黒き王の原罪   作:イテマエ

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第28話 前へ進む者

 教会より派遣された戦士との要談で、エクスカリバーの暗面が浮き彫りとなった。

 

 用済みとなった多くの被験者たちへのあまりにも惨い仕打ちは、倫理的に決して許されることではなかった。

 そしてこの、極悪非道な仮にも教会の者が行ったことに、この事実を知らなかった者は差はあれど、驚きが見られた。

 

 初めてこの事実に触れたイッセーは怒りを露にし、アーシアはその酷さに心を痛め、涙を流した。

 普段寡黙で表情をあまり変えない神永も、機械的な面の裏は怒りで燃えていた。そして何より強く握られた拳が僅かに震えていた。

 何より烈火のごとく激情を燃やすのは、一番の被害者である木場だった。

 目の前に自分らの犠牲の上で成り立ったエクスカリバー使いたちに神経を逆撫でられ、今にも飛び掛からんと剣を構える始末だ。

 

 しかし、寸でのところで神永が制した。

 ここで下手に出てしまえば、エクスカリバー持ちと戦いが起きかねない。さらにはお互い戦力を消耗し、最悪これから引き起こされるであろう戦争に対応できない可能性もある。

 

 だからこそ、神永は止めた。

 そして、木場もそれを理解し、素直にその剣を収めた。

 納得せずとも、木場は現状の重大さを理解できないほど馬鹿な男ではない。

 努めて冷静さを取り戻した彼は、殺意と怒り、悔しさをぐっと堪え、頬に一筋の煌めきを流すのだった。

 

 それでも前に進まなければならない。

 過去に縛られ、悲しみに暮れ、立ち止まっている暇はない。

 

 戦争の時はすぐそこまで来ている。

 

 

「必ず止めなくてはならない…」

 

 ゼノヴィアもイリナも退室し、生徒会も生徒会室に戻り、オカルト研究部だけになった今、張り詰めた空気がやや解けたところで、神永先生がスッと立ち上がった。

 

「この町に住む無関係な人々を守るため、そして…」

 

 幾分か重い足取りで、神永先生は木場の目の前に立った。

 

「ここでエクスカリバーを終わらせ、君の同胞の無念を晴らすため…彼らの思いを背負い、彼らが生きるべきだった時間を生きてほしい」

 

 その言葉には、言い表せない「重み」があった。

 

 

 

「君は生きるんだ」

 

 

 

 最後に先生は、ポンッと木場の肩を軽く叩き、オカルト研究室を出ていった。

 俺は神永先生が出て行った余韻をそれなりに見ていた。

 

 本当に、神永先生は宇宙人なのだろうか…

 

 そんな感情がポツポツと湧いていたが、たった今の一件でそれは疑問に変わった。

 あの人が本当に宇宙人で、『裁定者』としてこの町を、俺たち悪魔他『外来種』を監視することを義務としているのなら…

 

(見切りをつければ…神永先生はきっと…)

 

 

 

『危険分子とみなし、私の方から先にこの世界を()()しよう』

 

 

 

 あの時発せられた言葉は、普段授業で聞く声と同様であれど、隠されていたその意思には揺るぎない確固たるものがあり、俺は純粋に『恐怖』を感じた。

 そして、その時俺は悟った。

 本当にこの人なら、それができるのだろうと。

 

 かと言って、冷徹な眼の中に苛烈な思想だけがあるかと言ったら、そうではない。むしろ、先生はそんなこと望んでいなかった。

 

 木場を見る目が、俺たちの先生だった。

 紛れもなく、俺が憧れたヒーローの優しい目だった。

 

 

 

 生きろ…

 

 

 

 曇りなき真っ直ぐな視線が木場を照らしていたのを、まだ脳は鮮明に記憶している。

 その時見た姿は、温かい師、父親、そんな包み込んでくれるような優しさがあった。

 

「…」

 

 ぼーっと、自分の手を見つめる木場は、心ここに在らずといった感じだ。

 違うのは、憑きものがとれたかのような、前まで切羽詰まった鬼のような形相は無くなっていた。

 

「木場」

 

 俺が呼びかけると、木場はこちらを見てくれた。

 

「その手は…まだ汚しちゃいけない…」

 

 復讐したい気持ちはわかる、なんて俺には口が裂けても言えない。

 でも俺は、木場がただ復讐のためだけに、エクスカリバーに関わる全ての人間、関係者を皆殺しにするような真似はしてほしくない。

 

「お前が背負ってるのは、お前の使命とか、責任だけじゃねえだろ」

 

 木場には今、あの細い体に無惨にも散っていった数多くの魂が背負われている。

 そんな彼らの思いと魂を、木場自らの手で汚して欲しくない。

 

「生きよう…彼らのために…」

 

 すると木場は、すぅーっと、涙を流した。

 やっぱりまだ腐っちゃいなかった。

 木場の精神も、魂も、思いもまだ…まだ折れていない。

 

「いい…の…イッセー君…僕は…主人である部長や…みんなに…」

 

 きっと「酷いことした」って言うに決まってる。

 だから俺は、その先を言わせるわけにはいかない。

 

「いいんだよ…俺たちは木場が帰ってくんのを待ってたんだからな。そして今、帰ってきてくれた。それでいいじゃねえか」

 

 俺はみんなに問うように視線を合わせたが、元よりそんな必要なかった。

 部長も、朱乃さんも、アーシアも、子猫ちゃんも…みんな同じ思いだった。

 

 そしてもちろん…

 

「春雄だってお前のこと心配してたんだからな」

 

「春雄君も…?」

 

 俺は頷いた。

 思えばここ一週間、ずっとアイツは木場を気にかけてたな…

 はぐれ悪魔と戦ったその日から、競技祭が行われてる時だって、俺に相談してたし、なんならオカ研でありながら何もできない自分を悔いていた。

 

「そんな…春雄君が…?本人はそれどころじゃないはずなのに…どうして…」

 

 俺は思わずため息をついちまった。

 まだわかんねえのかよ、木場。

 

「俺たちは仲間だろ?友達だろ?困ってる時に支え合うのが当たり前だろうが!」

 

 

 

『寄り添ってやれる人であれ』

 

 

 

 神永先生が担任になってから、ずっと俺たちに教えていた。

 人と人の繋がりを蔑ろにせず、手を差し伸べられる人、その手を素直に取れる人になれ、と言った。

 

「イッセー君…」

 

 この時、オカルト研究室に潤んだ声が響いた。

 俺たちは、『騎士』が立ち上がるまで、いつまでも見守った。

 俺たちの『騎士』は、好きなだけ泣いてくれた。

 それが俺にとって嬉しかった。ようやく、泣いているところを見られてもいいほど信用してもらえた。

 

 そして木場は、溜め込んだままにしないで、ありったけを吐き出して幾分か楽になると、いつもの眩しい笑顔で俺たちに言った。

 

 

 

「ありがとう」

 

 

 

 くぅぅぅううう!非モテな俺の忌み嫌う、いつもの王子様スマイルしやがって!

 

…なんてな、憎いことに変わりねえが、ようやく戻ってきたって感じだな。

 いや、始まったのか?

 俺が見た木場の笑みは、今までよりも眩しく見えた。

 

 

 

 

 

「晴れるな…こりゃ…」

 

「権藤?どうしたの?」

 

「…なんでもありませんよ、姉御。行きましょう」

 

 

 ここ数日続いた、俺たちの肌に突き刺さるような冷たさの雨が止み、久々に夕焼けを拝めた。

 地平線に沈もうとする日輪が、朱色に町を照らすことに、年甲斐もなくついついはしゃいでしまおうとするのは、単に天気が良くなったからではない。

 

「先日までの無礼を許していただき、誠にありがとうございます。以後、部長の『騎士』の名に恥じぬよう精進してまいります」

 

 木場は、夕日をバックに改めて決意を表明をした。

 その顔は凛々しさもありながら、騎士としての強さと鋭さもあるものだった。

 

「いいのよ、こうして帰ってきたことが何よりも嬉しいから」

 

「憑きものがとれたような、いい顔になりましたわね」

 

「…先輩が居なくなるのは嫌ですから…」

 

 やっぱり、みんなが居なきゃな。揃ってなきゃな…

 俺も頑張るか!

 

「ありがとう、イッセー君」

 

 急に木場から感謝されたわけだが、どうしたもんだろうな。

 これと言って俺は何もしていない気がするけど…

 

「君のおかげで立ち直れた」

 

「…へへっ、そうかよ」

 

 ちっ、面と向かってそんなこと言われるとなんかな…むず痒い気がする…

 そして、そんな俺を面白そうに部長やアーシア、朱乃さんが見て、その隣では子猫ちゃんがいつも通りの無愛想な顔をしていた。

 しかし、そんな変わらない彼女の表情も、今はどこか緩んだような気もしなくはなかった。

 

ピピピ…ピピピ…ピピピ…

 

 ふと俺の携帯電話からコールがかかる。

 相手は…ん?誰だ?

 考えるより、俺はまず電話に出る。

 

「はい、兵藤です」

 

『あ、イッセー君?私、イリナだよ!今おば様のところにゼノヴィアとお邪魔してるんだけどね、なかなか帰ってこないからついかけちゃった』

 

 なんだ、もう行ってたの…え?ちょっと待て。

 

「俺、お前に連絡先教えてねえぞ」

 

『おば様から教えて頂いちゃった』

 

 また母さんかよ…俺のプライベート、母さんのせいで筒抜けにならねえといいが…てか、なんで息子の番号をそう安安と教えるのかな?

 ま…大丈夫…だよな…?

 

「はぁ…今から俺たちも帰るところだからさ」

 

『そうなの?私たちはそろそろお暇しようかと思ってるのだけど』

 

「そうか?もうちょっと長く居てもいいんだぜ?」

 

『別に気遣わなくて大丈夫よ。久しぶりにイッセー君とも会えたし、おば様にも会えたし…おじ様に会えなかったのは残念だけど、その分おば様といっぱいお話しできたから大丈夫よ』

 

「わかった、今日はいろいろありがとな…こっちの我儘に応えてくれて…」

 

『…なによ、全然大丈夫よこれくらい。それに…』

 

 すると、イリナが数秒黙った後、電話越しにもわかるほどに態度を変えた。

 

『私の故郷を…大切なお友達の居るこの町を…勝手な奴らに滅茶苦茶にされたくないから…そのためなら私は戦う…例え教会の意思が無くとも、私はこの町を守りたい…!』

 

 そう言い終わると、彼女は電話を切った。

 俺の耳には彼女の言葉が残り、その時発していた他を寄せ付けないオーラを余韻として感じていた。

 

(イリナ…)

 

 彼女の思いは本物だった。

 生まれ育ったとは言え、彼女がこの町にいた期間はかなり短かったはずだ。

 それでもこの町のことを今でもこうして大切にしてくれていることに、俺は誇りを感じる。

 そして、俺だって…

 

「部長…みんな…」

 

 俺の雰囲気を察してか、みんなの表情は真剣なものに変わっていた。

 

「必ず…必ずこの町を守りましょう」

 

 

 その頃神永はと言うと、駒王町からおよそ130キロメートルほど離れたところのとある場所におり、一点を見つめていた。

 彼が見つめる先にあるのは、かなり廃れた建物だった。

 外装はほとんどなくなり、蔓植物が骨組みに巻きついており、外からでも見えるほど開けた内側は、ごちゃごちゃに風化した物が散乱していた。

 薄暗くなった時間帯に見るのもあって、かなり雰囲気を発していたが、この程度で怖気付く男ではない。

 

(かつてここは…放射性廃棄物の廃棄場だった…)

 

 神永は壊れているフェンスの間を潜り中に入る。

 

 近くで見ればより酷い有様だった。

 当時ここで働いていたであろう者たちが使っていた、資料や書類はそのままに、他にも椅子や机の他、コップや()()()なども乱雑に捨てられていた。

 

 神永はそっと、人差し指を眉間の間に持ってくると、そのままゆっくりと目を閉じては何かを感じ取る。

 

「…放射線がほぼ完全に消失している…」

 

 目を開き、呟かれたことはまさに常識を逸していた。

 放射性廃棄物の処理には、最低でもおよそ10万年はかかるとされている。

 

 今神永が立つ放射性廃棄物廃棄場所跡地は、数年前に閉鎖された。それも、地中に厳重な状態の放射性廃棄物を残したままだ。

 何やらこの処理のための資金が回らず、後回しにしていくばかりで結局手のつけられなかった負の遺産だ。

 しかし、これを国は隠蔽し続け、今日神永に発見されるまでは誰も見向きもしなかっただろう。

 まぁ発見されたのが外星人であり、最も人間が地下の放射性廃棄物を見ることはもうない。

 

「完全に食われたか…」

 

 神永は再び、神経を集中させた。

 今度はとあるものを追うためである。

 

「…!最悪だ…私としたことが…」

 

 珍しく血相を変え、神永は棒状のスティックを取り出し光に包まれると、既にその場から消えていた。

 

 

 俺は今、どうも落ち着かない。

 別に家に美少女がいるから、とかそんなんじゃなく、俺は極めて漠然とした不安を抱えている。

 

『相棒…感じるか?この飛び切りヤバい気配を』

 

 ああ…

 この感覚…

 

 

 

…尋常ならざる殺意…

 

 

 

…熱く膨れ上がる怒り…

 

 

 

 

 

…王の咆哮…

 

 

 

 

 

「ヤバい…」

 

 俺はすぐ、部長とアーシアのいる部屋まで行き、すぐ捜査に行くことを伝えた。

 漠然としすぎてわかりづらいが、春雄の中の力の恐ろしさをよく知る俺たちに、もはや説明は不要。

 

「きっと、そこにコカビエルがいるかもしれません…そして、バルパーも…」

 

 アイツの力には、この町に害を及ぼす存在、自分の身にとって危険となる存在を、執拗に追いかけては確実に『排除』する恐ろしい特性がある。

 何としても、いち早くコカビエルを先に見つけて、周りに被害が出ないようにしねえと!

 

「部長、俺はイリナたちに連絡しておきます!」

 

「わかったわ!私は他の眷属たちを集めて、ソーナの方にも伝えておくから!アーシア、あなたはお母様の側にいて守ってちょうだい!」

 

「わ、わかりました!」

 

 こうして、俺は家を飛び出した。

 幸いこの時、母さんはかなり早く眠ってたけど、そう言えば親父、まだ帰ってきてないな…

 いや、今は目と鼻の先の問題を止めねえと!

 

 

 

 連絡後、集合場所となった公園にて。

 すっかり日も落ち、入り口に街灯が一つ淡い光を放っている程度の錆びた公園は、本当に雰囲気が出てたんだろうな。

 今はそれどころじゃないが。

 

 集まったのは、オカルト研究部より俺に子猫ちゃんに木場、生徒会より匙、そして教会のエクスカリバー使いのゼノヴィアとイリナだった。

 

「じゃあ、この町のどこかで春雄君の気配がしたんだね?場所は?」

 

 事情をすぐ説明すると、木場がどこか焦っているかのような、今すぐにでも向かいたそうにしていた。

 俺は逆に冷静さを装い、少しでも木場が落ち着けるように心がけて話す。

 

「ああ。ドライグが最初に感じ取った。そして、次に俺が赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を出現させ、感覚を倍にして捉えた。あの空気の震えは間違いない…だけど木場、詳しい場所は把握できてない。悪い…」

 

 俺は軽く頭を下げると、木場が一瞬驚いたような顔をした。

 いいぞ。アイツが落ち着くまで、俺は頭を上げない。

 

「そうか…ごめん、イッセー君…」

 

「いや、いいぜ。さて、みんな集まってもらったのは他でもねえ。駒王町の考えうる場所全部を捜索だ」

 

 

 とうとう始まった。

 俺たちが戦争を止めるんだ。春雄の暴走を止めるんだ。

 

 今、俺と木場、子猫ちゃん、匙で行動中だ。

 教会側が二人、悪魔側が四人で、なんとなくバランスが悪い感じに思えるが、敵も悪魔を容易く消し飛ばせるほどのエクスカリバーを保有しているからこそ、数多くの対処が必要だろう。

 

「ところで兵藤、なんでお前はそこまで義弟の気配がわかるんだ?」

 

 ふと、匙が気になったことを問うから、俺は家を出た直後にした、ドライグとの会話を伝えた。

 

『過去の戦いで、ゴジラを目の前にした奴らはみんな、アイツが近くにいると、本能的に感じ取るのだ。どこにいても睨まれるような…どこにいても奴の唸り声が聞こえるような…』

 

 

 

 

 

 つまりそれは『恐怖』だ。

 俺たちが、アイツの力を初めて見た時、闘志を瞬く間に削がれ、立ち向かう勇気を容易くへし折られたのも、俺たちの魂が本能的に恐れているからだそうだ。

 特に、実際にゴジラを目の当たりにし、その力をまざまざと見せつけられたドライグの恐怖は相当なものだろう。そして、相棒となった俺にもそれがよく伝わるそうだ。

 

 この話を聞いて、誰もドライグを冷やかして笑う奴はいなかった。

 むしろ、より一層緊張が高まっただろう。

 神にすら仇なし、悪魔も天使も堕天使も全て震え上がらせたと言われる存在が、こんな様子だからな。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ…そんなにゴジラがヤバいなら、どうして今まで誰もわからなかった?どうして何にも記録がない?」

 

 やや取り乱す匙の言うことはもっともだな。

 部長たちは知らない様子だし、現魔王の部長のお兄さんもわからないそうだ。

 そうなれば、もっと古い時代の人じゃねえとわからないか?

 

 だとしても、これほどまで長い間、ゴジラという強大すぎる存在を隠し続けられただろうか。

 う〜ん…まだまだわからないことだらけだな…

 

「おやおやぁ?」

 

 などと話していると、どこか聞いたことのある忌々しい声、できれば二度と聞きたくなかった声がしたのだ。

 俺たちはすぐ構えて戦う準備をし、声の方向を睨んだ。

 

「こんなところでくそ悪魔分際が?何をしていらっしゃることやら!」

 

 飄々とした態度は変わらず、ただ獲物が禍々しく聖なる力を放つエクスカリバーになっただけか…

 

「フリード…!」

 

 憎たらしく木場がアイツの名前を静かに叫んだ。

 かなり怒っちゃいるが、今の木場にしてはかなり抑えられている方だろう。

 

「はいはいなんですかねぇ〜って、その優男は!この前僕ちんにコテンパンにされた悲劇の王子様じゃあありませんか!」

 

 対するフリードは、木場の神経を逆撫でするように煽りまくる。

 くっ…こいつ!

 

「それにしても、ありがたいですね〜!あなたのお仲間(役立たず)のお陰で、天才的な才能の僕ちんがエクスカリバーを使えるようになったんでねぇ〜」

 

 そう言いながら、エクスカリバーを舐めるフリード。

 俺はそろそろブチギレそうだし、匙も子猫も強い嫌悪感を示しながら青筋を浮かべ、今にも飛びかかろうとしていた。

 

「待って」

 

 そんな俺らを木場が止めた。

 そして驚くことに、その表情は落ち着いており、自信に満ちていた。

 

「イッセー君は言ったよね?『まだ汚すべきではない』と。こんな奴のために、君みたいな崇高な魂を貶されるわけにはいかない」

 

 そして、木場は魔剣を創造して、フリードに向かい合っていた。

 

「木場…」

 

「イッセー君」

 

 俺が何か言うのを遮って、木場は応えた。

 

「僕は生きるよ。これからも」

 

 その言葉に宿る頼もしいものに、俺も素直に引いた。

 

「今の木場なら、エクスカリバーを超えられるぜ!」

 

「ああ、今は一人じゃねえからな!」

 

「私たちが、あんな紛い物に負けるわけがありません」

 

 木場の後ろに並び直った俺たちは、目の前の強敵を見据えた。

 冷静に見れば、あんな紛い物なんて怖くなんかねえ。

 心の底から湧き起こるのは勇気だった。

 

「みんな…力を貸してくれ!」

 

 木場の期待に、答えなくちゃあな!

 

 

 夏が迫りつつある日本の天気は、低気圧が発達し、よく晴れたと思いきや、一転して雨が降ることはしばしばだ。

 今日も例外ではないものの、あまりにも突然すぎる。

 駒王町上空はつい先程まで晴れていたのだが、夜に差し掛かると暗闇とともに積乱雲が現れ始めた。

 

 風が吹き、雨が周囲一体に降り注ぎ、轟音と共に黄金の(いかずち)が地表を照らす。

 音が駆り立てる恐怖と、光が心を奪うほどの絢爛を併せ持つ様は、正に神の所業なのか…

 

 どれだけ力をつけ、どれだけ知識を蓄え、進化を重ねた文明であろうとその前には無力…

 自然の猛威は全てを平等に『無』へと返す。

 抵抗は無意味だ。

 その時は皆等しく訪れるのだ。

 『死』を受け入れよ。

 

ー我がこの星の神として君臨し、我の想いのままにしてやろうー

 

 黒い雲は月灯を完全に遮断し、まるで生きているように勢力を広げて動き回る。

 あの変則的な雲の畝る様子に、人々は恐怖でしかない。

 そして、その人間たちを嘲るが如く、自然の猛威は増してゆく。

 

ー鬱陶しいものだ…ー

 

 雷雨を纏う者にとって、眼下で怯える人間たちも、武器を持ってままごとをする異形たちも取るに足りない存在だった。

 例え、邪を払う聖剣を持っていようと、神に届く力を持っていようと、歴然としたその差は埋まらない。

 それこそ、地に足をつける者が、手を伸ばしても空に届かないように。

 

 だが、この町には()がいる。

 この星の『王』が…

 

 

 

 ゴガァ"ァ"ァ"ア"ア"ア"!!

 

 

 

 空まで届く咆哮は、文字通り全てを揺らした。

 人間が築いた有象無象も、ままごとをする異形どもも震わせた。

 

ー力を取り戻せていないながらよくやるものだー

 

 

 

 川から上半身だけを出して、ギロリと鋭い目で睨む黒い怪物がいた。

 ワニか、恐竜か、爬虫類を思わせる威圧感のある顔、そして口から覗かせるのは全てを砕かんとする鋭く丈夫な歯。

 腕、体は見た目だけでも力強さをビリビリと感じさせ、全身が漆黒に包まれているところが恐怖心を煽る。

 そして、王たらしめる王冠を彷彿とさせる、背中に並ぶ鰭のようなもの。

 

 これがゴジラである。

 春雄に宿る、荒ぶる神、自然の王、破壊神である。

 

 ゴジラは空を見上げ、忌々しそうに黄金を睨む。

 そして、特大の咆哮をあげて全てを揺らし、憎き最大の敵に向かって殺意を飛ばす。

 対する天からは、対抗するように稲妻を迸らせた。

 その光は今まで以上に強く、昼と錯覚させるほどに強く輝いた。

 

 

「ちっ、急に強く降りやがって…」

 

 権藤は家に着くと、うんざりした様子で呟いた。

 全身ずぶ濡れ、走ったせいで熱が籠る体…

 これ以上ない不快感が権藤を包み込む。

 

 さっさと家に入ろうと、ドアノブに手をかけた時だった。

 

 巨大な稲妻と共に大地を揺らす轟音が響いたのだ。

 

「!」

 

 権藤はバッと振り向くと、呆気に取られた。

 

「なんだ…何か居るのか…?」

 

 一瞬だけその目に映ったのは、禍々しい光に照らされる何者かの影だった。

 ぼんやりとしていて、見間違いかと思ったが、不自然に影が動いていたように見えた。

 

「三本の首の…龍…?」

 

 

 

 

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