・ifでもし原作のイタチルートをそのまま辿って(イタチはサスケと一緒に木葉で暮らしてる)影から弟達を見守るシリーズ
の「里抜け編」の上です
だいぶ描写を省略してます
「里抜け編」上
『里とのパイプ役は俺一人で十分だ。だから、イタチとサスケには一族の揉め事に一切関わらせないと約束してほしい。勿論、一族の集会にも参加させない』
唖然としている父さんに、俺はさらに続ける。
『それが出来ないなら俺は暗部としての任務を全て放棄する』
「何を言っている……それより、その“声”は一体……」
『お面の力……今言えるのはそれだけだ』
これまで一度たりとも声を出せなかった息子が、急にすらすらと話し始めたんだ。そりゃあ父さんでもびっくりするだろう。だが受け入れてほしい、この現実を。
俺が火影直属の暗部に所属してからどれくらい経っただろうか。イタチはすでにアカデミーに入学している。
イタチがアカデミーを卒業して下忍になれば、一族の決まりに従ってイタチも会合への参加資格を得る。そうなる前に手を打つしかなかった。
「スバル…………暗部の任務続きで正常な判断が出来なくなっているのか? そんな無茶な話をすぐに受け入れるなど……」
『無理にでも受け入れてもらう。語り合う必要はない。父さんはただ、頷いてくれるだけでいい』
父さんの表情がみるみるうちに険しくなっていく。父さんの隣に座っている母さんが、心配そうに俺と父さんを見つめている。
父さんの自室。いつも暗部に関する報告をしていたこの部屋で、父さんに逆らうどころか正面から歯向かう日が来るなんて誰が予想できたと言うんだろう。
『俺は本気だ。受け入れないと言うならば、俺は里側についてうちはの情報を流す』
「…………スバルッ!」
『怒鳴っても無駄だ。俺を力で従えることは父さんには不可能』
当然嘘だ。父さんには勝てない。
命を差し出せば片腕くらいは取らせてくれるかもしれないけど。あとは実の息子特権で親としての情を刺激して隙を狙えばワンチャンあるかもしれない。まあ忍としてプロってる父さん相手となると、ワンチャンもネコチャンもないだろうが。
『試してみるといい……俺は死んでも譲るつもりはない』
頼む、頼むから戦闘開始のゴングは鳴らしてくれるな。
俺の切実な祈りを天が聞き入れてくれたのか、立ち上がっていた父さんはひどくショックを受けたような顔をして、がくりとその場に膝をついた。
そんな父さんを母さんが支える。母さんも泣きそうな顔をしていた。
「お前は…………」
俯いて拳を握る父さんの声は震えていた。
「息子に『命を捨てる』と言われる親の気持ちを考えたことがあるのか……?」
『………………』
正直に答えるならば、“ない”。この先考える予定すらもない。
というか父さんとやり合って俺が死ぬの確定なんだな。まったくもってその通りだけどさ。もうちょっと息子の可能性を信じてほしい。勝って生存パターンかもしれないだろ!
「お前は昔から何を考えているのか分からない子だった……大戦での功績が認められてすぐにアカデミーを卒業し、あっという間に下忍になったかと思えば暗部入り……」
――そして、すでに特別上忍だ。
父さんはやっと座布団の上にきちんと座り直して、未だに弱々しさの残る目でこちらを見る。
「…………オレが条件を飲めば、お前は一族に留まると言うんだな?」
『そうだ』
「なぜそこまでしてイタチとサスケが一族に関わることを拒む」
立ち上がって、お面にふたつ空いた穴から両親を見下ろす。そんな分かりきったことをわざわざ口にすることすら億劫だった。
そんなの、決まってる。
『…………“関係ない”から』
あれから俺と両親の仲は最悪だった。
そりゃそうだろう。プライド高杉マンな父さんが長男の唐突な反抗期を微笑ましく思ってくれるはずがない。しかも一族の情報バラすぞって脅しちゃったし。俺が父さんなら愛の拳を放ってる案件だ。殴られなかっただけマシ。
イタチはアカデミーを卒業して無事に下忍となっている。
イタチの実力ならばすでに中忍試験への推薦状が出ているところだろうが、それはまだまだ先の話だ。
なんで分かるのかって? 俺が三代目に頼み込んで担当上忍が推薦を出さないように手回ししているからに決まってる。
「スバルよ……うちは一族の動きはどうなっておる?」
『以前と比べて活発になってきています。俺よりも下の世代、うちはシスイやイタチ、イズミ達は会合に参加せずに済んでいますが、うちは上層部からの反対の声も大きく…………』
「子ども世代を巻き込んで木ノ葉と戦争を起こすつもりか」
『そのようです。シスイとイタチは一族でも一二を争う優秀な忍ですから』
三代目が痛みに耐えるような目をして、火影椅子の背もたれに身体を委ねる。
火影室。
俺と三代目しかいないこの部屋で、彼は以前もこのような顔をして俺の話に耳を傾けてくれていた。
もうあれから五年以上経ったのか……。
アカデミーを卒業して下忍となった俺は、任務報告の為に寄った火影室で、当時火影だった四代目と、たまたま彼と共にいた三代目に全てを話した――うちは一族がクーデターを企んでいると。
最初は子どもの言葉だからと半信半疑だった三代目もみるみるうちに事の深刻さに気づいてくれたようで、そこからは早かった。
三代目がセキに頼んで作らせた、俺の思考を読み取って声を生み出すというお面を受け取り、下忍になってすぐ火影直属の暗部に所属するという異例の出世を遂げた。
九尾襲撃事件で四代目が亡くなり、三代目が再び火影の座についてからも、俺たちの関係は続いている。状況は何も変わっていないからだ。
うちは一族の木ノ葉への不満は決して消えない。
どれだけ時が流れようと、彼らは必ずクーデターを実行に移すだろう。それだけは絶対に止めなくちゃいけない。
「お前のおかげで、若いうちはの者たちに里への憎しみや不満を植え付けずに済んでいる」
『すでにイタチやシスイは不穏を感じ取っています。ずっとこのままというわけには……』
「分かっておる。まだどちら側にも染まっていない彼らに木ノ葉を理解してもらうことは難しいのか?」
『…………三代目』
木ノ葉を理解させてこちら側についてもらう。それだと結局うちは一族の真実をイタチ達が知ることになる。
「スバルよ。お主が弟たちを巻き込みたくない気持ちは分かっているつもりじゃ」
『………………』
「しかし、うちはとして動ける者がお前しかいないのでは出来ることも限られてくるだろう」
『…………いいえ』
俺は顔を上げて、はっきりと否定した。
『俺一人で十分です』
「スバル」
『申し訳ありません。この国を愛しているイタチや、父や一族に憧れているサスケを傷つけたくはないんです。……俺は、彼らにはもっと美しい世界だけを見ていてもらいたい』
俺のエゴでしかないことは分かってる。三代目の優しさにつけ込む行為だってことも。
「……せめてシスイにだけは話をしてみぬか。彼は信用に足る人物であり、何よりその力が木ノ葉とうちはを繋ぐものになるはずじゃ」
『シスイの万華鏡写輪眼は一度で複数の相手にかけることはできません。……クーデターの首謀者と思われている父は、ヤシロ達の
シスイはイタチの親友だ。いくら俺や三代目の頼みだとしても、親友に一族の危機を黙っていられるかどうか。
『三代目も分かっているでしょう。……終わらせることが出来るのはただ一人、木ノ葉側に犠牲を出さないようにするには――』
「…………スバル!」
するすると次の言葉を続けようとするお面を止めて、眉を吊り上げている三代目を静かに見つめた。
……やはり、この人は優しすぎる。優しすぎるが故に、最適解を選び抜けない。
「ダンゾウの言葉は忘れろと言ったはず」
『……俺は、俺の意思でうちはを止めるつもりです』
――クーデターに関わった人間を全員殺せば、何も知らない子どもを木ノ葉は受け入れるだろう
すでに二回。俺を根に引き入れようとして失敗しているダンゾウによる捨てゼリフだ。
まだ何か言いたげな三代目に頭を下げて、火影室を後にする。
三代目は俺や一族を思い遣ってくれている。
里の長に向けるべき感情ではないだろうけど、俺はわりと三代目が好きだ。人として、好きなんだと思う。
アカデミーを卒業したばかりの子どもの言葉を信じ、俺以上に悩み苦しんでくれた人だ。うちは一族がどうなろうと、俺はあの人に感謝している。
「また火影室で三代目と秘密の密会か? うちはスバル」
『………………』
火影室を出た直後にこの男の顔を見るとはついてない。どうせ俺が火影室に向かったと部下から報告を受けてここで待ち伏せていたんだろう。ストーカーかよ。
お面のおかげか、ダンゾウは俺が不機嫌になったことに気づかず言葉を続ける。
「あのような弱腰な火影についていっても、里の未来は破滅しかないぞ。聡明なお前ならばすでに気づいているのではないか?」
『前も弱腰って言ってましたけど、まさか他人を貶す語彙がそれしかないんですか?』
「………………」
ダンゾウは口数が多い方ではないのに、三代目への悪口ゾーンに入ると元気よく喋りはじめる。とにかく喋り倒す。
それほど三代目が嫌いなのに自分の欲望の為に彼の右腕ポジションに甘んじてるのはすごいと思う。とんでもない精神力だ。
そこまでやってるのに最終的に火影になるのを承認する大名には滅茶苦茶嫌われてるのも可哀想だし、最高だ。
少なくとも里の人間や大名にも好かれている三代目が生きている間にダンゾウが火影の座に就くことはないだろう。うーん気持ちいい。
まさか自分の不幸で俺がメシウマになってるとは思わないのか、ダンゾウは余裕の笑みを貼り付けている。
『……心配しなくとも、最後は貴方の望み通りになると思いますよ』
ついにサスケがアカデミーに入学した。
俺はこの間十四の誕生日を迎えて、特別上忍から上忍に昇格している。イタチも中忍になって様々な任務をこなしているそうだ。
アカデミーの入学式。三代目の言葉に耳を傾けている子どもたちの中から、俺はあっという間にサスケの姿を見つけ出していた。
サスケは心細そうな顔でちらちらと後方を気にしていたが、俺と目が合うとぱあっと顔を輝かせる。かわいいッッ!
俺がサスケの入学式に参列できるよう、事前に任務量を調節してくれた三代目には一生頭が上がらない。一生ついてく。
父さんと母さんはうちは一族の会合なんぞに参加しているし、イタチは重要な任務中らしい。
俺もギリギリまでここに来られるか分からなかったのでサスケには伝えていなかったが、来て本当に良かった。
「スバルにいさん! どうしてここに? お仕事じゃなかったの?」
入学式が終わり、他の子どもたちがぞろぞろと校舎へと消えていく中、サスケだけはくるりと後ろを振り返って、俺の元へと駆け寄ってきた。
俺の胸に飛び込んでくる小さな体を慌てて抱きとめる。
《やすみが もらえたから》
サスケを地面に下ろして指文字を綴った。
サスケは嬉しそうな、泣きそうな、複雑な表情をして俺の足にしがみついてくる。
「……誰も来てくれないのかと思ってた」
「…………」
そっとサスケの頭を撫でて抱きしめる。きっと、イタチも任務さえなければ誰よりもここに来たかった筈だ。一族の会合を優先した両親とは比べるまでもない。
――理解できない。
まだ幼いサスケよりもクーデターを優先しなきゃいけない両親の気持ちなんて。
同年。季節は冬になり、珍しく木ノ葉にも雪が降り積もった翌日のこと。
障子を開いた先に広がる雪景色は幻想的で美しい。
吐いた息の白さを寝起きでぼんやりしている頭で確かめていると、隣の部屋の障子も開いて中からイタチが出てきた。
「スバル兄さん」
「………………」
今日、一番見たくて一番見たくない顔を見てしまった。無意識に眉根を寄せる。
イタチはすでに服を着替えていて、その額には木ノ葉の額当てをつけていた。イタチはこれからシスイと共にダンゾウが用意した任務に向かう。
「……任務前に、これだけは言っておきたくて」
サスケがアカデミーに入学してから一週間後くらいだっただろうか。
俺はサスケやイタチに関わることをやめて、向こうから話しかけられたとしても最低限のやり取りのみで抑えるようになった。
父さん達とは今日まで一族に関する義務的な会話しかしていないし、数日前には「お前が何を考えているか未だに分からない」とテストの答えが分からない子どものようなことを言われたりした。
俺が弟たちの安心安全な未来しか考えていないと知ったら、父さんはどんな顔をするだろう。一族という大きなものを背負って立ち続けてきた父さんは怒るかもしれない。……でも、俺はこの生き方しか知らないから。
そんなわけでイタチとこうやって普通に会話をするのは随分と久しぶりだった。
すでに期待することをやめた心は、イタチを前にしても静かで穏やかだ。
部屋の前で俺を呼び止めたまま、イタチは次の言葉をなかなか吐き出さない。言っておきたかった言葉というのは気になったが、俺はそのままイタチの隣を通り過ぎようとした。
「…………兄さん」
すれ違いざまに腕を掴まれ、振り返らずに立ち止まる。穏やかだった心に小さな波紋が広がっていく。掴まれた箇所からじわじわと侵食されているかのようだった。
「オレのことはいい。でも、サスケを邪険にするのは…………父さんも母さんも、兄さんが変わったって言ってる」
「…………」
「兄さんの目は昔のように優しいままだ。どうして、父さんたちに頼み込んでまでオレたちを一族のことから――」
パシッと乾いた音が廊下に響いた。俺に手を振り払われたイタチの目が大きく見開かれている。
いつから知られていた?
俺が両親を脅した時のことを、どうしてイタチが……。
《おれに さわるな》
最後になるかもしれないイタチへの言葉がこんなものになるなんて。下唇を噛みそうになるのをぐっと堪える。
今度こそイタチを置いてその場から去った。
ダンゾウの屋敷。うちは一族の家紋が入っている服を脱ぎ捨てて、忍装束に着替える。
背中には暗部で使っている忍刀と、太腿の位置に付けたホルスターには新品のクナイが仕舞ってある。
「…………」
木ノ葉隠れの額当てを外し、代わりに白猫のお面を被る。
屋敷を出ようとした俺にダンゾウが何か言ったような気がしたが、まったく聞いていなかった。
多分、ヒルゼンを裏切ってワシに従ってくれてありがとう的なことだろう。絶対にありがとうとは言ってないだろうけど。
本当に俺が三代目を裏切ってダンゾウを選んだと思ってるなら、とんだ脳内お花畑ふわふわ野郎だ。……というのをぽろっとお面で喋ってしまったらしく、ダンゾウはそこそこ怒り狂ってた。
あの男はポーカーフェイスすぎて分かりにくいものの、間違いなく脳内で五十回くらい俺のことを殺してる。俺もすでに脳内でそれくらいダンゾウを殺していたので許してやることにした。
「……楽天家というならば、お前の“飼い主”の方ではないのか?」
いつもは都合が悪いとだんまりしがちなダンゾウが珍しく反論してきた。必ず三代目sageをしなければ死ぬ病気なのかもしれない。
お面を被っていながら、あえて指文字を綴る。
《だんぞう ぶーめらんなの ふわふわ》
「…………」
俺はいつも通りダンゾウを黙らせることに成功した。
本編スバルの闇落ちレベルが5段階中4だとしたらこっちのスバルは2くらいです。脳内ハッピーすぎる
闇落ちレベルが低いせいで、スバルの脳内ハッピーセットの被害者になることが既に確定している暁メンバーたち
スバルが原作知識持ち転生者並みに先読みムーブしてるせいで、サスケがアカデミーに入学した年にうちは一族虐殺事件が起きます
こっちのスバルは根に所属してないのでダンゾウのやばさを本編のスバルほど理解してなかったり ふわふわ
これ実は前半3000文字くらいはネタ貰ったその日に書いてた。それくらい書いてて楽しかったです。感謝!