黒き王の原罪   作:イテマエ

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お詫び

 前回の話で、アーシアと一誠の友達のシーンを乗せ忘れましたことを深くお詫び申し上げます。

 部長に怒られた一誠は、それでもアーシアのことが気がかりで仕方なかった。
 翌日、春雄に無理を言って教会からアーシアを連れ、一誠は彼女と一日遊んだのである。
 その時春雄が状況を把握し、学校とオカ研部の方に上手く取り繕ってくれたそうだ。
 そこでアーシアのつらい過去を聞いた一誠は友達になるのであった。

 こんな感じです。
 ホントすみませんでした。





第6話 王として立つ

 イッセーと春雄は、依頼を受け付けその主のところまで来たはいいものの、そこは既に吐き気が込み上げるほど悲惨な有様になっていた。

 

「悪魔に関わったから」

 

 たったそれだけの理由で無惨にも殺された依頼主を、さも当然のようにほざく外道神父。

 奴は、正義のためと称して悪魔や人を殺すことに快楽を覚えていた。

 実に歪んだ過激な正義である。

 

 地球上に住む生命は星の数ほどある。

 そのうちの一つが無くなったとて、それにも構わず地球は回り続けるだろう。

 それでもこの世に生を享けた一つの命に変わりはない。

 

『粛清』

 

 春雄の心の中で渦巻く殺意。

 他の誰でもなく目の前の咎人ただ一人を見据える目は、怒りで満ちていた。

 この地球に住まう一つの種を不用意に刈り取られた()は、神父を「調和を乱す者」として「粛清」するため動き出そうとしていた。

 

 

 

 一誠は、変貌を遂げた義兄弟の容姿を目に捉えた途端、周りの時が止まったような錯覚に陥った。

 溢れ出るオーラはまさしく『王』だった。

 肌にビリリと刺激するような圧倒的な力と殺意。

 ただ王は立っているだけだったが、一誠には堂々とした立ち振る舞いのように見えたのか、畏多さを感じつつ魅了されていた。

 

「な…なんなんすか?とりあえず危険な感じぷんぷんだから、君死刑ね」

 

 依然としてふざけた口調は変わらないが、先ほどまではなかった明らかな動揺が窺えた。

 それでも目の前の王の気迫に耐え、光の槍を変化の遂げていない腹へ向かわせた。

 ハッとなる一誠だったがもう遅い。

 槍は突き刺さりはしなかったが、そのまま春雄を押し込み、物凄いスピードで壁に激突させた。それにより壁は瞬時に瓦礫と化し、崩れてきた天井の下敷きになってしまった。

 一誠は戦慄した。悪魔ならともかく、普通の人間なら決して助からない威力だった。

 そう…まだ彼が王ではなく、()()()()()()()()()()()の話である。

 

 

 

 一誠は何とかして立ちあがろうとするが、光の影響が足先にまで及び始めた。

 神経毒を受けたかのように痺れて動かない。

 

(くそっ!俺は何もできねえのか!?)

 

 敵は目と鼻の先にいるが、手を伸ばしたくても伸ばせない状況に歯痒さを覚えていた。

 せっかく力を授かり、悪魔になって再び人生を歩もうとしたのに、こんなところでこんなクズにこれから殺されると思うと、悔しすぎて死にきれないだろう。

 そして何より、義兄弟の仇が目の前にいるのに、何もできない自分が腹立たしくてしょうがない。

 あの勝ち誇って油断した顔面を殴り飛ばさなくては気が済まない。

 

痛え(いて)の一発思い知らせねえと…)

 

 握りたくても拳に力が込められることはない。

 目の前には神父が槍を構えてこちらを見下している。

 

「これで終わりっすね。下級のクズ悪魔だけあって全く手応えがねえけど、死ぬことには変わりないからね」

 

 殺せることへの悦びなのか、神父は狂気的な笑みを浮かべていた。

 本当の「悪魔」はこいつではないか?と思うも、気がつけば槍は振り下ろされていた。

 

(ハーレム王になりたかったな…)

 

 短かった人生で、やりたいことは沢山あった。

 後悔と楽しかった思い出を噛み締め、そっと目を閉じる一誠。

 

(すまねえ…春雄…)

 

 閉じた目から一筋の滴が垂れた。

 

 

 

 

 

 ゴギリッ!

 

 

 

 

 

 惨憺とした室内に鈍く嫌な音が鳴り響く。

 いよいよ殺されたのかと思う一誠だったが、いつまで経っても衝撃は来なく、奥の方では何かが勢いよくぶつかった音がした。

 ゆっくりと目を開けると、そこには信じられない光景が見られた。

 

「春雄…?」

 

 腕、足が極度に発達し、漆黒の尻尾を生やした春雄が立っていた。

 

 さっきまで瓦礫の下敷きになっていた春雄がなぜ?

 

 一誠は思い出す。

 自分が殺されかけた直後、まだ微かに生命が繋がっており、リアスによって助けられるまでのその間、堕天使である天野夕麻から守り続けたのは他でもなく、春雄だった。

 黒い手や足は、自分のような神器(セイクリッド・ギア)の一つかと思われたが、どことなく生物感が強く、新たに生えた尻尾はまるで本物のように動いていた。

 変わってしまったものの、春雄であるのは間違いなかった。

 

「生きてたか…」

 

 安心して、ついつい呟いた。心から漏れた言葉だった。

 しかし、これといって反応するわけでもない春雄は、一誠に興味を示している節はない。

 

 春雄が神父を吹っ飛ばして数秒後、部屋には魔法陣が展開され、そこから姿を現したのは、

 

「…部長…!」

 

 オカルト研究部の面々だった。

 部屋に転送されたリアスたちは、依頼主の血で赤く染められた部屋の真ん中で立つ春雄を見ると、驚きが駆け巡り硬直した。

 誰が見ても感じられるほどの圧倒的なオーラ。

 見る者を恐怖させ、魅了する漆黒の皮膚。

 

 木場と子猫の力を借りて立ちあがれた一誠は、この惨劇はここに現れた謎の神父により引き起こされたと報告。

 そしてその神父と交戦中、突如春雄があのようになったことを説明すると、リアスたちは驚きで言葉を発せずにいた。

 

「あれも…神器(セイクリッド・ギア)なんでしょうか…?」

 

 やっと、捻り出したように恐れた声で木場は呟く。

 年長者のリアス、朱乃は反応を示したいところだが、あまりの異形さゆえ、どう答えてよいかわからず黙り込んでしまっていた。

 

 

(たぶん依頼主の下手人は『フリード』ね…)

 

 リアスは惨殺された依頼主と、先程聞いた一誠の話から、教会を離れ「はぐれエクソシスト」となったフリード・セルダンによるものと特定した。

 狂気的な言動と思考、悪魔やそれに関わる人の一方的な虐殺、邪魔する者は仲間だろうと切り捨てる正真正銘の腐れ外道。

 それでもエクソシストとしての腕は見張るものがあり、光を撃ち出す銃や、()()()は彼女たち悪魔にとって脅威である。

 

(フリードが槍を使っていたのは気になるけど…それをたった一撃で…?)

 

 フリードの蛮行は聞いていたが、決して弱くはない奴をたった一発殴っただけで行動不能にした目の前の男に、リアスは息を呑んだ。

 

「あらあら…とてつもないですわね…」

 

 いつも笑顔の朱乃も、今回は引き攣っている笑顔で、その目はしっかりと春雄を捉えていた。

 

「以前見せた殺意と言い…君は一体…」

 

「…怖いです…途方もない力が溢れている感じがします…」

 

 木場も子猫も表情こそ大きく崩さないが、冷や汗を流し、目からは警戒の色が読み取れる。

 自分たちは悪魔で、目の前の存在は一応は人間。

 しかし、なぜここまで歴然とした差を感じるのだろう…

 

 すると春雄はゆっくりと首を動かし、とある部屋の方を見つめる。

 一誠たちもつられたようにそちらを向くと、そこからは人の、それも教会に使える者の聖なる力を感じる気配があった。

 

「あの…フリードさん…?」

 

 ひょこっと顔を出した女の子に、一誠は目を見開く。

 

「アーシアちゃん!?」

 

「い、一誠さん!?それに春雄さんも…」

 

 お互いどうしてここにいるのかわからない様子だった。

 だがアーシアの疑問は、見るも無惨な光景が目に入った途端吹き飛ばされた。

 部屋には彼女の高い悲鳴が響いた。

 

 

「あれあれ〜?まさかそちらのクソ悪魔君とアーシアちゃんは知り合いですか〜?」

 

 春雄がフリードを吹き飛ばした方向から奴の憎たらしい声が聞こえる。

 

「いけない教会の聖女と悪魔の禁断な恋ってやつですかぁ?」

 

 依然としてふざけた態度は変わらないが、自身に手痛い一発を与えた王を見た途端、威厳のかけらもなく怒りを露わにする。

 

「俺ね、強いから今まで一度もこんな攻撃食らったことないのよ。まさかクソ悪魔のお仲間の人間にやられるとはね…」

 

 フリードの言葉に特に反応するわけでもなく、春雄は威風堂々と立っている。

 そんな態度が気に入らないのか、フリードは激昂して槍を構え、勢いよく突っ込んでくる。

 

「その態度が気に入らねえ!その手と言い足と言い気色悪いったらありゃしない!神器を持った程度の人間風情の異形が!」

 

「やめてください!フリードさん!」

 

 アーシアの呼びかけに応じず、幼稚な殺意を春雄にぶつけるフリード。

 それでも構えている槍の力からは、悪魔はもちろん、人をも簡単に殺せるほどのものがこめられていた。

 

「春雄!」

 

 今更何を言ったところで、あの速さは避けられないし、リアスたち悪魔の攻撃で止めようとも間に合わない。

 一誠は半ば絶望して義兄弟の名を叫ぶが、先程と変わらず佇んだままの春雄に違和感を覚える。

 この危機的状況で、一切の回避をみせる素振りはなく、ただフリードを堂々と待ち構えていた。

 もう僅かで肉薄しようとしたその時だった。

 

 

 

 バギッ!

 

 

 

 春雄から生えた尻尾が、まさに生き物のようにしなやかに動き、寸分の狂いなくフリードの顔面へ強烈にヒットした。

 その場に居合わせた者全員は、この威力に思わず息を呑む。

 更なる追撃をしようとしたのか歩み寄る春雄は、突如ピタリと足を止め、辺りを警戒するように見回す。

 

「大変ですわ、部長。数十人の堕天使が近づいています」

 

 遅れて朱乃が反応する。

 立て続けに起きる殺意と殺意のぶつかり合い、地を揺らさんばかりの衝撃。これらを聞きつけた堕天使が大勢やって来たのだ。

 

「なぜ堕天使が…?」

 

「部長、今はここを離れましょう」

 

 はぐれエクソシストのフリード、一誠と春雄が知り合っていたシスターのアーシア、そして堕天使の集結…リアスは様々な勢力が渦巻く現状に頭を悩ます。

 木場に促され、ひとまず撤退しようとするオカルト研究部だったが…

 

「ちょっと待ってください!春雄とアーシアは!?」

 

 一人納得いかぬものが一人。一誠だ。

 彼の悲痛な訴えで転送は一度止まる。

 

 一誠は困った表情のアーシアと、立っているだけの春雄を見る。

 アーシアは知り合って間もないが、絆を結んだ大切な友人でもあり、春雄は直接の血が繋がっていなくとも、長い間苦楽を共に過ごした大切な兄弟だ。

 自分たち悪魔だけが安全なところへ逃げ、特別な力を持ちつつも人間である二人を見捨てることは、情の熱い一誠にはできない。

 

 すると、こちらに王の威厳を感じさせる春雄が歩み寄ってくる。

 リアスをはじめ、一誠以外のオカ研部は、さっきの春雄を見たこともあり身構えるが…

 

「春雄…」

 

 一誠は名を呼んだ。

 王は依然黙ったままだったが、その瞳には殺意はなく、表情も心なしかどこか穏やかだった。

 

(任せてもいいのか?)

 

 不思議だった。

 目の前にいる春雄からは、広大な地球の優しさが感じられていた。

 それと同時に自信で満ち溢れる瞳が光でも放っているようだった。

 

「…部長、いきましょう」

 

 一誠からその言葉が出てきたことにリアスたちは驚く。

 

「私が言えたことじゃないけど…良いの?」

 

 申し訳なさそうに確認するリアスに、一誠は力強く頷いた。

 

「そう…ごめんなさい。力がなくて…」

 

「大丈夫です。あいつなら…」

 

 間もなく転送されようとした時、ふと一誠は春雄を一瞥する。

 不敵な笑みを浮かべた兄弟の顔を見、瞬きをした次の瞬間には部室に映像が切り替わっていた。

 

 

 

 依頼主の家には春雄とアーシアだけが取り残されていた。

 堕天使はすぐそこまで近づいてきているだろうが、春雄はお構いなしに佇んでいた。転送された彼らを名残惜しそうに空虚な天井を見上げながら…

 

「一誠っさんがおっしゃっていたとおり…お優しいのですね…」

 

 アーシアは彼のそんな背中を見てにこやかに呟いた。

 春雄は何も言葉を発さないが、はなを鳴らした。

 笑ったのだろうか。自分はそこまで優しくないと言う自嘲か。お人好しな彼女へなのか。

 

「来てもらおうかシスター、アーシア」

 

 どこからか声がし、少し恐れながら彼女は見渡すが、春雄はただ一点だけを見つめる。そこには先程と同等、またはそれ以上の殺意がこめられていた。

 つられてアーシアもそちらを見ようとすると、突然天井が吹き飛ばされたかのように崩れ落ちた。

 縮こまるアーシアだったが、春雄が咄嗟に盾になったため無事だった。

 その時自分のしたことに、自分自身驚いている春雄であったが、すぐ目に怒りを灯す。

 

「これはこれは…まさかあなたがいたとは…」

 

 男は春雄との邂逅に苦笑いだった。

 その傍らには興味津々な様子の幼い女性と、フリードを抱えるスタイルのいい年上の女性がいた。

 

 男の名はドーナシーク。かつてはぐれと勘違いして一誠を殺そうとした時、春雄の運転する自転車にぶつかり意識を失ったあの男だった。

 

「そこにいるアーシア・アルジェントは置いていってもらいたい」

 

 穏便に済ませたいドーナシークは、極力春雄を刺激しないように言った。

 だが春雄の目は殺意がこめられたままで、敵対心丸出しのオーラが漂っていた。

 このままでは一触即発になると恐れたドーナシークは、

 

「武器を下ろせ」

 

 率いた下級の堕天使に武器を下げさせ、敵対する意思を見せないようにした。

 

「お前らもだ」

 

 年上の女性にも少女にも言い聞かせた。その際少女の方は不満が露だったが。

 

「アーシア・アルジェントを今ここでどうこうするつもりはない」

 

 完全に気配を落とすと、春雄の方からも殺意は薄まっていったが、依然としてその場は緊張したままだった。

 暫く膠着状態が続いたが、

 

「あ、あの…」

 

 アーシアが春雄に話しかけ、

 

「私は大丈夫ですから」

 

 と曇りのない笑顔で伝えると、春雄は壁の方へ走って突撃し、突き破るとそのまま外へ出る。

 そこには下級の堕天使が二人いたが、それらをギロッと睨むと、二人は膝を鳴らしながら道を大きく開けた。

 そして一切の興味を示さないまま、春雄は全くの躊躇いなく近くを流れる川に飛び込んだ。

 これでようやく殺意や圧倒的なオーラが消え、先ほど睨まれた二人の堕天使は力なくその場に座り込んだ。

 

「レイナーレ様が言っていたことは本当だったんだな…」

 

「ええ…あのプライドの高いお方が、あの人間だけは刺激するなと…実際会って痛感したわ…」

 

 とりあえず一安心といったところで、堕天使は突然背筋が凍るような思いをする。

 それはその場に居合わせたアーシアも含めてだ。

 地鳴りのようなおどろおどろしい鳴き声が響いたのだ。

 その時、駒王町に住んでいた人々、訪れていた悪魔や堕天使などは一斉に目が覚め、体を震えさせたという。

 そして………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…その鳴き声を聞き、歓喜をあげる如く目覚める者もいた。

 

 工事が行き届いていない新東名高速道路谷ヶ山トンネルの奥深くでは、()()()()を聞きつけ、復活を喜ぶように一体の怪獣が咆哮をあげるのだった…

 

 

 




 
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