黒き王の原罪   作:イテマエ

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第25話 動乱の予兆

 権藤、茜、坊やが中心となって結成された帰宅部連合。

 打倒オカルト研究部を揚げ、リアスたちと直接対決すべく帰宅部連合は奮闘し、立ちはだかる運動部を次々と下していく。

 

 そして、いよいよオカルト研究部と帰宅部連合に決戦の火蓋が落とされようとした頃だった。

 

「それだけアンタらは高尚な存在になっちまった…まるで…

 

 

 

()()みたいにな…」

 

 帰宅部連合本来の目的は、オカルト研究部及び生徒会の秘密を暴くことであった。

 今、人間である彼らが悪魔に自ら迫ろうとする。

 

 

 歪んだ暗雲は雷雨を伴いさらに荒れてゆく。

 時折辺りを金色に染めるほどの稲妻が轟くたび、僕の心の中で胸騒ぎが起こる。

 

(ここ最近、雷に対して神経が敏感になっているような…)

 

 今更子供のように怖がるなんてことはない。ただ、酷く嫌悪感がするのだ。

 金色の光…

 どうして僕の闘争心を掻き立てるのだろう…

 

「おい、どうした?」

 

 その声で我に返った僕は窓の外から視線を移すと、不思議そうに覗き込んでくる友人たちの顔が映った。

 

「いや…何でもない…けど…」

 

 何でもないわけがない。

 本当に、一体なんだって言うんだ。

 どうしてここまで神経がピリピリと痺れるように反応するんだ…

 

「まぁ心配だわな…権藤さんに姉御、坊やが今話し込んでるだろうしよ。あっちにはイッセーもついてるわけなんだし」

 

「だよな。もし本当にオカ研と生徒会のあの人たちがなんかヤバそうな秘密握ってたらって思うとな…」

 

「ああ…まぁ…確かにそうだね…」

 

 松田と元浜の呟きに、かなりいい加減な相槌をうつ。

 彼らは友人のイッセー、そして秘密に迫ろうとする権藤さんたちを心配していると思っているだろう。

 別に思わないわけはないが、僕の懸念はもっと違うところにある。

 

(あの夢見て以来かな…)

 

 夢として力の主…確か部長は言ってたっけ…

 

『イッセーや祐斗の神器に名前があるのだから、あなたの力にも何か名前があった方が良いと思ってね…』

 

 確か大戸島の伝説の、『荒ぶる神の化身』を意味する言葉だっけ。

 

ゴジラ…ねぇ…」

 

 あの時は名前なんてどうでもいいでしょ…とか思ってたけど、名前があった方が呼びやすいし、これ以上ないほど自分にしっくりくるし…

 

 どこか懐かしい感じすらした。

 その感覚は覚えてる。忘れるわけがない。

 村が全滅するその日、色濃く目に焼き付いたのは、古い石碑から見える海。

 その海を見た時の懐かしさが、ゴジラの名前を賜った時にも抱いた。

 

 そのゴジラが見たであろうものの中に、それはあった。

 恐竜が闊歩する時代、突如空は大きく荒れ始め、気がついた時には辺りを眩い光が包み、昼のように僕の視界を錯覚させた。

 あの光景を見た時、僕の内側からとてつもないほどの怒りが込み上げてきたのは間違いない。

 

 ゴジラよ…

 

 この雷鳴を…

 

 あの金色の光をなぜそこまで忌み嫌う…

 

(答えてくれないか…)

 

 どうも所在がなくなった僕は、一つ大きな欠伸をついた後机に突っ伏した。

 

「呑気だな…オカルト研究部の協力者でもあるお前が…」

 

 ため息混じりに呟く義人だが、別に部長たちは悪い悪魔ではないし、生徒会とも仲良さそうだったから彼らも大丈夫だろうけど。

 

 ま、仮に『敵』なら『排除』すればいい。

 

 とりあえず今は、みんなの帰りを待とう。

 先に義人たちが帰ったため、僕しかいない教室は静まり返っていた。

 

 

 

 故にわかりやすい。

 

 

 

 誰かがこちらを監視しているな…

 金色の光により敏感になった感覚が、異形を捉えていた。

 

 

 オカルト研究室では、オカルト研究部いつものメンバーと、生徒会の一部、そして本来なら招かれざる者である人間がいた。

 悪魔側は今でもビリビリと張り詰めた空気が流れていたが、個体として劣勢な人間側は思いの外落ち着き払っていた。

 

「まず急遽このような形で押しかけたこと、先ほどの無礼は謝罪します。リアスさん、申し訳ありませんでした」

 

 第一声は一馬による謝罪だった。

 先程オカルト研究部の彼女らを試すためとは言え、権藤のあの言い分には流石に肝が冷えたはずだ。

 万が一のことを想定している茜、一馬は、権藤の言葉で惨劇が引き起こされると思っていたのだ。

 実際、リアスらは悪魔と知った時、表情こそ崩さなかったが内心は気が気でなかった。

 

「そのことは俺も悪いとは思ってる。せめて殺すなら姉御たちじゃなくて俺だけにしてくれよ」

 

 権藤は彼なりに二人の身を案じたのだろうが、その言い方ではリアスら悪魔は外道のような扱いだ。

 それに腹を立てたリアスが眉を顰めて抗議する。

 

「私たちをなんだと思ってるのよ。確かに悪魔ではあるけれど、私怨で人を殺めることは絶対ないわ」

 

 力強く宣言するリアスを権藤は訝しげな視線を向ける。

 そして隣に座る生徒会長の支取蒼那ことソーナ・シトリーを見、その後ろの二人の眷属たちに目を向ける。

 真っ直ぐ曇りない眼だった。

 

 言葉こそ少ないが、権藤たち3人が悪魔である彼女らを信用するには十分だった。

 

「では早速だが、なぜ俺らがアンタらのことを怪しいと踏んで調査していたか、なんだがな…」

 

 そして語られたのは、警察が手を焼く行方不明者続出事件、そして特に発生している駒王町の異変、この世のものならざる異形の気配、それを捉えた写真に写るイッセーたち…

 

「俺としては、別にアンタらが直接の原因でないことくらい想像できる」

 

「こう言うのもなんだけど、随分と信用が早いわね…」

 

「なーに、グレモリーつったら『愛の力をもたらす』だったか?話のわかる悪魔でこちとら助かるもんだ」

 

 相変わらず相手の神経を逆撫でするように悪者の笑みを浮かべる権藤。

 そもそも上級生に対して問題がありすぎる態度に、リアス、ソーナの額に青筋が浮かび上がる。

 

「権藤、そろそろいい加減にしなさい」

 

 権藤は茜に嗜められたことによって静まったものの、どうやら言いたいことを言い終わったらしく、あとは投げやりな感じで彼女らに話の主導権を渡した。

 本当に、どこまでも他人事にしかとらえない男である。

 そんな男に茜と一馬だけでなく、友人であるイッセーもため息をついた。

 

「なんつーか、お前も大変だな」

 

 普段イッセーと顔を合わせては、言い合いに発展する仲の匙であったが、今回ばかりは同情していた。

 

 

 鬱陶しい…あまり長く見られ続けていると落ち着かない。

 さっきから誰なんだ?

 

(ちょっと探ってみようかな…)

 

 僕はそっと意識を集中させ、自然に身を任せる。

 すると自然は答えてくれた。

 

 若い女。

 この気配、グレモリー眷属ではない。

 

 なるほど、生徒会のさしがねか…

 

「まぁ…僕が情報を漏洩したっていう疑いがかけられてもおかしくないね…」

 

 しかしこればっかりは権藤さんたちがすごいとしか言えない。

 ほとんど自力で、本来なら決して見られない異形を捉えたのだから。

 

 それはそうと、権藤さんがあそこまで動く理由は一体…

 

「それにしても…」

 

 町からただならない気配が止まないのは、この黄金の雷鳴だけだろうか?

 

 

 雨足は弱まることを知らず、横殴りに窓を激しく叩く。

 鬼の太鼓の如く打ち鳴らすそれは、俺の不安を倍増させていく。

 

(う〜ん…どうしたもんだろうな…)

 

 この後絶対部長から話があるはず。

 高校でできた友人である権藤さんについていろいろ聞かれるだろう。

 と言っても、知ってることはあんまりないし、よく話してたのは春雄の方だったからな…

 

『お前の兄弟…春雄だったか?ソイツは様々な者を引き寄せる力でもあるかもな』

 

 ふと赤龍帝ことドライグが俺にだけ聞こえる声で話し始めた。

 

(何かアイツの中の存在を知ってるような口ぶりだったよな。確か…ゴジラって名前がつけられたっけ)

 

『そのゴジラについて、改めて話しておかねばならないことがあってな、これはお前のお仲間全員居た方が良かろう。無論、面倒ごとを解決した後でな』

 

 面倒ごと…木場のことか。

 今でもアイツは端っこの方で何かを見つめている。

 その目は空虚なままだ。

 

「けっ、これが女子たちに『儚い王子様みたい』とか言われんだろ。イケメンっつうのは何しても様になるってな」

 

 悪態をつく匙に普段の俺なら同意するだろうが、ここ数日ずっとあの調子なのも気になる。

 

(事の発端はエクスカリバーか…)

 

 幼少期の俺と、当時よく遊んだ男の子の写真にたまたま写っていた剣。

 なにせ小さい頃だったからそこまでよく覚えてないし、特別何か感じるわけでもなかったが…

 

(木場…エクスカリバーに何があったんだ…?)

 

 あの時一瞬見た目は忘れない。

 そこ知れぬ怒りと復讐に燃える殺意がこもった目。

 

 はあ…

 どうしてオカルト研究部の男たちはこうなんだろうな…

 

 

「リアス、私たちが懸念しているのは、別にあなたたちの行動ではなく、あなたたちが引き寄せる他の異形の勢力が私たちただの()()()に被害が及ばないか、ということよ」

 

「そうならないように、私が駒王町の管理を任されている。悪魔として契約の仕事をするための拠点にこの町を選んだからには、他の勢力の好き勝手はさせないわ」

 

 俺の腹がキリキリ鳴り止まねぇ…

 姉御と部長が、さっきから決して穏やかでない雰囲気が流れてるし…

 

「先程の話を伺うに、あなたがこの町の裏の統治を任されてあるのであれば、他の悪魔、堕天使、天使は不干渉の状態にある…と言うことですか?」

 

「そう言うことになります。私の場合はリアスと親交がありますし、リアスの管轄地内で、契約の妨げになるような違反行為はもちろんしていません」

 

「であれば、リアスさんが本来学校の実験を握るべきなのでは?聞けば、彼女の家計の魔王様が建てたようですが」

 

「表は我々生徒会が、放課後以降はリアスに任せています」

 

「とは言えですよ、リアスさんの仕事に差し支えなく、干渉しないと判断されれば人が殺されるのも容認されてしまうのでは?」

 

 こっちはこっちで一馬さんと生徒会長が質疑応答を繰り返している。

 そこで見る一馬さんは、やはり普段と違って迫力がある。

 下手なことを言って逃れられそうになく、冷静にじわじわと確実に俺たち悪魔の動きや考えを掌握しようとしている。

 生徒会長も、表情に出してねぇだけで、実際は焦ってんだろうな。

 

「まぁ要するにあれだ。一応アンタらの王様のリアスさんであったり、生徒会のところのソーナさんであったり?」

 

 態とらしく権藤さんが今上がった二人の方を見ると、部長と生徒会長は苦手そうに視線を逸らす。

 

「まあアンタらが違反してる連中の取り締まり、んで『はぐれ』だったか?領地内のそいつらの討伐を任されてんだろうが、本当にお前らだけで足りてんのか?」

 

「言ってしまえば…厳しいですわね…」

 

 朱乃さんの答えに最初から期待してないのか、権藤さんは出されていたお茶を啜る。

 

「俺が思うに、このだだっ広い駒王町をたったそれだけの人員でどうこうできるとか、んな甘っちょれえ憶測はねえだろ?

 なぁ匙つったか、お前んところで協力してやれねえのか?」

 

 突然話を振られた匙、予想していなかったのかかなり動揺していた。

 

「え〜と、簡単にそうは言っても、正式な協力は会長が決めますし、そもそもオカルト研究部部長から直接正式な要請がなければ俺らは基本傍観の立場です」

 

「まあお前さんたちがオカ研の奴らと協力したとしても無理だろうけどな」

 

「おっしゃる通りです…」

 

 あの…ホントに権藤さんってただの人間だよな?

 悪魔の俺らがペースを完全に掴まれてる…

 本当に怖いのは人間ってか?

 

「ん?そういや、生徒会の人数が足りねえな」

 

「ああ、それなら今教室で待たせてる春雄の監視らしいです」

 

 すると、代わりに答えた俺の言葉に、3人がガタタッと音を立てて立ち上がる。

 

「監視だと?」

 

「彼をどうするつもり?」

 

「言ったはずだ、彼らは無関係だと」

 

 権藤さんたちの剣幕がすげえ…

 あの部長たちが押されて動けてねぇ…俺もだけど。

 

 この場合、明らかに優位に立てるのは俺たち悪魔だが、ついさっき信用してもらったばかりの俺たちが、悪魔らしく口車に乗せるなり洗脳するなり汚ねえ手を使ってみろ、後に春雄に知られたら今度こそアイツは失望するはずだ。

 

 ここはなんとか俺が抑えとくか…

 

「大丈夫です、権藤さん、姉…じゃなくて茜さん、一馬さん。特別何かするわけじゃないです。確かに俺らは悪魔ですけど、アイツとは…仲間であり、兄弟であり…家族ですから」

 

 

「ここは兵藤を信じるわ。と言っても、私たちの命はあなた方に完全に握られているようなものだしね」

 

「冷静に考えれば…我々はかなり危ない橋を渡ったのでは…?」

 

 無事話も終わり、今はとりあえず監視の強化を行うことを約束することで納得してもらった。

 と言ってもいつ他の勢力に命をかられるかわからない。了承はしたが、納得はしていない感じだ。

 そもそもはぐれ悪魔や堕天使など他の勢力からの凶手から、それなりに話が通じるとはいえ同じく異形の存在である、リアスたち悪魔に頼るのだ。

 不安でないと言ったら嘘になる。

 

 それがただの悪魔であったらだが…

 

「もう!何度も言ってるけど、私たちが自分の手を汚すような真似はしないわ!絶対あなたたち生徒も、この町の人たちのことも守ってみせるから!」

 

 

 無事なんとか話が落ち着き、ようやく帰れる俺は、背伸びをして体のこりをほぐした。

 あのピリついた雰囲気、嫌でも体に力が入っちまうからな…

 しっかし、よくもまあアーシアはあの状況を耐えられたものだ…

 

 暫くみんなで歩いたあと、俺は春雄を迎えに行くため教室へ一人で向かう。

 そう言えば、今生徒会から監査役が来てたっけ?

 

(別に…アイツは思うほど危険な奴じゃないはずだけどな…)

 

『そうとも限らんぞ、相棒』

 

 俺の心の中の呟きに答えるように、ドライグが話し始めた。

 

『相棒の兄弟の中にある力は、俺ですら足元に及ばない異次元の強さがある。それを今まで戦闘とは無縁の生活を送っていたお前の兄弟…春雄が持っているのは周りの連中にとってやはり恐ろしいのだよ』

 

 それは…アイツが力に飲まれて暴走しちまうかも、ってことか?

 

『ああ…アイツが暴走し、力の赴くまま破壊の限りを尽くした時、一体誰が止められる?あれの真の力を目にした時、お前らはどれだけ正気を保っていられる?』

 

 ちょっと待て、アイツにはまだ先の力があるのか!?

 ただでさえアイツは俺たちの攻撃を…

 

『確か…ゴジラだったか?ゴジラを実際に見た俺からすれば、まだまだ実力を1%も出ていない。まだまだお前たちでギリギリ対処できているのだからな』

 

 マジかよ…

 

『マジだ。相棒をはじめとした仲間や友にはまだ実害が及んでいないが、いずれ春雄はその強大すぎる力であらゆるものを滅ぼすかもな…』

 

…黙っとけ…

 

 俺の不安がまた大きくなった。

 一体アイツが前世で何したって言うんだよ…

 もうアイツはいろんなものを失ったんだぞ?故郷の村も、その村の人たちとの絆も…家族も…

 

 まるで今の俺の心を表すかのように、空は雷雨を伴う暗雲に包まれ、今歩く廊下は暗く、どんよりと重い…

 

 いずれアイツが全てを滅ぼす…

 アイツが?まさか…

 確かにアイツはやる時はやる男だが、進んで人を不幸に巻き込もうとはしなかった。

 アイツに限ってあんなことするわけ…

 

 くそっ!

 

 俺はアイツを信じてる…

 血は繋がってなくとも、兄弟の絆は繋がっているとは思ってる…

 

 なのになぜ!

 

…なぜ俺は…アイツを素直に受け入れられない…

 力がなんだ…?

 そんなの関係なく、俺たちは兄弟だ!家族だ…!

 

「くそっ!!」

 

 俺は壁を力一杯殴りつけた。

 鈍い音を立てた壁は、俺の悪魔の力もあって少し凹んだと思う。

 俺の手だって本当は悶絶したいほど痛いはず。

 

 それすら感じられないほど、俺は自分でもわかるほど不安に支配されている。

 信じているつもりでも、心の奥底からアイツを疑う気持ちが海底火山の如く噴き出す。

 

 気分が悪い…吐き気もする…嫌な気持ちを吐き出してしまいたい…

 

 でもそれで…楽になるのは俺だけだ…

 今後はアイツを取り巻く環境は大きく変わるかもしれない…

 

 アイツは既にいろんな奴らに目をつけられている…

 天使の陣営に知られるのも時間の問題だろう…

 それより、話の通じないテロリストのような組織に春雄が目をつけられたら…

 

 

 

 

 吐き気がさらに酷くなる。

 いっそのこと全てを吐き出して楽になりたい。

 

 だが、そんなのは「逃げ」だ。

 

 俺は逃げるなんてことはできない。やっちゃいけねえんだ。

 支えてやるべきだろ、俺よ。

 この程度の辛さ、苦しみ…春雄が味わった惨劇の人生に比べりゃなんだってんだ。

 

『相棒…さっきは無粋だったな…謝罪しよう…』

 

「いいんだドライグ…ああでも言ってくれなきゃ、俺は気づかない間にアイツを見放したかもしれない。あそこで踏みとどまって考えられたからこそ、俺は決意できた。強くなる理由も見つけられた」

 

『…聞かせてもらってもいいか?』

 

 んなの決まってる。この力をもって、悪魔になった時から思いは変わらない。

 ハーレム王になって、女の子の眷属に囲まれる。

 これは今でも、この先も揺るぎないものだ。

 

 だがそれは悪魔としての目標だ。

 

 この力をなんのために使うか?

 

「大切なものを守りたい…ただそれだけだ…」

 

 俺はバカだからこの力の有用な使い方なんてわからない。

 使うやつが使うやつなら、もっとこの力を引き出せるかもな。

 それでも今は俺が持ってる。

 だったら、俺は一途にこの力を伸ばしていく。

 

 もう…涙を見るのも流すのも御免だ。

 

『ふ…此度の赤龍帝はおもしろい…どこまでもバカで、どこまでも熱く、どこまでも仲間思い…いいだろう、その思いをバネに強くなれ』

 

「へ、ありがとよ。ドライグ」

 

「誰と話してるの?」

 

 へ…?

 

 気がつけば、俺の目の前に、春雄が女の子を抱えて立っていた。

 俺は思わず口から変な言葉が漏れ、その場に尻餅をついてしまうのだった。

 

「なんだよイッセー。まるで幽霊にでも出遭ったみたいなリアクションして…」

 

 不思議そうにこちらを覗き込む春雄だが、今の俺はお姫様抱っこされている女子生徒に意識が集中している。

 お姫様抱っこは人によっては憧れるものだが、そんな胸ときめくようなものじゃねえ。

 春雄が王子様なら、抱かれている女子生徒が姫様になるわけだが、そんな彼女が白目を剥きながら涙を流し、引き攣った笑みを浮かべて失神しているのだ。

 

「何があった!?」

 

「ああ、いや。たぶん生徒会の監視役なんだろうけど、あまりジロジロと見られるから鬱陶しくなって…ちょっと気配消して隠れてる方に意識飛ばしたら、この子気を失っちゃって…」

 

 絶対お前殺意飛ばしたろ…

 まあでも、ずっと見られ続けるのはストレスだし、普通に考えれば春雄も耐え難いのだろうな。

 無理もねえか。

 とりあえず、生徒会には多めに見てもらおう。

 

 はぁ…

 

 生徒会に気絶したこの子を預けた後、俺らは逃げるようにそこを離れた。

 早く帰りたいのに春雄がいろいろ聞かれるのはたまったもんじゃない。て言うか、匙の奴がめっちゃ睨んできやがった。

 

 

 俺と春雄が並んで校舎から出てくると、部長とアーシアが傘をさして待っていてくれた。

 隣を歩く春雄は少し居心地を悪そうにしていた。

 そして部長に視線を移せば、不機嫌さが表に出ている様子だった。

 

「春雄、彼らのことを家で話してもらってもいいかしら?」

 

「はい。自分が知る限りですが…あと…なんか、裏でいろいろあったみたいですね。自分も加担していた身なんで、権藤さんたちを止めるべきだと思ってました。反省します」

 

 春雄は部長の前に来て、90度頭を下げた。

 雨足が強まるこの時間、本来なら黄昏時で美しい朱色に染まる筈だが、今は夜と思わせるほど光はない。

 殴りつけるように雨は強く降り、風はないが轟音が鳴る。

 

 頭を下げたまま春雄はその場に固まる。

 この間ほんの数秒だったが、もうずぶ濡れで髪は水の重さで垂れ下がり、顔をつたって雫が落ちる。

 

 淡々と部長に語っていたが、恐らくかなり反省してるんだろうな。

 怒ってるのはたぶん、相談も無しに話を勝手に進めてことだ。

 デリケートかつリスクがある悪魔の問題を、一応一般人扱いの春雄が一人抱える必要はねえんだ。

 まったく…水臭えな…

 

「部長、行きましょう」

 

「そうね、早く帰ってご飯食べましょうか」

 

「はい!部長さんのご飯楽しみです!」

 

 春雄、行こうぜ。

 俺はバンっと、コイツの濡れた広い肩を軽く叩く。

 

「お前がそこまで気負う必要はねえよ」

 

 全くもってその通りだ。

 以前アーシアが言っていたが、春雄は本当にもう救われていいと思う。

 

 幼い頃は何もかも失い、これ以上ない絶望と孤独を経験し、今では宿す力が周りを影響し、人生を振り回され続けている。

 なんでもない日常の幸せをコイツに…

 

「ありがとう、イッ…」

 

 不意に春雄の動きが止まった。

 そして次に辺りを見渡し、そっと目を閉じた。

 

「どうしたの…?」

 

 部長が心配そうに問う。

 しかし、春雄は一切反応を見せないまま目を閉じ精神を統一していた。

 

「春雄さん…?」

 

 恐る恐るアーシアが呼びかけるも、春雄は全く耳を貸さない。

 俺たちの不安を煽るように雨足は強さを増し、稲妻が空を覆うように迸った。

 瞬間、その雷鳴に劣らない衝撃が俺たちを襲った。

 

 

 

ゴガァ"ァ"ァ"ア"ア"ア"!!

 

 

 

 手足を力の主のもの…ゴジラに変化させ、尻尾を生やした春雄は、猛禽類を思わせるほど鋭くなった目でとある一点を睨みながら咆哮を上げた。

 空気を震動し、耳をつんざくその轟は、俺や部長、アーシアの恐怖の思考を取り払う。

 

 俺は何も考えられなくなった。

 ただただ呆然と見ることしかできなかった。

 

『相棒!正気になれ!見失うぞ!』

 

 その声でハッと我に返った俺たちは、すぐさま春雄の背中を追った。

 

(…!背鰭…なのか?)

 

 春雄の背中から、黒く鋭く尖った楓のような鰭が服を突き破っていた。

 あまりにもそれは異質だ。生まれてこの特徴と合致する生物なんて見たことない。

 

「春雄!」

 

 いかんいかん、完全に呑まれてた。

 俺はすぐ走り出し、その後を部長とアーシアが傘を投げ捨て追う。

 

『!』

 

 春雄の行動に困惑と驚愕が止まらねえ…

 アイツは走った勢いを殺さず、大雨で濁流となった川へ躊躇うことなく飛び込んだ。

 

「一体何が…」

 

 アーシアが呟く。

 アイツが豹変して動く時は基本敵がいる時、または戦いが起こるかもしれない時…まさか!

 

「部長!」

 

「わかってるわイッセー」

 

 部長も俺と同じことを思ったらしい。

 ああもう!なんで約束した直後なんだよ!

 

 

 ついに雷雨は止まず、闇が支配する夜が来たる。

 駒王町の住民は窓を叩く雨と、大砲のような雷に怯え夜を過ごすのだろう。

 

 そして、普段の賑わいを失い、自然の猛威の音のみが耳につくこの頃…

 

「おやおやぁ?クソ悪魔の騎士様を匿うことはどういうことかわかっているんでしょうなぁ?」

 

 飄々とした態度に、隠しきれていない狂気的な言動のフリードが、美男子を守るように前に立つ男を煽る。

 

「彼はうちの学校の生徒だ。種族がなんであれ、私には関係ない。教師たるもの、困っている生徒がいれば手を貸すし、危機に瀕しているなら守るのが普通だ」

 

 対照に男子生徒を守っている男は、表情が読めず、どこまでも無機質であった。

 

「は!こんなところ見られたんで首チョンパ確定ですけど〜、一応教えますとソイツ悪魔なんすよ。んで、悪魔は総じてクソでクズな集まりなんで、見つけ次第即排除なんすわ」

 

「彼が何か悪いことをしたとでも?」

 

「存在自体が悪っすわ」

 

 一瞬男の眉がピクッと動いた。

 

「神永先生…」

 

 男、神永の身を案じたのか、はたまた余計なお世話と突き放すためか、普段から想像もつかない形相と、怒りの籠った口調で彼を呼ぶ。

 

「君の今の状態では満足に戦うことはできない。復讐するつもりだろうが、ただ向かって死んでは無念も晴らすことはできない。君はまだ生きなければならない」

 

 そう言って、神永は男子生徒、木場の意識を刈り取った。

 

「フリード…か…研究室で拝見した資料に名があったな…」

 

 あまりにも正当性を欠いた一方的な主張のみで、話は通じないと判断した神永は、生徒を守るために『裁定者』としてフリードに立ちはだかった…

 

 

 

 




 とうとう『彼』も動き出しましたね。
 フリードは勝てるでしょうか…
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