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嵐の真夜中、響き渡る咆哮。
迸る稲妻を飲み込み、全ての怒りや恐怖を忘れさせ、聞いた者全ての耳に、魂に轟かせた。
何も知らない町の人々は後に口を揃えて言った。
神様がお怒りだ…
人々は布団の中で怯え、まるで恐ろしい絶対的な君主を刺激しないよう、声が漏れそうなのを堪え、動かずに黙りこくった。
それでも、人々からガタガタと震えは止まらなかった。
たった一瞬、あの咆哮を聞いただけなのに、体は言うことを聞かない。
怖い…
瞬く間に脳が恐怖を覚え、全身から自由を奪う。
蹲るようにその場に小さくなる人たち…
しかし、なぜいきなりそこまで恐怖を覚えたのか、まるでわからないそうだ。
ただ、この身に覚えのない不気味な恐怖は、ふと何か思い出したかのように湧き上がったらしい…
…
神永は雨の中を疾走する。
革靴でコンクリートを蹴ると、常人とは思えぬスピードに達した。
そして、その表情も特に疲れているわけではなかった。
これだけ走って、全く疲れていないというのか。
恐らく陸上競技に出てしまえば、全てのレコードが塗り替えられるかもしれない。
しかし、そう暢気なことを言っていられるほど、この男にとって状況は好ましくはなかった。
(もしパゴスが町に侵入してしまえば、奴から溢れる放射線によって尋常ではない被害が出る)
走りながら神永は、懐からスティク状のアイテムを取り出す。
それに鋭い視線を飛ばしたあと、強引にポケットへねじ込んだ。
(微かな異変を感じて、廃棄場にテレポートで移動したのが誤算だな)
彼にはとある隠された力がある。
その一つの「テレポーテーション」は、自身を地点から地点へ瞬間移動させることを指すのだが、これは彼にとって負担が大きく、軽々しく何度も使えるものではない。
今他の能力を使ってしまうと、力を最大限に効率よく引き出せなかったり、著しく生命を削ってしまったりと、神永にとってのデメリットが大きくなる。
ひとまず走る以外ない。
走りながら禍威獣・パゴスの気配を追う。
(もっと早く気がついていれば…)
神永は自身を責めた。
先程から脳内に、ゾーフィからのテレパシーによる譴責が届いているが、そんなものに構っている暇はない。
走る最中、ゾーフィがこのような内容を語った。
『教諭という職業に没頭し、教師と生徒という関係に着目し続けた君は、この地球における外来種が及ぼす生態系への影響の調査を疎かにしてしまっている』
神永は歯を食いしばり、喉の奥から出そうな言葉を引っ込めた。
教師という職にうつつを抜かしていたのは事実であろう。
そして、確かに本来の任務を怠ってしまった。
しかし、それを彼らと共に過ごした日々のせいにしたくはなかった。
(彼らは私に多くのものを与えてくれた。不足していた『心』とはなんたらかを。そんな彼らのために私は…)
私は…?
神永はつい足を止めてしまった。
(彼らを守ることが
考えれば考えるほど、彼は沼にはまっていく…
彼ら、つまり神永の教え子たちに毎度言っていたこと。
教師は生徒を守るもの
ずっと念頭に置いていた、決して揺らぐことはないと思っていたものにヒビが入った。
教え子たちを守るため、危険分子の監視を続けてきた神永。
放射線を食い、放射線を撒く大厄災パゴスを監視している最中、別の脅威となりうるコカビエル、そしてそれが率いる者たちが戦争を起こすときた。
本来の監視対象であった放射線という重大案件を抱えるパゴス、単独での対処は不可能ではないものの教え子のいる町で戦争を起こそうとするコカビエル。
初めから両方同時に対処できるとは思っていなかった。
それでも、教諭という職を捨て、生徒の成長を後回しにし、無情にも任務を遂行できるほど、彼の心は冷めてはいなかった。
パゴスの気配を追う神永は、意識をさらに広げ、駒王町一帯を探知できるほどにまで発達させる。
回復しきれていない力で、強引にその索敵を行なってしまった彼は、一瞬ガクッと力が抜けてしまった。
地面にポツリポツリと落ちる水滴が赤い。
雨に何か混じっていた。
神永はそっと自身の顔に手を触れる。
手にはべっとりと赤黒い液体が付着していた。
この体を生成した際、より人間らしい行動ができるよう、限りなく人の構成する組織に近づけた結果がこれだ。
とめどなく目、鼻、口から血が溢れ出した。
それでも彼は索敵をやめない。
彼を動かすのは、とてつもなく重い責任だ。
いち早く気づいていた神永が、悪魔であるリアスやイッセーたちを信用し、駒王町を任せておけばよかったのだが、彼らを危険な目に合わせたくない思いが浮かび上がり、結果として駒王町にとどまらざるを得なくなった。
駒王町を領地とする悪魔と、この星の王であるゴジラを宿す春雄に任せ、自分はパゴスを討つ。
しかし、生徒を大切に思うあまり、神永は町に居ることを選んだ。
この事態は、神永のミスにより招かれてしまったのだ。
彼らを信じ、自分はパゴスをなんとかするべきだっただろう。
しかし、駒王町でコカビエルが戦争を起こし、その物々しい雰囲気に刺激されたゴジラが目覚め、その覚醒に触発されたパゴスが行動を開始。
なんに一つ、神永は何もできなかった。
「くっ…」
柄にもなく表情を歪ませ、再び立ち上がると足を動かす。
ようやく索敵した結果が、彼の脳に送られてきた。
そして神永は、さらにそのスピードを上げた。
パゴスが地中を猛スピードで突き進む先からは、ゴジラが川を波立たせながら向かっていた。
両者からは、並々ならぬ殺意が漏れ出していた。
このまま町中で激突してしまえば、多くの甚大なる被害が出る上、ゴジラという最強クラスの禍威獣が明るみになってしまう。
そうなれば…
(春雄君はもちろん、ご家族には様々な厄介ごとが降り注ぐだろう。そして、これを匿続けたグレモリー家及びその眷属たちも危険が及ぶだろう)
神永は最悪の展開を予期し、頭にある考えがよぎる。
それは…
(本当に取り返しがつかない事態になってしまう…最悪…今の不完全な状態のゴジラなら、まだどうにかできる…)
実力行使によるゴジラ…春雄の排除だ。
しかし、それで救われるのは、他の大勢の教え子と、その町に住まう住民たちの命だ。
春雄を失うことにイッセーやアーシア、その他グレモリー眷属はショックを受けるはずだ。
そして家族もだ。
さらには、生態系へ多大な影響を及ぼすことにもなる。
未だ確認できていないが、この世界にはゴメス、パゴス、マンモスフラワーなどの禍威獣がおり、さらにマートー、ゴジラなど禍威獣以上に強力な力を秘めた存在もいる。
ゴジラという王が倒れれば、この先この世界の人類は、外来種はどのような結末を辿ってしまうのだろうか…
神永は再び立ち止まった。
全身は既に悲鳴をあげていた。
こここら、2体の合流地点までは数キロである。
(あと数分で2体は激突する…)
幸いにも、町から外れた山地でぶつかるとわかったため、幾分か気が楽となった。
しかし、激突した時に恐らく轟音が鳴り響き、それによって人々が気づく可能性がある。
神永から汗が滴った。
自身の持つエネルギーを最大限使えば、念力によって2体が発する気配や音など全てを、外界から遮断することは可能だ。さらに、パゴスが発する放射線も抑えることはできる。
しかし、これはより多くの生命エネルギーを削る危険な技でもある。
元々体力が尽きている今の神永の状態でそれを行えばどうなるか…想像は容易かった。
(死にはしないだろう…だが、暫く動くことはできないな…)
神永はスティック状のアイテムを取り出した。
(プランクブレーンより自身の本体を取り出し、パゴスとゴジラを相手取れば…)
僅かな可能性に賭けて今から走り、春雄も町も助けるか、ここで暫く体力回復につとめ、パゴスもゴジラも倒してしまうか、その2択だった。
体感にして数時間、実際はほんの数秒悩んだあと、神永は力を振り絞って走り出した。
…
俺たちは学園に向かっている最中だった。
コカビエルから、俺たちの学舎を中心に周囲を吹き飛ばすと告げられた時、気が気でなくなってしまった。
普段の学校生活は毎度毎度楽しいことばかりじゃないし、課される宿題にはうんざりするし…それでも俺の、俺たちの大切な場所に変わりはない。
俺たち仲間が、友達が切磋琢磨する環境をめちゃめちゃにはさせねぇ!
「…ところで部長」
一旦心を落ち着かせ、部長に気になることを尋ねようと思う。
「俺…コカビエルの野郎の堕天使と戦った記憶が曖昧なんですけど…本当に俺はアイツらをその…殲滅したんすか?」
聞いてみたものの、部長は前を向いたまま走るばかり。
怒ってるのか、なんて思ったが、その時の彼女の後ろ姿は知っているものだった。
背中から伝わってくる後悔と悲しみ…自分に責任を感じて落ち込んでいる時のものだった。
学校まではそれなりに距離がある。
この間にも聞き出せたらと思ってたけど、部長はもちろん他のみんなもあまり話したがらなかった。
まるで俺に聞かれたらまずいような…
学校に無事到着した俺たち。
子猫ちゃんが奴らの気配を追うが、どうやらまだ来ていないらしい。
「では、俺は会長たちとこの学園に結界を張る準備をしたいと思います。正直…気休めにもなるかわかりませんが…」
匙は生徒会のみんなで、コカビエルが侵入してきたら結界を張るそうだ。
奴の気配と、爆発の威力を最小限にとどめるためらしいが、あれだけの力を有する奴にどれほど有効か…
「さて…まだ来ていないわけだし…」
部長は一つ息を吐くと、俺の方に視線を飛ばしてきた。
ナイフのように鋭かったが、その目の奥は悲哀なものがあった。
「イッセー…」
絞り出すように力のない声で、部長は俺の名前を呟いた。
そして、みんなも俺の方を見てきた。
いずれも戸惑いとか、悲しみとか…なんだ?恐れなのか?
俺はその視線の意味がわからない。
一体俺が何したんだ?
「部長…俺は…」
その意味を知ることが、何か大切なものが壊れそうだった。
俺はそれが怖くて、知るべきことから逃げようとしていた。
怖かったんだ。
でも…
俺は固唾を飲み込んで意志を固めた。
「俺があの時、何をしたか教えてください」
俺の記憶は、突如響いた謎の轟音…咆哮を聞いた途端、何かが頭の中に話しかけてきたところで終わっている。
気がつけば俺は匙に殴られ、目の前にはゴジラとなった春雄、そしてズタズタにされたコカビエルがいた。
その空白の間、ものの10分程度らしいが…その僅かな時間に何があったと言うんだろうか…
「じゃあ…話すけど…本当に良いのね?」
俺は頷いた。
そして部長が渋々話した内容に、俺は雷を撃たれたような衝撃を受けた。
突然、『壬龍の庭』に響き渡った謎の咆哮。
聞くものの魂を震わす、春雄の、ゴジラの咆哮だった。
それを聞いたリアス他眷属は、瞬く間に春雄と初めて対峙した時の記憶がフラッシュバックしたと言う。
しかし、感じる恐ろしさは当時の比ではなかった。
当然、その咆哮を聞いた者にはコカビエルも含まれていた。
春雄に宿るゴジラを忌み嫌う彼は、聞いただけで恐れを感じてしまったことに苛立ち、やや錯乱状態となって突っ立ったまま動かないイッセーめがけて飛ぶ。
リアスたちはすぐその場を離れるよう促すが、なぜかイッセーは微動だにしない。
ただその目はギラついて光っているようで、しかし敵を見据えてるわけでもなく、狂気さを与えるものになっていたのだ。
そして、そこから発する雰囲気も異常だった。
ビリビリと緊張を誘うようなオーラが出ていた。
コカビエルは突撃の最中、ちらりと見えたイッセーの表情に冷や汗を流した。
筋肉が痙攣でもしたのか、不自然なほどに口角が釣り上がっており、左側半分の歯が全てドラゴンを思わせる鋭いものに変わっていたのだ。
「赤龍帝!貴様もただの獣に成り下がり、荒ぶる魂のまま破壊を起こすつもりか!心とやらで強くなるとは戯言だったか、この狂犬め!」
光の槍を構え、額に青筋を浮かべて猛スピードで突っ込むコカビエル。
彼は怒りと恐怖で冷静さを欠いていた。
だからこそ、愚をおかした。
再三注意を払い、
ハッとなって気づいたコカビエルだが、もう遅かった。
雨が降ったことで水位が増し、濁流となって荒れる川が自分の下を流れている。
そして、自分の真下に黒い影が一つ。
(まさか…)
コカビエルは血の気が引く思いをした。
すぐ翼をはためかせて逃げようとするが、もう遅い。
一度標的にされ、奴のテリトリーに愚かにも入ってきた者にもはや逃げ道はない…
ゴガァ"ァ"ァ"ア"ア'ア"!!
勢いよく水飛沫を上げながら、真っ暗な体の何かが咆哮を上げながら突然現れ、コカビエルに噛みつくと、そのまま川の中へ引き摺り込んだ。
リアスたちは驚きを隠せない。
話に聞いていた通り、春雄は既に人の形を辞めており、テレビで見たゴメスのような…今まで見てきたどの動物たちとも特徴が合致しない異形がそこにはいた。
正しく、空想の産物と言えた
「こ、コカビエル様!」
「早く助けなくては!」
堕天使たちはコカビエルを助けようとするが、どうしようもできずにその場に立ち尽くしていた。
無理もない。
そのゴジラの戦い方に、リアスたちは純粋な恐怖を覚えた。
影を見ればコカビエルが必死に足掻いてもがいているが、ゴジラはサメのような動きでヒットアンドアウェイを繰り返す。
そして、コカビエルが浮上するタイミングで猛スピードで突っ込み、再び水中へ引き摺り込む。
頭を掴まれたコカビエルはなす術なく、その剛腕により押さえつけられる痛みと、息が苦しくなってきたことに苦悶の表情を見せる。
なんとか浮上しようとするが、押さえつける腕と、絡みつく尻尾が完全にコカビエルの自由を奪っていた。
(こい…つ…!)
コカビエルは光の槍をゴジラに放つ。
突然の衝撃に、ゴジラはコカビエルから離れ、辺りを泳ぎ始めた。
(ゴジラめ…いつでも俺に飛びかかれる距離にいやがって…)
夜の濁った川は視界が著しく悪くなる。
そんな中、奴の発する濃密な気配を探知しているコカビエルだが、次の瞬間驚愕する。
(気配が消えた…!?)
その不可解な様子は地上にいるリアスたちや、他の堕天使にも伝わった。
あれだけ辺りに立ち込めていたゴジラが発する気配が、突然完全に消え失せたのだ。
そして、いち早くアーシアがそれに気づく。
「ぶ、部長さん…春雄さんが持つ…ゴジラさんが持っている能力に自然に干渉する力がありましたよね?」
アーシアの言葉に、リアスはハッとなる。
ライザーとのレーティングゲームで見せた力…
自然にして自然にあらず。作られたフィールドはどれだけ巧妙にそれに寄せたところで、ゴジラの目を誤魔化すことはできない。
作られただけで生きていない植物のレプリカなんぞに、ゴジラは引っかかるわけもない。
文字通り、
「つまり…春雄君は今、逆に自然に溶け込んで気配を消した…と言うことかい?」
「そうなれば頼りになるのは、視覚と嗅覚のみ…ですが、我々では匂いを探知するのは限界があります。このように川に逃げ込まれればもはや追うことはできませんわ」
「…流石に目で追うのも無理です…夜は私たちにとって見やすい環境ですが、川が濁流になって透明度がありません…」
木場、朱乃、子猫は、春雄の桁違いな能力を改めて見せつけられ、それがもし自分たちに向かってきたらと思うと、鳥肌が立つ。
ゴジラになれば、大抵春雄の意識は沈む。つまり、本人の意思とは無関係に、敵とみなせば敵としてそれを排除するのだ。
自分たちがゴジラの気に触れることがあると思うと…
「おいおいマジかよ…あんな凄え能力がある上、化け物じみた身体能力があるなんてよ…それでいつ体内から魔力が一切感じられねえ!アイツは純粋に地球上の動物だってことかよ!」
匙は顔を青くして、ゴジラという存在がいかに巨大なものか心底驚いた。
いかに春雄がとんでもない存在で、普段の彼がどうなのか気になった匙は、イッセーに聞こうとそちらを向く。
しかし、イッセーは心ここに在らずといった感じだ。
流石に様子があまりにもおかしいため、尋ねようとしたその時だ。
「コカビエル様を助けろ!」
「流石にあれだけ時間が経ってるとヤバいよ!」
「お前たちはコカビエル様を!我々はこやつらをだ!」
ここで堕天使の集団が二分した。
片方の勢力はコカビエルを助けに、もう片方はイッセーたちに向かった。
助けに向かうグループは心臓が鳴り止まなかった。
もし水面から飛びかかってきてもギリギリ大丈夫な距離感で待機し、ゴジラの行方を追っている。
しかし、未だ奴の気配を掴めずにいた。
ゴウゴウと濁流が畝り、その中を狩猟者が自由に泳ぎ回っている。
掴まれ、水中に引き摺り込まれたらたら最後、自力でゴジラから脱出は不可能と言える。
ただ恐怖が、彼らを支配する。
しかし、黙っているだけでは何も起きない。それどころか、コカビエルはこのままだと溺死するか、ゴジラに殺されてしまうかだ。
リアスたちに向かっていくグループは、その巧みな連携でじわじわと彼女たちを追い詰めていく。
本来、実力やその連携の練度から、アーシア一人を守りながら戦うことくらいどうってことないレベルだ。
しかし、それはアーシア
咆哮を気いてから全く動かず、普通ではない雰囲気を発するイッセーも守る必要があった。
「イッセー君!イッセー君!」
木場は敵の攻撃を防ぎつつ懸命に呼びかけるが、イッセーは動かない。
「イッセー、あなたどうしたの!?」
「何かされたのですか!?」
リアスや朱乃の言葉にも無反応。
『相棒!俺の声を聞け!お仲間の声を聞け!頭に響く言葉に耳を傾けるな!』
ドライグも口調から必死さが伝わるほど、イッセーをなんとか現実に引き戻そうとする。
しかし、そのドライグの言葉にいち早く反応したのは匙だった。
「声…さっきから頭の中に響くこの声のことか!」
匙はそれがなんなのかわからないが、とりわけヤバそうな雰囲気がしたので揺るぎない意志を持って振り切った。
「…声ですか?声がするんですか?」
堕天使を殴り倒した子猫は、不思議そうに顔を傾けた。
「声だよ。さっきから頭の中に直接響いてくるんだ」
しかし、子猫はもちろん、リアスたちも首を傾げた。
どうやら、謎の声が聞こえるのはイッセーと匙、ドライグくらいらしい。
『匙と言ったな、お前の神器もドラゴン系統のものだ。もしかしたら、大昔にアイツと出逢ってるかもしれん』
「出逢ったって…」
不思議そうにする匙に、光の槍が飛ぶが、紙一重でその攻撃を躱す。
「戦いの最中におしゃべりなんて…随分と余裕じゃない」
「けっ!可愛くねー女だな!いきなりこんな危ないもん投げやがって!」
匙は神器を取り出して、女の堕天使に向かって突撃する。
「ドライグのおっさん!後で話を聞かせてもらうぜ!」
『ああ、今は戦いに集中しろ。あと、誰がおっさんだ!』
水中にて、コカビエル。
数センチ先は一切何も見えず、その先からもゴジラの気配がない。
しかし、彼は確信していた。
(奴は必ずいる)
どうやって気配を消したかは知らないが、ゴジラには隠しきれていないものがあった。それは…
(感じるぞ…悍ましいほどの『怒り』と…心臓を鷲掴みにするような『殺意』がな…)
彼クラスになれば、わざわざ術を使って気配を追わずとも、長年培ってきた感覚で視線を感じ取れることができる。
いくらゴジラが巧妙に自然に紛れようと、自分に対して殺意や怒りをぶつけてくる限りは大まかな位置は特定できる。
コカビエルは上を見る。
上空に数人の堕天使の気配。
恐らく助けようと近づいてきた者たちだろう。
(今息継ぎのために浮上すればゴジラにそこを狙われる。痺れを切らした手下どもが助けに水中に入れば全員揃って殺される…かと言ってこのまま何もしなければ俺が溺れ死ぬ…)
コカビエルは気づく。
この状況、わざわざゴジラが自分を倒さないのは、確実にコカビエルを倒し、尚且つ手下数人を殺すためだろう。
(嵌められたか…化け物のくせに…)
コカビエルは心の悔しさをグッと堪え、意を決して浮上した。
その時、上空に向けて槍を放った。
川から勢いよく、光る槍が飛び出した。
それを浮上の合図と踏んだ、リーダー格のガタイのいい男が指揮をした。
「コカビエル様が浮上するぞ!お前たちは援護を頼む!」
リーダー格の男に続き、腕っぷしが立ちそうな男数人も突撃した。
「あたしたちは、いつでも戦えるようにするんだよ!」
上空では堕天使の女たちが翼を広げ、光の槍をいつでも放てる状態にしていた。
男たちは不慣れな水中に飛び込むと、浮上してきているコカビエルを見て思わず一安心してしまう。
その一瞬の油断が命取りとなった。
茶色に濁った暗い視界からいきなり鋭い腕が伸び、瞬く間に堕天使二人を、より深いところへ引き摺り込んだ。
そして、そこでゴジラは首に噛み付いたり、鋭い爪で肉をズタズタに引き裂くのだった。
水中に微かな堕天使の悲鳴と、獣が喉を鳴らす音が響く。
その一瞬を見たコカビエルとその他堕天使は顔を青ざめさせた。
「(早くお行きください!)」
リーダー格の男は二人の堕天使と守りながら、コカビエルを浮上させる。
水面まで残り2メートルで、堕天使の男一人が、どこからともなく現れたゴジラに後ろから首を噛みつかれ消えていく。
水面まで残り1メートルで、また別の男が、凶悪な引っ掻き攻撃を顔に食らう。
「あぎゃぁぁぁあああ!?」
顔面の大半を持っていかれ抉られた男の痛々しい悲鳴が、ゴポゴポと泡の音ともにコカビエルとリーダー格の男の耳に届く。
しかし、それはすぐ、水中に儚く消えてしまった。
水面まで残り30センチメートルのところで、リーダー格の男はコカビエルに迫っていた攻撃を庇い脱落。
水の抵抗をモノともしない尻尾攻撃が頭に直撃し、脳震盪を起こした直後に気絶する。
邪魔者を鬱陶しく思ったゴジラが、執拗にその男の頭を噛み砕くのだった。
(く…狂っている…これが…これがゴジラと言うのか!?)
改めてゴジラという生態系の頂点に君臨する者に、コカビエルは言葉を失った。
強い、酷い、怖い…いくら聖書に記載された堕天使といえど、自然の怒りそのものの災害を前に、そう感じる他ない。
「なんつー戦い…いや、もう戦いなんて言えねえな…」
匙はふとゴジラがいる川を見た。
濁流に流されていくのは、たった今殺されたばかりの死体だった。
(今ほど悪魔の目を恨んだことはねえな…)
既に日は落ち、昔ながらの景観を重視した『壬龍の庭』は街灯が少ないため、どうしても視界は悪くなる。
このような暗闇こそ、昼のように見えるほど夜目が発達した悪魔が得意とするフィールドである。
そのため、ズタズタに抉られ、もはや顔があったとはとても思えなかった。
「今はこちらに集中したほうがいいわよ?」
つい気がそれた匙は、つい堕天使からの攻撃を掠ってしまった。
光の槍ではなかったのが幸いか、自前と思われるナイフによって右肩を負傷し、勢いよく血が飛ぶ。
「あっはは~!やっぱこれだわ!光の槍なんかで攻撃してしまったら肉どころか血すら残らないからね~」
ナイフに付着した血を見て、恍惚な表情を浮かべ、口元からはよだれが垂れていた。
「相変わらずですね、お姉さま」
「あら、でもあなたも大好きじゃない」
匙へ連携攻撃を加える堕天使の女の一人が窘めてきたが、かく言う本人も血を見て興奮を抑えられないようだ。
姉と言われた方がそのナイフをわざとらしく顔の目の前に持ってきて握らせると、大和なでしこ風の落ち着いた雰囲気から一変し、顔を赤らめながらナイフを振り回してきた。
「真っ赤な血を私とお姉さまのために流してくださいな?」
一見二人はもちろん、連携をとる堕天使の女たちの見た目は素晴らしく、美少女の集まりだったが…
(揃いも揃って流血を見るのが好きとか…どんな趣味だ…)
「ちっ…しつけえ女は嫌いなんだよ。さっさとご退場願うぜ…」
お互い挑発するものの、匙の方はいまいち余裕がなかった。
先程から相手をしているこの女の堕天使たちは、一見戦うことに快楽を見出し、血を流すところを見て興奮するようなバトルジャンキーだが、連携が生み出す隙がなく絶え間ない攻撃は本物だった。
「かの赤龍帝が流す血も見てみたいわね~」
「あいつのとこに行かせるかよ!」
意地でも匙は守り抜かなければならなかった。
同じ龍を宿す者同士、どことなく嫌な予感がしていたのだ。
手下たちの犠牲もあり、息継ぎはできたが、すぐさままたゴジラが自身につかみかかってきた。
両腕を掴まれたが、動かそうとしても全く動かない。
(こいつ…どんな筋力だ!?)
コカビエルはそれでも何とか踏ん張り、ギリギリ水面から顔を出した。
「俺ごと撃て!」
それを聞いた女の堕天使たちは固まった。
ただでさえ助けに入った男たちは帰ってこないことに衝撃を受けているのに、コカビエルが自分ごと撃てと言うのだ。
いろいろ気持ちの整理ができずに混乱しているところへその命令だったが、狼狽えながらも光の槍を投げ込んだ。
「うぐっ!?」
いつまでもゴジラは、コカビエルに呼吸をさせてやる余裕など与える訳もなく、足に尻尾を絡め、再び水中に引き摺り込んだ。
コカビエルは光の槍でゴジラの目を晦ましつつ、攻撃を加えて脱出の機会を窺う。
しかし、ゴジラは光の槍で怯むことなく、一切物怖じせず真正面からその攻撃を受けた。
ただ、ダメージを受けていないとは言え、その攻撃が鬱陶しいものに変わりはないため、ゴジラはさらに怒ってしまう。
鋭い歯が並ぶ口を開き、水中の抵抗をものともせず、素早くコカビエルの首元に噛みつこうとする。
(くそっ…やむを得ない…)
コカビエルはスッと左腕をゴジラの目の前に持ってきた。
(腕一本くらいくれてやる!)
ゴジラはその左腕に噛み付くと、強引に引きちぎろうとする。
コカビエルも抵抗はしたが、バキバキと音を立て、いとも簡単に腕を持っていかれてしまった。
ゴガァ"ァ"ァ"ア"ア"ア"!!
獲物を取ってやったと言わんばかりに、水面から顔を出してゴジラは吠えた。
「あのコカビエルを…!?」
「なんという…」
流石にこれには、リアスも朱乃も動揺した。
今回わかったこと、それは、ゴジラが水中において、恐らく無敵であること。一度でも水中に引き摺り込まれたら、脱出は不可能であることだった。
「撃て!」
その一瞬、ゴジラが顔を出した時を狙って、上空で待機していた堕天使たちが、一斉に光の槍を投擲。
放たれた槍全てゴジラへと向かい、それはミサイルのように爆発した。
その数およそ数百。これにはゴジラも怯んでしまい、すかさず水中奥深くへ潜り込んだ。
「今よ!」
堕天使の一人が決死の覚悟で飛び込み、コカビエルを掴むとすぐ陸へ上がった。
無事とは言えないが、救出は成功したのだ。
「良かった…」
その一瞬の安堵が生んだ隙が命取りとなった言えよう。
水飛沫を勢いよくあげ、川から猛スピードで飛び出してきたゴジラが、堕天使の女の一人の頭に噛みついた。
「い…嫌…やめ…て…」
想像を絶する痛み、死ぬことへの恐怖で、女は泣きながら懇願した。
そんな彼女のことを一切気にも留めず、辺りをぐるりと見渡す。
女を咥えたまま首を動かすと、戦いを中断し、こちらを呆気に取られながら見るリアスたちや他の堕天使がいた。
そして、突っ立ったままのイッセーを見たゴジラは、喉を鳴らして笑ったのだった。
「あれが…春雄君…ゴジラの全容…」
「…ものすごい威圧感です…」
木場も子猫も、初めて完全にゴジラとなった春雄を見て、冷や汗をかく。
「あの…さっきからイッセーさんの方を見て、春雄さんが動かないんですが…」
アーシアは恐る恐る部長に言う。
あれほど激しく戦っていたゴジラが、イッセーを見た途端突然停止したのだ。
(あれは何…?笑っているの…?)
リアスは猛烈に嫌な予感がした。
この状況、どこに楽しめる要素があるのだろうか。
一方的に虐殺を尽くしたゴジラは、ただ生物としての防衛本能から敵を倒したのではないのか。
しかし、ゴジラは今笑っている。
「ッ…!」
リアスは思わず後退りした。
ゴジラに対して、完全に恐怖を抱く。
あの優しそうな春雄の面影はない。
あそこに立っているのは、紛うことなき恐ろしい獣…怪獣だ。
ゴガァ"ァ"ァ"ア"ア"ア"!!
ゴジラは女を興味が失せたようにその場に落とし、空気を思い切り吸い込む。
そして胸がパンパンに膨れ上がったところで、一気に咆哮として解放した。
見る者全てを圧倒するそれは、単純な恐怖を抱かせるものではない。
その咆哮には何も寄せ付けない、自然の如くの力強さ、壮大さがあった。
これを直接その場で聞いて、畏怖の念を抱かないわけがない。
まさしくそれは、王者の風格だ。
それもたった一つの国に立つ小っぽけな王ではなく、全ての自然、地球そのものの真の王者だった。
呆気に取られていたコカビエルと他堕天使たち。
この状況に呑まれまいと、リアスたちを担当した堕天使の男が叫んだ。
「コカビエル様に手を出した不届者には死を!」
光の槍を構え、ゴジラに向かって猛スピードで突っ込む。
しかし、ゴジラはその場から全く動こうとしない。
(コイツ…舐めやがって!)
男は無謀にもゴジラに挑む。
しかし、ゴジラに固執するゆえ周りが見えていなかった。
「ぐあっ!?」
突然背中に衝撃を受け、そのまま地面に突っ込んでしまう。
男は何とか後ろを見ると、そこには…
「せ、赤龍帝!?」
頭部右側から黄色の立派な角を生やし、左腕と右足を龍のものに変え、悪魔とは違う龍の翼を生やしたイッセーがいた。
口元を見れば、右半分鋭い龍の歯が並び、左目は鋭く、細い瞳孔の龍のものになっていた。
「な、何を…!?」
イッセーは鋭利に尖った爪を、男の背中に深々と突き刺し、それは遂に心臓を突き破った。
男は断末魔をあげるまでもなく死んだ。
「い…イッセー…?」
あまりにも残酷な殺し方に、リアスは膝をついた。
今、彼女の記憶には二人の男子生徒の姿がある。
兄弟揃って学校では問題児扱いとなっているが、一緒にいるとわかることがあった。
二人とも、困っている人がいれば迷うことなく手を差し伸べ、誰にだって優しいところがあるのだ。
そんな二人が、今は殺戮の限りを尽くしている。
ゴジラとなった春雄は、コカビエルを守るように立ち回る堕天使たちを次々と返り討ちにしていく。
埒が開かないと判断した堕天使たちは、遠距離からの一方的な攻撃を試みるが、空を飛ぶと今度は赤龍帝の餌食となる。
どうしてこうなったのかは謎だが、タガが外れたように暴れ回った。
そこには、先ほどまでの格闘を主体に置いた戦い方から、力の限り暴れ回り、秩序も何もない獣同然の殺し方になっていた。
次々と辺りに肉塊が転がってゆく。
ゴジラも赤龍帝も、男女関係なく、皆等しく葬っていった。
赤龍帝が堕天使を撃墜すると、下で構えていたゴジラが止めを刺す。
殺され方は様々だ。
無理やり引きちぎられた者、尻尾に下敷きにされ潰された者、骨を粉々になるまで噛み砕かれた者…
残虐非道…その凄惨な有様にリアスたちは呆然としたり、涙を流す者もいた。
しかし、獣に秩序を求める方が間違いだ。
匙も衝撃を受けながらその様子を見ていると、不意に話しかけて声が聞こえた。
「誰だ?」
『俺だ、ドライグだ』
「ああ、兵藤の相棒の…って、おい!あれどうすんだ!?」
突然、匙が騒ぎ始めたことで、彼にグレモリー眷属の視線が集まる。
それを気にせず、匙はドライグに問い詰める。
「あんたアイツの相棒だろ!?あんなになっちまったアイツをとめるのは、相棒のお前の役目でもあるだろ!このままじゃアイツ…」
『ああ…このままでは危険だ。しかし、もはや相棒に聞く耳は持たん。早いところ相棒の暴走を止めねば、あのままゴジラの声のまま破壊の限りを尽くす』
「なんだと…ゴジラが…?」
『ああ…大昔に俺はゴジラと戦った…いや、あれは戦いなんて言えるものじゃないな。ゴジラは俺らを蟻と同然にしか思っていなかったがな…そして、その時俺たちは皆、等しく『恐怖』を植えつけられた』
匙は「?」だった。
しかし、ドライグは匙の疑問がなんなのかわかっている。
『単純に恐怖を植え付けられただけなら、後にいくらでも克服できる。むしろ、今までの我々なら強い奴と戦えることに嬉々としていただろうがな。
だが、一度ゴジラに破れた者は、『恐怖』によって忠誠のようなものが植え付けられる。ゴジラが何か命令を出すため咆哮をあげれば、『恐怖』した者はそれに従ってしまう』
「なんだ…じゃあ兵藤兄が急に変わっちまったのも、兵藤弟がやったからなのか!?」
匙が言ったことに、リアスたち目を開いて驚いた。
「なあ、ドライグ。兵藤兄を止めるにはどうすれば…」
『気絶するほどの衝撃を与えれば良い。ゴジラが『恐怖』を繋ぐのは、魂と思考へのリンクだ。気絶で一瞬でも思考が止まればゴジラとのリンクを遮断できる』
「わかった!恐えけどやるしかねえな!」
匙は今ドライグから伝えられた内容をリアスたちに伝えた。
その話を聞いた時、皆それなりに衝撃を受けていたが、すぐイッセーを助けるため立ち上がる。
すると、アーシアが…
「では…春雄さんを元に戻すことは…!」
匙はドライグに尋ねるが…
「すまん…ドライグにもよくわからないそうだ…悪いな…色々力になれなくて…」
「いえ…匙さんはすごく頑張ってます…私も皆さんのために戦いたいんですけど…」
見るからに落ち込むアーシアだが、匙はニッと笑う。
「ここで待っててくれ。兵藤を治せるのはアーシアさんしか居ないからな」
作戦はこうだ。
匙をイッセーの元に向かわせるため、木場とリアスが組んで邪魔な堕天使たちを一掃する。
しかし、数の差を埋められないので、子猫と朱乃が援護に回る。
そして、匙がイッセーに肉薄すると同時に、鉄拳を思い切り叩き込む。
「おい、木場…」
匙はゴジラを見据えながら木場に話しかけた。
「なんだい?」
「俺もたぶんだが、ゴジラとのリンクが少なからずある…」
匙の呟いた言葉に、木場とリアスは緊張が高まる。
「もし…もし俺がダメだと判断したら、俺を黙らせてくれ…」
「それって…」
「殺してくれ…とは言わねえ。お前にそれ以上、血で汚れてほしくねぇ…できれば半殺しくらいで頼む」
「でも…」
木場もリアスも目に見えて狼狽えて動揺しているが、匙は力強い瞳で二人を見る。
「もう…敵がなんなのかわからねえ…この世界には、とんでもねえ奴らが山ほどいる…禍威獣もムートーも…俺たち悪魔ですら理解の及ばない奴らがな…」
「だから」と、匙は続けた。
「覚悟を決めなくちゃな…じゃねえと…先に食われちまうぞ…」
そうして飛び出していった匙。
神器を展開する左腕は暗黒の龍に変わり、翼も悪魔とは異なったものが生えた。
「ッ!行きましょう、部長」
「ええ…彼も相当辛いはず…チャンスは一度きりね!」
木場は魔剣を創造し、リアスは滅びの魔力を生み出した。
堕天使たちが匙たちに気づく。
それどころでないのに、この混乱に乗じて攻めてきたと捉え、何人かを対処に向かわせる。
「ん…邪魔」
先行していた子猫が先制攻撃を叩き込み、瞬く間に3人を脱落させた。
その後も重い攻撃を繰り出し、増援をガンガンと削ってゆく。
「遠距離攻撃に切り替えよ!」
堕天使たちはすぐ攻撃を切り替え、光の槍を投げようとするが…
「あらあら…そんな攻撃をさせる暇は与えませんわ」
空から無数の雷が降り注ぐ。
朱乃が得意としている、雷を使った魔力攻撃が炸裂し、遠距離攻撃部隊を撃滅する。
「今ですわ!」
「この程度の数なら私たちに任せてください」
子猫と朱乃が残党を引き受け、匙、木場、リアスはさらに奥へ進む。
「君たちに用はない!」
「とっとと失せなさい!」
邪魔をする堕天使は木場の魔剣創造により串刺しにされ、飛び回る者たちはリアスの『滅びの力』で消し飛ばされた。
「行ってくれ!」
「お願い!イッセーを!」
木場とリアスに後押しされ、匙はひたすら走る。
目の前にさっき戦ったあの女たちがいた。
「あら〜またやられにきたのかしら?」
だが、今は相手をしている暇はない。
今はまた鼻の先のアイツだ。
「どけえ!変態サイコどもが!」
一番に飛び込んできた女の顔を踏み台にし、匙は大きく跳躍した。
その時、コカビエル、ゴジラも超えて行き、一点だけ目指していた。
「とどけぇぇぇえええ!」
匙は龍化した左腕を思い切り振りかぶり、イッセーの顔めがけて振り抜いた。
「兵藤ぉぉぉおおお!!」
…
「俺は…俺は…大勢の命を…」
敵とは言え、何人もの命を奪った自分自身の手を見て、俺は突然吐き気が催した。
そうだよな…俺は悪魔だもんな…
こんなことになるくらい、わかっててはずなのに…
前に春雄が言ってたっけ…戦うことは甘くねえと…
俺は…まだクソガキだ…
超馬鹿だ…
とっとと現実を見ろよ…
…そう簡単に割り切れたらどれだけ楽だろうな…
ポスッ…
俺は気がつけば、部長に抱きしめられていた。
胸に押し付けられ、これ以上ない幸福に見舞われたにも関わらず、俺の気分は落ちたままだった。
意気消沈する俺の耳元で、部長は呟いた。
「帰ってきてくれてありがとう…」
涙混じりに呟く部長の声を聞き、俺もつい涙を流した。
なんで俺が泣くんだよ…
自分に心底呆れるも、涙は滝のように流れていく。
俺はみんなの前で、声を殺して泣いた。
…
とある山の中にて。
突然地面が隆起し、次の瞬間には何かがそこを突き破って勢いよく現れた。
丸っこい頭部に赤い目を光らせる禍威獣、パゴスがいた。
パゴスは敵意剥き出しに、目の前の最大の障壁に向かって吠えた。
対するのは、生態系の頂点に君臨するゴジラ。
ゴジラも負けじと、息を大きく吸い込んで吠え返す。
真夜中の山中で、2体の獣がぶつかり合う。
そこには、ルールや秩序は存在しない。
小細工一切なしの、己の力のみの殺し合いが始まるのだった…
今回も長くなってしまいました…申し訳ないです…
ちなみにゴジラは人より少しデカいくらいの2メートル程で、パゴスも同じくらいの大きさです。