「…」
普段割と真面目に先生の話を聞いているアイツが、今は心ここに在らずと言った感じで窓の外を眺めていた。
ついこの間まで馬鹿が起こした前科のせいで、俺、松田、元浜に加えて「問題児カルテット」なんて不名誉な称号を受けたわけだが…
(ああして黙っていりゃあな…少なくとも俺より顔は良いから、木場ほどではなくともモテたんだけどな…)
こんなこと言っちゃなんだが、物思いに耽っているアイツの姿は、身内評価を差し置いたとして、それでも容姿も相まって結構様になってる。
(って、何考えてんだ俺!アイツはずっと悩んで辛い思いしてんのに)
…
結局帰るその時まで、アイツはあのままだった。
流石に心配で、一人にしておくのもどこか危なっかしい感じもしたため、部員全員と帰宅することになった。
「なんでみんなして付いてくるのさ…」
先頭を歩く春雄は、以前では考えられないほど疲れた調子の声と、その「怠さ」を表すくたびれた背中を見せていた。
「今日は旧校舎で使い魔たちが清掃をしていてね。だから今日は、お家を使わせていただくことにしたの」
「旧校舎で掃除…ねぇ…」
部長の説明に少し反応を示した後、すぐ歩いていってしまった。
そして俺たちが横断歩道を渡り終えた瞬間、
「先に失礼します。今日は体調が優れないので…」
少し歩くと、春雄は振り向いて頭を下げた。
う〜ん…いつもの俺の思い込みが先走ったか?
しかし、単純に具合も悪そうだが、教室で見せていたあの顔は何か考え事をしている時のものだ。
今アイツは重要な何かを抱えているはずだ。
そのまま歩き去ろうとする春雄を俺は呼び止め、
「あまり無理すんなよ」
当たり障りのない言葉を選んだつもりだが、果たして大丈夫だろうか?
春雄はコクリと頷くと、先程までどこか焦っていた様子から一変して、トボトボと歩いていた。
「どうしたんでしょう、春雄さん」
心優しいアーシアは、春雄の様子をかなり気にかけていた。
仲間として、家族として、義兄妹として、日常生活の多くの時間を過ごす者として心配なんだろう。
そりゃそうか。
何気に兄弟とか家族以外で、俺の次くらい絆が芽生えてるのって、アーシアな気がするんだよな。
前言ってたっけ、アーシアの優しさがアイツの中の存在に届いたかもって。
やっぱり必要なのは、いつの時代も平和を想う心と、優しさか…
…
一足早く帰宅した僕は、自分の部屋に戻るとすぐ動きやすい格好に着替えると、何度も手や足を思いのまま変形させられるか確認した。
「イッセーが言った通りなら、今日は旧校舎に使い魔以外誰もいない…そうなれば…」
「さて…何を知っているのか…神永先生…
…いや…
…裁定者…」
…
先に春雄が行ってしまったことを心配しつつ、俺たちオカルト研究部は俺の部屋に集まり会議を開いた。
と言っても、そんな堅苦しいものではなく、今後の悪魔としての活動の大まかな見通しとか、俺やアーシアの使い魔についてとかについてが話し合われた。
あくまで暫定的なものであって、このままの調子であれば契約とかは問題ないだろうし、使い魔も現段階で必要性に迫られているわけでもないから、ホントざっくりだった。
お菓子とかジュースとか、さながら軽いパーティーのようなノリで、学校屈指の美男美女と会話するのは新鮮だった。
俺が普段集まって話をする友人は、松田や元浜のような欲に忠実な卑猥男子とエロトークをするような奴らだし、春雄のパイプで繋がった奴らも、どこかネジが2、3本外れてるような連中だったからな…
みんないい奴なんだけど。
こういういかにも従順な高校生の放課後みたいなイベントはやってこなかった分、ちょっと変な緊張はあるが、退屈はしない。
(こんな方たちと一緒に居られるなんて…)
いや、マジで神様?悪魔の場合は閻魔様?とりあえず感謝!
とは言え…
(やっぱりアイツのことがな…)
兄弟として、時間が経過するごとに、普段とは違う様子のアイツに不安が積もっていく。
そんな俺の心境を露知らず、ニコニコの母さんが俺の小さい頃のアルバムを持ってきてはみんなに見せた…
はあ?
なんでそんな俺の醜態を晒すようなことをしてくれてんの?
確か前、「女の子の知り合いができて、家に呼んで来たら是非見せたい」とか言ってたっけ?
いや、なおさら見せるなよ。
そのアルバムは俺の小さい頃の写真だから、物事の良し悪しの分別もままならない俺が全裸になっているシーンだってあるはずだ。
そんな卑猥な写真を見せられるか!?
「あらあら小さい頃のイッセー君、随分と可愛らしいですわね」
「…イッセー先輩の赤裸々な過去、丸わかりです」
ニコニコ笑顔の朱乃さんが見ているページは、俺が風呂上がり、服を着ないで歩き回っているシーンのものだった。
なんとなく朱乃さんは、こんな写真とか見ては、いじりの材料にしてくるだろうから楽しそうなのはわかる…
しかし、あの寡黙な子猫ちゃんが興味示すなんてな…
マジで恥ずかしい…穴があったら入りたい…
「小さいイッセー…小さいイッセー…小さいイッセー!」
「あの、部長…大丈夫ですか…?」
最近俺へのスキンシップが多くなった部長は、早速手遅れな感じがする。
俺の中の部長のイメージは誰もが憧れる立派なお姉さんのイメージだったけど、最近では年相応の可愛らしい一面を見ることがある…
しかし…これは…
もはや苦笑するしかねえな…
「部長さん!私もそのお気持ちわかります!」
あ、あの、アーシアさん?
あなたまでショタコン疑惑がかかるんですか?
あの…二人してそれぞれ美人な部類に入るんだからさ…
アーシアは目を輝かせて、純粋に楽しんでいるようだけど、部長は呼吸が荒くなってるし、その吐く息は熱を帯びているし…
あっれえ?部長ってこんな方だったっけ…
…まぁ楽しんでるようだからいっか。
「アハハ、イッセー君のご両親は素敵な方々だね。こんなにも愛情を注いでくれてるんだもの」
木場の言うことはあながち間違ってはないが…
つーか、木場。何見てんだよ。
お前にだけは俺の恥ずかしい過去は見られたくないのに!
この野郎、今すぐ取り返して…
…なーんてな、流石に『騎士』の素早さを持つ木場から取り返せるかって。
なす術なしの俺は、この状況を強い心を持って受け入れるとしよう…
「ねぇイッセー君」
突如呼ばれた俺は木場の方を見ると、さっきまでの和やかな様子はなかった。
目でわかる…
何度か殺気とか、怒りのこもった目は見たことある。
今のアイツの目は、間違いない…
(紛れもない『怒り』…)
とりあえず俺は木場に近づき、今見ているページを覗く。
そこには、春雄が家に来る前、よく遊んでいた近所の男の子と写っている写真があった。
「これについてなんだけど…」
木場が指差すのは、俺とその男の子が遊ぶ背後にある、壁にかけられた剣だった。
「う〜ん…何せ小さい時だからな…あまり詳しく覚えてねぇな…」
「そう…」
素気なく返したと思ったら、木場は途端にこの日を待ち侘びたかのように、少しばかり喜んで笑った。
だがそれは、あまりにも歪んでいた。
まるで…
「これは…本物の聖剣だよ…」
『復讐』だ…
俺は木場の変わり具合に固まっていると、後ろから女性陣が呼んできた。
「どうしたんですか?」
「いえ、家族写真の方を見ていたのだけれど…お父様が写っている写真って一枚しか無くて…」
部長たちが見ているアルバムは、一冊しかない家族の写真だ。
そこには俺以外に春雄や母さんが写っているが、確かに父さんが写ってるのは一枚しかない。
それも、俺と春雄が中学卒業間近の、割と最近のものだ。
そう言えば確か…
「今親父は普通に企業に就職してるらしいすけど、前はそうじゃなかったそうで」
いわゆる再就職…ってやつか?
別に特別重い事情があったわけでもないから、気まずそうな表情をする部長たちに、軽く父さんのことを話すか。
「何もそんな顔しなくても…別に大した理由じゃないですから」
うん、父さん自身も「なんてことないさ」って言ってたし、なんなら再就職した後でも、俺たちの生活は変わらなかった。
二人して私立の高校に入ったから、学費は驚くほどかかったんだけど…
「しばらくビールは飲めないか…」と名残惜しそうにする父さんだったが、それ以上に俺たちが高校へ上がった時は涙を流して喜んでくれたな。
あの時は些細なことでしか思ってなかったけど、ここ最近「非日常な日常」を送っている中であの入学式の涙を思い出した時、妙に心に染み渡る。
(なんやかんやあったけど、新しい出会いもあったし、今俺は元気に過ごせてるよ…
これも父さんのおかげです…)
普段恥ずかしくて言えないことは、心に留めておくに限る。
ちょっと気恥ずかしさもあるが、悪くない気分だ。
「イッセーさん?」
おっと、ちょっと考え込んでたな。
「悪いアーシア。じゃあお話しします…」
すると、ひたすら物思いに沈む木場以外のみんなが、姿勢を正して興味深そうに聞こうとしていた。
何もそう身構えなくても…
「俺の親父、前まで原発で働きながら、アメリカの人とチームを組んで研究をしていたんだ」
…
旧校舎、オカルト研究部部室にて。
「やはり…ここにいたんですね…」
「その様子、私に薄々勘付いていたか…」
春雄の目の前に、無表情で佇む者がいた。
「どうしてここにいるんですか…神永先生…」
春雄の問いに、神永は暫く沈黙した後、いつも以上に無機質な声で告げるのだった。
「近いうち駒王町を中心とし、外来種によって戦争が引き起こされる可能性が高い。私はその行先を見極め、適切な裁定を下す必要がある」
「それが…『裁定者』のあなたの役割ですか…」
この小説では、兵藤五郎さんの設定が大きく変わる可能性がございます。
ちょっとしたキーパーソンになるかもしれません…