じんせい詰め合わせ   作:湯切

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原作知識持ち転生者シリーズ②

 翌朝。鏡の前でパンパンに腫れた目を確認して項垂れる。これ、写輪眼:亜種ってことになりませんかね。

 

 いい年した大人がなんという醜態。穴があったら入りたい。

 ここが現代なら検索バーに《泣いて目が腫れた 治し方》って検索するのにな!! どうすればいいの? 眼球に氷遁?

 台所まで氷を取りに行くとか、洗面所で冷水を浴びるとかは論外だ。道中で誰かとエンカウントしたら俺は終わる。泣き顔を他人に見られたら死に至る病を患ってるので。

 

「…………」

 

 三分くらい悩んで、ぽむっと自分の手のひらを叩く。

 俺、忍だったわ。変化の術を使えばいいんだ。

 

 思い立ったら即行動、即日配達。アスクルキョウクル。サクッと印を結ぶ。

 全身を包んでいた煙が晴れた頃、鏡の前に立っていたのは――いつもの自分。

 

 うーん。いい感じ。変化の術って顔だけでも機能するんだな。しかも、自分の顔のまま。基本は他人になりすます為の術だから盲点だった。

 

 は〜、忍ってすげー。ハゲてもカツラいらずじゃん!

 

「…………スバル」

 

 今はまだ大丈夫そうな毛根の健康状態を念入りにチェックしていた俺は、背後から近づいてくる二つの気配に気づかなかった。

 俺は父さんに妙に生温い目を向けられ、気がついたら……。

 

「あの……スバル、兄さん」

「…………」

 

 弟と二人、自室に取り残されていた!

 

 昨日の俺が号泣しすぎたせいで目がパンパンに腫れているとバレたら、またお涙頂戴ムーブをかまされ、未来の俺にも危害がおよ…………もうコナン構文飽きたな。

 

「昨日は……」

「…………」

 

 これは……どういう状況? なんで父さんは朝っぱらからイタチを連れてきたんだ。自分はすぐいなくなるし。兄弟水入らずで腹掻っ捌いて話せってことですか。

 

 俺がじぃっと目を逸らさずに見つめているからか、イタチはそわそわと落ち着きのない様子だった。

 幼少期のイタチってこんな顔だったのか。やっぱり漫画で見るのとは違う。そのせいで両親のことにも気づかなかったし。俺がイタチの両親の名前を覚えてなかったせいでもある。

 

 ゆっくり両手を持ち上げる。イタチはびくっと肩を震わせた。

 

《おむすび》

「……えっ、指文字」

 

 そんなに驚かなくても。ただの指文字だってば。……もしかして、殴るとでも思われた?

 

《たべた》

「……うん。えっと……」

「…………」

 

 指動かすのが面倒で色々と端折ったら、あまり上手く伝わらなかったらしい。

 

《うまかった》

 

 これは必須か。どうだ。

 顔を上げると、イタチはぽかんとした表情で固まっていた。それから、じわりじわりとその顔に喜色が滲んでいく。

 

「食べてくれたの……? スバル兄さん……きっと捨てられてると、思って」

 

 前世から「食べ物は粗末にするな」って言われてるからね。そんな勿体ないことはしない。

 

 最終的に満面の笑みになったイタチ。生まれてから今日まで、常に己の存在を無視し続けてきた兄に向けるべきものじゃない。

 

「また作るね!」

「…………」

 

 な、なんだこの、たっ……太陽みたいな笑みは……ッ!!

 

 

 

 その日から、家にいる時はイタチの視線を頻繁に感じるようになった。もうね、ブスブスきてる。全身に刺さってる。

 

 そんな俺は、アカデミーに入学したり、まさかの忍界大戦に参加したりとなかなかに忙しない毎日を送ってる。

 忍界大戦がイタチ世代と被ってるなんてなあ。もっと昔だと思ってた。

 

 三歳までは普通の忍としての価値観で生きてきたからか、戦争自体はわりとすんなり受け入れられた。

 国のためだとか守るためだとか言ってるけど、ただの大量殺戮だもんなアレ。さしずめ俺たち忍は兵器か。平和な現代の日本出身の俺からするとまともじゃない。

 

「うちはスバルくん、だよね」

「…………」

 

 二年間通ったアカデミーもそろそろ卒業といった頃、いつものように教室で一人タイムを満喫していたら、久しぶりにクラスメイトに話しかけられた。

 べつに俺はぼっちじゃないから。一人の時間を大切にしてるだけだから。

 

「話したことはなかったと思うんだけど……僕は覚方セキ。実はきみにお願いしたいことがあって」

「…………」

 

 目の前を癖のない黒髪が流れる。

 覚方セキ。世間知らずな自覚のある俺でも、クラスメイト云々は関係なく耳にしたことのある名前だ。人の心が読める能力を持った一族の末裔だったはず。

 

「これを使ってみてくれないかな?」

 

 セキから手渡されたのは真っ黒な布が輪っか状になったもの。なんだこれ。

 

「チョーカーだよ。本当はトップにうちわマークでも入れてあげようかと思ってたんだけど」

「…………」

 

 やめて大正解だな。シンプルが一番。

 

「そのチョーカーは僕が開発した、装着した人物の思想をチャクラを消費して吸い上げ、音声機械によって読み上げてくれるものなんだ」

 

 なんだそのとんでも機械。

 

「気に入ったらあげる。その代わり、不具合があれば教えてほしいし、何度かサンプルデータを取りたいんだけどいいかな?」

「…………」

 

 いいもなにも、願ったり叶ったりだ。でも、なんで俺みたいな話したこともない同級生に?

 

 セキは薄らと笑みを浮かべた。

 

「あなたほど心の声が聞こえてこない人は珍しい。普通はどんな人であろうと子供である限り心の根っこにある素直で純粋な心は隠せないもの。それなのに……あなたはすでに上忍に匹敵するレベルで心を隠す術に長けている」

「…………」

 

 まあ中身大人だもんな。

 ……あれ、もしかして今、捻くれてて純粋じゃないってディスられた?

 

「だからこそ興味深い。僕の作ったそれでどこまできみの心を読むことができるのか」

「…………」

 

 そこまで言うなら……聴かせてやろう。俺の奏でる狂想曲(ラプソディー)を!

 

 受け取ったチョーカーを首につける。サイズはぴったりだった。

 

『あ…………』

 

 おっ、おおおお!? 声が出てる……出てるぞぉ!!

 

『どうもありがとうございます』

「…………」

『いやあ、これ便利っスね! マジで喋れんじゃん〜いつぶり前世ぶり〜俺が喋ってるわけじゃないかハハッ」

「…………」

 

 意識して聴くと機械の音だなって思うけど、言われなきゃ分からない。すげーなコレ。

 

『あ!? なにす…………』

 

 キャッキャッと便利機械を堪能していたら、セキに無言でチョーカーをぶん取られた。ええっ。

 

「ひどい……あまりにも」

「…………」

 

 倒置法で言われると余計にくるものがあるな。

 

 

 

 結局納得のいくチョーカーは作れなかったようで、俺は不良品(じゃないと思うけど)を受け取って無事にアカデミーを卒業した。

 つまり下忍になったわけだが、チームメイトが二人とも年上で肩身が狭い。

 向こうも年下でしかも声が出せない俺とどう接したらいいのか分からないようで、お互いに気まずい思いをしている。

 

 

「今回の会合から長男であるスバルを参加させることになった。よろしく頼む」

 

 参加資格が下忍以上だという、うちはの会合にも呼ばれるようになった。

 やってることといえば「木ノ葉ガー」「火影ガー」である。俺も混ざりたかった。声は出せないし、ちんたら指文字を使わせてもらえる空気でもなかったので、大人しく下座で羊を数えるだけの時間になっている。

 

 

『おっ、なんだサスケ。起きてたか』

 

 会合が終わり、家に帰ってすぐ子ども部屋に顔を出した。ベビーベッドに寝かされていたサスケの目はパチパチと開閉を繰り返している。

 

 わりと最近生まれた二人目の弟の名前はサスケだ。分かってんだよおじさん、ここで大きく頷いてみせる。

 

『今日もご機嫌そうだ。さては、俺に会えて嬉しいんだな。そうだろ?』

 

 家にサスケと俺しかいないのをいいことに、チョーカーによる機械音声で話しかける。

 別に誰かいたって使えばいいんだけどさ。セキが人前で使うと後悔するよって怖い顔で念押ししてくるから、一応。

 

 ベビーベッドに背中を預けるようにして座る。

 母さんは俺と入れ替わるように木ノ葉病院に行ったし、父さんは会合後に警務部隊の方に行ってしまった。イタチは一族によるアカデミー入学前の子を集めた……なんだっけ。なんかの集まりに参加してる。俺も昔参加したけど忘れちゃった。手裏剣の投げ方とかクナイの扱い方を教わるやつ。

 

『お前がイタチを止めてくれたらなぁ……』

 

 膝を抱える。原作の覚悟ガン決まりなイタチを止められる人間なんていなさそうだけど。元凶って言われてたダンゾウがいなくてもいずれそうなってた気もする。

 ダンゾウといえば、九尾が里を襲った時に――あれ? 九尾襲撃事件っていつのことだっけ。

 

 確か……そう。サスケが生まれたばかりで、ナルトが生まれる時でもあって。夜だった。イタチがサスケを抱えている時に――――

 

『……なんだ?』

 

 ズンッと足元から沈む感覚があった。

 沈んだかと思えば、盛り上がって、まるで大地が生きているみたいに。

 

『…………サスケッ!!』

 

 何も知らずに笑っているサスケを抱き上げ、急いで庭に出る。

 

 ガラスの割れる音に、ギイイイと木材が軋む音。

 

 庭の塀を飛び越えて外に出た。ぎゅっとサスケを抱きしめる腕の震えはなかなか止まらない。

 やがて、家全体がぐにゃっと歪んで、おもちゃみたいに崩れ落ちた。

 周囲には隕石でも落ちてきたかのように何もかもが消し飛んでるところまであって。

 

『なんだよこれ』 

 

 うちはの集落は、俺たちの家は、そこにあるとは言い難い状態だった。

 

 

 

 走って、走って、ひたすら走り続ける。

 

 腕の中のサスケの様子を何度も何度も気にかけながら、うちはの集落を目に焼き付けるように。

 

『クソッ……どこだよ……!!』

 

 うちはの演習場には誰もいなかった。いなくてよかった。危険な忍具がたくさん保管してある場所だ。何かあれば怪我じゃ済まない。

 ならば広場か? だがそこにもいない。

 これ以上サスケを抱えて走り回るのは良くないだろう。でも……。

 

『母さん……母さんだ。サスケを預けたら……』

 

 そもそも病院は残ってるのか?

 

 心臓の音がドクドクと煩い。なんだよ俺、ぜんぜん平気じゃない。大戦ではもっと上手くやれてた。俺はともかく、死ぬはずがないと分かっていたから。

 なのに、どうして俺がサスケを抱えてるんだ。あの子は――イタチはどうなった? 父さんは? 遠目に見えた()()はやっぱり九尾なのか?

 

 

「――スバル兄さん? サスケ?」

「…………」

 

 集落を出て、木ノ葉病院へ向かう途中。人々の悲鳴にかき消されるどころか、もはやそれ以外何も聞こえなくなった。

 

「兄さん、よかっ……」

 

 ぺたりとイタチの頬を包むように触れる。指先から伝わってくる熱を感じるたびに、息の仕方を思い出すかのようだった。

 

 目を見開いて困惑しているイタチを、腕に抱いたサスケごと抱きしめる。イタチを抱きしめるのは、多分これが初めてだった。

 

「えっ……スバル、兄さん……?」

「…………」

 

 ほんとに、ダメダメじゃんか。平気じゃない。イタチが……家族が死んだかもしれないと思って、平気でいられなかった。あんなにも遠ざけておきたかったくせに。

 

 身体を離す。イタチは困ったような顔をしていて、頬は赤く染まっていた。

 

 何事もなかったかのように手を差し出す。おずおずと伸びてきた俺よりも小さな手のひらを握る。

 

「…………」

 

 遠くで強烈な光が弾けるように闇の中へと消えていった。九尾のものか、四代目火影のものか。

 

「……兄さん?」

 

 驚いたように目を見張るイタチの瞳には、前世の記憶を取り戻したあの日以来、一度も出すことができなかった万華鏡写輪眼になっている俺の姿が写っていた。

 




うちはイタチ、面倒くさいタイプのブラコンも無事に陥落成功

本編のスバルはアカデミーを一年で卒業してるけど、こっちは二年かかってる
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