ゲームのプレイヤー(女主人公)がいます
『じんせいみてい!』という乙女ゲームをやってみようと思う。
知名度はそこそこ。最近仲のいい友達がみんなプレイしてるから気になっちゃって。
とりあえず公式サイトをチラ見してみた感想を。
キャラがいい。めちゃくちゃいい。
乙女ゲームでありながら、女性キャラともいい感じになれちゃう神仕様。もちろん美男美女だらけの楽園状態。すでに乙女ゲームとして百年満点だ。あわよくば百合したい気分になっちゃう私にとても優しい。
(えーと。一番人気なキャラは――うちは三兄弟?)
なんか、だ◯ご三兄弟みたい。
このゲームの世界観を簡単に説明すると、忍者が存在していて、木ノ葉隠れの里という忍の隠れ里があって、うちは一族は里で一二を争う強い一族で……っていう。まあそういった一族がイケメン揃いなのは、乙女ゲームあるあるだと思う。私も好き。
他にも日向一族だとか、イケメンや美女はたくさんいる。
なんでうちは一族だけそんなに人気なんだろう。ネットで軽く調べて……納得した。
(あー、そりゃあ攻略したくなるわけだ)
《【長男】うちはスバル:生まれつき声が出せない少年。一族から冷遇されていたことがある。そのせいか、普段から表情筋はほとんど動かず、他人には一切興味を示さない》
《【次男】うちはイタチ:うちは一族の中でも類い稀なる才能を持つ聡明な少年。喜怒哀楽をあまり表に出さない。人間関係は不得意だが、他者への思いやりは人一倍ある》
《【三男】うちはサスケ:
全員とは言わないが、
心に傷を負ったクール系イケメンが、心を許した私だけに見せる表情……♡にとにかく弱い。
だからこそ『冷酷な公爵様が私にだけデレてきます』とか『暴君のお気に入り』とか、そういう作品が人気になるわけだ。
多分男性向けでも同じだと思う。私が男だったら、自分だけに心を開いてくれる美少女が存在したら一瞬で好きになる。アム◯シア*1みたいに檻ガールにしちゃうかもしれない。こういう時の私は、爽やかイケメンを自認しているので。
(んー、とりあえず。ゲーム開始……っと)
ローディング画面では、パッケージでも見かけた特徴的なマークがぐるぐる回っている。
やっと画面が切り替わった。
(名前を決めてください? うちは……って、うちは一族なのは決定事項なんだ。オトメ……でいっか)
うちはオトメ。うちは一族の平凡な女の子、らしい。
長男であるうちはスバルとは同い年で、来年から一緒に
……幼馴染ポジションってこと?
そんなのルート確定演出じゃん。簡単そうだし、長男から攻略してみよっと。
公式サイトにもあった簡単な操作説明などを確認して、やっと自由に操作ができるようになった。
オトメは両親と三人でうちはの集落に暮らしているらしい。
自宅を出て、とりあえず隣の家の表札に近づいてみる。
《うちはフガク・ミコト・スバル・イタチ》
「…………」
まさかのお隣さん。
幼馴染とかお隣さんポジって、少女漫画なら大半が当て馬なのに。二つも揃うと不安になってくる。
三男のサスケの名前がないのは、まだ生まれてないからだろう。
攻略対象が生まれる前から始まる乙女ゲーム……? おねショタを狙ってるにしても攻めすぎでは。
思った以上に攻略簡単そうだしなあ。おねショタルートに変更するか?
このゲームは事前にキャラと自分の関係性について説明がなく、実際に会話をするまでは自分の立ち位置すら分からないようだ。
とりあえず呼び鈴を鳴らしてみる。
家の奥からスリッパで歩く音がして、玄関の扉が開かれた。
「あら、オトメちゃん? どうしたの」
「えっと……」
三兄弟の母親であるミコトだ。
(選択肢が二つある。……こっちかな)
「スバルくんはいますか?」
「いるわよ。呼んでくるわね」
一応イタチを呼ぶこともできたらしい。ただし、《イタチ(二歳)を呼んでくれませんか?》である。
二歳を呼んでどうする。高い高ーいでもすればいいのか? しかも、今の私は五歳なので、二歳を高い高いできる自信はない。
「あ……こんにちは」
「…………」
暫くして男の子が出てきた。ちょっと引くくらい表情がない。心を失いしアンドロイドの面構えをしている。
「スバルくん……?」
「…………」
……もしかして初対面? 幼馴染なのに? お隣なのに?
ややあって、男の子は小さく頷いた。ラグがエグい。
「久しぶりだね」
「…………」
初対面じゃなくてこの反応の薄さ!? 幼馴染なのに敗北の味しかしない。
って、そうだ。うちはスバルって生まれた時から声が出せないんだった。えっ。これどうやってコミュニケーション取ればいいの。筆談?
慌てて持っているアイテムを確認する。
《所持アイテム:手裏剣》
「…………」
うーんこの。
「来年からアカデミーでしょ? 授業についていけるか不安で……修行、付き合ってくれないかな」
「…………」
「……ダメ、かなあ」
「…………」
なんか、動悸が激しくなってきた。
声が出せないなら、さっさと首を縦に振るなり横に振るなりしてくれたらいいのに。
スバルは無表情のまま、じっとこちらを見つめてくる。
彼は緩慢に両手を持ち上げた。
《しょやら はかそまに》
「え?」
「…………」
指がバババッて動いたけど。今のはなに。忍同士でしか理解できない暗号とか?
セリフ部分もめちゃくちゃな文字列で理解できないし。
スバルは、今度はさっきよりもゆっくり指を動かした。
《きょうは よていある》
やっとセリフ部分の文字が理解できるものに変わった。
これってつまり、手話……?
「……そうなんだ。ごめんね、指文字まだ慣れてなくて。今くらいの速度ならなんとか読めるんだけど」
「…………」
スバルは「気にしないで」というように首を振る。
手話じゃなくて指文字なんだ。……指文字ってなんだっけ。
《また こんど》
「うん。またね」
忍だから指文字が理解できるのかな。それとも、スバルの為に覚えたとか?
(スバルとの会話方法を理解するためのチュートリアルってことね。まだ集落の外には出られないみたいだし、近所を散歩してから自宅に戻ろう)
そろそろ家に戻ろうとした時、すれ違ったお婆さんに呼び止められた。
「スバルに会いに行っていたのかい?」
「はい」
「あの子は……不気味だよ。声は出せない、何を言われても表情は変わらない。あまり関わらない方がいいんだ」
「そんな…………」
オトメの表情が固まっちゃうのも理解できるくらいの言われようだった。
え、っていうか、誰? オトメの祖母じゃないよね。スバルの祖母でもないだろうし……それはそれでもっと怖いけど。
あなたの存在の方がもっと不気味なんですが……。
選択肢が二つ出てくる。
《そうですよね(曖昧に微笑みながら)》
《スバルくんを悪く言わないでください(ムッとしながら)》
私は迷うことなく二つ目を選ぶ。
一つ目を選んだ瞬間に、タイミング悪く会話を聞いていたスバルからの好感度が下がるやつ。他の乙女ゲームで何千回と経験してきた私を舐めるな。
「スバルくんを悪く言わないでください」
「そ……そうかい。忠告はしたからね」
お婆さんは渋々ながら去っていく。
まだ五歳の子供に対して、あまりにも当たりがキツい。うちは一族、修羅の一族すぎる。
「どう? 今の上手くいったよね!」
《うん》
一週間後、やっとスバルと手裏剣術の修行をすることができた。あれから毎日誘いに行ったのに《きょうは おとうとと やくそくが》《いえのことが あるから》などと断られ続け、ついにこの日を迎えたわけである。
乙女ゲームらしく、それっぽい恋愛イベントが発生するのかと思いきや。手裏剣の練習したらあっさり解散するし、次の約束すら取り付けないし。
さすが公式設定で《他人には一切興味がない》とされている男。プロ乙女ゲーマーの狩猟本能が刺激される。
絶対にこのルートクリアしてやるんだから。
意気込んだわりに、大した進展もなくアカデミーの入学式を迎えてしまった。遊びに誘っても毎回断られるので、当然というかどうしようもない敗北というか。おもしれぇ男すぎる。
「スバルくーん!」
「…………」
里の長である三代目火影の挨拶も終わり、私は駆け足でスバルの元へと向かった。
私の呼び声に、校舎に入ろうとしていたスバルが振り返る。その隣には、見たことのない少年が立っていた。
「この人は?」
「…………」
「へぇ。お隣さんなんだ」
スバルは指文字を使ったわけでもないのに、なぜかその少年は心でも読んだかのように会話を成立させていた。
少年の目がこちらに向けられる。その瞳が意味深に細まる。
「はじめまして。僕は、
「そうなんですね」
いかにもモブではない、主要キャラといった顔立ち。そのわりに攻略対象一覧で見かけなかったような。
少年、セキは僅かに驚いたように目を見開いた。
「……僕の一族を知らないなんて、珍しい」
「ごめんなさい。色々と疎くて」
「ううん。構わないよ。察してるかもしれないけど、覚方一族は人の心を読むことができる血継限界を持っていてね」
(ふーん。心を読めるなら、スバルの感情も把握できるってこと。スバルとプレイヤーの架け橋になってくれるお助けキャラってところかな)
選択肢が二つ出てくる。
《そうなんだ! すごいね》
《心を読まれちゃうのはちょっと……》
「…………」
これは……難しい。普通は一つ目を選ぶけど、心を読むことができる人間が相手だ。オトメが心の奥で二つ目を考えていた場合、一つ目を選ぶことで逆効果になったりする。
心を読めるって言っただろ何しれっと嘘ついてんだてめー! ってやつだ。
ここは……やはり、二つ目が最適か。この選択肢が出てくるってことは、オトメもそう思っている可能性が高い。正直者は救われるべき。
「心を読まれちゃうのはちょっと……恥ずかしいかな」
(ナイスゥーッ!! 恥ずかしいかなと付け加えることで内容全体が一気に柔らかくなり、相手に与える不快感を軽減ッ! 天才! 天才の所業だぞこれはッ!!)
セキは困ったように眉を下げた。
「……そうだよね。僕も、本当はこんな能力好きじゃないんだ」
「…………」
えっ。
スバルがそんなセキを気遣うような表情をした(気がする)。まって。
セキはにこっと何もなかったかのように笑った。
「先に教室に行ってるね」
「あ…………」
「…………」
もう小さくなってしまったセキの背中に、オロオロしている私、どこか心配そうにセキの後ろ姿を見ているスバル。
前言撤回。この乙女ゲーム、おそらく滅茶苦茶難しい。
「スバル。次は移動教室だって。早めに行こうよ」
アカデミーに入学して一月ほど経った。
セキとスバルは常に一緒に行動していて、話しかける隙が一切ない。周りからはすでに親友扱いされている。
(はぁ〜。やってらんないよマジで。何が楽しくて少年たちの美しい友情を見せつけられて…………好きだけど。好きだけど違うくない? オトメちゃんとも美しい恋愛関係を築いてくれないと困るんだよ)
だってこれ乙女ゲームだもの。
そんなわけで、今日も私はアカデミー後にスバルの家に来ていた。ちなみに毎日。これが現実だったらストーカー扱いされてもおかしくない。私がスバルだったらあまりの鬱陶しさにキレてると思う。
「……スバルにいさん」
「…………」
「は……はじめまして、イタチくん」
私を出迎えてくれたのはスバル……だけじゃない。
足元では小さな男の子がこちらを警戒するように見上げてくる。うちはイタチ。三兄弟の真ん中で、今はまだ三歳だったはず。
《わるいけど きょうは》
あーこの流れ。また断られるやつ。そうはさせんぞ。
選択肢は三つ。
《忙しいよね。邪魔しちゃってごめん(帰る)》
《迷惑……かな?(少し粘って帰る)》
《お菓子をたくさん作りすぎたから貰ってほしい(渡して帰る)》
帰るしか選択肢なくて草。なんでだよ!
「実はクッキーを焼いたんだけど、たくさん作りすぎちゃって。……貰ってくれないかな? もし良かったら、イタチくんも食べてね」
「…………」
「…………」
今日も所持アイテムは手裏剣だけだったはず。どこから取り出したのか、オトメの手には可愛くラッピングされたクッキーがのっている。
……四次元ポケットかな?
うちは兄弟の反応は……よく分からない。二人とも何度も頷いて受け取ってくれたので、少なくともクッキーが嫌いというわけではなさそうだった。
「それじゃ、またアカデミーでね! イタチくんも!」
《ありがとう》
「あっ……ありがとう! オトメ……ねえさん」
あれだけ私を警戒していたイタチが、小さな手をぶんぶんと振っている。しかも恥ずかしそうに姉さん呼びまで。
私も二人に手を振り返して帰宅した。
帰宅後、自室で正座しながら壁を見つめる。
(……イタチルート、ありだな?)
スバルが弟のイタチと共に忍界大戦に参加することになったらしい。
オトメの育成レベルによっては一緒に参加できたらしいけど、まあ無理だった。毎日スバルに会いに行っていた時間を全て育成に捧げたとしても、ギリギリいけたかどうかってレベル。リスクがでけぇ。
乙女ゲームのくせに実践の授業でFPS並みのプレイヤースキルを求められたり、座学の授業で記憶力をテストされる(フリではない)のは何? 聞いてないんですけど。こんなの一生アカデミー卒業できないよ。
しかもなんだっけ。写輪眼? っていう、うちは一族特有の能力? が必須らしい。どうやったら手に入るのかは分からない。スバルはもう手に入れているようだ。
「オトメさん」
「セキくん」
スバルが戦争に行ってから、よくセキが絡んでくるようになった。
「僕も……行きたかったな。スバルと一緒に」
「セキくんの成績なら推薦状が出たはずだよね?」
「ダメだった。どうしても火影様の許可が得られなくて」
ああ、そういえば。彼の血継限界は、うちは一族のものより貴重なものって設定だっけ。
やっぱりどう考えてもモブじゃないよね。攻略キャラ一覧で見逃したのかな?
《心配だよね。スバルくん、元気にしてるかなあ》
《心配だよね。イタチくん、あんなに小さいのに》
どっちを選んでも大して変わらなさそうな選択肢が出てきた。ただの雑談だろうし、心情的に近い二つ目を選ぶ。
「心配だよね。イタチくん、あんなに小さいのに」
「……イタチくんが心配なの? スバルじゃなくて」
「スバルくんのことも心配してるよ」
やっぱり。二つ目を選んでも最終的に「スバルくんが心配」に戻ってきた。
「そうなんだ」
セキはそう言って、スバルが戦争から戻ってきてからも、頻繁に私に話しかけてくれるようになった。
スバルは、大戦が終結してすぐにアカデミーを卒業した。意味が分からない。早すぎる。
しかも暗部というエリート集団の仲間入りをしたらしく、寮暮らしだとかでいつ実家に戻ってこられるか分からないという。
幼馴染・お隣さんというステータスをあっという間に失ってしまったオトメ。
なにこれ詰んだ? やっぱり一緒に大戦に参加しなきゃダメってこと?
「……オトメ姉さん?」
うちはの演習場で一心不乱に自主練していたら、入り口にイタチが立っていた。
練習を中断して汗を拭う。
「イタチくんも自主練?」
「…………うん」
「私はそろそろ出るから好きに使ってね」
言いながら、地面に散らかしていた道具を片付ける。クナイに伸ばした腕を掴まれた。
「……そんなに場所使うわけじゃない、ので」
「…………」
「…………」
「……うん。じゃあ、もう少しいようかな」
「はい」
あれ?
仕舞おうとしていたクナイを握って、離れた場所に立てかけていた的に向かって投げてみる。
クナイは中心から大きくズレた場所に突き刺さった。……これ、ほんと苦手。未だにタイミング掴めないし。
「――――クナイは」
振り返ったらすぐ後ろにイタチが立っていて叫びそうになった。
こんなに近くにいても
イタチは私の手のひらを開いて、正しいクナイの握り方をさせると、高さまで調節してくれた。
「的があの位置にあるなら、これくらいの高さから投げた方が安定する」
「やってみる」
投げてみた。中心からは外れてしまったけど、さっきよりは中心に近い。
「すごい! すごいよ、イタチくん!」
「オレはなにも……」
イタチは照れながら……笑っていた。
「イタチくんの教え方が上手かったからだよ。将来は学校の先生にもなれそう」
「先生……」
「興味ない?」
「そんなことは。……ただ、想像できなくて」
そうかなあ。アカデミーで生徒に慕われてるイタチ先生、いくらでも想像できるけど。
この後どうするかを決める選択肢が出てきたので、《そろそろ帰るね》を選ぶ。
「オレ……送ります。こんな時間だし、女性一人だと危ないから」
「…………」
これ以上は色んな意味で危険だと思って、さっさと切り上げようとしたのに!
スバルルートだと思ってたら、いつのまにかイタチルート(五歳)に進んでいた件。
スバルを攻略したかった女性がイタチルートに進んじゃったり、やり直したらセキとの百合ルートに入ったり、最後にはちゃんとスバルルート(修羅の道)を進んだらいいなあっていう話