黒き王の原罪   作:イテマエ

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 権藤さんは、ゴジラシリーズに登場する人物で一番好きかもしれません。


第23話 不穏な青春

 俺は兵藤一誠。みんなからは「イッセー」と呼ばれている。

 その呼び名は全校生徒はもちろん、近くの高校の奴らにも顔を覚えられて呼ばれるんだが…

 一個下の生徒にまで「イッセー、イッセー」呼ばれるものだから、まぁ別に俺はいいんだけどさ、あくまで俺は先輩だぜ?もうちょっとさ、敬意を込めてもくれてもいいんだけどな…

 

(ま、そうなっちまった原因は俺自身にあるんだがな…)

 

 校内だけでなく、他校のやつにも知れ渡り、駒王町でちょっとした有名人になったのは、当然「輝かしい栄光を手にしたから」とかではなく、普段の学校の愚行が噂として流れていったからだ。

 男子校とか、男の比率が多い高校では俺が英雄視されたり、どっかの中学の奴からは「師匠」とまで言われた。

 

 やめてくれ、恥ずかしい…

 

 今までやってきたことがいかに愚かだったのか、この恥を持ってようやくわかったぜ。

 女子の着替えを覗き見る度、えも言われぬ幸福感と高揚感、そしていけないことをしている背徳感が俺の欲を刺激する。

 そして毎回感じていた。

 いつか手痛いしっぺ返しがくると。

 それは剣道部、テニス部のサンドバッグとか生ぬるいものではなかった。

 

 人として最低な行動、言動をとった者として名が広まると、恥ずかしいことをしたにも関わらず「英雄」とか「ヒーロー」の扱いを受けるからたまったもんじゃない。

 一番心にきたのはあれだ。

 公園のベンチで休んでると、ふと俺の前に小さい子供たちがやってきた。

 どうしたものかと聞くと、

 

『お兄ちゃんってヒーローなの?』

 

『すごいすごい!』

 

『どうすれば僕もヒーローになれるかな?』

 

 あの時俺は、これ以上ないほど自分を呪った。

 俺がしてきたことをわからずに、ただ噂の聞こえがいい部分だけを鵜呑みにした彼らの瞳は、俺には眩しすぎた。

 逃げるように帰った俺は、途方もない罪悪感でご飯が喉を通らなかった。

 そん時、部長とかアーシアにめちゃくちゃ心配されたっけ。

 

「まーたイッセーからボロが出たんじゃないの?」

 

 おっしゃる通りです、春雄さん。

 流石長いこと一緒にいる春雄には、俺の考えがほぼ筒抜けだ。

 本気で心配している部長とアーシアは「?」だったが、春雄は俺に冷ややかな視線を送った後、大きくため息をついた。

 

「もう高校生なんだから…何も言わなくてもわかるよね?」

 

 俺は素直に首を縦に振った。

 

「これで懲りてくれればいいんだけど…」

 

 

 翌日、なんとか立ち直ったイッセーと、久しぶりに同じ時間に登校した。

 今日の僕は頗る調子がいい。

 最近僕も本気で悩みを抱えていたわけだけど、松田や元浜をはじめとした友人と他愛もない会話をして、かなりリフレッシュできた。

 ここ最近体に力が入りっぱなしだった僕を落ち着かせたのも、何気ない日常をくれた彼らだ。

 

 その時話した年頃の男子高校生らしいちょっとアダルティな話、口を開くたびにカタカナが羅列される機械オタクによる話、言っていることがめちゃくちゃなちょっと古くさい話。

 どれもこの場で話した内容は、本人ですらくだらないと思ったはず、それでもみんな集まって豪快に笑い飛ばしたのは、本当に楽しかった。

 そして何より嬉しかった。

 最近様子がおかしかった僕を深く問い詰めず、気兼ねなく接してくれた彼らには本当に感謝だ。

 

「そうだ、春雄。お前って正式なオカ研部なのか?」

 

「まぁ一応は…と言っても、僕はただのお手伝いとかで、毎回来る必要はないから…協力者みたいな感じかな?」

 

 僕をある程度自由にしてくれたのも、部長の計らいだ。

 心労が絶えない僕を察して、部長なりになんとかしたかったんだろう。

 

(一番苦労しているはずのあなたが…)

 

 それでも、彼らは僕を「仲間」としてずっと受け入れると言ってくれたのは本当に嬉しかった。

 まぁどうせ、裏でイッセーの根回しがあったんだろうけど。

 こうして一年生の付き合いの友人が集まれたのも、イッセーのおかげなんだろうな。

 

(やるならもう少し隠してよ…)

 

 でもやっぱり、イッセーには敵わないな。

 本当にあの時からイッセーは変わらず、誰かのために必死だ。

 

「おい、春雄?」

 

「!あぁごめん、ごめん、ちょっと考え込んでた」

 

 松田のおかげで現実に意識を持ってこれたので、正気に戻そうとする権藤さんのチョップを回避できた。

 権藤さん、加減ってものをあまりわかってない。

 挨拶とかの軽いノリで肩を叩く場面があれば、本人はそのつもりがなくとも異常なほど力強く叩いてくると言った具合だ。

 ホッと胸を撫で下ろす僕に松田が教えてくれた。

 

「俺たち主に帰宅部でチーム作るんだが、お前も参加しないか?」

 

「急にどうしたんだ?」

 

 すると、先ほどから黙ったままの権藤さんが、一枚の紙を見せて口を開いた。

 

「見ての通り、歴代部代表は運動部、加えてなぜかオカルト研究部の連中が優勝してやがる。しかしこれでは全くもってつまらない。部代表で決まった連中がいつも通りに競技で一位を取る様子はもう飽きてたんだよ

 それに、いいだけ引っ掻き回して泡吹くアイツらを想像してみろ。必死になってアイツらが俺らにかかる姿は…見ものだな」

 

 嫌そうに語る権藤さんは、言っちゃ悪いが本当に様になる。

 一度去年卒業した先輩と口論しているところを見たが、臆することなく悪態をつきながら皮肉も交えて、正論をズバッと切り込む権藤さんはホントにかっこよかった。

 

「だから、運動に自信がある我々が出て、新しい風を吹かそうって」

 

 そう言う義人は楽しそうだ。

 彼とは時々機械弄りをしておもしろいものを作ったりする仲だが、そんな彼は機械ばかりの頭だけではなく、身体能力も高かったりする。

 競技によっちゃ、松田以上に力を発揮するほどなんだよね。

 

 うん、普通に楽しそう。

 今まで抱え込んできた悩みも、友人のおかげで小さいものになったし、気晴らしで出てみてもいいかもね。

 断る理由はないし、部長たちも「好きにしない」って言ってたし、気兼ねなく接することができる友人と純粋に楽しみたいし。

 

「まあ別に良いけど…人数は?少なすぎても問題あるよね?」

 

 すると、元浜はニヤリと不敵に笑った。

 

「既に手は打ってある」

 

 

「はぁ…久しぶりに疲れた…」

 

 僕は帰ってくるとすぐ、リビングのテーブルに突っ伏した。

 力を持って以来、ここまで体が音を上げたのは初めてかもしれない。

 

 しかし、これは心地よい疲れでもある。

 どんよりと、僕の心に厚くかかっていたモヤが、今では晴れたようなそんな気分だ。

 

「お疲れ様です、春雄さん」

 

 そう言って、アーシアは僕にお茶を出してくれた。

 いやあ、嬉しいね。

 この疲れた体に程よく冷えたお茶が、ちょうどいい具合に熱を冷ましてくれた。

 

「ふぅ…うまい」

 

 おっと、つい呟いてしまった。

 アーシアはそんな僕を見て微笑んでいた。

 

 なんだろ…アーシアと居ると、どうしてここまで心が落ち着くんだろ。

 なんやかんやあって、この家に住むと決まった時、初めは正気かと思ったし、こんなかわいい子と暮らすと思うとドキドキしたりした。

 でもアーシアさんには、何か特別な情が湧くわけでもなく、普通に暮らしているうちにいつのまにか慣れていった。

 

 一緒に居れば緊張してしまうと思っていたが、今ではその逆…

 

「ありがとう、アーシア」

 

「はい!」

 

 これがもと聖女たる、彼女の持つ癒しの効果だろうか。

 

 程なくして夕食を取る時間となった。

 母さんが今日の学校について何気なく聞いてきたので、無難に楽しめたことを伝えておいた。

 

「そう…良かったわ…」

 

 母さんが微笑んで相槌をうってくれたが、その顔にはやっと荷が降りたような様子が伺えた。

 どうしたんだろ…

 すると父さんが、

 

「いやな、最近体調でも優れていないのか、顔色が悪かったからな…あの元気が見られなかった間、父さんも母さんも、イッセーたちも心配していたんだぞ?」

 

 そうだったの?

 いつも通りを装ったつもりだったけど、空元気なのがバレてたか…

 

「聞けば、学校でもボーッとしていることがあったらしいが…今日帰ってきて春雄を見て、いい表情に戻っていて一安心といったところだ」

 

 なんか…父さんに改めてそう言われると、ちょっと恥ずかしいな。

 でもホントに感謝してる。

 悩んでばかりの僕を気にかけつつも、決して無理強いせずに傍観し、解決するのを待ってくれた。

 本当なら、親としてなんとかしてやりたいはずなのに。

 

 もう、あの日の夢の記憶は、僕の中で随分と小さいものに見えてきた。

 まだ完全に解決したわけじゃないけど、今では心がだいぶ楽だ。

 

 

 

ー『孤独』からは逃げられん…

 

 

 

 僕は逃げないよ。

 それに、僕には家族も、友人も、頼れるいろんな人がいる。

 

 

 

 一瞬頭の中で、王の呟きが聞こえたけど、僕はそれに真っ直ぐ答えてやった。

 この手に余す力は、強力すぎる故いつか『孤独』をもたらすかもしれない。

 でも、僕にはまだ支えてくれる人がいる。

 だから僕は、この力を彼らのために使おう。

 

 

 

ーそうか…

 

 

 

 最後に聞こえた王の声に、どこかいつもの迫力がなく、この僕を心配しているような気がした。

 

 

 夕食を食べ終わった僕は、食器を洗っている部長を手伝うことにした。

 彼女が洗ったものを、僕が食器用の布巾で水気を取る。

 

「手伝ってくれてありがとう、助かるわ」

 

「いえ、本来なら僕やイッセーがやればいいんでしょうけど…」

 

「私はあなたたち兄弟に迷惑をかけたし、助けられた。このくらいの家事なら私に任せなさい?」

 

「毎度すみません…いつも助かります…」

 

 不器用なりに僕は感謝の意を伝えると、部長が笑顔で答えてくれた。

 それにしても、部長は何から何まで僕らのことに気を配りながらあれこれ尽くしてくれる。

 ちょっと主従関係がおかしな気もするが、部長の面倒見のいいところが出てしまっているんでしょう。

 

…今だからこそ言えるが、最初の頃は信用できなかった。

 この駒王町の支配権を持つのが、グレモリー家の娘のリアス部長なのだが、その彼女の管理下の土地へ堕天使の侵入を許し、あろうことか殺人まで行われてしまった。

 さしてその被害者がイッセーとアーシア…

 さらには僕も殺されかけた。

 

 不信感が湧いてからは、彼女がどれだけイッセーや僕のことを気にかけようが、何しようが受け入れるつもりはなかった。

 しかし…

 

 僕が悪魔になろうとした前日の放課後、僕は朱乃さん、木場さん、子猫さんに旧校舎の一室に招かれた。

 そして僕がやってくると、3人はすぐ頭を下げてきた。

 初めは驚いたけど、謝った理由として、「管理が不届でイッセーとアーシアを助けられなかった」ことを聞いて納得。

 いかに彼女たちがなんとかして問題に取り組んでいたのか、その日にようやくわかった。

 

『リアスが最近調子が良くないと言うから、気になって夜訪れてみたの』

 

 朱乃さんが言った。

 

 扉の奥からは部長の啜り泣く声が聞こえた。

 

 そして、何度も『ごめんなさい』と呟いていたと。

 

 

 

 洗い物を終えた部長は「よしっ」と声を漏らした。

 そんな彼女の顔つきは学校で見せるキリッとしたものではなく、年相応の女の子らしいものだった。

 

 そう、例え魔王の妹だろうが、グレモリー家の娘だろうが、才能を持った悪魔だろうが、ひとりの女の子に変わりない。

 心だってまだまだ未発達、いや、僕が思っている以上に繊細だろう。

 弱いところはたくさんあるだろうが、それを見せたら仲間がついてこなくなる。

 

 部長であり、王である彼女は泣き言を言えない。

 表は生徒たちの憧れの存在であり、眷属たちを引っ張る王であるが、裏では誰よりも苦労し、泣き、それでも逃げずにどうにかしようと頑張っていた。

 

 その時だ。

 僕は「この人の下ならついて行ってもいい」と思えたのは。

  

 結果、僕は悪魔になれなかったけど、それでも部長は僕を受け入れてくれた。

 

 そして今に至るまで、僕が生活しやすいようになんとかしてくれてるし、学校でもいろいろ見えないところで世話になっているようだ。

 

「ありがとうございます」

 

 

「結局お前はアイツらと組むんだな」

 

「うん、だからすみません…僕はオカ研として戦えなくて…」

 

「別に良いぜ、気にすんなよ!」

 

「あなたが楽しめるのならそれでいいわ。友情を大切に、ね」

 

「ちょっと残念ですけど…春雄さんが元気でいられるなら!」

 

 僕は風呂から上がると、みんなが集まるイッセーの部屋に入り、競技大会のことを話す。

 怒られると思ったけど、みんな快く僕を肯定してくれた。

 でも、みんな僕の我儘に付き合ってもらってばかりと考えると、申し訳なさと共に恥ずかしさも覚える。

 

「てか俺、松田と元浜、あとは義人に権藤さんが帰宅部連合を作んのは知ってんだけど、お前入れてそれで全員か?」

 

「そうなると…あら、全員2年生になるわね」

 

「春雄さんたち、今年はものすごく張り切るらしいので楽しみです!」

 

「そうね、でも負けるつもりはないわよ!」

 

 今年の優勝の可能性が高いのは、前評判では運動部ではなくオカルト研究部になっている。

 まあ悪魔の身体能力のおかげで、素の力が底上げされるわけだからそりゃ強いわな。

 学校の人たちは知らないだろうから、単に「運動部以上の力を有するハイスペック集団」になるわけだが…

 

 甘いですよ、部長。

 

「僕たち帰宅部が新たに風を吹かせます。当日は荒れるでしょうね」

 

 僕たちにはまだ、頼もしい助っ人がいたりする。

 

 

 競技祭当日、一週間前までの天気予報では雨だったが、昨日の予報では曇りのち雨となった。

 快晴で絶好の運動日和とまではいかないが、外の競技終了までは保ちそうだ。

 

 それにしても…

 

「大丈夫かな、木場さん」

 

 数日前、はぐれ悪魔が現れたと報告を受け、上からのお達しより正式な討伐依頼が下されたオカルト研究部は、僕を同行させて現場に向かった。

 本来なら僕が呼ばれる程ではない案件なんだろうが、最近木場さんの調子が優れないらしく、万が一のために僕が呼ばれたらしい。

 

 行ってもやれることは少ないだろうけど、せめて壁くらいには。

 そう意気込んで人気のない倉庫にやって来ると、話に聞いていた通りのぼんやりとした様子の木場さんがいた。

 

『あの…木場さん?』

 

『…!何かな、春雄君』

 

『調子が悪いなら、僕が代わりに前線に出ますよ?ほら、壁役には徹することができるからさ』

 

『…いや、大丈夫』

 

 本当かな?

 今の木場さんはどこか危なっかしい。

 

 

 いざはぐれ悪魔と対峙すると、溢れんばかりの悍しい欲と殺意が一気に流れ込んだ。

 聞けば、こう言う「はぐれ」は元人間が多いらしいが、欲に目が眩んで、主人の元を離れたり、殺してしまって自由気ままに悪事を働くそうだ。

 人の生命をなんとも思わず、いとも簡単に残虐非道な行いをしてみせる「元人間」に悲しみを抱いてしまう。

 どうしてこうなったのだろうか…

 主人側に問題があったのか、それとも悪魔として自由気ままに生きようとする心の移り変わりなのか…

 しかし、既に目の前の存在はこの駒王町の「調和を乱す者」だ。

 

 僕の中の力の主の気配が騒めきだす。

 

 でも今回の主役は悪魔である部長たちだ。

 僕はでしゃばる必要はないし、その時が来たら『排除』するまで。

 

(案外早く片付くか?)

 

 子猫さんの先制の一撃は、はぐれの顔を大きく歪ませながら吹き飛ばし、その先で待ち構えるイッセーが赤龍帝の力を使って追撃する。

 パワーファイターの強力な攻撃をモロに食らったはぐれは早速満身創痍だ。

 

 しかし、奴は最後の悪足掻きで、近くで待機している木場さんを殺しにかかる。

 

「!アーシア、ここにいて!」

 

 僕は真っ先に飛び出す。

 普段の木場さんなら躱すことなんてわけないと思うけど、今は意識が完全別なところへ向かっている。

 

 間も無く食い殺そうとするはぐれ。

 木場が気付いて構えを取った時はもう遅い。

 アーシアの悲痛な叫びが耳に届く。

 

 させるか。

 

 咄嗟に木場を突き飛ばし、はぐれと取っ組み合う。

 普通の人間なら、悪魔の身体能力についてこれず、瞬く間にただの肉塊にされてしまうだろうが、あいにく僕は丈夫だ。

 焦って助けに入ろうとするイッセーたちを目で制し、次にはぐれを睨み付ける。

 はぐれは人間である僕が抵抗し、自分以上の力で抑え込むことに驚いたのか、先ほどまで浮かべていた凶相が困惑と焦りに変わっていた。

 そんな目の前の()()()のことなどどうでもいい。

 僕は自分の手を、はぐれの上顎と下顎にかけた。

 

「アーシア!目を閉じて!」

 

 今やろうとすることがわかったのか、イッセーは顔を青ざめさせながらアーシアの目に手をそっと当てた。

 

 それを確認すると、僕は強引にはぐれの口を開く。

 涙ながらに抵抗しようとするはぐれからは、既に殺意や悍ましい欲は消え、今は純粋に恐怖を覚えていた。

 

 バキバキと鈍い音と共に鮮血が吹き出す。

 

 はぐれの様々な念が込められた叫びが一層強まったところで、僕はさらに力を込めて思い切り開く。

 「あ」と、一瞬だけ短く言葉が漏れると、下顎を首ごと裂かれたはぐれは絶命した。

 

 僕はギリギリのところで雄叫びを上げそうになったのを堪え、みんなの方を向くと、空気が重々しかった。

 先ほどまでぼんやりとしていた木場さんですらドン引き、イッセーはアーシアに背中を摩られながら嘔吐していた。

 

「あ、部長。状況終了です」

 

「わ、わかったわ。お疲れ様…」

 

 顔を引き攣らせる部長は、渋々死体となったはぐれを片付ける。

 珍しく朱乃さんも大きく表情を変えており、子猫さんとはまた壁ができてしまったような…

 

 

 木場さんに一抹の不安を残し、時間がある程度過ぎると競技が発表された。

 クラス対抗では野球とバスケ、部活対抗ではドッジボールなどその他諸々あった。

 

「とりあえず最初はクラス対抗だから、頑張ろうイッセー、アーシア」

 

「おう、お前がいれば心強いぜ」

 

「ちょっと不安ですけど、頑張ります!」

 

 これから始まる戦いに、普段とはまた違う闘志が漲ってくる。

 血生臭さが一切ない健全な戦いに、僕は純粋に楽しみだ。

 

「アーシアちゃん、俺たちだっているからな!」

 

「ここは俺らに任せておくれ」

 

 例の松田と元浜が集まり、問題児カルテットが出来上がってしまったが、この競技大会において、同じクラスメイトたちはこれ以上ない頼もしさを感じているだろう。

 

「行くぜ!」

 

 高らかに叫んだイッセーに続き、野球代表に選出された僕たちは拳を天に突き上げて同様に叫び、チームを、自分たちのクラスを活気づけた。

 

 

「くそ!あそこ打てんのかよ!?」

 

 結果は初戦敗退。

 相手チームにはそこそこ動ける者が揃っており、彼らを義人と権藤さんが牽引していた。

 いきなり優勝候補同士がぶつかり合い、白熱した投手戦の末に2-1で僕たちは惜敗した。

 

 お互い野球部が出ていないにも関わらず、よく試合が続いたものだ。

 ちなみにイッセーが先発し9回まで投げきった。

 8回にチャンスメイクされ、二死で回ってきた義人にボール球を捉えられ、ライト前に落とされてしまった。

 

 負けはしたけど、久々こんなに動いたし、何より楽しかった。

 

「やっぱ権藤さんエゲツないな」

 

「全くだ。俺たち男子はもちろん、女子相手にも変化球使ってくるんだもんな…」

 

 松田と元浜が愚痴ってるが、本気の勝負で挑んだ僕たちだって似たようなことをしたさ。

 男子たちには際どいところを突き、女子たちには確実にアウトを取るため、イッセーお得意のツーシームで打たせてとった。

 

「まぁお互い本気の全力勝負ができたんだし、後悔はないだろ?」

 

 すると、体に篭った熱が逃げていき、冷静さを取り戻した松田と元浜は笑い合った。

 これが良いね。

 青春って感じ。

 

「さ、次のバスケで権藤さんたちへ目に物見せてやろうよ」

 

「だな!」

 

 体力切れのイッセーが無事回復し、高まった士気のままバスケに挑む。

 

 余談だが、唯一僕らが放った安打は3本で、うち一本が僕の本塁打、イッセーがボテボテの内野安打、そして奇跡的に捉えたアーシアのライト前であった。

 

 そしてバスケも白熱した試合展開となり、87-87でフリースロー戦に縺れ込むと、緊張のあまりイッセーがシュートを外し、初戦敗退。

 戦犯となったイッセーは皆が見てる前でクラスの女子たちに綺麗な土下座を披露し、会場はドッと笑いに包まれた。

 

 

 昼休みが終わり、部活代表の戦いが行われることとなった。

 外では雨がぱらつき始めたが、全て屋内競技であったため、そこは問題ない。

 僕は対戦表を見て、意外なところからも参戦していることに、思わず言葉が漏れた。

 

「へぇ、生徒会も部活枠として出るんだ」

 

「でも女子が殆どだったよな?」

 

 松田が言う通り、生徒会はほぼ女子で構成され、唯一の男子で匙さんがいるってイッセーから聞いたけど…

 

(あの発する雰囲気…全員悪魔か…)

 

 全く…僕の学校には一体何人の悪魔がいるの?

 生徒会長と副会長が悪魔だったから、なんとなくそんな気はしてたけどね。

 

「ま、油断はできねえわな」

 

「権藤さん」

 

 僕と松田の間からヌッと現れた権藤さんは、顔を顰めながらオカルト研究部と生徒会の方を見る。

 

「生徒会の奴らもなぜか揃いも揃って人並外れた運動神経を持ってやがる…オカルト研究部もそうだが、何かおかしくねえか?あまりにも常識から外れててよ…それにその二つを調べようとしたが、学校側がなぜかアイツらを擁護するしよ…」

 

 権藤さんの鋭い指摘に、僕は心臓をバクバクと動かす。

 

「確かに…さっきオカルト研究部員が出る学年の競技を見ましたが、あの細い腕から生み出されるパワーは少しおかしい気がしなくもないね」

 

「義人もそう思うか?まるで…同じ人間に見えねえんだよな」

 

 まさか…部長たちが悪魔だってバレてる!?

 まさかそんな…観察眼が鋭い二人だけど、あれだけ巧妙に悪魔の気配も隠してるんだからそんなはずは…

 

「あなたたちもそう思う?」

 

 不意に背後から声がかかり、僕たちは振り返る。

 そこには3人の生徒がいた。

 

「おお、姉御に坊やじゃねえか。お嬢の方もご無沙汰です」

 

「権藤、その言い方やめなさいよね…」

 

「一応僕らの方が先輩なんだけど…」

 

「あはは…権藤さんは相変わらずですね」

 

 服装を見ると先輩であることがわかるけど、立場お構いなくいつも通り接する権藤さんに、3人はもはや諦め、頭を抱えるなり、苦笑いするなりだった。

 

「今日はよろしくお願いします。茜さん、一馬さん、梓さん」

 

 僕が挨拶する3人は、屋城茜さん、青樹一馬さん、佐野梓さんで、以前話していた助っ人であり…

 

「姉御たちは何か存じておられて?」

 

「…特にないわ…ただ胸騒ぎがするだけ…」

 

 部長たちに勘付いている節がある人たちだ。

 

 面白くなさそうにする権藤さんをよそに、茜さんは僕に鋭い視線を向けてきた。

 

 

 




 前回に引き続き、ゴジラシリーズに関係ある人を登場させました。
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