黒き王の原罪   作:イテマエ

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 いくらかオリジナル展開ですが、なるべく大きく逸れないようにはしたいです。


第4話 力が目覚める者

 現在、一誠は馬車馬のようにチラシを配っていた。

 深夜帯の作業と言うことで、面倒くさい以上に体力的な問題もあって、大抵の人ならば過度な疲れを覚えるはずだった。

 そう、()()ならば…

 

(悪魔…と言っても実感がいまいちわかねーけど、こんだけ夜(おせ)えが体は疲れちゃいない…)

 

 そう思いながら一誠は周囲を見渡してみる。

 時間帯は夜であるはずだが、今は昼のように明るく感じ、目も不思議と冴えている。

 先ほど散々走り回ったにもかかわらず、息も落ち着いている…

 

(本当に変わっちまったんだな…)

 

 どこか名残惜しそうに自分の手を見つめる一誠。

 そしてふと思う。

 

「変わったと言えば…」

 

 思い起こされる、悪魔と出会った時の、春雄の殺意…

 どれだけ馬鹿をやっても、どこか暢気だが優しさだけは誰よりもあったあの春雄が、体の芯から震えさせるほどの冷たい殺気を放っていた。

 そのあまりの変貌に一誠は恐怖以上に戸惑いを覚えていた。

 

(あいつは人間だ…まさかそんな…)

 

 頭では否定するが、部長のリアスが言う通りならば、あれだけの力を持つ堕天使の一人を一方的に封じたのだ。

 疑いたくはないが、何かあるとしか思えなかった。

 

「あっ、イッセー!」

 

 噂をしていると、当の本人がこちらに走ってきた。

 一誠同様に整った顔立ちだが、どこか無邪気さも残る春雄。

 

「ビラ配り、終わっちゃったの?」

 

「…おう」

 

「じゃあ帰ろっか?部長も『終了次第帰っていい』って言ってたんだし」

 

 そう言ってあどけない笑顔を向ける春雄。

 絶対に喧嘩とは無縁そうなこの男が、どうしてあんな殺気を放つのか。

 

「やっぱりあのことは本当なのか…」

 

「ん?イッセーなんか言った?」

 

「え?い、いや…なんも言ってないぜ!それよりも早く帰るぞ!」

 

 深夜の小道を二人分の自転車が並走する。

 家路を急ぐその姿は、完全に暗闇へと消えて見えなくなった。

 

 

 

 次の日の放課後、僕はイッセーに呼び止められていた。

 何でも放課後から夜にかけていつものように活動があり、できれば手伝ってほしいということだ。

 

「手伝いたいのはやまやまなんだけど…」

 

 ごめん!イッセー!実はこの後近辺のスーパーでバイトがあるんだ。

 するとイッセーはジト目になり、

 

「まさかまた無断でやるつもりはないだろうな?」

 

「この前のバイトは秘密だったけど、今日のは去年から申請してたやつだから大丈夫だよ」

 

 一通り話し終えると、イッセーはため息をついた。

 なんかあまりにも疲れていて、かわいそうだったからせめてものって感じで、今日出された課題を一緒にやってから行くことにした。

 

「お邪魔します」

 

 オカルト研究部に入ると既に…えーと…誰だっけ小っちゃいのと、優男で痩せ気味の金髪の………

 

………

 

 

………

 

 

 

………

 

 

 

 

 

………?

 

「イッセー…」

 

「?なんだ?」

 

「あの二人…誰だっけ………」

 

 心の底から僕は申し訳なさと不甲斐なさを感じた。

 イッセーは呆れてため息をつき、金髪の男子生徒は苦笑いし、

 

「覚えてくれていないなんて…最低です…」

 

 女子生徒は頬を膨らませ、不機嫌そうにも俯いていた。

 その後、木場祐斗さんと塔城子猫さんに謝った後、テーブルに課題を広げた。

 

「今日の課題かい?」

 

「あれ、同じ課題?」

 

「うん。丁度今日その分野に入ったところだね」

 

 同じ学年は知ってたけど、まさか同じ教科担の先生だったとは。

 木場さんもその授業はわかりやすいって好評だった。

 さすが神永先生。

 

「あら、みんな来ていたのね」

 

「あ、リアス先輩に朱乃先輩、お邪魔してます」

 

「…お二人のことは覚えているんですね…」

 

 遅れて現れた二人に挨拶をすると、先程のこともあって塔城さんは拗ねていた。

 

「そりゃあ…イッセーから2大お嬢様っていうことは聞いていたし」

 

「あらあら、光栄ですわね」

 

 姫島先輩は慣れた手つきでお茶を用意してくれた。このお茶、冗談抜きでホントにおいしいんだなこれが。

 僕は当然飲まずにはいられず、熱々のうちに流し込んだ。喉元を過ぎていく熱さが、じんわりと体に広がっていく感じがやみつきになる。

 そうしている間にもイッセーは課題に取り組むが…

 

「う~ん…」

 

 かなり難航している様子だった。

 バイトまで時間も迫ってきているし…

 

「イッセー、とりあえず3つの不等式は手っ取り早く作図して、そっからササッと交点全部出して」

 

 

 

「んで、x+2y=kとおいたらy=-1/2x+1/2kにして。そうすれば傾きマイナス2分の1の直線が切片によって…そうだな、簡単に言えばグラフが上下に動くんだよね」

 

 

 

「そしたらさっきの範囲Dの中で最大最小になる一点を出すんだ」

 

 

 

「kはx+2yの最大値最小値だからさ、さっき設定したk=x+2yに最大最小となる点を代入すれば答えが出るよ」

 

 なんてザッと軽く教えたところで時間は来てしまった。

 そろそろ準備しようとすると、オカルト的の視線が気になってきた。

 なんだ?みんな水鉄砲くらったカエルみたいな顔して…

 

「あの…何をそんなに驚いてんの?」

 

 すると塔城さんが、

 

「いえ…少し失礼ですが…意外かなと…」

 

「え?」

 

 困惑する僕に、イッセーが説明してくれた。

 

「そりゃそうだろ?校則破りの常習犯、ついには学園始まって以来の馬鹿って言われるお前が、普通に数学できるどころか、人に教えられるんだからな」

 

 まあ自分でも行動は馬鹿なところがあるとは思ってるけど…

 

「春雄君は頭がいいの?」

 

 リアス先輩の質問に対し、

 

「まあ…テストならこの学校で20位以内には入りますけど…」

 

 自信なさげに答えると、イッセー以外のオカルト部は驚いていた。

 どんなイメージ持ってたんですか…って聞くまでもないか。

 

「不思議ですけど、こいつは意外と頭いいんすよ、部長。伝説になった去年の卒業生のための打ち上げ花火もこいつの自作です」

 

 あー、あの黒歴史か。

 一個上の先輩がふざけて言ってたやつを僕がそのまま鵜呑みにしたんだっけ。

 当然そのあと教師と生徒会、そして役員の保護者たち相手に鬼ごっこをしたんだった。

 

「どうして頭はいいのに根本は馬鹿なんですか…」

 

 呆れたように辛辣な言葉を並べる塔城さんは、僕をジト目で見てくる。

 今まで何度も向けられたこの目。

 僕は深くため息をついてバイトに向かった。

 

(なんだろ…)

 

 向かう途中、邪な気を感じてしまった。

 2年生からは普通な生活を送ろうと思ってたのに。

 とりあえず今はバイトに急ごう。

 

 

 

 そして深夜…にはまだ突入していないが、辺りは真っ暗な頃だった。

 とあるマンション一室でイッセーは初となる依頼をこなしていた。

 依頼人の森沢という男に、はじめは悪魔としての信用をあまり持ってもらえなかったのだが、その後アニメの話で意気投合し、依頼は果たせなかったものの、かなりの好印象を与えたようだった。

 まさにひと段落して帰ろうとしたその時、

 

 

 

ザシュッ!

 

 

 

 いつか見た光の槍のようなものが飛んできて、イッセーの脇腹を掠めた。

 苦痛で表情をゆがめるイッセーは、なんとかして気配の方を見ると、

 

「このような場所で、まさかお前ほどの存在に会えようとは…」

 

 そこには黒い帽子と黒いコートで身を包む男がいた。

 そしてその目からは殺意が放たれていた。

 

「うわっ!?」

 

 気がついた瞬間、イッセーの腹に槍が刺さっていた。

 突然目の前の景色が揺らぎ、自分の体はグラついて立つことすらやっとである。

 痛みに耐えながら強引に槍を抜くと、視覚のなんらかの障害は改善されたが、依然多量出血で危険な状態であることに変わりない。

 

「槍を抜くとは…まあ良い判断だろうな」

 

 そう言って男はまた槍を生み出す。

 

「堕天使…か…」

 

 痛みがピークになり、いつ気を失ってもおかしくないなか、イッセーは精神力だけでスタンに耐え、男を睨む。

 

「ああ…堕ちたと言え、我々は天使…悪魔のお前たちにとって光は毒…」

 

 そして光の槍を構えなおし、今度こそ止めを刺そうと一気に詰め寄ってきた。

 このまま何もしなければ負ける………

 

 

 

………もし負けたら………?

 

 

 

 オカルト研究部のメンバーが一誠の頭をよぎった。

 ハーレム王を目指し、そのために校内の人気者が集ったオカルト研究部で、あわよくばおいしい思いができたらと考えているこの頃。

 青春らしい青春を送れなかった一誠は、この美少女が集まる最高の場所で、上級悪魔になるため決意をしたのだった。

 

 

 

 そんな彼女達に会えなくなってしまう…それ以上に…

 

 

 

…せっかくの新しい居場所に戻れなくなってしまう…

 

 

 

 リアス、朱乃の2大お嬢様に加え、校内で大人気の子猫と木場…

 なんとなく自分は場違いなのでは、と思っていたが、

 

「こんなところで…くたばっていられるか…」

 

 あそこに居心地の良さを感じていた。

 そしてそのオカルト研究部があり、どうしようもない悪友がいて、そして同い年の大切な家族がいるこの学園…

 

「俺は…」

 

 左手に力が宿っていく。

 黒に身を包んだ男の顔が焦り始める。

 

駒王学園(自分の居場所)に帰る!」

 

 決意を固めたとき、炎のように赤い左手を、力一杯相手に叩きつけた。

 その目は闘志であふれ、闇夜を照らす炎のような左手は輝いていた。

 

 

 

…目覚めの時だ。

 

 

 

 殴られた衝撃で吹き飛んだ男は、なんとか立ち上がった。

 

「く…このタイミングで目覚めたか…」

 

 先ほどまでの様子とは一変し、一誠に、正確には左手の籠手のようなものに狼狽えていた。

 瀕死の状態だというのに、立ち続ける目の前の存在は、彼にとって大きく見えていた。

 するとそこへ、

 

「そこまでにしてもらえるかしら」

 

 リアスがやって来た。

 怒気を含んだ声で二人の間に立ち、鋭い目線で男を牽制する。

 

「私の領地で私の(しもべ)に手を出して…随分と勝手なことをしてくれたわね?」

 

「いや…申し訳ない…こんな夜更けに一人で歩く悪魔を見て…はぐれと思ってしまったのだ…管理はしっかりとしておくのだぞ?危うく葬ってしまうところだったからな…」

 

「でもこれでわかったでしょう?堕天使は二度とイッセーに、私たちに近づかないことね」

 

「…善処しよう…」

 

 二人の間に流れていた緊張の空気は、少しだけ溶けたようだ。

 ここで殺し合いに発展して面倒ごとになることを防ぎたいことは、双方一致していたのだろう。

 

「命拾いしたな…小僧…」

 

「て…てめえ…」

 

「最後に私はドーナ・シーク…再び相まみえないことを願うが…」

 

 ここで再びこの男に殺意が戻る。

 

「そういえば…この街に人間の中で強力な力を持った者がいるらしいが…」

 

 男の言葉に一誠とリアスは冷や汗を流す。

 二人の異変に気付くが、男は続けた。

 

「何か知っているか?」

 

「…知らないわ…ところでその対象人物はどうするつもりなの?」

 

「当然、見つけ次第殺す。それだけ奴は危険と判断された」

 

 一誠は消えかける意識でそのことを聞き、ガリッと唇を噛んだ。

 いったいこの世は、どれだけ春雄を苦しめるのだろうか。

 

(あいつが一体何したっていうんだよ…)

 

 現状、何もしてやれない自分に、無性に腹が立つ。

 ここで文句の一つや二つ言いたいところだったが、変に要らぬことを喋って自分たちが関わっていることを知られれば、もっと面倒になるだろう。

 悔しいのはリアスも同じである。

 今は大人しくしているのがベストであろう。

 

「では…さらばだっ…」

 

 いざ立ち去ろうとした時、男に向かって猛スピードで何かが突っ込み、大きく吹き飛ばした。

 完全に気絶した男に、心配して駆け寄るものが一人。

 

「大丈夫!?おっさん!」

 

 あろうことか、現在目をつけられている危険人物だった。

 

「春雄君!?」

 

「あ、リアス先輩、こんばんは。こんなところで会うなんて…」

 

 ここで春雄は、リアスに支えられている大怪我の一誠が目に入る。

 リアスはとりあえず心配ないことを伝え、春雄を落ち着かせた。

 

「じゃあリアス先輩に任せればいいんですね」

 

「ええ。必ず助け出して見せるわ」

 

 普通なら信じられないが、既に事件は常識の範囲内を超えている。

 普通に考えるより、そういったことに詳しい悪魔であるリアスに任せた方がいいだろう。

 それに彼女の表情に曇りや惑いはなく、信じるには十分だった。

 

「お願いします…っと最後に、この伸びてるおっさんは?」

 

「あぁ…そのままで大丈夫よ」

 

 

 

 

 

 昨日はリアス先輩に全部任せたけど、イッセーは大丈夫かな…

 イッセーの部屋の前に立つ僕は、なかなか部屋に入れないでいた。

 もし助かっていなかったら…怖いんだ。

 でも…

 

 

 

 

 

「イッセー!起きて…」

 

 意を決して扉を開けると、目の前の光景に僕は思考が止まった。

 イッセーとリアス先輩が一糸纏わぬ姿で寝ていたようだ。

 イッセーも起きた直後、意味が全く分からない様子で固まっていた。

 

 

 

 その後リアス先輩に事を簡単に教えてもらった後、僕たちはいつも通り学校へ向かった。

 道中、リアス先輩のことを思い出してか、イッセーはだらしない顔になっていた。

 いつも通りの変態(正常運転)で安心した。

 

(助けるためとはいえ…まさかあんな…)

 

 朝一からあの光景はいろいろ心臓に悪い。

 それにしても…

 

(あの男について詳しく教えてもらえなかったような…)

 

 あの夜バイトが長引いてしまったため、補導員に捕まらぬよう急いで帰宅しているとき、突然現れた人(?)を轢いてしまったんだ。

 でも同時にその男へ、本能が警笛を鳴らしていた。

 そしてイッセーもリアス先輩も挙動不審で、なにか隠しているように見えていた。

 そうして物思いに更けていると、

 

 

 

 ドンッ

 

 

 

 僕とイッセーは背後に軽い衝撃を感じ、後ろを見ると…

 

「いたたた…」

 

 地面にぶつかった反動で転んでしまっただろう、金髪のキリスト関係者と思しき人女性がいた。

 この女性を見て、僕たちの意見は一致しているだろう。

 

((か…かわいい…))

 

 

 

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