黒き王の原罪   作:イテマエ

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第24話 オカルト研究部vs帰宅部連合

 不安だった天候は持ちこたえ、無事午前の部であるクラス対抗の競技は行われた。

 そんな中、やはり目を引くのは学園の2大お嬢様であったり、2年生一の美少女であったり、学園のマスコットであったり。

 彼女らは容姿もそうだが、あの細い手足からは想像もつかぬほどの力強く人を魅了するプレーをするため、見る人全ての注目を集めるのだった。

 また、イマイチ身が入っておらず、ずっとぼーっとしたままの木場は、女子たちから「儚げな王子様みたい!」とメロメロにしており、イッセーはじめとするエロ馬鹿トリオに加え、大半の男子たちが悔し涙を呑んだ。

 

 しかし、生徒の中には彼女らの異常さに気付く者も…

 

「まるで同じ人間に見えねぇんだよな」

 

 権藤がボソッと呟いた言葉に、心臓をドキドキと鳴らす春雄…

 

 今、この競技祭には不穏な空気が流れ始めるのだった。

 

 

「つまり…この帰宅部連合は初めからオカルト研究部と生徒会の隠し事を暴くために…?」

 

 僕の問いに権藤さんは暫く黙り込む。

 その短くも長く感じる沈黙の間、生唾をごくりと飲み込み、問いの答えを待つ。

 そして、権藤さんは頭を掻きながら口を開くのだった。

 

「まだ単なる憶測でしかねぇ…だからそう怖い顔すんじゃねえよ」

 

 怠そうにそう言うが、次に口を開く時には態度を割と真剣なものに変えた。

 

「俺たちの思い過ごしなら、それはそれでいい。今後は一切何も気にせず学園生活を送ることができる。

 だがな、仮にアイツらがコソコソ裏で何か企んで…それが俺たちただの生徒にまで被害が及ぶなら…黙って見過ごすわけにはいかねえよな。

 しかし、アイツらの能力の詳細は知らん。だから迂闊に手を出していい問題じゃねえ。なんせ、学校側がアイツらを匿ってんだからな…」

 

「そこで僕たちは彼女らと実際対峙し、まずは相手のおおよその戦力を測るんです」

 

 権藤さんに続いて義人が答える。

 つまり、今後オカルト研究部と生徒会相手に動く時、相手の強さをあらかじめ知っておきたい。

 おおよそ、彼女たちを()()()()()扱ってないように思える。

 

「そのために、この競技祭という舞台で派手に動くと?」

 

 松田が問うと、

 

「ああ、別に他の部の連中がアイツら相手に本気でいくってなら、それであちらの戦力がいかほどかわかる。だがどいつもこいつも使えねえ奴らばかりだ」

 

 悪態をつきながら他の運動部の連中を睨みつける権藤さん。

 確かに、他の部はどこかオカルト研究部に甘い。

 きっと、2大お嬢様や学園のマスコットである彼女たちを傷つけたくないなと、女子から大人気の木場さんを傷つけて批判を受けたくないと言った思惑があるからだろう。

 

「だから、普段からあの連中が気になっていた姉御に坊やに義人、んで空気の読めないお前を呼んだってわけだ」

 

「つまり威力偵察ってことかよ…」

 

 ニヤリと悪役のような笑みを浮かべる権藤さんに、本当の目的を知り、苦い表情を浮かべる元浜。その後ろでは頭を抱える上級生のお三方が見られた。

 

「それじゃあ…どうしてオカルト研究部の協力者である僕にそのことを聞かないんですか?彼女らのことを知りたいなら、僕にあれこれ吐かせた方が手っ取り早いはずじゃ…」

 

「それは最終手段だ…」

 

 僕の提案は真っ当だ。

 わざわざ競技祭で当たって確かめるよりかは、洗いざらい僕に言わせた方がずっと楽だし、ずっと早い。

 しかし、権藤さんはそれをしなかった。

 「どうして?」と尋ねる前に、姉御こと茜さんが説明してくれた。

 

「もし仮に、リアスたちが本当に何か隠し…それが私たち普通の生徒に知られてはいけないことだとしたら…?」

 

 僕はハッとなる。

 そして僕の反応を見た、坊やこと一馬さんが教えてくれた。

 

「我々が彼女らの何か公開しがたい情報を掴んだと知られれば、いずれはその情報を漏らしたとされる春雄君、君のところに行き着いてしまう。

 そしてなぜか学園と関係が深い彼女らのことだ、我々なら最悪退学処分で終わるだろうが、君の場合そうじゃない」

 

 松田は「アッ!」と、手を叩く。

 

「春雄の家に!」

 

 そう、僕と同じ家に住んでいるのは、オカルト研究部部長であるリアスさん、そして部員であるアーシア、さらに兄弟で部員であるイッセー…

 なぜだ…なぜ冷や汗がこうも出る…

 部長たちからそんなことをする雰囲気は無いのに…

 

 部長たちがこの町のために必死になってるとはわかってるのに…

 

 お互いやっと信頼できたのに…

 

(これじゃあ…僕が自分から裏切ってるじゃないか…)

 

 そんな今の僕のことを気にも留めず、権藤さんはため息を吐く。

 

「こいつを危険な目に遭わせるわけにはいかねえからな。あとお前らも」

 

 そして権藤さんは次に松田と元浜を見る。

 名指しされた二人は「?」な様子だった。

 

「当たり前だろ?お前らには帰宅部連合本来の目的を伝えず、ただ数合わせで出ろとしか言ってねえからな。最悪首謀者は俺に姉御、そして坊やにしちまって、梓さんとバカ2人と失火罪未遂の2人が騙されて利用されたってことにすりゃいい」

 

 意外にも、権藤さんは僕らのことに配慮してくれるようだ。

 なんて思ったけど、やっぱりいつもの悪巧みしてそうな顔を浮かべていた。

 きっとこの人、退学処分を受けたとしても、松田や元浜に調査を続けさせるつもりだ。でなければ、わざわざ情報を共有させることはないし、むしろ何も言わずに競技に出させておいた方が安全だっただろう。

 

 そんな僕の考えを見透かしたかのように、権藤さんは笑ってくる。

 ホント、この人鋭いし頭が回るよな…

 

 しかし、解せないところが一つ。

 

「権藤さん、そこまでして部長たちを…オカルト研究部のことを知るのって、何か特別な理由があるんですか?」

 

 普通、自分からめんどくさいことはやらない権藤さんは、全校生徒のためにわざわざこんなことするとは思えない。

 むしろ、今の状態でも黙っていれば、このまま卒業まで安泰に過ごせたはずだけど…

 

 元はと言えば、この帰宅部連合を立ち上げたのは、茜さんたちお三方だ。

 権藤さんなら、お三方と面識があるとはいえ、他人事のようにいつも通りのスタンスでいると思ったけど…

 

「…なんかな…胸騒ぎがするんだよ…」

 

 そう言う権藤さんの目は、酷く哀愁が漂っているように見えた。

 その目は知っている。

 自分もそうだったから。

 あの目は…

 

(誰か大切な人を失った…)

 

 そんな目だった。

 

 

 僕たちの初戦の相手は柔道部の人たちで、相対的にガタイがいい人が多い。

 それに加え、こちらに向けてくる視線は敵意と共に軽蔑が含まれている。

 

「なーんだ、帰宅部相手じゃイジメになっちまうな…早いところ降参する方がいいぜ?」

 

「頭下げんなら手加減してやらんこともねぇがな」

 

「けけけ!どっちにしろ負けるんだがな!」

 

 あれ…?柔道部ってこんな集まりだっけ?

 礼儀正しいスポーツマンかと思ったが、一人除いてコイツらはどことなく嫌な感じがする。

 しかし、せせら笑う柔道部員を短く一喝で黙らせた者がいた。

 

「我ら柔道部代表だ。部員が失礼を働いたことを詫びる。今日はよろしく頼む」

 

 最も体格の良い短髪の男、恐らく部長と思われる奴が握手を求めると同時に圧を発する。

 しかし、その圧に怯む者は梓さん以外にここにはいない。

 皆真っ直ぐと、目の前の敵を見誤ることなくジッと見つめていた。

 

(こいつら…おもしろい…)

 

 相手の部長が微笑んだ気がした。

 そして、握手をしようと手を伸ばす、度胸ある者もいた。

 

「いやー、なってない部員を持ちますと苦労しますな。ですがご安心を。そんな低俗な輩の謗言なんぞに今さらいちいち反応する者はこちらに居りませんので」

 

 権藤さんのいつもの皮肉が、冷笑を伴って放たれた。

 それにより、頭に血が上った柔道部員は喚き始めるが、権藤さんはフッとひと蹴りし、審判を務める生徒会の女子生徒に詰め寄った。

 

「盛り上がってきましたな。さっさと始めては?」

 

 権藤さんの気迫に押され、涙目になった生徒会の子はジャンプボールのスローイングを担当するため、フィールドの中央へ歩いてくる。

 

「おい」

 

 ふと権藤さんは、殺気が籠った低い声でその子の恐怖を刺激する。

 そして、カタカタ震えるその子の肩を叩いた瞬間、

 

「キャッ…!」

 

 その子は反射的に肘を権藤さんに向かって放とうとする。

 あの肘打ち、当たりどころが悪かったら骨にひびを入れられそうなほど、早くて鋭かった。

 しかし、さすが権藤さんと言うべきか、あらかじめ予測していたのか、その肘を受け止めていた。

 その時驚きつつも感心した表情をしていたのだが、すぐ彼女に訝しげな視線を送る権藤さんは恐ろしい。

 小さい子だったら泣いてるかも。

 

 それにしても、イッセーが言っていたとおり、生徒会の人たちはみんな悪魔なんだね。普通あの華奢な体からあの攻撃はできないはずだもん。

 しかし、権藤さんが悪いとは言え、自己防衛のため反射的に攻撃しようとしてしまうなんて危ないな。

 相手が権藤さんだったから良かったものの、何も知らないごく普通の生徒であれば…

 

 何度冷や汗を流せばよいか…

 

「権藤さん、ちょっかいはそのへんで」

 

「生徒会はゲームの進行役です。運営の妨害行為は退場処分になりますよ」

 

 僕と義人で生徒会の子から権藤さんを離す。

 全く、いくらなんでもやりすぎだ。

 

「姉御、だいぶ怪しい感じがしてますが、単なる格闘技経験者の可能性もあります。本番はオカルト研究部に取っておきましょう」

 

「そうね…でも今後はあの先走った行動は控えなさい?」

 

「そうですよ権藤さん、怪我したら元もこうもないですよ?」

 

「競技祭なんですから、楽しくいきましょ」

 

 上級生のお三方に嗜められ、口では「わかってる」と言うが、あの権藤さんの顔は絶対反省してない。

 巻き込まれた僕、松田、元浜はため息をつき、そんな僕らを義人が慰めてくれるのだった。

 

 

 結果だけ言えば、ドッジボールは普通に勝利した。

 まぁこれだけのメンバーが揃ってるから、流石に大敗はないだろうと思ったけど、流石にアッサリしすぎ…て言うか、みんな強すぎる。

 権藤さんは言わずもがな、茜さんも一馬さんも運動部以上の身体能力があったし、運動神経だけは抜群な松田は相変わらずだし、義人も松田に負けず劣らずだった。

 あと、運動はそこまで得意としてない元浜や梓さんも器用にパスを回してくれたので、相手の陣形を大きく乱すなどができた。

 全員が一丸となって掴んだ勝利は、本当に価値があるものだった。

 帰宅部が柔道部を下したことで、場内はどよめきが収まらない。

 

「まさか俺ら帰宅部が勝つなんて思ってもなかっただろうな」

 

「いやぁ普段散々言われてるからな、ここいらで汚名挽回しとかねえと!」

 

 松田と元浜は嬉しそうにしているが、君たちの評判は校内ワーストを争っているからな…この程度の活躍で思い上がらない方がいいと思うけど…

 

「何言ってるのよ、あなたたち」

 

 噂をしていれば、どこからか茜さんが現れ、二人に説教を始めた。

 

「普段から、イッセーさん加えたあの変態三人衆の愚行を見つけては、いつも説教であったり指導だったり、色々取り締まってくれてますからね」

 

「いや…その…うちの兄弟と友人がいつもすみません…」

 

「良いんです。茜さんにはいつも無理するなと言ってるんですが、どうやらほっとけないらしくてね。いつもはキリッとしてますが、根の優しさから彼らにお節介を焼いてしまうんですよ」

 

 苦笑しつつも茜さんのことを評価する一馬さんと梓さん。

 初めて彼女に出会った時、印象としてクールビューティーで厳しいイメージがあったけど、そんなお節介焼きなところがあったなんて。

 

「聞こえてるわよ一馬、梓」

 

 睨まれたお二人は、冷や汗を流しながら軽く謝罪した。

 

「そんなんじゃないのよ。ただ学校の風紀が乱れるのは嫌だし…何よりあの3人のやってることなんて犯罪よ?注意しないわけにはいかないでしょ」

 

 頬をやや膨らませて、照れを隠しながら怒る彼女は、年相応の女の子らしく、ついつい「ふふっ」と小さく笑ってしまった。

 

「何よ!」

 

「な、なんでもありません」

 

 僕は直ちに謝る。

 茜さんの背後で、ボコボコにされて伸びてる松田と元浜のようになりたくないからね。

 

 

 やっぱアイツらすげぇ…

 下手したら、悪魔である俺らより動けてねえか?

 

 正直この競技祭をなめてた。

 今の俺たちは加減してるとは言え、帰宅部連合は悪魔に張り合えるほどの力を見せている。

 

 俺のバカに長いこと付き合ってくれた友人の一人である松田の奴は、運動神経の良さを全面に出して、他の運動部の連中と互角かそれ以上に立ち回ってるし、もう一人の友人である元浜は、劣る体力面を持ち前の器用さでカバーしてサポートに徹している。

 いや、もうお前ら運動部入れよ。

 

 そして、残念なイケメンに数えられる機械オタクの義人も、研ぎ澄まされた集中力と身体能力の高さで戦えている。

 

 ただでさえ悪魔ですらない純粋な人間が、運動部相手に押していることに驚きだが、それ以上に…

 

(助っ人って…あの人たちのことかよ…)

 

 普段俺や松田、元浜がお世話になってる上級生の3人も帰宅部連合に参加していた。

 

 男子顔負けの強さを見せる屋城茜さんは、クールビューティーな雰囲気と面倒見の良さから、部長や朱乃さんとはまた別な意味で主に女子生徒から慕われている。

 部長や朱乃さんが「美しさ」での憧れなら、あの人は「強さ」の憧れだ。

 うちの女子生徒が、隣町のヤンキーに絡まれた時、たまたま近くにいた権藤さんとボコボコにし、話を聞きつけた親玉率いる総勢50人相手に二人で無双したとされている。

 それもあってか、校内では「姉御」と呼ばれることがしばしばだ。本人は頭を抱えていたが…

 

 そして、その茜さんをサポートしているのが、坊やこと高嶋一馬さん。

 普段は不真面目で調子のいい男って言われてるけど、茜さんとか権藤さんが一緒なら軟弱な面が出てしまう。

 と言うのも、その精神を叩き直したのが幼い頃からの付き合いの茜さんで、権藤さんは単純におもしろがって突っかかってくるだけなんだけど。

 それでもあの人は機械にはめっぽう強く、「技師」としての実力は申し分なく、また自分と同じような人には敬意を表してるそうで、春雄や義人には、年下であっても公正な評価をしている。

 

 そして、一馬さんとよく一緒にいるのが、佐野梓さん。

 学校や社会の決まりごとに忠実で、出会った当初の印象は融通の効かない美人さんとしか思わなかったが、茜さんの説教の後よく、

 

「男の子だもの、しょうがないよね。でも、もうやらないで欲しいかな?じゃないと警察沙汰になっちゃうよ?」

 

 とか、色々優しく教え諭してくれるのを見ると、面倒見が良く、非常に母性的で魅力ある人だと思う。

 でも悪いことにはきっぱり悪いと言える芯の強さもあり、学園では年下の女子生徒に人気だ。

 

「しっかし、こんなすごい人たちが帰宅部連合か…」

 

 帰宅部連合のメンバーは良くも悪くも有名人が集まっていた。

 エロ馬鹿トリオの左翼と右翼、機械オタクの残念イケメン、そして茜さんたち…

 改めて見るとすごい人だらけだな。一部除いて。

 

 そしてそれを率いるのが…

 

「ようイッセー、久しぶりだな」

 

 背後から声をかけられたので、そちらを向くと、

 

「あ、どうもお久しぶりです。権藤さん」

 

 俺の元へ、帰宅部連合のリーダーがやって来た。

 

 

「どうだ?帰宅部もまだまだ捨てたもんじゃねえだろ?」

 

「いや、マジですごいですよ。これじゃあ運動部の面子が潰れまくりですね」

 

「当たり前だろ?お前らオカ研の奴らが優勝候補に上がってたんでな。運動部でもねえ奴が前回の王者なら、帰宅部だってあり得なくはねえだろ。

 それにしたって、運動部の連中は馬鹿の集まりだな。いざオカ研と試合すりゃ、やれ2大お嬢様を傷つけたくないだの、マスコットのあのチビに当てるのは可哀想だの、王子様がどうのこうの…随分と有利になってやがる」

 

 悪態をつく権藤さんには、俺は慣れてるからいいけど…

 

「なぁ、部長さんよぉ」

 

 悪い笑みを浮かべる権藤さんが視線を向けるところに、部長たちがいた。しかし、彼女たちからは剣呑な雰囲気が漏れている。

 

「あら、言ってくれるじゃない。私たちは真っ当な勝負をしているのだけれど」

 

「…『チビ』ってなんですか。『チビ』って」

 

 部長と子猫ちゃんが筆頭に権藤さんと言い合いになった。

 まずいまずい。

 落ち着いてください、部長!子猫ちゃん!

 

 なんとか場を収めようとするが、権藤さんは俺の気持ちなんて顧みず、部長の神経を逆撫でしまくる。

 

「『真っ当』…ねぇ…」

 

「何よ?」

 

「あんたら自分で手を下したわけじゃないでしょうが、他の運動部の連中が本気になれるはずがないでしょうよ。さっきイッセーに言った通り、この学園にいる奴らのほとんどは、あなた方に憧れ…いや、もっとそれ以上に敬うべき対象としちまっているんですよ」

 

 まぁこれだけの美貌の持ち主ならば、「お姉様」とか言いたくなるわな。

 

「じゃあそんなあんたらに、誰が本気になって倒そうと思える?運動部の連中は、真剣に当たってアンタらを下してしまうことに負い目を感じている。最初から勝負になってねえのさ」

 

 部長は反論できない。

 事実、さっきの試合も俺だけに矛先が向いていた。「あの憧れの人たちと一緒にいる獣を殺せ!」なんて言ってたっけ?

 それで野球部がムキになって俺に豪速球を放ってくる。

 いや、いくら悪魔になったとはいえ、当たれば痛いんですよ!?

 

 と、思ってたら俺の息子にクリーンヒットしたわけで…

 

 ま、それは良くて、確かに俺以外は誰もアウトになってない気がするな…

 

「なーにが真剣勝負だ。こんなんじゃ、優勝できて当然だろ?あんたらは放課後にかなり練習したようだが、(はな)からそんなことしなくても、周りが勝手に負けてくれるんだ」

 

「ちょっと権藤さん、言い過ぎですよ!」

 

「一つの目標に向かって仲間と努力することの何がいけないのよ!」

 

「そんなの…酷すぎます!」

 

「…ちょっと許せません…みんなの頑張りを否定するなんて…」

 

「あらあら…随分と好き勝手言ってくれましたわね…」

 

 そろそろ権藤さんを止めねえと。

 散々な言われように、部長とアーシアが目元に涙を浮かばせ始め、子猫ちゃんや朱乃さんからは殺意が漏れ始めた。

 しかし、権藤さんは「フンッ」とひと蹴りし、全く気にすることなく続ける。

 

「一般の平々凡々な生徒は手も足も出せねえ…それだけイッセー以外のアンタらは高尚な存在になっちまった…まるで…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…悪魔に魅入られたみたいにな」

 

 瞬間、俺たちの間に衝撃が走る。

 そんな…まさかな…

 ただの比喩表現だよな…

 

 しかし、権藤さんの観察眼の鋭さが、俺以上に動揺する部長たちを捉えた。

 

「どうかしましたかね?悪魔みたいとは言いましたが、所詮はただの比喩。しかしその反応はあまりにもオーバーすぎやしませんか?」

 

 狼狽える部長たちに、いつもと様子の変わらない権藤さんが歩み寄ってくる。

 コツコツと一歩踏み出す度、逃げられないようなプレッシャーが俺たちを襲う。

 

「そんなんじゃ…まともに戦えませんな。その精神も技術も不安定になったところで、アンタらがもし本気になって向かうようなことがあれば…どうなるでしょうね」

 

 今の権藤さんの言葉…完全に見破られている…

 

「あなた…一体どこまで…」

 

「別に俺は…俺たちは勝負を降りてもいいと思ってるんですよ。しかし、その代わりアンタらのことは詳しく聞きたいと思ってましてね…」

 

 そう言って、権藤さんは一冊のノートを俺に投げ渡してきた。

 「これは…?」と聞く前に、権藤さんが目配せで「読んでみろ」としてきたので、パラパラとページをめくる。

 ノートには、いろんな人の名前と、それに関わる新聞の切り抜きが貼られていた。

 その新聞で紹介されている人物は、性別も年齢も、発行された会社も何もかもがバラバラだった。

 

 ただ一つ共通点があるのだが…

 

「全国で問題視されている行方不明者が続出している事件だが…どうも特にこの町が多い…そこで俺は気になって…言っちまうか。姉御と坊やと軽く調査していたわけだが…」

 

 唐突に出てきた名前に驚いている暇を与えず、権藤さんは数枚の写真を放り投げた。

 

『!?』

 

 その写真に、深夜に悪魔の行動をしている俺たちが写されていた。

 

「どれだけ調べたところで、驚くほど何も起きなくてな…むしろ何も起きなさすぎて違和感を感じた俺は、とある人物に協力を依頼した。と言っても、ガキの頃からの付き合いのダチだがな。そいつは目が見えねえが、霊的なものを捉えてるのに優れてるらしい…そこで、そいつを夜連れ回してこの町を回ろうとしたんだよ

 んで、あいつが怪しいと思ったところを写真に収めたら…」

 

 なに!?

 あれだけ気配とか魔力とか遮断したのに、権藤さんのダチにバレてしまったのか!?

 つーか権藤さん、霊的なもの一切なく、ただ直感で怪しいと感じたのって、やっぱりこの人はとんでもない。

 

「アンタらが怪しいのは元々感じていたが、念には念を入れて、今こうしてハッタリかけてみたんですよ」

 

「まさか…あなたたち帰宅部連合は、みんなが…」

 

 部長の話を遮るように、権藤さんが答える。

 

「首謀者は俺と姉御、そして坊やだけだ。今日一緒に呼ばれた春雄や義人、そして他の奴らはただの数合わせ…ま、同じオカ研の春雄なら、何か気づいてるかもな」

 

 一通り話し合えると、「どうする?」と言わんばかりに権藤さんが部長を睨む。

 

 

『次の試合、オカルト研究部対帰宅部連合の試合は、後者の棄権によりオカルト研究部の勝利といたします』

 

 そのコールが響くと、生徒からは期待されていた分、ブーイングが上がった。

 そうして、オカルト研究部の2年連続の優勝が決まった。

 

 この後味悪さを強調するように、雲も灰色に畝り雨が本格的に強く降り出す。

 

「さて、おそらく権藤さんが接触を果たし、このような結果になったと思うのだが、できればあなた方生徒会からも話を聞きたい」

 

 とある一室で、生徒会全員と二人の3学年の生徒が対峙していた。

 

 放送を聞き終え、話を切り出す坊やこと一馬。そこには普段のお調子者で軟弱な様子はなく、真っ直ぐと目の前の異形の存在を見つめていた。

 匙は言う。

 この時、高嶋一馬と屋城茜からは、心臓を鷲掴みにされるようなプレッシャーを感じたという。

 

「どうやら…雨が強まりそうだな…」

 

 学園の裏で行われる駆け引き、町にやってきた謎の少女たち、そして訪れようとしている危機に、神永は窓の外をただ眺めているだけだった。

 右手に、棒状のアイテムを握りしめて…

 

 

 




 権藤さん…何者…?
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