じんせい詰め合わせ   作:湯切

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ネタ募集でもらった、『本編と違ってスバルが声を出せたり表情筋も動いている話(夢オチ)』です。

以下、引用です
> 『本編と違って、スバルが話すことが出来る話。表情筋もニートじゃなくて元気にお仕事してるし、お面つけたばっかりの時みたいにずっと心の声がダダ漏れ。
イタチとサスケ大好きオーラとか常時出てるし、普通に親(父さん)に反抗してブラコン全開なんです!(本編で指文字だから言わない事とかハッキリ言っちゃってます)
本来、知られる事のないスバルの本性が全開な感じの、もはや別人みたいなスバル兄さん……』
って、いう夢を見たイタチの話が見たいです!!
ifでもいいかな?なんて思ったんですけど、声が出せない、勘違いされる、がスバルの魅力なんで夢オチ(?)の方が書きやすいかなと…。
個人的には、スバルがイタチの修行を見ていて、なんやかんやあり、咄嗟に写輪眼でイタチに幻術かけちゃった!
みたいな感じの夜にこんな夢を見た、なんて想像してます。
イタチ「夢に出てきたスバル兄さん、何だったんだ…?オレの理想のスバル兄さん、ってことか…? いや、スバル兄さんは完璧だ。…………つまり、どういう事だ???」
とか、イタチは勤勉だから幻術とかの勉強するついでに夢のメカニズムとかも調べてそうだし……。
夢から覚めて起きた後、そういうの知ってるイタチは余計に混乱する。




いつかの夢の続き

 オレの朝は早い。

 

 起きてすぐ一杯の水を飲み、強張った体をゆっくりほぐしてから朝の鍛錬を開始する。

 

「…………?」

 

 いつもの習慣。だが、今日はいつもと体の調子が違っているようだった。

 

 朝はどうしても昼や夜に比べて体を動かしにくいもの。それでも、忍として寝起きでも素早く動けるように訓練を積んできたはずなのに。

 

 風邪でも引いたのかもしれない。今日は任務後のシスイとの修行は中止してもらった方がいいだろうか。

 

「イタチにいさん! いつもこんなに早く起きてるの?」

「サスケ」

 

 まだ半分閉じている目をこすりながら、サスケが自室から出てきたようだ。そんなサスケの後ろには誰かが立っている。一瞬父さんかと思ったけど身長も髪型も明らかに違っていて、その顔を見た瞬間に思わず叫んでしまった。

 

「えっ! なんでスバル兄さんが……!?」

「何言ってるのイタチにいさん? スバルにいさん今日はお休みだよ」

「休み……そういうことじゃなくて」

 

 スバル兄さんは暗部としてダンゾウという人の元で暮らしてる。専用の寮で同居人がいるとも言っていた。一族の会合に参加するために短期間実家に帰ってくることはあっても、こんな早朝から帰ってきたことはない。

 それ以前にサスケの様子。まるでずっと前からスバル兄さんが家にいるかのような――

 

 朝の鍛錬で使っていたクナイを握りしめたまま固まっているオレに対して、スバル兄さんが心配そうに眉尻を下げる。

 

「イタチ?」

 

 ――理解が追いつかなかった。

 

 低いのに、穏やかに胸に響いてくる心地の良い声。最も近いものといえば父さんの声だけど、それともまた違う。

 初めて聞くはずなのに無性にホッとする。そんな声だった。

 

 スバル兄さんは何かにショックを受けたような顔をしたかと思えば、凄まじい速さでオレの目の前にやって来た。

 

「熱でもあるんじゃないか? 無茶な任務を振られたとか!?」

「に、兄さん……?」

「ああイタチ……! 昔からお前は努力家で非の打ち所がない素晴らしい弟だが、優しすぎるのが心配だ。また何か一人で抱え込んでるんだろう!?」

 

 明らかに正気じゃない兄さんに抱きしめられながら、オレは兄さんの背中越しに『解』の印を結んだ。

 

「!?」

「お前の担当上忍は誰だ? 任務自体が憂鬱なら休みの俺が代わってあげたい、人間関係の悩みならそいつら全員を楽園追放してやったっていいんだぞイタチィッ!!」

「………………」

 

 幻術じゃなかった。これは現実で……スバル兄さんが喋ってて、なんか激しくて……。

 

 やっぱり幻術なんじゃないかな?

 

 もう一度『解』の印を結んでみた。

 この場に残されたのは、やっぱり様子のおかしいスバル兄さんと、兄さんに抱きしめられたまま放心しているオレ、そんなオレたちのそばで「イタチにいさんばっかりずるいよ!」と兄さんにハグを要求するサスケだった。

 

 

 

 数日間過ごし、やっと少しずつ「そういえばそうだったかも……?」と思えるようになってきた。

 

 スバル兄さんは暗部には所属していない。正しくは所属する予定だったが、ダンゾウ様が兄さんを勧誘するために家に来た際に「……やはりこの話はなかったことにさせてもらう」と全てを白紙に戻している。

 そんな兄さんは特別上忍になっていて、それなりに忙しそうにはしているもののちゃんと休みもあり、勿論ずっと実家で暮らしているらしかった。

 

 ……『らしかった』としている辺り、やっぱりまだこの状況を完全には受け入れられていないみたいだ。

 

 スバル兄さんに関すること以外はほとんどオレの記憶通り。相変わらず自分の体が動かしづらい気がすること以外はとくに問題ない。

 

 今日の任務は午前で終わり、午後からは一族の会合に参加することになっていた。

 

「まさかスバル兄さんも参加するの?」

「何を言ってる。お前が下忍になってから何度も一緒になっただろう」

「そう……だったかな」

 

 いつものように父さんと南賀ノ神社に向かおうとしたところ、なんとスバル兄さんも会合に参加するらしい。本当に遅れて合流してきた兄さんには心底驚いた。オレの記憶では、これまでに一度も兄さんと一緒に会合に行ったことがなかったからだ。

 

「スバル。遅かったな」

「思ったより忙しくてなかなか抜けられなかった」

「お前はいずれオレの後を継ぐ人間なんだ。一族の大事な会合に遅れることだけはないようにしなさい」

 

 俺の知る兄さんなら「はい」とだけ答えていただろう。勿論、指文字で。

 

「はぁ……。父さんはいつもそうだよな。一族、一族。逆に一族アンチになりそうだよ、俺」

「なっ……! お前という奴はどうしていつもそう軽薄な態度なんだ。自分の立場を分かっているのか? 我々がどのような思いで会合を開いていると……」

「あーハイハイ。うちは一族の大ファンでーす」

「スバル!!」

 

 全身から怠そうなオーラを漂わせている兄さん。唖然としているオレと目が合うなり、にこーと幼さを感じる無邪気な笑みを浮かべる。

 

「イタチ。お前はこうなるなよ。俺と一緒にブラザーランドを設立してくれるよな? 父さんの頭にネズミ耳つけようぜ」

「スバル!」

「血管プチッてなるからその辺にしとこう」

「誰のせいでこうなってると思ってる!?」

「気圧のせい?」

 

 わざと煽ってるのかと思いきや、兄さんはどこまでも真面目な表情をしていた。

 ついに父さんも体力が尽きたらしく「もう……いい、会合では黙っていてくれ頼むから」と力なくお願いしていた。

 

 

 

「先日の木ノ葉上層側の動きだが――」

 

 ヤシロさんの声と、この場にいる全員に渡された資料を捲るときの音だけが部屋に響いている。

 

「スバル。お前も何か気づいたことはあるか?」

「いいえ。とくには」

「……そうか。我々警務部隊とは違う視点から見えてくるものもあるだろう。今後も頼むぞ」

「はい」

 

 父さんのお願いを律儀に守ろうとしているのか、声を出せること以外はオレの記憶の中の兄さんに近い姿を見ることができた。

 

 何の感情も浮かべず、口数も最小限。

 そんな兄さんを少し離れた場所から見つめながら、何故か「以前にもこうやって会合に参加している兄さんを見たことがある気がする」と感じた。

 やっぱり、今はただ一時的に記憶が混乱しているだけなんだろうか。

 

 無事に会合が終わり、一族の者たちがぞろぞろと出ていった後。オレと兄さんが出る頃には周りには誰もいなかった。父さんはヤシロさん達と会合の内容をまとめる為に別の場所に移動したんだろう。

 

「スバル兄さん」

「ん?」

 

 少し前を歩く兄さんを呼び止める。こちらを振り向いた兄さんの姿にもまた既視感があった。

 

「兄さんは」

 

 急に喉がカラカラになって異常な渇きを覚える。胸も痛い。

 咄嗟に頭に浮かんだ問いと、その答えを聞くのが怖い。こちらに穏やかな目を向けてくれる兄さんに背中を押され、何とか言葉にすることができた。

 

「うちはが……父さんが火影になるのは正しいと思う?」

 

 兄さんが黒目を猫のように大きく見開いたのが見えた。それ以上の反応を見るのが恐ろしくて俯く。

 どうしちゃったんだろう。まるで以前にも同じことを兄さんに聞いたことがあるみたいだ。

 

「お前はどうしたい?」

「え?」

 

 予想外の返しに俯いていた顔を上げる。それと同時に頭の上に大きくて温かい手のひらが降ってきた。少し屈んだ兄さんと目が合う。

 どこまでも優しい目だった。

 

「オレは……火影様ともっと話をしたい。まだ下忍になったばかりだけど、火影様が木ノ葉隠れの里を心の底から大切に思ってくれていることは分かるんだ」

「うん」

「だからクーデター以外の共存の道があれば……そちらを選びたい」

 

 父さん達の考えとは真っ向から反発するものだった。

 今日のような会合の場でうっかり口にすれば、間違いなく裏切り者だと後ろ指をさされる危険を孕むもの。

 

「そうか。お前らしい考えだな」

 

 なのに、兄さんは怒るどころか嬉しそうに微笑んでいた。わしゃわしゃと強めに頭も撫でられる。

 

「俺も火影様は好きだ。あの方は信用できる。ダンゾウとかいう陰湿ジジイのことは嫌いだけど」

 

 後半部分をムスッとした顔で呟く兄さん。つい肩を揺らして笑ってしまった。

 

「アイツ自分から熱烈に口説いてきたくせに、一言二言話して俺が『まあ入ってやってもいいですよ』って言ったら即断りやがったんだよ。蛙化現象って厄介だよなあ」

 

 ここで蛙化現象を使うと色々誤解が生まれそう。何となく指摘はしないでおいた。

 

「あー……その、なんだ。俺が言いたいのは」

 

 どうやらダンゾウ様のくだりは、オレの緊張を和らげようという兄さんなりの気遣いだったらしい。

 

 兄さんはこの世で最も大事な宝物を見るような目をしてオレに言った。

 

「俺はずっとお前とサスケの味方だってことだ。もしもお前が一族と敵対する道を選ぶのなら俺も後に、いや先で待ってるさ。……こんな俺でも、お前達の兄なんだからな」

 

 

 

 オレはずっと、兄さんの考えていることが分かればいいのにって思っていた。

 

 …………兄さんはこんなにも分かりやすいのに?

 

 記憶の混乱とやらも随分落ち着いてきたようで、最近ではどうしてあんなにも兄さんに違和感があったんだろうと不思議に思うくらいだ。

 

 今日の任務は夕方で終わる予定だ。門の前で担当上忍である水無月先生とチームメイトのシンコを待っていたオレの肩を、テンマが必死に叩いてくる。

 

「イタチ! イタチイタチ! 聞いてんのか、イタチ!!」

「そんなに耳元で騒がなくても聞こえている」

「聞こえてんなら、こっちを睨んでくる保護者をどうにかしろよっ!」

「保護者ってなんの」

 

 ことだ、と続けるはずだった言葉を止める。

 

「…………スバル兄さん?」

 

 門からそれなりに離れた草むらの中。オレの呼びかけによって葉と葉が擦れる音が辺りに響く。

 草むらから出てきたのはスバル兄さんだけじゃなく、なんとサスケもだった。

 

「イタチにいさーん!」

「なんでサスケまで……わっ」

 

 勢いよく飛びついてきたサスケを抱き止める。きゃっきゃと楽しそうに笑っているサスケを叱る気にはなれず、対応に困っていたらスバル兄さんが回収してくれた。

 

「悪いな。サスケと二人で散歩してたんだが、お前の姿を見かけてつい」

「……草むらに隠れる必要なかったのに」

「オレがイタチにいさんにバレないよーにって言ったの! この人がバラさなかったらカンペキだったのにっ」

「わ、悪かったよ……」

「テンマよく気がついたな」

 

 すっかりサスケの勢いに気圧されていたテンマがバツの悪そうな顔をする。

 

「オレがイタチに絡みにいくたび露骨な殺気飛ばされたらそりゃ気づくだろ」

「…………スバル兄さん」

「正当防衛だ」

「過剰防衛だよ」

 

 ついため息がこぼれた。兄さんっていつもそう。オレはとっくに下忍なのに、いつまでもアカデミーの子供扱いなんだから。

 

 

 

「それじゃ報告書はこちらで出しておくよ。みんなは帰ってゆっくり休みなさい」

 

 やっと今日の任務が終わった。内容は簡単なものだったけど、簡単すぎて逆に疲れてしまった。

 

「イタチくーん。テンマが一楽でラーメン食べようっていうとるとよ、イタチくんもどないー?」

「おいシンコ! あんなヤツ誘うなよ」

「オレはこの後用事があるから」

 

 一度も誘いに応じたことなどないというのに、シンコは律儀に毎回声をかけてくれる。

 

 ほら誘ったって無駄だろ。というテンマの声を背中に流し、商店街へ出てきた。

 

「いらっしゃいませー! お好きなお席へどうぞ」

「はい」

 

 だんごやと書かれた暖簾をくぐった先には愛想のいい店員と、薄らと香る甘い香り。

 

 いつもなら帰って修行をしているところだけど、たまにはこういう日があってもいい。

 注文内容は決まっているからと入り口で済ませ、ほどほどに客が入っている店内を見渡す。

 

「ここって三色団子だけじゃなくて栗饅頭も美味しい! ねえ食べてみて」

「ん」

「どう?」

 

 長い黒髪を簪でまとめている女性が、一口サイズに切った饅頭を向かいに座っている青年に差し出していた。青年は爪楊枝に刺さっているそれを口を開けて迎え入れ、何度か咀嚼したのちに大きく頷く。その目は大好物を食べた子供のようにキラキラと輝いていた。

 

「それほど気に入ったなら追加で頼む? そうだよね。すいませーん」

 

 女性が青年の返事を聞く前に店員を呼んだことによって、正面を向いていた青年までもが視線をこちらへ寄越した。

 

「あれ? もしかしてイタチくん?」

「セキさん。スバル兄さん」

「……イタチ!?」

 

 スバル兄さんは驚きすぎて飲もうとしていた抹茶を溢す寸前だった。

 

「イタチくんさえ良ければ隣に座って。ね、スバル」

「うん。そうしてくれると助かる」

「助かるって」

 

 兄さんってほんと変なことばかり言うよね。

 

 お言葉に甘えてスバル兄さんの隣に座る。正面にいるセキさんはニコニコ顔でオレと兄さんの顔を見比べていた。

 

「ふふ。似たような顔が並んでると不思議な気分」

「そう? イタチもサスケも母さん似だってよく言われるけど」

「似てるよ。……好物を前にした時の反応なんてそっくり」

 

 ちょうどテーブルに運ばれてきた三色団子とおしるこを見ていたら、意味深な笑みを浮かべるセキさんと目が合った。……気まずい。

 

「あの……お久しぶりです。最後にお会いしたのって、アカデミーの卒業式でしたよね」

「うん。スバルとは毎週会ってるのに。イタチくん、すっかり大きくなっててびっくりした」

「オレもです」

「あはは! そうだよね。スバルもね、私が今の姿で現れた時驚いてたよ。女になる術でもかけられたのかって大騒ぎしちゃって」

 

 その時の兄さんの姿が容易に想像できてしまい、なんだか可笑しかった。

 

 楽しそうに笑うセキさんの頭の後ろで揺れる簪に目を奪われていたら「ああ、これ?」と簪を指差される。

 

「中忍試験を受けた後スバルがくれたの。だから頑張って髪も伸ばしたんだよ」

「……スバル兄さんが」

 

 簪がどうだったかはハッキリと覚えてないけど、女性が身につけるものを男性が送るのってそういう意味がありがちだったような。

 

 考え込むオレに対し、セキさんがニヤニヤと笑う。

 

「ほらイタチくんも知ってるみたい」

「またそうやって俺を揶揄う」

「ふふ! イタチくん。スバルね、何も知らずに私に簪をプレゼントしてくれたんだよ」

 

 セキさんが愛おしそうに指で簪を撫でる。

 スバル兄さんはもう、穴があったら入りたいとでも言いたげな様子で「知ってたなら受け取る前に教えてくれたっていいだろ」と不貞腐れていた。

 

「嫌だ。もう絶対返さないから」

「はぁ……。せめてまた俺が犯罪予備軍になろうとしてたらその時は止めてくれ」

 

 どう考えてもセキさんの答えはイエスなのに、何を勘違いしてるのかズレた返答をするスバル兄さん。

 でもセキさんは兄さんのそんな反応すら楽しんでいるようだった。

 

「スバル、また次の任務で! イタチくん、今度はサスケくんを入れたみんなで美味しいもの食べようね」

 

 だんごやの前でセキさんと別れ、スバル兄さんと二人で帰路についていた。

 

「スバル兄さんって誰かを好きになったことある?」

「もちろんだ。イタチとサスケ。俺という人間を語るにおいて二人への愛は避けて通れな、」

「そういうのじゃなくって……! その、恋愛的な意味での好きってことだよ」

 

 またいつもの好き好きコールをされたら堪らない。顔を真っ赤にしたまま家に帰宅する羽目になる。

 

「恋愛? さあ。考えたことなかったな」

「まさか」

「俺はお前に嘘をつかない。知ってるだろ」

 

 それはそうだけど……。セキさん、この調子だと苦労しそうだな。

 

 勝手に同情しながら、うーんと悩ましげな表情をしている兄さんを見上げた。

 

 スバル兄さんはアカデミーの成績も良かったし、弟のオレから見てもかっこいいなと思う。なのにこれまでに一度もそういった浮ついた話を聞いたことがない。

 

「なんで急にそんな話を……はっ!! まさかイタチ、できたのか!? 恋人が!?」

「ちが、」

「うっ……いいんだそれ以上言わないでくれ。俺はお前の兄として誰よりもお前の幸せを祝福しなければならない。でも、でもぉ……!!」

 

 めんどくさいモードに入ってしまった兄さんが、泣き叫びながらオレに抱きついてくる。

 兄さんに浮ついた話が出てこない理由が分かった気がした。

 

「どこの子だ。俺が知ってる子!?」

「だから違うってば」

 

 何となく浮かんだ顔が一つあったけどすぐに消した。イズミはそういうのじゃない。

 

「……兄さんは、いつもオレとサスケに幸せになれよって言ってくれるけど。兄さんだって幸せにならなきゃダメだよ」

 

 当たり前のことを言っただけなのに、兄さんはちょっと驚いていた。

 

「俺はいいよ。お前たちが幸せならそれが俺の幸せなんだから」

「わっ!」

「本当に大きくなったなあ。つい最近アカデミーに入ったような気がするのに」

「……もう子供じゃないよ」

 

 オレを軽々と抱き上げた兄さんが、少し寂しそうな顔で笑う。

 

「このまま時が止まってしまえばいいのに」

「そんなの無理だよ」

「時を止めるのは無理でも、俺の写輪眼に搭載されているメモリー機能はだな……」

 

 またよく分からない話が始まった。

 

 兄さんの不思議話をいつものように適当に聞き流し、地面に降ろしてもらったオレは兄さんと手を繋いで家まで歩いた。

 

 

 

「やだ! 今日は兄さんたちと一緒にねるのー!」

 

 帰宅して風呂や食事を済ませ、後はそれぞれの部屋に戻って寝るだけになった頃。

 

 スバル兄さんに風呂に入れてもらったばかりで全身ほかほか状態のサスケが、いつの間にかオレとスバル兄さんの枕を両腕で抱きしめていた。

 

「一緒に寝てくれなきゃ返さない!」

「こら、サスケ! 兄さん達を困らせちゃダメでしょう」

「やーーだーーー!!」

 

 母さんに枕を回収されそうになったサスケが涙目で抵抗している。

 

「いいよ、母さん」

「スバル」

 

 二人の後ろに立っていたスバル兄さんが、枕ごとサスケをひょいっと抱き上げる。

 

「もう。サスケを甘やかしすぎよ」

「可愛い子はたくさん可愛がれって言うからね」

「都合のいい諺を作るのはやめなさい」

 

 ピシャッと母さんに叱られた兄さんが苦い顔をする。

 母さんはぶつぶつ文句を言いながらも家事の続きをする為に離れていき、居間にはオレ達三人だけが残された。

 

 まだちょっと涙目なサスケと、きゅるんっとしたあざとい目をした兄さんが同時にオレを見る。

 

「…………いいよ。オレも一緒に寝ても」

 

 サスケと兄さんはハイタッチしていた。

 

 

 

「オレが真ん中ね!」

 

 部屋に三つ敷かれた布団のうち、真ん中を陣取ったサスケは、むふーっと誇らしげだ。

 

 寝る場所なんてどこでもいいのに。サスケもまだまだ子供だなあと思っていたら、隣に立っていたスバル兄さんが「俺は両手に弟を抱えることができないのか……」と謎の方向に落ち込んでいた。

 

「スバル兄さんが腕をのばして、オレとイタチ兄さん両方をぎゅーしたらいいよ」

「天才か? サスケ、お前は素晴らしい兄博士だな」

「……これじゃ布団三つある意味ないよ」

 

 スバル兄さんの腕が届く範囲にと引き寄せられた結果、ほとんど一つ分の布団しか使ってない。なのにサスケはずっと楽しそうに笑っているし、スバル兄さんは満足そうだった。

 

 なんだかオレもどうでも良くなってきて、兄さんが被せてくれた掛け布団の中で目を閉じる。

 

 肩の位置にある兄さんの腕に、目の前のサスケの体温。全てが温かくて心地いい。

 

「ふふっ」

 

 もうみんな寝たかなと思ったところに、サスケの小さな笑い声が漏れる。

 

「どうした?」

「あのね。あったかくて、兄さん達もそろってて。ずっとこのままがいいなーって思ったんだ」

 

 まだスバル兄さんも起きていたようだ。

 

「そうだな……」

 

 半分眠りの世界にいるような穏やかな声が続く。

 

「俺もこんな幸せな夢がずっと続けばいいのにって、心からそう思うよ」

 

 

 

 ――――鳥の鳴き声がする。

 

 外はまだ薄暗く、早起きな鳥達が戯れるように飛んでいた。

 

「……夢、か」

 

 夢を見るなんていつぶりだろう。それも、あんなにも優しくて残酷な夢を。

 

 途中から薄らと自分が夢を見ていることには気づいていた。気づいていて知らぬふりをした。最後の兄さんの言葉はきっと、俺自身の心が反映されたものだろう。

 

 夢は魅力的で抗いがたい幸福をもたらしてくれるが――いつかは覚めなければならない。

 

「珍しいですね。アナタがこんな時間まで眠っていたなんて」

「鬼鮫」

「夢でも見ていたのですか?」

 

 急に起き上がったせいか眩暈がする。思わず布団の隅に手をついたオレを鬼鮫が支えてくれた。

 

「体調は相変わらずのようですが……顔色は悪くないようだ」

 

 残酷ではあったが、一時的な夢はオレの心を癒してくれたのだろう。

 

 スバル兄さんが話すことができたら、もしも根に入っていなかったら、クーデターが起こる前に分かり合えていたら。

 

 これまでに一度も考えなかったと言えば嘘になる。だからこそ夢にまで出てきたのだろうから。

 

 だからと言って話し出したらあそこまで激しいなんて、オレは兄さんに対してどんなイメージを抱いていたんだろうか。……確実に白猫面を被っている時の兄さんの影響を受けている。

 

「……おや。まさか笑っているのですか。今日は雹でも降るかもしれませんね」

「そんなことを言う為だけに来たのか?」

「いいえ。これでも心配していたんですよ。大事なパートナーですから」

 

 本当に口だけはよく回る。

 だがこの男とはそれなりに長い付き合いだ。今更この程度の発言で不快になることもなければ、オレがそうであることも相手は知っている。

 

「鬼鮫。お前が今とは異なる道に進んだ場合の夢を見たとして、どう考える?」

「難しい質問ですねえ。それは夢の内容を是とするかどうかより、夢を見たこと自体に対する問いですか?」

「……両方だ」

 

 鬼鮫にとっては思案する必要もない程度のものだったらしく、あっさりと自身の答えを口にした。

 

「夢が自分にとって都合の良いものであったなら一笑します。そんなものは無意味ですから。己にそんな部分があったのかと少しは驚くかもしれません」

「都合の悪いものであった場合は?」

「考えるまでもないでしょう。それこそ、今より最悪な未来があって自分はそれよりは最善を選択したのだと納得する為の材料でしかない。……夢というものは、結局は自分の見たいものしか見せてくれないものですからね」

 

 

 

 

 

 

【蛇足 夢が続いた先の話】※死ネタ注意

 

 

 

 

 

 走っていた。

 

 どこへ向かえばいいのかも分からないのに、一心不乱に走り続けていた。

 

 開眼したばかりの万華鏡写輪眼で真っ赤に滲む視界の中。汗と涙でぐちゃぐちゃになりながら、それでもオレは走らなければならなかった。

 

「シスイ……スバル、兄さん……っ!!」

 

 シスイが死んだ。

 

 どうして、どうして、どうして。

 どうしてシスイが死ななければならなかったんだ?

 

 オレ達は一族の暴走を止めたかった。木ノ葉とうちはが再び手を取り合い、共に歩んでいく未来を夢見ていた。

 

「……イタチ。オレ達は失敗した。スバルさんも危ない…………これが終わったらすぐにお前もお兄さんの元へ急げ」

 

 ダンゾウという男は、とっくにオレ達の企みを知っていたという。

 

 父さんに別天神を使おうとしていたシスイと兄さんは待ち構えていたダンゾウ率いる根に取り囲まれ、森に逃げ込むまではお互いの姿も見えていたが、途中から分断されてしまったらしい。

 

 シスイは片眼をダンゾウに奪われ、最後はオレに万華鏡写輪眼を開眼させるための犠牲になることを選んだ。

 

 一族を正しい道へ導きたかった。

 

 ……このような犠牲を払ってまでそうしたかったのか、今はもう何も分からない。

 

「スバル兄さん!」

 

 シスイに言われた森の中で何度も兄さんを呼んだ。

 まだ根の者達が潜んでいるかもしれない。それでも構わなかった。交戦することになれば始末すればいい。ここで自分が死ぬことになったっていい。

 

「スバル兄さん……!!」

 

 だから――兄さんだけは無事でいてほしい。

 

「……イ……タチ?」

「スバル兄さん!?」

 

 やっと見つけた。

 半端に倒れている木々の間で、身を潜めるようにしてスバル兄さんが横たわっている。

 ホッとして駆け寄ろうとしていたオレは、途中で思わず足を止めた。

 

「に、兄さん……」

「…………そんな顔するなよ。俺は最後にお前の顔を見ることができて、神様とやらに感謝してるところなんだから」

 

 兄さんは空を仰ぐような動作をした。

 

「その様子だと、シスイには会えたんだな」

「スバル兄さん……オレ」

「クソッ……ダンゾウの野郎。キモいボディタッチしてきやがって。おかげで腹に穴が空いた」

 

 憎々しげに口にするスバル兄さんの左腹には大きな空洞ができていた。大量の血液が地面に吸われた後で……もうどうにもならないのは一目瞭然。

 

「オレが兄さんに一族のことを言ったから……オレが兄さんを巻き込んでしまったせいで」

「バカなことを言うな。イタチのことは俺が一番よく分かってる。お前が口にしなくても俺はきっと、弟が望む未来を一緒に見たいと思ったはずだ」

 

 腹に穴が空いてるのに、兄さんはそんなこと微塵も感じさせない雰囲気だ。ただの強がりだと分かってるからこそ胸を覆う苦みが強くなっていく。

 

「嫌だ、兄さん……死なないで」

 

 あれだけ普段から子供扱いするなと言っておきながら、最後にはこうなってしまうのか。

 

 ぽろぽろ勝手に流れていく涙を止める術も持たず、スバル兄さんの胸に縋り付いた。

 

 もう指を動かすのも辛いだろうに、兄さんは片腕を持ち上げて俺の頭を撫でてくれる。

 

「必要なことは全部シスイが言ってくれてるだろうから……俺からはこれだけ」

 

 頭上にあった兄さんの手がオレを引き寄せるような動きをしたので、逆らわず身を任せる。すぐに、コツンと額同士が軽くぶつかったのが分かった。

 

「俺はこの先もずっとお前とサスケのそばにいる。絶対にだ。背後霊になってでも離れない」

「……守護霊じゃないの?」

「そこはご先祖様枠で俺には早いかなって」

 

 妙なところで謙虚だった。まったく、最後の最後までこの人は。

 

「誰よりもお前たちのことを想ってるよ」

「うん……分かってる」

「お前たちが弟として生まれてきてくれて…………この世界で一番幸福な人間だった」

 

 頭の後ろに回ってきていた腕が地面に落ちる。

 最後の言葉だけはしっかりとオレの耳に届いていた。

 

「俺を、お前たちの兄にしてくれてありがとう」

 




遅くなりましたが、送ってくれた方ありがとうございました!
書いてて楽しかった〜
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