黒き王の原罪   作:イテマエ

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本日も長くなってすみません…

漸くあの二人をちゃんと出せました…



第27話 俺たちの先生

 朝、俺は隙間から差し込む光で急いで目を覚ます。

 ガバッと起き上がり、隣を見るといつも通り部長とアーシアが両サイドを占拠していた。

 

「ん…」

 

 俺が勢いよく起き上がったことで、部長の豊満なおっぱいに、俺の腕が…

 って、違う違う!今はそんな煩悩に塗れているわけにはいかないんだってば!

 この期に及んで今の俺って、自分でもガッカリするくらい危機感がない。

 とは言っても、これって俺だけが悪いんですかね?

 

「はぁ…」

 

 両サイドの美少女を見れば、穏やかな寝息をたててぐっすり寝ていらっしゃる。

 あの、部長?アーシア?今駒王町に危機が迫ってるって言ったよね?

 前回結構シリアスだったけど、初っ端から大丈夫か、これ…

 

 

 今俺たちオカルト研究部が抱える問題は、木場と関わりが深いエクスカリバー、堕天使が企てる戦争、裁定者こと神永先生の動向、そして行方不明の春雄…

 

 一見問題が山積みに見えるが、よくよく考えれば懸念される事項は少ないと言える。

 まず神永先生について、今回はそこまで警戒することはないだろうし、むしろ俺たち生徒の安全のために尽力するそうだ。

 とは言っても、神永さんは目を見張るような強さをしていたものの、敵が堕天使たちならな…先生が持ってる力はすごいが、俺たち悪魔のような魔力とか、堕天使とかエクソシストの光を纏った攻撃ができるわけでもない。

 あのフリードの野郎との戦いで、圧倒できるほどの立ち回りも、フリードも結局は人間であってできたわけで、空に飛び立てられたならば、神永先生は戦えない。

 

 そのはずなんだけど…

 

「神永先生…まだ何か隠してそうだな…」

 

 未だ謎が多い裁定者だが、先生は信頼に値する人だと思う。

 あの時、先生は言った。『生徒の味方』であると。それは例え俺らが悪魔でも、その認識は変わらないそうだ。

 だから先生と俺たちが敵対する可能性は限りなく低い。それは俺は何よりも嬉しい。

 

 そして、今回の戦争は明らかに堕天使たちが勝手におっ始めようとしてるだけだし、きっと連中のことだからくだらない理由に決まってる。

 客観的に誰が悪い、なんて言ったら、誰もが堕天使と答えるだろう。

 

 そもそも俺たち悪魔はこの町を仕事場にする代わり、はぐれとか人に害を及ぼす危険な分子の排除以来だって受け持ってる。

 反対に堕天使はついこの間、俺やアーシアが神器を持つ者として殺しにきたばっかりだ。

 俺は危険を孕んでいるから、アーシアの神器は目を引くものがあるから、ではあるが、殺されたことに変わりない。

 今の堕天使への印象は最悪。そしてさらにイメージダウンに繋がりかねない戦争…

 

「早いところ敵が何者かわかっちまえば、どう対処するか動きやすいんだけどな」

 

 まぁそれは今日わかるだろう。

 教会からエクスカリバー持ちが派遣されたそうだし。今日はその人たちが俺たちオカ研に来るそうだし、わりかしなんとかなりそうだな。

 とは言え、戦争の規模がもし全てを巻き込むほど巨大なものだったら…

 まだ安心はできないけど、裁定者と魔王の妹がいるこの町で、流石にノープランで徒に武器を振り回すなんて程度の低い行動はとらないはずだ。

 恐らく今は戦争の準備期間。その間に俺たちが対策を立てるしかない。

 

 だが、今俺は最も大きな不安を抱えている。それが…

 

「どこ行った…春雄…」

 

 

 結局アイツは家に帰ってくることなく、学校にも出席しなかった。

 普通なら担任が休みの詳細を知るため家に連絡を寄越すが、流石に春雄のことが知られるのはやばい。

 部長にどうにかしてもらおうとは思ったが…

 

 よく考えれば、担任は神永先生じゃん。

 こちらの事情を把握している人だし、春雄のことは任せても大丈夫なはずだ。

 

 変に肩に力が入っちまったな…

 俺は背伸びして、凝り固まった肩を回してほぐす。

 しっかしどうすっかな…

 

 春雄が豹変し、ゴジラの怒りのまま暴れる時は、『自己防衛』または明確な『敵』を迎え撃つ時だ。

 今回は恐らく後者…

 たぶん堕天使の存在や、エクスカリバーの存在に気づいたんだろうな。

 そしてあのまま帰ってこない様子は、この町にまだ堕天使たち他勢力が潜んで企んでいるからなんだろう…

 

…もし…もしアイツが既に堕天使と交戦していたとすれば…

 正常な判断もなく、闘争本能を滾らせ、獣の如くあのゴジラの力を振り回せば、並の堕天使ならいとも容易く命を刈り取れてしまうのは、レイナーレの時に確認済みだ。

 

 この町で堕天使が殺された。

 

 その犯人が、悪魔側につくゴジラを宿した春雄ならば…

 

 それを契機に堕天使たちが戦争を…

 

「なぁイッセー、窓の外なんかボーッと見て…何か気になるものでもあるのか?」

 

 俺の意識は一気に現実に引き戻され、俺の目の前にはいつもの友人がいた。

 心底心配してくれているのが、松田の表情を見てすぐわかった。

 

「大丈夫か?隈もすげえし、どこか顔色も悪いぞ?」

 

 元浜の指摘通り、今朝洗面所に立ち、鏡を見た時は軽く驚いた。

 別に俺はナルシストでもないから、毎回毎回注意深く鏡の中の自分と睨めっこすることはないのだが、それでもパッと見てわかるほど俺の顔から疲れが見えた。

 目は脂が溜まったと思わせるほど濁り、肌も若々しく血色のいいものとは違っていた。

 

「いやな…ちょっと疲れただけだ」

 

 ここで弱音なんて吐いていられない。

 俺たちの住む町が惨劇に見舞われるかもしれないと思うと、おちおち寝ていられない。

 そして何より、春雄のこともある。

 朝すぐ目を覚まし、眠気も全部吹き飛んだのも、部長のおっぱいに偶々触れたラッキースケベだけじゃなく、朝を待ち侘びたからだ。

 「朝を待ち侘びた」なんて、悪魔の俺がおかしいと思うかもしれない。

 しかし俺は夜、ずっと物思いに沈んでいた。

 

 明日にはどうなっているか…

 

 俺たちだけでなんとかできるのか…

 

 友人や家族、大切な人を守れるだろうか…

 

 次々と湧き出る不安が俺を焦らせ続けた。

 だから願った。

 早く朝になってくれ。

 

 眠れたのは、あれだけ降っていた雨が上がり、東の空が青くなり始めた時だった。

 微かな安心と、全てがわかる日への新たな不安による疲労が、俺を眠らせてくれた。

 

 

 いつも通り、何気ない日常が過ぎていった。

 授業に真面目に取り組む者、端の方で雑談をする者、隠れて携帯にうつつを抜かす者、睡魔に負けた者など、様々だったが平和に時が流れた。

 しかし俺は、これが嵐の前の静けさにしか思えず、真面目に授業を受けることも、寝ることも何もできなかった。

 

 いつもよりも、かなり長く感じた授業が全て終わり、いよいよ放課後を迎えた。

 そして、俺は重い足取りで旧校舎に向かっている。

 

「イッセーさん…」

 

 表情が暗いアーシアが俺に寄り、俺の制服の裾を掴んできた。

 

「ごめんなさい…イッセーさん…イッセーさんは色々悩んで夜は眠れなかったはずなのに、私だけが眠ってしまったようで…」

 

 ああ…確かそうだっけか。

 俺の腕を部長と一緒にガッチリホールドして、スヤスヤ眠ってたな。

 全く、神経が図太いな、二人とも。

 

「私…不安で不安で…とてもじゃなかったですけど、イッセーさんに、その…くっつかないと眠れないくらいだったんです…」

 

 だよな。心配しないわけねえよな。

 これからヤバいことが起こるってわかってりゃ。

 たぶん部長もそうだろう。

 

 あの状況で全く気にせず寝られる奴なんて、よほどの戦闘狂くらいだろうな。

 

「別にいいんだぜ、アーシア。こんなこと知っちまえば、誰だって怖いと思うし、明日どうなるかなんて考えた時には不安でしょうがねえはずだ。でも、俺に抱きついて、少しでも不安が紛れるなら、安心して眠れるなら、それでいいさ…

 だからさ、怖くなったら俺の側にいてくれ。俺もアーシアを守るから」

 

 内心ドキドキしながらそう宣言した時の、彼女の嬉しそうな顔は忘れない。

 絶対守る。

 アーシアも、部長も、他のみんなも…

 

 俺の手が伸びる限り、届く限り、みんなを守ろう。

 立ち上がる気力がある限り、俺は戦い続けよう。

 俺は弱い。

 体も、心も。

 戦いだってまだ満足にできない。

 それでも俺は…俺は戦う。

 この身がどれだけ傷つこうが、どれだけ辛い思いをしようが…

 

 もう部長の…アーシアの…仲間の…そして春雄(兄弟)の涙なんて見たくない。

 

 だから俺は戦うことを誓う。

 

 

 

 俺はたった一人の『兵士』だ。

 

 

 

 『兵士』は『王』を守るため、仲間の誰よりも先陣に立つ。

 地道に進むことしかできないし、誰よりも危険な、死地に立たされることだってあるだろう。

 それがどうした?

 こんな弱い俺を、春雄は頼ってくれた。アーシアは俺を英雄(ヒーロー)としてくれた、部長は俺を大切にしてくれた。

 そんなこの上なく、俺にとって大切な人の期待に応えるため、俺はこの体に宿った相棒・ドライグと戦い続けよう。

 

 今は弱くてもいい…

 

 いつか、『王』すら超える『守れる力』を手に入れてやる…

 

 そして…本物の『英雄』へ…

 

 

 

 俺はそっと、アーシア頭を撫でてやった。

 その時彼女が見せた柔らかな微笑みに、俺は気を引き締めた。

 

『守り通してみせろよ、相棒』

 

 ありがとう、ドライグ。そして、改めてよろしく。

 これから散々迷惑をかけ、我儘を働くかもしれない。

 

『別に気にしねえさ。それに、お前さんには見張るものがある。それはー』

 

 ー 人を思う力 ー

 

『俺の今までの相棒だった奴らは、強力すぎる力に振り回され、欲しいもののため、自分の思い通りとするため、好き勝手暴れ回ってたな。

 だが、今の相棒は周りの人に恵まれている。そして、お前はその者らを守るために戦うときた』

 

 なんだ?

 前までの人たちみたく、傲慢で非道になれってか?

 

『お前はそうなるな。お前が強くなった時は、いつだって誰かを思った時だった。誰かのために戦う此度の相棒が、俺には珍しく思えたのと、眩しいと思った』

 

 なんだ、ドライグ。嘲笑(わら)ってもいいんだぜ。

 

『誰がお前を嘲るか。俺は崇高な魂を持つお前を誇りに思っている。

 確かに今は強くはない。だがお前はすぐに至るだろう。赤龍帝の頂へ。

 仲間と共にし、戦うお前が心を強くしていったように、実力も自ずとついてくるだろう』

 

 そうか…ドライグ…ありがとよ…

 俺はきっと、歴代で最弱な赤龍帝かもしれない。

 変えられないものは多いだろう。

 それでも、俺は仲間共に突き進むだけだ。

 

 俺は一人じゃない。

 

 『兵士』として前に出て戦うことは、決して孤独なんかじゃない。

 

 みんなが後ろにいる。

 俺はそう思えるだけで戦える。

 

 

 

「アーシア、俺が守ってやるから。みんなのことも、な」

 

 

 

 『痛みを知るのは一人だけでいい』

 

 なんて思えるほどの度胸も強さもない。

 これを言えるのは、覚悟と責任を一身に背負って戦う本当のヒーローだろうな。

 

 仮にもし、そんな存在がいたら、俺がどれだけ強くなったところでその人の足元にも及ばないはずだ。

 それでも、みんながいる限り、俺は立ち続ける。

 そして、少しでもその存在に近づけるようになろう…

 

 

 オカルト研究室の扉を開けると、そこには既にメンバーが集まっていた。

 部長を始めとしたオカルト研究部、そして生徒会長、そらには権藤さんや姉御に一馬さんまでもがいた。

 加えて、ソファに座るのは見覚えのない少女たち。

 フードを被っているが、僅かに見えるその顔立ちは相当なものだ。

 ついついドキッとしてしまいそうになった…

 

 

 

…俺ら悪魔にとって禍々しい『聖なる力』なんてなければな…

 

「遅れてしまったようだな。謝罪する」

 

 そして、俺らが入室した直後に、おそらく最重要人物であろう神永先生が入ってきた。

 

「まだ時間ではありませんから」

 

「問題ありません」

 

 部長と生徒会長がそう言うと、神永先生は「そうか」と素っ気なく答え、ソファに座る二人の少女の前に立つ。

 

「教会から派遣された者たちだな。早速始めたいところだが、断りを入れておく。

 今回この町に起こる異変を把握していること、年長者であること、そしてどの組織にも属さないことによる客観的判断が可能な私が便宜上仕切らせてもらう」

 

「それで構わない。話が有意義なものになることを願うよ」

 

 神永先生の提案に、教会からの使者の一人が、男性的な口調で返答した。そして、一緒にいる相方の方も同様だ。

 しかし、相方の方から時々視線が送られるのは気のせいか?

 

「君たちもそれで構わないか?」

 

 神永先生が悪魔である俺らにも確認をとった後、話し合いは始まった。

 何も起こらなきゃいいが…

 

 

 この場で話されたことは、大きく二つ。

 一つは今回引き起こされるであろう戦争のことだ。

 

 首謀者は、堕天使の組織神の子を見張る者(グリゴリ)の幹部であるコカビエル。旧約聖書偽典『エノク書1』によると、人に天体の(しるし)を教えたとされている。

 69章によると堕天使のNo.4とされるため、かなりの実力者とも伺える。

 

 これほどにまで地位があり、強力な力を有する者が戦争を起こそうとしていることに、部長や生徒会長をはじめとした、この町に住まう悪魔のみんなは驚愕していた。

 俺だって驚いている。

 まさかとは思ったが、やっぱりとんでもねえ奴が裏にいたか…

 

 神永先生以外、驚く俺たちに教会の戦士の一人、ゼノヴィア・クァルタさんが話を続けた。

 

「そして、コカビエルはこの町に来る前、教会からエクスカリバーを盗んだことも発覚している」

 

 その言葉に相槌を打つのは、ゼノヴィアさんの相方の紫藤イリナだ。

 春雄が家にやってくる前、近所付き合いで仲良くした記憶があったが…

 

(女だったの?)

 

 小さい頃、「わんぱく少年」のイメージが強かったため、容姿端麗・女性らしくなったことに驚きだぜ。

 

 無駄話はこの辺で…俺は意識を切り替えた。

 

「なるほど、大方あのフリードという男が持っていたあの模造品は、盗んだものを渡されたか、はたまた…」

 

()()()()…」

 

 つい神永先生に続いて呟いちまった。

 しかし、話を遮る形になったことを神永先生は怒らず、静かに頷いた。

 

 

 

 俺の予想が当たった。

 もう一つ話されたのは、『聖剣計画』についてだった。

 

 悪魔、堕天使に対抗できる者は自然界に些少なほどしか存在しない。

 先天的に聖剣へ適正を持つ者でなければ、エクスカリバーは扱えない。

 来るべき大戦の時に備え、計画者はその適正者の数を増やせないかと、聖剣への適正を後天的に付与できないかを研究した。

 対象は教会信者の子供、または教会に預けられた孤児などだった。

 

 そしてその中には…

 

「木場祐斗もいた…そうなんだな?」

 

 神永先生は部長へ確認を取る。

 すると部長は、見るからに悲しそうな表情で、木場の過去を語った。

 

 後天的にエクスカリバーへの適正を与える計画は難航した。

 やはり扱うものが、聖書や聖水など他と一線を画すほどの代物だからか、子供たちの適正は全くと言っていいほどなかった。

 

「そこで、この研究の責任者である『バルパー・ガリレイ』と言う男は大罪を犯すことになった」

 

 部長の話に合わせて語るゼノヴィアさんの声色からも、その事件の凄惨さが伝わってきた。

 

「あの男にとって、被験者だった子供たちは単なる実験材料に過ぎなかった。成果が得られなかったと知れば、不適正におわった子供たちを一人残らず殺した…」

 

 そして、続くのはイリナ。

 悔しさ滲むその様子、どれほどにまで心が痛いか…

 

「よほど教会側に知られたくなかったんでしょうけど…流石にここまでのことをしでかしてくれたから、割と早い段階でその計画を突き止め、以後凍結。バルパーも裁かれるはずだった…でも…」

 

「聖剣計画は別な形で成功し、君たちのような戦士が生まれた。木場祐斗ら幼い子らの犠牲の上に、今の君たちがいる」

 

 神永先生の無機質な声に、やや棘があるような気がした。

 そして、視線を少し下に落とすと、握られた拳が微かに震えていた。

 

 神永先生の言葉に、ゼノヴィアさんやイリナは何も返せなかった。

 皮肉なもんだな。

 「使えないから」虐殺という許されざる行いの後、聖剣は扱えるものになったんだからな…

 

「…」

 

 ふと木場の方をチラリと見る。

 部屋の隅で、何も言わずに佇むアイツの目には、どろっと濁ったような『殺意』と『怒り』が読み取れた。

 発する雰囲気が、いつ教会の二人に飛び掛かってもおかしくなかった。

 

「木場祐斗」

 

 そんな木場に、神永先生が言い放った。

 

「敵を見誤るな。今の君にはまだ何も見えていない。ここは抑えて欲しい」

 

 すると木場はさらに雰囲気を変え、徐に神永先生に歩み寄る。

 

「あなたに何がわかるんですか…」

 

 普段の木場からは想像できないほど、ドスの効いた怒りの声。

 俺たちはあまりの変わりように、動揺して動けなくなってしまう…

 

 

 

…神永先生ただ一人除いて。

 

 木場が魔剣を作ると同時に、ゼノヴィアたちがエクスカリバーに手をかけようとしたが、すぐ神永先生が制する。

 そして、二人を背後に木場の前へたった

 

「あなたに何がわかるんですか!?目の前で僕は多くの同胞を失った!そして僕だけがのうのうと生きてしまった!これがどれだけ苦痛だったか!」

 

 神永先生に、精製した魔剣を向け、今にも殺さんと睨みつけた。

 しかし、先生はそれでも動かない。

 

「『敵を見誤るな』…今僕の目の前に、全ての元凶、最大の怨敵のエクスカリバーがあるんです…あれを破壊し尽くすまで、この怒りは収められません…!」

 

 魔剣を構える木場の目に、様々な感情が入り混じった光るものが浮かんでいた。

 そして声からは、必死に何かを押さえつけようとしているのがわかる。

 

 暫くの沈黙の後、神永先生はそっと話しかけた。

 

「君は、今なぜこの二人が悪魔の根城としている駒王学園に来たか…それは単に、ここにいる悪魔全てを狩るためでも、戦うためでもない」

 

 平和を勝ち取るために我々は集まった。

 

 そう答える神永先生には強さがあった。そしてその強さに加え、陽の光のような温かい優しさも感じた。

 

「今回敵にエクスカリバーが渡っているということは、コカビエルが盗んだだけとは考えにくい。本来純粋な聖剣使いではないフリードが、エクスカリバーの模造品を扱っていた。

 つまりその剣を扱えることを知り、そして調整できる者が裏にいるはずだ。そして、そのシステムを知っている者は一人しかいない」

 

「バルパー…」

 

「そうだ。君が同胞の思いを背負い、討ち果たすべき相手はこの二人ではない」

 

 怒りや殺意が幾分収まると、木場は魔剣を下げ俯いた。

 そして、頰を伝って雫が垂れた。

 神永先生が冷静に対処してくれたおかげで、木場も物事を見極められたらしい。

 

 今アイツの心に浮かぶのは、仲間への無念や、敵への復讐だけでないだろう。

 あの涙は、そのマイナスなものだけではない。

 木場とその同胞の思い出が辛いものだけだった、そんなわけないよな。

 

 最後に、神永先生は木場の肩に、そっと手を置き、

 

「今もなお、バルパーによる蛮行が続いていると思える。君のその手で、くだらぬ野望を終わらせてはくれないか」

 

 

 その後も話し合いが続き、途中すれ違いが起きようとしたけど、そこは神永先生がなんとかしてくれた。

 

 教会側は盗まれたエクスカリバーを奪取、もしくは破壊すること、そして首謀者であるコカビエルを倒すことを目的としているが、はっきり言って無謀だ。

 先にも述べたように、堕天使幹部クラスのコカビエルの実力は相当なものだ。

 それをエクスカリバーを持っているとは言え、人間たった二人でどうにかするなんて無理な話だ。

 

 だが、論争になった部分はそこではなく、次にゼノヴィアさんから出された要求だった。

 

『何もするな』

 

 元々エクスカリバー強奪は、単純に教会側の落ち度であるにも関わらず、その責任を追及せず、悪魔の領地でもある駒王町での活動には「邪魔をするな」だそうだ。

 あまりに一方的な主張に、部長はカンカンだったが…

 

「たった二人でこの町を守れるのか?」

 

「元より我々は、エクスカリバーの奪取もしくは破壊、コカビエル討伐だ。それらが成功すれば、この町は救われるのでは?」

 

 神永先生の問いに、ゼノヴィアさんが当然のように答えるが、

 

「聞きたいところはそこじゃねえよ、バカ野郎」

 

 ふと声がした方を見ると、明らかに不機嫌な権藤さんが腕を組み、二人を睨んでいた。

 

「なんだ…ただの人間か…本来君ら悪魔と関わっている者たちは断罪したいところだがな。確か権藤だったか…何を言いたい?」

 

「お前さんら、この町に無関係な人間が何人いると思ってる?」

 

「この町には特別な力を持たない多くの一般人が暮らしているの。そんな人たちを戦争に巻き込むつもり?」

 

 権藤さんに続いて姉御も問う。

 ゼノヴィアはため息をついた後、やや面倒に感じつつも言う。

 

「だから言っているだろう。我々がこの件をなんとかすると。それに、我々が仮に及ばなくとも、すぐ教会側が動き、コカビエルを倒すはずだ。それまで我々は最低限コカビエルを弱らせることができれば…」

 

「世間一般で、悪魔や堕天使はもちろん、エクソシストやエクスカリバー使いが物理的な面でも捉えることは不可能です。我々が何も知らない間、戦争が始まり、住民の避難も儘ならぬままこの町が戦火に包まれれば、一体どれだけの死者負傷者が出るか、お考えですか?」

 

「要するに、お前らはコカビエルをどうにかして町を()()()()救うわけだ。前提が違うな。あらかじめ住民に被害が出ないようにしろって言ってんだよ」

 

 一馬さんに続いて権藤さんも言い放つ。

 そして最後に神永先生が言う。

 

「君たちはこの町を犠牲に、勝てない戦争へ挑むつもりらしいな。君たちがそうすれば、罪のない人々を戦地に立たせ、見殺しにすることでもある。

 力のない人々が教会の者の不手際で蹂躙されれば、君たちの責任は今後大きく出るだろう」

 

 するとゼノヴィアもイリナも黙り込んだ。

 教会側でも悪魔側でもない、宗教に関係がない客観的な視点による人間の指摘に二人は言い返せない。

 

 黙ったままでは埒が明かないため、神永先生が提案したものを妥協案として呑んだのだった。

 

ー教会側の二人は基本的にこの町での調査は自由とする。ただし、殺人など看過できない悪事を働く悪魔に魅入られた人間以外の断罪、グレモリー眷属が活動するための契約者の断罪も禁止とするー

 

ー有事の際、住民の安全を最優先とし、なるべく学園を戦場の舞台となるように誘導し、グレモリー、シトリーと協力して対処にあたるものとするー

 

ー協力関係の間、私闘は禁止とするー

 

 

 お互い全て納得と言わなくとも、始めにゼノヴィアが持ってきた案よりは遥かにいいはずだ。

 木場も一触即発なところはあったけど、今はかなり落ち着いていた。

 

「おい、イッセー」

 

 すると後ろから権藤さんが肩を組んできた。

 あまりにも勢いが強く、つい倒れそうになるが、そこは普段鍛えている体幹で耐えたが…

 

「これだけの面倒な巻き込んでくれたんだ。そのうち何か奢ってもらってもいいんじゃねえか?」

 

「え〜…権藤さん…でも、今金が…」

 

「そう酷いこと言いなさんな、全部終わらせたら焼肉な。あと姉御と坊やにも」

 

「えぇ!?3人分!?」

 

「確かに、それくらいのことしてもばちは当たらないわ」

 

「普段の生活からもお世話になってますしね」

 

 こ、怖ぇ…

 今受けている御三方からの圧が、人間とは思えねえ!

 まさに獲物を狩る鷹のそれだ。

 狙った獲物()を逃さないその様子に、俺は冷や汗と震えが止まらない。

 

「あの…申し訳ありません…でした…」

 

 心の底からの反省を3人に伝えると、姉御と一馬さんは深くため息をついた。

 日頃松田や元浜と馬鹿をやっては、よく二人から注意や指導が入るからな…

 

 ホントに…すみません…

 

 最後に権藤さんが、身支度をしながら「きっちり面倒かけた分は払ってもらうが、延長の場合は延滞料金もあるからな。早くしろよ」と言い、俺の心と財布を氷付にし、最後にみんなを向いて言った。

 

「俺らはその辺のどこにでもいるような人間です。今はまだ何もできません。あなた方に頼ってばかりになることに、情けないと思いつつ、いざ我々ができることがあるかと言えば、現状大人しくしている他ないことに無念さを覚えています」

 

 そして3人揃って頭を下げると、

 

「この町のことを…よろしく頼みます…」

 

 とだけ言い残して帰っていった。

 

 

 権藤さんたちは帰り、ゼノヴィアさんたちエクスカリバー使いも帰ろうとした時、事件は起きる。

 

 話も終わり、悪魔側と教会側という明確な分断も無くなったところで、イリナが俺の元に歩み寄り、

 

「イッセー君…本当に悪魔になったのね…」

 

 彼女は俺が悪魔になったことを、大変残念そうにしていた。

 

「後でおば様のところにもご挨拶に行くから」

 

「そ、それはいいけど…」

 

「大丈夫よ。悪魔と馴れ合うのはダメと言われてるけど、おば様たちは悪魔でもないし、そっちにも悪魔になった理由だってあるだろうし…」

 

「イリナ…」

 

 なんて心の広いお方だろうか…

 悪魔になった幼馴染を忌み嫌うどころか、今でもその繋がりを蔑ろにしようとせず、俺が悪魔になったことも目を瞑ってくれて…

 

「あ!でも、断罪されたくなったらいつでも言ってね?」

 

 前言撤回。

 何この子?怖いよ…なんで断罪するって言った時に頰を赤らめるの?

 ヤバいよこの子…かなり信仰に酔ってんな…

 

「帰るぞ、イリナ。これ以上ここに長居する必要はない」

 

「わかってるわよ、ゼノヴィア。またね、イッセー君。後で新しく家族になった春雄君って子にも会わせてね」

 

 春雄の名が出た時、俺に再び不安という感情が襲いかかる。

 もうじきこの町で戦争が起こるっていうのに、春雄は今どこにいるんだ…?

 

「そう言えばつい先日の夜、堕天使たちの気配を感じ取り、すぐその場へ向かったのだが…」

 

「そうそう、イッセー君たちのいる町って、何か妖怪か怪物かなんかいるの?」

 

 二人から話された内容に、俺はもちろん部長たちはもちろん驚き、神永先生ですらその目を大きく開いた。

 

「真っ黒で鎧のような皮膚に、堕天使の肉をいとも容易く裂く鋭い爪、丸太のように太く強靭な腕や足、さらには尻尾が伸びていたな」

 

「それが、初めは人型だったんだけど、気がついた時には恐竜みたいな顔に変わってたり、背中から沢山鰭が伸びてたりで…」

 

「何というか…できれば相対したくないな…あの強さは…」

 

 二人の表情から恐怖が読み取れた。

 そして俺たちは更に驚き、冷や汗を流す。

 

 述べられた特徴が、春雄のゴジラの力と合致している。

 

 春雄が豹変し、ゴジラの力を引き出すと、並外れたパワーと防御力の他、危機察知能力や気配探知など、説明し難い第六感も優れるそうだ。

 

 あの時いなくなったのは、いち早くこの駒王町で異変を感じ取り、即座に元凶を叩こうとしたからだ。

 きっと今も、異変を齎す首謀者を本能で追っているはず…

 

「もう殺り()合ってたのか…」

 

 俺の恐れていることが起きた。そして、春雄を知っている部長たちオカ研部、生徒会、神永先生もみんな同じことを思っているはずだ。

 

「リアス・グレモリー、ソーナ・シトリー、恐らく昨夜の堕天使殺しは、コカビエルによって組まれた計画的な罠だ」

 

「そのようですね。このことを理由に、コカビエルの駒王町を舞台にした戦争が早まるかもしれません」

 

「幸い春雄のゴジラの能力で、彼自身やられていないと思いますが…」

 

 神永先生はいつになく焦っているように見える。

 物々しい雰囲気が流れる中、神永先生は重そうに口を開いた。

 

「…彼は今、本能的に堕天使のような異形の存在を察知し、首謀者のコカビエルを殺すため、駒王町を縦横無尽に走る水路を利用して追っているだろう」

 

 敵を執拗に追いかけまわし、怒りの赴くまま破壊と殺戮を尽くそうとする様子は、まるで『狩り』だった。

 

 俺たちの間で、早いところ春雄の所在を特定するという考えが纏まった。

 このまま今の春雄を野放しにすれば、コカビエルを倒す途中、他の異形に出くわさないとも限らない。

 悪意なき異形の者でも、今のゴジラにとっての『邪魔者』となってしまえば、瞬く間にその命を刈り取られてしまうだろう。

 

「君たち、オカルト研究部もその対象になり得る。もし探すのなら、より慎重に行うことだ」

 

 そして、神永先生はすぐ「しかし」と言って続けた。

 

「今はコカビエルの戦争を止めること、エクスカリバーの奪取、破壊が優先だ。ゴジラの方は、あまりのめり込むことではない」

 

 そして暫くして…

 

 こうして漸く今後の方針が決まり、一同解散となる時だった。

 ゼノヴィアたちがアーシアの方は歩いていき、軽蔑のような視線を向けていた。

 

「アーシア・アルジェント、噂には聞いていたが、元聖女の貴様は本当に悪魔になったのだな」

 

 もとシスターが悪魔になり、今目の前に分類上『敵』としている。

 元々仲間だった者が敵側へ寝返るようなものだ。

 

「そして…その様子から未だ主を信じているようだな…」

 

 途端にゼノヴィアの視線が鋭いものに変わり、アーシアに突き刺さった。

 

「ねぇゼノヴィア。悪魔になった彼女が信仰するわけないでしょう…」

 

 イリナがため息を吐きながらそう言うが、その目はアーシアを逃すまいと捉えている。

 

「このようなケースは珍しくない。信仰をやめた者の中にも、主への罪悪感から密かに祈りを捧げている者もいる」

 

「そうなんだ…ねぇ元聖女のアーシアさん。あなたはまだ、主への信仰をしているのかしら?」

 

 二人のやや含みのある言い方が、俺を不愉快にさせてくる。

 そして言葉もそうだが、アーシアを見る目が明らかな蔑みが読み取れる。

 

 そんな二人に、アーシアはタジタジになりながらも答えた。

 

「す、捨てられないだけです…ずっと…信じてきましたから…」

 

 今にも消え入りそうな、弱々しい声で話す彼女から、ツー…と涙が流れた。

 それほどにまで神様のことをアーシアは…

 

 ジャキッ

 

 途端、アーシアの目の前に大剣の鋒が向けられた。

 その剣を構えるゼノヴィアからは、殺意が溢れ出す。

 

「だったら今ここで、私に斬られるといい。その方が主のためにもなろう」

 

 は?アーシアを斬るだと?

 

「ふざけんな!アーシアが何したって言うんだよ!」

 

「彼女は聖女でありながら、敵である悪魔を治療しただけでなく、悪魔そのものにもなってしまった。それでいて信仰しているのだ。信仰に大きく背いた彼女は、最期も信仰通りに断罪された方が、彼女のためでも主のためでもある。

 一介の悪魔ごときが口を挟まないでくれるか?」

 

 こんの…ちょっと見た目がいいからってコイツ…

 そんなのさっきから教会側が勝手にアーシアのことを聖女におだてて、悪魔を治療しただけで魔女とか言って蔑んでは追放したんだろ!

 

「くっ…」

 

 ここで動いてもいいが、さっき結んだ協定に違反しかねない。

 くそっ、あっちは教会のルールだなんだ言いがかりつけてくるだろうし…

 

 部長も眷属の一人が殺されようとしていることに、カンカンだ。

 激突が起きかねない中、一人の男がそっと立ち上がり、二人の間に割って入った。

 

「そこまでだ」

 

 神永先生だ。

 彼は表情を全く変えず、エクスカリバーの鋒を掴む。

 その行為に一瞬驚いたゼノヴィアだったが、次の瞬間にはさらに驚愕した。

 

(う、動かない!?)

 

 ゼノヴィアが剣に力を込めるも、剣は掴まれたままピクリとも動かなかった。

 そんな彼女を気にも留めず、神永先生は口を開いた。

 

「ここで勝手な行動は控えるべきだ」

 

「勝手な行動だと?これは教会では…」

 

「くだらない御託は必要ない。ここは平和の象徴でもある学校だ。この学校では生徒個人の自由が尊重されると同時に、この場で学校の部外者である君たちが、宗教の習わしを強引に行うことになれば、それは日本の法律及び学校規則に反する。この場で人を殺めるような行為はもちろん、大切な私の生徒を君達にどうにかする権利はない」

 

「そちらに加担するか?我々教会の意向を聞かないとなると、彼女はもちろんだが、お前も断罪されるぞ?」

 

「恫喝は人間の良くない所業だ。そちらがその気なら、この世界で活動する異形の外来種含め、君たちのような関わりある人間全員を危険分子とみなし、私の方から先にこの世界を『粛清』しよう」

 

 その瞬間、オカルト研究室は今までにないほどの殺意で満たされた。

 そして俺は驚いた。

 神永先生から、こんなにも濃密な殺意が流れていることに…

 

「そ、そちらも恫喝をしているではないか!」

 

「先に仕掛けたのはそちらだ。恫喝に恫喝を返しただけだ。今ここで君たちが手を引くのなら私は事件解決のために動く。ただし…」

 

 そして、神永先生は俺たち生徒を後ろにし、二人の前に立つと言い放った。

 

「私の生徒に何かしようものなら、私は全力でそれを阻止する。それが例え魔王でも、天使でも、神であってもだ」

 

 俺たちの目の前に立つ先生が、何よりも輝いて見えた。

 俺たちを導く、いつまでも見守るその姿、まるで太陽だ。

 

「ど、どうしてそこまでできる…」

 

 

 

「簡単な話だ」

 

 

 

 

ー私は彼らの教師だー

 

 

 

 

 

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