黒き王の原罪   作:イテマエ

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今回、あのキャラが登場します!


第8話 喧騒の渦中で…

 アーシアをレイナーレに連れ去られ、一誠は悔し涙を流し、春雄は憎悪の黒い炎を燃やした。

 そして二人は彼女を助けようと行動に移そうとするが…

 

 

 

 ドタンッ!

 

 

 

 鈍く勢いよく倒れたような音が部室に響く。

 転倒しているのは春雄、そしてその隣では頬に痣ができている一誠がいた。

 そして二人をそのようにしたと思われる者が立っていた。

 

「何度も言うわ…ダメなものはダメよ…!例え少し強引でも、私はあなたたちを止めるわ!」

 

 声色、表情からでもわかるほどリアスは怒っていた。

 ただ瞳は怒りを感じられるとしても、その奥底には眷属と協力者を殴ったことによる心の痛さがわかるほどうるうると揺れていた。

 

 地面に仰向けで倒れている春雄だったが、これといって怪我はしていなかった。

 一誠はビンタ一発で落ち着いたが、痛みに異常に強い春雄を止めるため、微弱ながら『滅びの魔力』を使ってまで止めたのだ。

 

「部長…俺たちは必死に考えたんです。アーシアちゃんには、自分の楽しみ、痛み、辛さ、喜びを分かち合える『寄り添ってあげられる人』、友達がいないんです…でも俺がその役目を果たしているんです…!」

 

 一誠は真っ直ぐな思いを流星の瞳に乗せて伝えた。

 そしてムクリと起き上がった春雄も、

 

「それは僕もです。彼女は堕天使のなんらかの思惑で利用される可能性が高いです。くだらない理由で命の危機に瀕しようとしている彼女は見過ごせません。彼女が死ぬのはあまりにも惜しいです」

 

 意志を貫いた。二人は依然として態度を曲げることはなかった。

 

「なんとしても彼女を助ける」

 

 今の二人に何を言っても無駄だろう。

 それでもリアスはなんとしても二人を引き止めようと必死だ。彼女の慌てる様子から敵がどれだけ恐ろしいものかがわかるが、所詮は下僕と協力者にすぎない二人をここまで心配するあたり、やはり聞いていた通りである。

 

 

 

リアス・グレモリーは下僕を「愛している」のだ。

 

 

 

「だったら俺を、眷属から外して『はぐれ』にしてください。こんな役立たずで弱い『兵士』なんか切り捨ててください」

 

「そんなことできるわけないでしょう!」

 

 一誠の言い分に激昂するリアス。

 

「それでも僕たちは向かいます」

 

「春雄!おやめなさい!そんな危険なことをさせるわけにはいかないのよ!」

 

「だったら今日で僕たちは退部します」

 

 お互い揺るぎない意志でぶつかり合っているところ、朱乃が部室に慌てた様子で入ってくると、リアスに耳打ちをする。

 何かしらの報告を受けたのだろうが、リアスは朱乃の言葉に動揺を見せたのは間違いない。

 

「急用ができたわ」

 

 リアスは朱乃と共に出ていこうとする。

 一誠は話が済んでいないのに逃げ出されてはたまったもんではないと食い下がろうとするが、

 

「イッセー、あなたは『兵士』が弱いと思ってるそうだけど、そうではないわ」

 

 リアスは一誠に駒の特性を説明しだした。

 『兵士』はこれといって特殊な能力があるわけでもないが、チェスの兵士の駒が敵地に入ると変化するように、主人が敵と認めたところへ侵入すれば、プロモーションのシステムにより『騎士』、『戦車』、『僧侶』、『女王』の特性を得られるようになると言う。

 一誠はこの期に及んで何をといった感じだが、リアスは朱乃と共に出て行ってしまった。

 

「さて、行こうかイッセー?」

 

「お、おう。でもなんで部長はあんなこと言ったんだ?」

 

「それはもちろん、これから僕たちが行く教会を『敵陣と認めた』からじゃない?つまり『行ってこい』ということじゃない?」

 

 「そうでしょ」と言った感じで春雄は木場と子猫を見ると、二人とも呆れた顔をしていた。

 一誠は部長の気遣いに感謝し、春雄と共に行こうとした時、

 

「どう言うつもりだ?木場、塔城」

 

 二人が扉の前に立ったのだ。

 ドスの効いた声で春雄が言うと、その後に一誠が続ける。

 

「俺たちは急いでんだ。ここで変に争いたくねえ」

 

「邪魔するなら容赦しない…」

 

 一誠と春雄の覇気に心臓が止まりかけるような気がした二人だったが、

 

「二人だけで行かせるわけないじゃないか」

 

「個人的にあのエクソシストと堕天使が絡んでるのが嫌ですから」

 

「ぶっちゃけ僕も恨んでるところはあるからね」

 

 つまり、

 

「良いのかよ…巻き込んじまって…」

 

 一誠は二人に尋ねるが、二人は表情を引き締め、

 

「僕たちは仲間じゃないか」

 

 と木場は言い、子猫は小さく頷いた。

 一誠は二人に熱いものを感じ、涙を流して顔をくしゃくしゃにした。お陰でいい感じの雰囲気はぶっ壊れたが、緊張を程よく解したのであった。

 

 

 

 屋上から、4人が教会に向かって走っていく様子を眺める者がいた。

 

「動き出したか…」

 

 ボソリと呟くその者は、静かに目を閉じる。

 

「…『生徒を守るため』…よくできた理由だな…」

 

 その者は、若い者たちに全てを託す形となってしまったことに深い罪悪感にとらわれつつ、無事と勝利をひたすらに祈るのであった。

 せめてもの償いをしようと、その者も行動に移すのだった。

 

 

 教会に向かう途中、春雄は木場と子猫に気になることを尋ねてみた。

 

「ねぇ、エクソシストって簡単に言えば人間なんだよね?」

 

「うん、そうだけど」

 

「だったらなんで堕天使が使うような光の槍を、あいつも使っていたのかなって」

 

 春雄は断片的な記憶の中で、フリードと呼ばれる男が、自分に向けて光の槍を飛ばしていたことを思い出した。

 

「確かにそうですね…今までエクソシストが堕天使のように攻撃してくるとは聞いてませんでした」

 

 子猫が言ったことで、春雄はますますわからなくなっていた。

 

「だったらどうしてフリードからは人間の気配がするの?」

 

 春雄が気になっていることは、()()()()()()()()()()使()()()()使()()()()()ということである。

 前例がなかったことなので、二人は非常に混乱している。

 ここ最近様々な問題に直面しているのに、さらには新たな疑問が生まれるのだ。

 最近の問題のほとんど中心的な人間から、そんな質問が飛んでくるのだ。もうわけがわからない。

 

「じゃあ堕天使とフリードが組む理由は?」

 

 その質問にはすぐ答えてくれた。

 

「堕天使はなんとかしてアーシアさんの神器(セイクリッド・ギア)を得たい。理由は不明だけど、この町にいるレイナーレがアーシアさんを誘き出した。でもこの町には部長をはじめとした悪魔である僕らがいる」

 

神器(セイクリッド・ギア)は得たいですが、悪魔が邪魔な堕天使、悪魔を殺せるならなんでもいいフリード…利害の一致ってやつです…」

 

 春雄は納得した。

 お互い利益とリスクがある今回の騒動、利用できるものはなんだろうと利用するだろう。

 だとしたらなぜレイナーレがアーシアの神器(セイクリッド・ギア)に拘るのだろうか。

 確かに傷を癒せる力は魅力だが、そこまで執拗に狙うだろうか。

 既に色々と事が露見しているのだ。顔だって見られた。証拠だって。

 そんな危険を冒してまでアーシアの神器(セイクリッド・ギア)は必要か。

 

(ま、馬鹿だからわからんけど)

 

 とりあえず春雄は、痛いものを一発食らわせることだけを考えて向かった。

 

 

 

 教会に着くと、外からでも感じられるほど悍ましい気配が漏れていた。

 恐らく内部はもっと濃い殺意で満たされているだろう。

 

「来たはいいものの、どうするんだ?」

 

 一誠は歩いているうちに冷静さを取り戻し、改めて敵に回している存在の凄さに若干怖気付く。

 木場はひとまず教会内部にどれだけの兵がいるか、子猫に調べさせようとした時、

 

「入ってすぐに男一人…恐らくフリードかな…奥の方には堕天使どもの群勢…数はざっと20…そして祭壇あたりの地下に謎の空洞があるね…そこに二人の気配、消えかけてる方は聖なる力が感じるからアーシア、もう一つは僕もよく知ってるあの女のものだ…」

 

 後半になるにつれて口調を強くしていきつつ、冷静に状況を見抜いている春雄がいた。

 特に術の類を使ったわけでもない…だがなぜわかるのか。

 念のため子猫も内部を観察するが、どれも当たっていた。それも春雄は精度よくだった。

 

「どうしてわかったんですか?」

 

 特別力を使ったわけでもない人間に敗北感と、悔しさで不貞腐れながら子猫は聞く。

 

「…自然()教えてくれた…?」

 

 「自然と」の言い間違いかと思ったが、どうやら春雄は、空気や草木、更には野生動物のあらゆる自然や生命を通して読み取れるのだと言う。

 

「『自然に好かれたのかも』って言うのはあながち間違いじゃねえらしいな」

 

 そうと決まればあとは単純。初めのフリードさえ突破すればOKだ。

 つまり…

 

 

 

 フリードは扉と一緒に壁を破壊して入ってくる4人を見ると、獲物を前にハントする算段を立てる猛獣のように舌を回した。

 

「おやおや〜!あの時の悪魔どもと、いけすかない人間もどきの化け物じゃないですか〜!」

 

 フリードの相変わらず狂った様子に、一誠と木場、子猫は明らかな嫌悪を示し、春雄は怒りの鋭い眼光をとばしていた。

 春雄は前に出ようとすると、

 

「ここは俺たちに任せとけよ」

 

 一誠が春雄を制し、剣を構えた木場と、拳闘の構えをとる子猫が横に並ぶ。

 

「いつまでも春雄君ばかりに迷惑はかけられないからね」

 

「…悪魔の力、見せてやります」

 

 不敵に笑ってみせる木場からは自信が溢れており、子猫に関しては春雄に対抗心を燃やしていた。

 春雄はレイナーレ、フリードを一度は退け、堕天使の群勢相手にお互い血を流すことなくその場を収めたのだ。

 人である春雄ばかりに任せっきりだったことに、悪魔のプライドが許さないのだろう。それはもちろんあるだろうが、何よりこれ以上彼に重荷を背負わせたくないのだろう。

 

 光の剣を構えるフリードに、素早い足運びと巧みな剣捌きで翻弄する木場は、執拗に顔や首を狙う。

 鬱陶しい木場に苛立ちを募らせるフリード。だが、木場の太刀筋は決して馬鹿にできるものではなく、油断すれば首を刎ねられるだろう。

 ずっと防御一辺倒だったフリードだが、手練れだけあって対応も早い。

 木場の、基本に忠実な真っ直ぐな太刀筋は読みやすく、フリードは次第に捉えられるようになり、頃合いを見て反撃をするつもりだろう。

 木場もフリードが何か企み、呼吸が荒くなっていることには気づいている。

 

(これだけわかりやすい攻撃なら、読まれて当然だね)

 

 木場は少し距離を置くと、フリードは待ってましたと言わんばかりに銃を構えた。

 

「まず、いっぴ…」

 

 光が撃たれようとしたその時、

 

 

 

 ガッシャアンッ!

 

 

 

 どこからか飛んできた長椅子が、勢いよくフリードに向かっていくが、光の剣でバラバラに解体される。

 

「どっから…くそっ!」

 

 飛んできた方向を見ると、既にそこまで子猫の拳が迫ってきていた。

 一撃で仕留めるつもりの攻撃が躱されたが、そのまま流れるように連続攻撃へ移行する。

 

「どいつもこいつもしゃらくせえ!」

 

 防戦一方の状態に対し激昂したフリードは、光の剣と槍を構え、木場と子猫に向かって大きく振り回す。

 当然二人からしてみれば回避することわけないが、フリードは距離を置くことで戦況を優位に持ってこようとしている。

 左手には小回りの利く光が撃ち出せる銃、右手には堕天使のものと酷似した光の槍。片や剣と拳。アウトレンジからの一方的な攻撃、惨殺ショーを試みようとしたフリードだったが、

 

「悪いけど、チェックメイトさ」

 

 木場は特に慌てることなく、人差し指を天井に向ける。

 フリードは真上を見上げると、

 

「プロモーション!『戦車(ルーク)』!」

 

 一誠が降ってきた勢いそのままに、かかと落としを繰り出す。

 突然のことに反応が遅れたフリードは、攻撃の直線上から頭を逸らすことしかできず、右肩にもろに食らってしまった。

 激痛で顔を歪める彼は、一誠に光を撃ち込むが、

 

「今の俺は『戦車』なんだよ!」

 

 『兵士(ボーン)』の駒の特性、敵地の中心に入ると同時に強く心に願うことで、『王』以外の駒にプロモーションできることを利用した一誠は、『戦車』の馬鹿げた防御力とパワーで光の弾を弾き飛ばし、強化された拳を迷わず振り抜く。

 フリードの顔面にヒットすると、そのまま壁にのめりこんでいった。

 一先ず第一関門突破と言ったところか。

 

「すごいよイッセー!」

 

 春雄は一誠に駆け寄り、ハイタッチをした。

 

「…一応私たちだって活躍したんですけど…」

 

 全てを持っていかれた一誠と、その一誠しか見えていなかった春雄に不貞腐れる子猫。

 しかし、

 

「木場さんも子猫さんもお疲れ!」

 

 春雄はしっかりと全てを見ていたのだ。

 子猫の頭をワシワシと撫でながら、木場に拳を突き出す。

 

「ありがとう」

 

 春雄と木場は拳を軽くぶつけ合った。

 

 こうしてその場の4人は束の間の勝利の余韻に浸っていたわけだが、まだこの事件の解決には至っていない。

 

「さて…」

 

 一誠がその場を引き締める。

 

「行くか…アーシアちゃんを助けに!」

 

 

 

 4人は教会の深部まで行き、だだっ広い礼拝堂に着くと、そこには…

 

「大群のお出ましか…」

 

 大勢の堕天使、先程気配を感じ取っていた数と一致するほどの群勢がいた。

 ここを突破するのも骨が折れそうだったが、さらなる問題が…

 

「あの祭壇の下…おそらくそこにレイナーレがいると思いますが、同時にたくさんの神父の気配も感じます」

 

 子猫が指摘した通り、祭壇の下からは邪な殺意が流れ込んできている。

 たとえここを抜けても、この先の大量の神父を相手取ったうえで、レイナーレと戦うことになるだろう。

 

「ここは僕がなんとかしよう」

 

 どうするか考えていると、春雄が率先して前に出る。

 

「よせ!春雄!」

 

「いくら力があるからと言ってもこの数はさすがに無茶だ!」

 

「…ここは手っ取り早くみんなで戦った方が…それにいつまでも先輩に迷惑をかけるわけには…」

 

 当然人である春雄に危険な真似はさせられないと、3人は彼を止めようとする。

 しかし、徐々に春雄からあの時のオーラが漂い、背中からでもわかるほどの殺意が湧き出ていた。

 気圧された3人は黙り込む。

 すると、

 

「…堕天使どもならイッセーたちで事足りる…だが、()()()だけは…」

 

 口調が怒りで悍ましくなっていく春雄。

 それはまさしく聞くものを底冷えさせる恐ろしい獣のようだった。

 そして春雄はあたりを囲む堕天使に目もくれず、たった一つの()だけを見据える。

 一誠たちもそちらを見ると、血の気が引いていくような思いをした。

 

 ステンドグラスがあったとされるところに、月明かりに照らされる影。

 それは今の春雄と似ている気配、すなわち色濃い真っ黒な殺意を放っていたのだ。

 大きさは2メートルほど、艶のある漆黒の皮膚、鍵爪型の長い腕が甲虫を思わせるが、長い腕の一対が翼竜のような翼を持っているなど、現代生息する地球上の生物にどれもが当てはまりそうもない奇怪な姿の獣。

 まさしく『怪獣』と呼べる風貌の持ち主は、赤い目を光らせながら、自身を睨む者に咆哮をあげる。

 その黒い獣は感じ取っていた。

 その男に宿る、宿()()()()()を。

 

 春雄は咆哮を聞くと、それに呼応するかのように手足を変化させ、黒く強靭な尻尾を伸ばす。

 堕天使の気配が薄れるほど、春雄と黒い怪物の間で殺意がぶつかる。

 春雄の、黒い尻尾を地面に叩きつけ、それに反応した怪物が翼を広げ、咆哮を上げながら向かってくると、戦闘…いや…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…殺し合いが始まったのだった…

 

 

 

 

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